サステナビリティ普及の背景

サステナビリティ(sustainability、持続可能性)の概念は、1987年「環境と開発に関する世界委員会」(WCED)が公表した報告書「我々の共通の未来(Our Common Future)」において、初めて取り上げられました。「環境と開発を互いに反するものではなく共存し得るものとして捉え、環境保全を考慮した節度ある開発が重要である」というもので、「サステナブル・ディベロップメント(持続可能な開発)」と呼ばれました。

その後、1992年にリオデジャネイロで開催された国連の「環境開発特別総会(地球サミットと呼ばれる)」において、サステナビリティという言葉が広く認知されました。さらに、2015年の国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたことにより、サステナビリティの重要性が広まったのです。日本でも2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を宣言。社会全体がサステナビリティを重視する方向に大きく転換しようとしています。

SDGsとはサステナブルな社会を実現するための国際目標のことで、2030年までに達成すべき17項目を提示し、持続可能でよりよい世界を目指すものです。サステナビリティが大まかな枠組みで、具体的な目標として取り組みの指針となるのがSDGsです。両者は相互補完的な関係にあるといえます。

また、企業におけるサステナビリティは「CSR(企業の社会的責任)」とも関連します。CSRは顧客や従業員、取引先などの要求に応え、それを満たすべきという考え方です。企業はCSRの観点から法令を遵守し、社会的責任を持つことで、よりよい社会を目指します。サステナビリティと目指す方向は同じですが、CSRは企業の利害関係者に限定している点が異なります。企業はCSRを意識した企業経営を実現することで、結果的にサステナビリティを向上させることができるのです。

経済・社会・環境のトリプルボトムラインとは

サステナビリティの基本的な考え方には「経済発展」「社会開発」「環境保護」の3つの側面(トリプルボトムライン)があります。これは、企業を経済面の実績だけで評価するのではなく、社会面と環境面を加えることで、広い意味での「企業の利益」を定義するものです。

【経済発展(Economic Development)】
労働環境の整備や貧困問題の解決、セーフティネットなど社会保障の拡充。

【社会開発(Social Development)】
ジェンダーやダイバーシティ、教育、難民、健康といった人間社会における課題への対応。

【環境保護(Environmental Protection)】
温室効果ガスや森林伐採、海洋汚染、生物多様性の保全など、人類が生存し続けるための環境課題への対応。

このように、企業が事業活動を通じて経済・社会・環境に与える影響を考慮し、長期的な企業戦略を立てていく取り組みを「コーポレート・サステナビリティ」と呼びます。

企業のサステナビリティへの取り組みとメリット

現在、世界中の企業はサステナビリティ、ESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGsという大きな変革に直面しています。もちろん、日本企業も例外ではありません。環境保護活動や社会貢献活動に高い注目が集まり、企業には利益の追求だけではなく、人や環境に与える影響を考慮した戦略が求められています。あらゆる企業にとって、サステナビリティへの取り組みは欠かせないテーマであり、これを軽視すると企業イメージを落としかねません。

一方で、中途半端にサステナビリティを取り入れることで、機会損失やコスト上昇につながるリスクもあります。例えば、従来より環境に優しい素材を使用することで、コストが上昇し、顧客確保が難しくなる可能性があります。その結果、サステナビリティやSDGsを掲げながら、かけ声だけで尻すぼみになるかもしれません。

サステナビリティの取り組みには、長期的な視点を持つことが必要です。これまでのような短期間でのリターンを求めると、自然環境や社会と長期的に共存していくことを難しくし、目標を達成できない可能性があります。数十年先の未来に目標を定め、環境や社会とどう向き合うのか、じっくり腰を据えて長期的な計画を立てることが重要なのです。

また、サステナビリティには「社会・環境への価値提供は将来的なリターンにつながる」という考え方があります。サステナビリティを意識して経営を行うことは、社会貢献につながるだけでなく、以下の3つのメリットが考えられます。

(1)企業価値の向上
企業の環境及び社会問題へ取り組む姿勢が社会的な存在価値を高めることになり、それに連動して企業のブランド価値も向上し、業績アップへの足がかりとなります。また、環境や社会の問題解決に向けた新事業を展開すれば、新たな市場開拓の機会が生まれます。

(2)従業員のエンゲージメントの向上
働きやすい職場環境を作ることも、サステナビリティの実現につながります。従業員の多様性を尊重し、労働環境を整備することで、従業員の信頼や満足度が高まり、エンゲージメント(会社への愛着心)が向上します。また、社会貢献や環境保護に取り組む企業で働いているという誇りも生まれます。離職率の低下や、生産性の向上、優秀な人材の誘致といった効果が期待できます。

(3)ESG投資による資金調達
ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮している企業をサポートする投資のこと。サステナビリティに積極的な企業は、長期的な成長、持続性が高いと評価され、ESG投資による資金調達が受けやすくなる傾向にあります。

サステナビリティの実現に向けて──アフターコロナの社会

世界を取り巻く状況は刻々と変化しています。特に新型コロナウイルス感染症の蔓延は、健康的危機だけでなく、経済・社会活動にも深刻な影響を与えています。その中で、地球環境や社会問題が他人事ではないと実感した人も少なくありません。コロナ禍によって、サステナビリティへの意識が高まってきたわけです。

環境や社会格差など、健康・医療以外の課題も次々と拡大する中、サステナビリティに関する意識変化は一過性のものではなく、今後も加速すると思われます。長期的なリカバリーや成長への投資として、サステナビリティを踏まえた企業活動がより重要になると考えられます。行政や企業が「よりよい社会」の実現に向けて、改めてサステナビリティへの取り組みをアピールすることで、社会全体に積極的な「持続可能性」参画への波が訪れるかもしれません。

著者プロフィール

青木 逸美(あおき・いづみ)

大学卒業後、新聞社に入社。パソコン雑誌、ネットコンテンツの企画、編集、執筆を手がける。他に小説の解説や評論を執筆。