ザリガニワークス

武笠太郎さんと坂本嘉種さんのクリエイティブユニット会社。二人は多摩美術大学在学中は先輩・後輩の間柄。ともに音楽サークルのメンバー。卒業後は武笠さんが玩具メーカーの企画・デザイン職、坂本さんがゲームメーカーのキャラクターデザイン職などの仕事をしていたが、2004年に共同経営の会社・ザリガニワークスを興す。

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ヒット作品を次々と作る原動力

―― 自宅でのテレワークに切り替えたようですね。武笠さんは「芸術の町」として注目を浴びる藤野(神奈川県相模原市)に、坂本さんは都内近郊の住宅街に住んでいると聞きました。

坂本 この体制になったのが、2020年3月。新型コロナウイルスの感染拡大により、政府の緊急事態宣言が発令された頃。3月からの数か月間、自宅で仕事をしつつ、週1回のペースで原宿の表参道そばのオフィスに出社していました。その数か月間で仕事の問題やトラブルがなかったから、自宅で仕事をしてもいいよね、と互いに思うようになったんです。

武笠 同年11月にオフィスを引き払ったのですが、創業期の2004年から入っていたところですから、寂しかったです。業務上の問題、不便などはなかったので、むしろ寂しさしかなかった。管理人さんはとてもいい人で、退去すると申し出る時は切なくなりました。

武笠太郎さん ザリガニワークスの工作担当。「コレジャナイロボ」製作数通算7500体。趣味のダンボール工作ではEテレ「へんしん!ダンコちゃん」に出演。プランナー&ディレクターとしても多数のクライアントワークをこなす

―― 多摩美術大学グラフィックデザイン科在学中から親しい間柄のようですが、毎日会えないことに何かを感じますか?

坂本 答えるのが恥ずかしい質問。寂しい気はしています。原宿のオフィスの頃は僕が雑談を含めていろんなことを隣に座る武笠にずっと話しかけていました(笑)。1週間で、トータルで24時間以上はくだらない雑談をしていたように思う。その時、武笠は黙々と作業していることが多いから反応したり、しなかったり。武笠を構いたい思いが強かったんでしょうね。今は、それができない。

武笠 僕のほうは、ある意味でのストレスが減ったと思います。オフィスを借りていた時は坂本が今日は何時にオフィスに来るのか、わからない日がある。打ち合わせたいのだけど、来ないから話せないことが時々あったのです。在宅になるとスムーズに連絡が取れます。あの頃、オフィスに1人でいる時のほうが寂しかったのかな。

坂本 なるほどね。ハハハ(笑)。

坂本嘉種さん ザリガニワークスのデザイン担当。各種デザイン、イラストを中心に、ライティングワークも。コレジャナイロボ主題歌「IT IS NOT THIS! コレジャナイロボ!」では、作詞・作曲も手掛ける

―― 2人が離れてしまい、リアルに向かい合う機会が減り、創造的な仕事に影響はありませんか?

坂本 それがどうなるのかなと気にはしていたのですが、今のところは問題ないと思います。

武笠 僕らの仕事は、0から1へのアイデアをたくさん持っておく必要があるんですね。坂本との雑談から生まれることが多いんですよ。

坂本 雑談をフェイスブックのメッセンジャーでするようになったんです。以前は業務連絡が中心だったのですが、最近は例えば「あの漫画、読んだ?」と投げかけて、武笠が答え、僕が応じるようなやりとりが増えました。オフィスにいる時に好き勝手に言っていた時と同じように、武笠の都合を考えずに送ることができるんですよ。

武笠 僕のほうは、オフィスの頃と同じ。その場で返信をする場合もあるし、忙しければ後で返信します。雑談が目の前の仕事にすぐに生きなくとも、数か月後の別の仕事でひらめき、何らかの形で生きる場合があるんです。

2人のZoom を使っての企画会議は週1回、2時間程しますが、真剣ですよ。2~3日後にクライアント企業にアイデアやデザインを提出するケースも多いですから。話し合ううえでのルールや約束は決めてはいませんが、良いと思えるコンテンツを作るためには互いに妥協しません。

坂本 進んでいこうとする方向が同じだから、意見が違ったとしても喧嘩には全然なりません。むしろ、アイデアの弱いところが見つかったりして大切な場になりますよ。

武笠 ディスカッションの時に坂本はお客さんになりきることができるんです。坂本の数ある得意技の1つ。僕らの企画が商品となり、売り場に並んだ時にいろいろな人が対面した際の気持ちに限りなく近くなれます。例えば、この業界のこんな人ならばどんな思いで商品に接するか、と想定しながら話すのです。

坂本 武笠は、送り手都合できっちりと考えるのが得意。例えば、売り場に商品が並ぶまでにその間に立つ人たちのことも想像し、その人たちに対するメリットも踏まえて僕のアイデアに助言ができる。

2人の作品:淡路島オニオンキッチンカー「たまおとねぎこ」(南あわじ・うずの丘)

2人が真逆であるほうが多角的なものが作れる

―― テレワークは、2人のエンターテイメントの仕事にどのような影響を与えていますか?

坂本 僕らは、エンタメで生きている。なくてもいいんだけど、あったら楽しいものを作っているんです。例えば、事務所があった原宿の表参道はある意味でいらないものに包まれている雰囲気の街。ここにどっぷり浸かった感覚がなくなったのです。時々は、こういう空間の中に戻ってこないとダメなのかな、と思う時はあります。

武笠 僕は種さん(坂本さんのこと)とは、逆の立場かもしれない。原宿のオフィスに通っている頃は、東京中心の発想になっていたように思います。藤野にずっといると、東京が全国の中では結構、特殊なんだと思い知らされます。意識の面で東京を常に向いてなくてもいいんですよね。広い視野で考えることができるようになった気もしています。

坂本 その捉え方は大切だよね。僕もそれに近い考えは持っているよ。東京生まれ東京育ちだから、むしろ特に東京が特殊なんだと意識するようにしている一面もあります。最近は、地方のクライアント企業や団体から仕事の依頼をいただく機会が増えているから、その思いをますます強くしています。

武笠 2人がそれぞれの思いを持ち寄るのがいい。真逆であるほうが多角的なものが作れるでしょう。僕らは、それを半ば意識して試みているところもあるんです。

坂本 あらためて武笠から聞くと、2人が組んでいるのはおいしいわ~と思いました(笑)。

2人の作品:カプセルトイ商品「しょうがなイレイザー」(一回¥200 発売元:ブシロードクリエイティブ)

2人の作品:ファミリー向けカードゲーム「サルゴリラチンパンジー♪」(¥1100 発売元:ブシロードメディア)

―― 在宅勤務に取り組む会社員が増えてきました。そんな方へのメッセージで締めくくってください。

坂本 自分たちの場合は雇われる側ではないので、オフィスでも自宅でも仕事への意識は大きく変わらないです。プライベートとの境がとても曖昧。会社員の方も僕らとやがては同じような考えになるのかな、とは思います。クリエイティブにもおもしろい影響があるんじゃないでしょうか。そうして世の中がおもしろくなったらと楽しみにしています。

武笠 僕もその発想のところに注目しています。藤野で月に二回、子どもたちを対象に工作教室をしているんです。こちらで画材や紙粘土を大量に用意して、子どもたちには作りたいものをどんどんと作ってもらう。そのほうが、クリエイティビティが育つんじゃないかと思っています。例えば、日常生活において「このタイミングではこれはして欲しくないな」と大人が思うことを的確にやってくれる子どもがいるんですよ。

坂本 ハハハ(笑)。

藤野の工作教室

武笠 もちろん、みんなの作品がおもしろいけれど、そういう子の作品は特に独創的。やっちゃいけないことをすると、簡単に独創的な発想になるのでは?と気づかされました。なので「やっちゃいけないことをあえてやってみる」という発想法もいいのかなと。在宅勤務だって、かつては「やっちゃいけないこと」のうちに入っていましたからね。

著者プロフィール

吉田 典史(よしだ のりふみ)

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。