海に面した自然豊かな国、タンザニア

タンザニアと聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
カンボジアはアジアだよな、タンザニアとは違うよな……。あれ、中南米だっけ?というのは私がよく言われることです。

常夏の楽園タンザニアは、アフリカ大陸の東に位置する国です。観光資源が豊富で、アフリカ一高い山キリマンジャロや、ライオンキングのモデルとなったサバンナ、フレディ・マーキュリーが生まれたザンジバル島など、世界遺産として指定されている見所も多く、日本での知名度こそ低いですが、人気の旅先として外国人観光客を多く集める国です。

国立公園の中ではマサイの人々と野生動物が共生しています

国立公園の中ではマサイの人々と野生動物が共生しています

ザンジバルの海は透明度が高く、シュノーケリング等のマリンアクティビティも盛んです

ザンジバルの海は透明度が高く、シュノーケリング等のマリンアクティビティも盛んです

さて、私が住んでおりますのはタンザニアの経済都市ダルエスサラームというところで、海に面した港町です。初めてやってきたのは2013年、日本で大学生をしていた頃でした。現地のダルエスサラーム大学に1年間留学し、社会人になって2019年に再び戻ってきました。通算すると4〜5年タンザニアで過ごしたことになります。

アラブの文化が色濃く残る港町

タンザニアは、1961年にイギリスから独立を獲得するまで、ドイツとイギリスによる植民地支配を受けてきました。さらに遡り19世紀には奴隷貿易が盛んに行われ、内陸部との商取引をしていたのは中東アラブ人だったため、アラブの文化が今でも色濃く残っています。
そんな歴史もあり、宗教人口については、キリスト教徒とイスラム教徒がそれぞれ40%ずつと言われており、どちらの文化も共存しているのが特徴です。

街中のモスク

街中のモスク

ダルエスサラームの街中の写真を見てもらうと、意外と都会だと驚かれることがあります。

ダルエスサラーム中心街にそびえ立つツインタワー

ダルエスサラーム中心街にそびえ立つツインタワー

ビルが立ち並ぶ商業エリアでは、日中はスーツを着て闊歩する人々が行き交います。
最近は、シンボルとなるブリッジが開通したこともあり少しは緩和されましたが、通勤・退勤ラッシュには道路の渋滞も凄まじく、ベッドタウンからこぞって人々が出てくる活気のある街です。

ダルエスサラームには地方から若者がどんどん流出してくるため、開発の勢いは加速傾向にあり、家族向けの商業施設や、若者向けの新スポットが次から次に登場しています。

近年開発が進んでいる新興住宅と商業施設

近年開発が進んでいる新興住宅と商業施設

ネット環境についても申し分なく、Wi-Fiは無制限で月60,000Tsh(2023年2月時点で3,331円程度)から契約できます。

日本でも2〜3年前から一般的になってきたモバイル送金・決済サービスについては、アフリカでは2007年にSafaricomによってケニアでスタートしており、もちろんタンザニアでもほぼ同時期にスタート、浸透してきました。今では、水道・電気などのインフラが整っていない地域に暮らす民族も、現金を受け取らずモバイル決済を好むほど、しっかりと市民生活の一部になっています。

日本が羨む人口構成、経済成長のポテンシャル!

もう一点、タンザニアの推しポイントといえば、その人口成長率でしょう。

タンザニアの2015 年から 2020 年の平均人口成長率は約 3%で、東部・南部アフリカの平均 2.6%を上回っています。(※UNFPA: United Nations Fund for Population Activities、2021 年)

人口構成は、15歳未満の年少人口が全人口の 43.3%、15 歳以上 65 歳未満の生産年齢人口が54%、65歳以上の老年人口が2.7%となっています。グラフにしてみると、年少人口が多い富士山型の人口ピラミッドとなっており、それは他のアフリカ諸国に見られる典型的なものとなっています。少子高齢化が加速し、近隣諸国から労働者を集めようと奮闘する日本からすると羨しい構成ですね……。

現地で日常生活を送っていて「若年層いっぱいムード」を最も身近に感じることといえば、「子どもはまだいないのか」「何人作る予定か」と初対面であっても無遠慮に質問の嵐が飛んでくることでしょうか。それくらいに、タンザニアの人々にとって子作りは当たり前のことであると同時に、実にハードルの低いイベントなのだと感じます(とはいえ、女性の社会進出が進むと今後状況は変わっていくことになると思いますが……)。

急いでも幸運はもたらされない

タンザニア人の仕事観を表す有名なことわざがあります。
“Haraka haraka haina baraka. Pole pole ni ndio mwendo”スワヒリ語で「急ぐことは幸運をもたらさない。ゆっくりこそが本当の歩み」という意味です。この言葉に象徴されるように、とにかく人々は何事にもゆったりと構えていて、今を生きている感じがします。見方を変えるとルーズでもあるわけですが。

仕事の打ち合わせの約束があり、こちらが客としてサービスを受ける側であるにもかかわらず、連絡なしに2〜3時間待たされることは日常茶飯事です。はじめは時空が歪んでいるのかなと思いましたが、万事そんな感じなので今ではもう諦めてしまいました(私の経験上、地位や学歴は関係なく、弁護士や役人など社会的地位のある方でも同じでした)。

私はこの数年の経験から、アポが入っている日は、約束時間の2時間前に「今日は大丈夫そうかな?」とお伺いの連絡を入れるようになりました。もちろん、それでも大丈夫じゃなくなったと言われることもあるのですが。

タンザニアでは客の方がサービス提供者を配慮するのが基本です。これも、その日暮らしの生活を送っているインフォーマル・セクターの人々が多いからこそ、根付いた文化なのかもしれません。

Hakuna matataが世界的に有名になったおかげで、外国人観光客に向かってHakuna matata!と呼びかける現地の人が多い

Hakuna matataが世界的に有名になったおかげで、外国人観光客に向かってHakuna matata!と呼びかける現地の人が多い

そんな調子なので、仕事はなかなか進まないことが多いですが、裏を返せばタンザニア人には肩肘張らずに仕事をしている人が多いということ。ライオンキングでお馴染みの「ハクナ・マタタ(問題ないさ)」の精神は現代でも健在です。日本人のように仕事の重圧やストレスでふさぎこんだり、という話はタンザニアでは滅多に聞きません。ゆったりとした南国特有の時間が流れています。

その日暮らしだからこそリスクを分散させる

非正規雇用でその日暮らしをしている人が多いからか、タンザニアでは伝統的に幾つか仕事を掛け持ちしている人が多くいます。私の体感では、ほとんどの人が二つ以上何かしらの収入源を持っているのではないでしょうか。「今を生きる」だけでは心許ないので、将来を見据えてリスクを分散させているのでしょう。

例えば、医師として大きな病院で勤務している知人は、地方に農場を所有しており、どの換金作物が一番金になるか嬉々として語っていました。会計事務所を経営する知人は、友人と共に大規模養鶏場を経営しており、その営業のために最近は忙しいと楽しそうに話します。

はじめましてで「パン屋を経営しています」と自己紹介すると、「他には何をやってるの?」と興味津々で聞かれることがしばしばあります。商談終わりに、お相手から2枚目の名刺を渡されることも。大体は投資家を紹介してくれないか、という相談ですが。

規模の大小はあれど、事業を興すことに積極的な雰囲気、失敗を恐れずに挑戦しようという気概を感じられる風土はいいなと思います。

今時シェアオフィスの実態

さて、そんな副業大賛成のタンザニアで、今時の若者が働いているシェアオフィス環境をご紹介します。今回こちらで紹介するのはThe Office Hub(https://theofficehub.co.tz/home/)。

こんな大きなビルに入っています

こんな大きなビルに入っています

家具付きの環境が素晴らしい

家具付きの環境が素晴らしい

高層ビルの21階に位置するオフィスは、見晴らしも最高! キッチン・コーヒーマシンも完備されています。一人当たり月額USD250で借りることができ、1日のドロップインであれば20,000Tsh(2023年2月時点で1,110円程度)で利用可能です。
ネット環境が整っていることはもちろん、日中外気温30度を超えるダルエスサラームで、エアコンがちゃんと機能しているお部屋が用意されているのはありがたいです。

利用しているのは、IT系のスタートアップ企業や、国際NGOで勤務されている方々でした。
私も何度か利用したことがあるのですが、出入りしている人々をチラ見していると、それはもう煌びやか! ハイヒールを履きこなし、ジャケットをはためかせながら颯爽と闊歩する現地の女性からは、「キラキラキラ……」と聞こえないはずの装飾音すら聞こえてきそうです。何が言いたいかというと、利用している人たちはなんだかすごくイケていて、同じ空間でPCをカタカタしているだけでテンションが上がって仕事が捗ります。

彼らのようなキラキラ社会人も、当たり前のように片手間に別の仕事をしていたり、新しいビジネスを考案していたりすることを思うと、タンザニアの人々はとても柔軟だなぁと感心します。

流出していくエリート層とこれからのタンザニア

キラキラオフィスがどんなに魅力的でも、国外に出て行って帰ってこない人も多いということが問題視されています。優秀な人材が留学などをきっかけに国外に出てしまうという「頭脳流出」問題は途上国でよく聞きますが、タンザニアもご多分に漏れずなのです。給与や手当の面で条件が良かったり、医療体制・福祉が整っているのはまだまだ先進国なのです(官僚が国外渡航することを禁じられていた政権下で、某大統領がコロナ治療を受けるため某外国に運ばれたということがまことしやかに噂になり、一時国中が騒然となったことがありました……)。

The Office Hubのバルコニーからの眺望

The Office Hubのバルコニーからの眺望

これから国が経済発展していく中で、政府が生活のセーフティネットとなる保障をどれだけ用意できるかということが鍵になってきそうです。また、優秀な「頭脳」の受け皿となるITセクターの発展も重要となってくるのではないかと思います。

タンザニアに移住してくる外国人向けには、コロナパンデミックがやや落ち着き、再び外国人投資家を誘致できるよう政府が注力しています。簡単なところでは、労働許可証や居住許可証をオンラインでワンストップ申請できるようなシステムが構築されており、数年前よりかなり移住のハードルが下がった印象があります。

日本からだとやや心理的距離が遠くなってしまうアフリカ大陸ではありますが、今後ますます環境整備が進んでいくことが期待されます。まずは、旅先の選択肢としていかがでしょうか?

著者プロフィール

松浦 由佳(まつうら ゆか)

2019年、タンザニアのストリート生活を送る青年を雇用するためパン屋事業JOY FACTORYをスタート。現地調査やマーケットリサーチなどを行うほか、スワヒリ語講師、JETROビジネスデスクコーディネーターなど。
https://twitter.com/marv_yuka