26の国・地域で販売・製造の拠点を中心に、自主性を重んじたテレワーク

グローバル化を推し進めるサトーホールディングス株式会社(港区、連結従業員数5,656人)は26の国・地域で販売・製造の拠点を設けている。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、中国、インド、インドネシア、マレーシア、韓国、フィリピン、台湾、タイ、ベトナムなどに及ぶ。

サトーグループの販売子会社において中核になるのが、サトー(従業員数1,889)だ。主な事業は自動認識ソリューション商品(プリンタ、ソフトウェア、シール・ラベル、ハンドラベラーなど)の市場調査や企画・開発、設計、製造、販売、保守および販売促進ソリューションの販売などになる。

2020年4月から22年7月現在に至るまで、国内外に勤務する全社員を対象にコロナ感染症拡大の状況を鑑みたうえで柔軟な働き方を推奨している。20年4月、政府の緊急事態宣言が発令され、在宅勤務(同社は「どこでもワーク」としている)を本格的にスタートした。それ以降、緊急事態宣言の発令や解除、感染拡大の状況に応じて態勢を柔軟に整えてきた。部署や時期により多少異なるが、21年は年間平均で1人の社員の在宅勤務は月平均で10日程度。20年4月では、8日だった。

サトーホールディングス国内人財部の高橋麻子氏によると、この約2年間は全社で新しい働き方への移行がおおむねスムーズに進んできたようだ。大きな理由には20年4月以前から在宅勤務ができるインフラの整備に力を注いできたことがあるという。情報漏洩を防ぐためにセキュリティの環境整備や教育も徹底して行ってきた。

在宅勤務ができるインフラの1つが、16年11月に働き方改革の一環としてスタートした規定「どこでもワーク」だ。“どこでも”はオフィス外でも一定の制限のもと、仕事ができることを意味する。

この規定により、例えば営業担当者が時間をそれまで以上に効率よく使えるようになった。取引先の企業の訪問を終えた後、会社が契約するレンタルオフィスで仕事ができるようにした。オフィスに戻る時間を省くためだ。あるいは、全部署において1か月の出勤日(就労日)の半分以上はオフィスに出社することにしたが、それ以外は所属部署の責任者の了解を得れば在宅勤務ができるようにした。20年4月以降は、在宅勤務の日数制限を設けないようにしていた。

22年7月現在、規定を更新し、オフィス外での勤務を再び月の半分までとした。ただし上長が認めた場合に限り、毎月の労働日の5分の4まで増やすことができる。

「20年4月以降は海外勤務の社員も含め、在宅勤務がさらに増えることを踏まえ、労働生産性や成果が下がるのではないか、と人事部内でも懸念した時期があった。そのために、『どこでもワーク』の手引きをまとめたガイドラインを作り、全社に周知した。ガイドラインでは特に上司と部下とのコミュニケーションが円滑に進むことを重視している。『どこでもワーク』では、自部署の働き方指針と社員自身の職務の特性を理解したうえで、上長と本人の仕事への取り組みがしっかりと話し合われ、実行されることが最も重要だと考えている」(高橋麻子氏)

サトーホールディングス国内人財部 高橋麻子氏

サトーホールディングス国内人財部 高橋麻子氏

食品分野で使用されているサトーのプリンター

食品分野で使用されているサトーのプリンター

多様な複数ワールドワイドなオンラインミーティングで深い共有を

様々な部署の中で特にグローバル化が進んでいるのが、営業本部 グローバルマーケティング統括部(計23人)だ。部署の責任者である部長に2018年秋に就任したのが武井美樹氏で、2022年4月からは執行役員を務める。

執行役員 営業本部 グローバルマーケティング統括部長 武井美樹氏  Building Business Building peopleをテーマとして掲げる

執行役員 営業本部 グローバルマーケティング統括部長 武井美樹氏  Building Business Building peopleをテーマとして掲げる

Meeting1:定例(毎月1度)のグローバルマーケティングミーティングの開催

グローバルマーケティング統括部の組織体制は、次の通り。

・グローバルマーケティンググループ8人 
・マーケティング推進部 14人

マーケティングを担当する社員は南米、北米、欧州、東南アジア、東アジアの5地域の事業所に勤務する。全員が現地法人で採用された外国籍の社員たちで、本部(東京の本社)の武井執行役員たちは基本的にはメールやTeams、zoomなどのオンラインツールを利用し、主に英語を使用してコミュニケーションを図る。ほかの部署の日本人社員がオンラインミーティングに参加する際には英語のやりとりが十分にはできない場合があることを考慮し、同社の専属の同時通訳が加わる時がある。

この2年は海外の事業所も含め、在宅勤務の機会が増えたため、自宅からオンラインでのミーティングに参加する社員が増えている。例えば、次のものだ。マーケティング以外の部署の社員が参加する場合もある。

本社や各地域のターゲットとする市場(特に5市場=リテール、製造、食品、物流、ヘルスケア)や顧客、そのマーケティング戦略や状況、進捗などを共有。特に見込み顧客を増やすことをテーマとする。その施策として、Web のセミナーやオンライン展示会の開催やそれらの効果的な運営などをディスカッションする。営業用ツールのデジタル化や本部、各地域での共有も進める。参加者は営業本部および各地域のマーケティング担当の社員で、1回につき、平均13人。

「5地域の時差を考慮し、日本時間の21時(午後9時)にスタートし、23時に終了。日本の開始時間は北米が朝の7時、南米が午後9時であることを考慮し、設定した。東南アジアや東アジアは時差が北米や南米ほどは大きくないので、北米を優先した」(武井氏)

武井氏のテレワーク風景

武井氏のテレワーク風景

Meeting2:各地域の数字的なデータマーケティングに関するミーティング

各地域でマーケティング戦略を実施するうえでのデータ(数字)や課題、問題点の共有。データを重視した話し合いが特徴。基本的には本部と5地域のうち、1つの地域の担当者のみのミーティング。営業本部の社員のみが参加し、1回につき、平均6人。四半期ごとに開催。

Meeting3:成功事例共有会

毎月1度開催。5地域でのマーケティング戦略を遂行し、一定の成果や実績を出した事例を発表し合い、共有する。グローバルで横展開ができ、かつ持続的成長が見込めるビジネスの成功事例を各地域が発表。「ひとつの成功を世界の成功に」をスローガンに、全社員が参加可能。1回につき、平均200人程。約1時間半。

「弊社では、Building Business Building peopleをポリシーの1つとして掲げている。ビジネスを創出することは、人の育成にもなる。例えば、1人の営業担当者が世界に向けて発表することはプレゼンテーションの貴重な経験になる。モチベーションアップになり、社員教育にもなっている。様々な国籍の人が多数参加するので、各自がワン・サトーを実感し、共有・共感の意識が高まる」(武井氏)

開催は、日本時間の19時から21時が多い。参加できない人は、録画したミーティングの動画を閲覧できる。武井執行役員らがファシリテーターをするが、スタートした2020年当初はあえてテンションを高めにして楽しい雰囲気を醸し出すようにしていた。社内で話題となり、参加者が増えることを意図した。

この時期、“ラジオ体操プロジェクト”も行った。各地域の社員たちが、日本のラジオ体操を行う。体操を動作のブロックにわけ、それぞれの地域で1つのブロックを担当し、それらを1本の動画に編集でつなぐ。外国籍の社員たちはラジオ体操をはじめて試みたケースが多いが、ワン・サトーを感じ取れるイベントを楽しんでいたという。


武井氏が、上記の3つのオンラインミーティングを始め、オンラインツールを活用するうえで重視するのが、サトー流のチームビルディングだ。サトーは本格的なグローバル企業であり、国内の本社や支社、海外の事業所、グループ会社で構成される。通常、このような規模になると得てしてセクショナリズムが発生しやすい。

結果としてそれぞれの会社や部署や縦割りとなり、社員が一体感を失う時もある。武井氏はそのことをいわば先回りして未然に防ぐために、参加者が共感し、共有意識を高めることができるように企画立案をしている。

国内人財部の高橋氏は「本格的に在宅勤務をはじめたことで本社や支社、海外の事業所、グループ会社、部署などの枠を超えたつながりが深くなったように思える」と捉える。

2022年4月前後から在宅勤務からオフィスへの出社に切り替える大企業が増える中、サトーは双方の働き方を効果的に使いこなし、セクショナリズムをも克服しようとしている。本来、在宅勤務の1つのあるべき姿はこのようなものなのではないのだろうか、と筆者には思えた。

著者プロフィール

吉田 典史(よしだ のりふみ)

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。