リモートワークの環境を整備しよう

リモートワークをやるには環境整備が大切だ。基本となるのは高速で安定したインターネット接続回線と、それなりのスペックのパソコン。会社から支給されるリモートワーク用パソコンが低スペックだった場合、妥協せずに会社に改善を提案せよという。著者が推奨するインターネット接続回線の通信速度は下り30Mbps以上、パソコンのスペックはCPUがCore i5以上、メモリは16GB以上だという。

ほとんどのノートパソコンにはマイクとカメラが内蔵されているが、内蔵マイクを使うべきではないと著者は言う。テレビ会議では映像がメインで音声は従と思われがちだが、円滑なコミュニケーションには、画像よりも声がちゃんと聞こえることのほうが大切だ。本書では「テレビ会議の品質を最低限確保するために、より大切なことは音声のクオリティです」と説いている。資料共有で画面を注視することはあるが、発言者の顔をじっと見ている必要はない。だが、声が籠もっていたり、割れていたりすると、会議に参加することが苦痛になる。パソコン内蔵マイクは、マイクとしては最低限のものしか使われていない。音質はイマイチだし、構造上どうしてもキーボードの音を拾いがちだ。さらに、家族やペット、自動車など周囲の音も入ってくる。

きちんとテレビ会議に参加するのであれば、品質のよい外付けのイヤホンやマイクを用意すべきだ。スマートホンなどに同梱されてくるマイク付きイヤホンでもいい。頻繁にテレビ会議を行うのであれば、USB接続の据え置き型マイクを導入するのがお勧めだという。

照明はカメラの後ろに設置する

映像について、カメラの画質よりも照明に気を付けよという。たいていの家では天井にシーリングライトが取り付けられ、唯一の照明となっている。そして窓や壁に向かって机があり、パソコンが置かれている。そうすると照明は、参加者の背後から照らすので、顔は逆光で暗くなってしまう。「照明が悪いと、参加者にネガティブな印象を持たれることもあります」。

ネガティブな印象をポジティブに変えるには、カメラ側に照明を置くことだ。本格的なビデオ撮影用のライトではなくとも大丈夫。卓上ライトをカメラの後ろに設置すれば良い。真正面というよりは斜め左上ぐらいがいいだろう。

さらに、テレビ会議では背景も大切だ。ウェブ会議サービスZoomには背景を自動的に置き換えるバーチャル背景機能があるが、服の色などによっては身体が透明になってしまったり、後ろの荷物が映るなど、限界がある。私は手元にあった青い布を背後に掛け、グリーンバックならぬブルーバックにしている。

電子メールからビジネスチャットへ

リモートワークを始めると、社員同士の連絡手段をどうするのかという問題が出てくる。特に同じオフィス、同じ部署の社員同士は、出社していればすぐに声を掛けることができたのに、リモートワークではそうもいかない。支社・支店、取引先などとの連絡はこれまでも電子メールが使われているだろうが、リモートワークをきっかけに電子メールからビジネスチャットへの移行も進んでいる。

電子メールはどうしても「いつもお世話になっています」から始まり、「よろしくお願いします」で締めくくり、署名を付けるなど形式張って面倒臭くなる。取引先やお客様に送るビジネスメールはともかく、社員同士で鯱張る必要はないだろう。ビジネスチャットは電子メールほど構えることなく、手軽にメッセージをやりとりできるのが特徴だ。著者は、1回の投稿は1文からせいぜい長くても3文までで抑え、コミュニケーションを円滑にするために絵文字も積極的に使おうと提案している。

クラウドを活用しよう

文書管理にはGoogleドキュメントを使うことを勧めている。Googleドキュメントは、Microsoft Wordと互換性のあるクラウド文書作成機能で、ファイルはクラウドに保存される。修正・更新の履歴管理を自動的に行ってくれるので、最新版、その一つ前の版、さらに一つ前の版と履歴を追うことができる。オンライン会議ではGoogleドキュメントでリアルタイムに議事録を作成し、それをリアルタイムで参加者が閲覧。会議終了前に議事録を見てタスクを確認することができる。もちろんファイルは共有できるので、いちいち紙に印刷して配布する手間も省ける。

売上や顧客、タスクなどデータ管理はExcelに相当するGoogleスプレッドシートだ。Googleスプレッドシートもクラウド上で動き、クラウド上にデータを保存する。操作性やファイル、関数などはExcelと高い互換性を持っているので、Excelを使っている人ならば、簡単にGoogleスプレッドシートに移行することができるだろう。Googleドキュメントと同様、履歴管理機能も備えている。

文書、計算シート、データベース、写真、動画などファイルを保存し、共有するにもクラウドを活用したい。ファイルをやりとりするために電子メールに添付する人が多いと思うが、送る相手を間違えてしまう電子メールの誤送信が情報漏えいの原因上位であったり、大きなファイルは送れなかったりする。むしろきちんとセキュリティが管理されたクラウドにデータを保存し、相手と確実にファイル共有情報をやりとりする方が安全なのだ。

本書ではGoogleドライブ、Dropbox、Boxの3つを推奨している。いずれも無料版があるので簡単に導入して試すことができる。有料版になると2TB(Googleドライブ)から無制限(Box)まで保存容量を拡大できる。共有時の有効期限設定や2段階認証にも対応しているので、セキュリティ的にもメール添付よりはるかに安全だ。

身体と精神の健康にも留意しよう

満員電車での通勤が身体にいいのかどうかは分からないが、在宅勤務になって明らかに歩く距離は減った。私の場合、自宅から駅まで片道1kmを毎日のように歩いていたのがなくなった。外出自粛となった2020年春には、家で自重トレをしたものだ。

仕事と休憩時間帯のけじめも大切だ。いくらフレックスタイムだ、リモートワークだからといって、昼夜逆転した生活は会社員としてはよろしくない。コミュニケーションも取りにくくなる。著者はリモートワークに適した時間管理のルールづくりを勧めている。Googleカレンダーなどスケジュール管理ツールを活用して予定を共有するのがいい。

勤務時間帯は、1時間に1度の休憩を挟み、心身をリフレッシュする。さらには歩きながらスマホで会議するウォーキングミーティングもある。静かな公園を歩きながらのミーティングは創造性や生産性を高め、気分転換にもつながるという。

VPNとリモートデスクトップに触れていないのが残念

本書で残念なのは、リモートワークの一つの鍵となる、社内ネットワークへのアクセス、VPNについて記載がないことだ。VPN(Virtual Private Network )とは、たとえばWindowsならばリモートデスクトップ機能を使うことで自宅のパソコンからオフィスのパソコンを、オフィスのデスク前に座っているかのように自由に操作できる機能のこと。現代のリモートワークに必須の機能といっていい。

先日、「地方のITレベルの低さがどのくらいかというと、ウェブ会議を行うことができる人(Zoom、Teams等インストールして使用)が20人に1人くらい」というTwitterのまとめ記事が話題になった。都会/地方というよりはその会社・組織の体制や業務によるのではないかと思う。現代を代表するIT企業のCEOイーロン・マスクがテスラとSpaceXの社員に対して、週40時間以上はオフィスに出勤するか、さもなくば会社を辞めろという電子メールを送ったほどなので、リモートワークを受け入れられない経営者、上司は日本ではもっと大量に存在するだろう。

表紙には「新社会人必携!」とあるが、むしろリモートワークを導入したもののコミュニケーションがうまく取れずに悩んでいるマネジャークラスや、リモートワークの導入を渋る上司を説得したい社員にお勧めだ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『テレワーク時代のできない人の育て方・辞めさせ方』( 谷所健一郎 著/シーアンドアール研究所)

テレワークは、労働生産性の向上、コスト削減、ワークライフバランスの向上、非常時対策など多くのメリットがある反面、セキュリティの脆弱性やこれまでのようにオフィスでの仕事ではないため社員のセルフマネジメントに依存する部分が多く、「できない人」を育てる難しさが指摘されています。本書では、テレワーク時代の「できる人」の採用方法、テレワーク導入で重要なポイント、導入に伴う問題点と対応策、社員のスキルやモチベーションを高める方策、「できない人」「できない上司」の対応策、さらに「できない人」の辞めさせ方について、人材コンサルタントの著者が伝授します。(Amazon内容紹介より)

『超DX仕事術』(相馬正伸 著/サンマーク出版)

「2025年の崖」。この言葉は「2025年までにDXに取り組まなければ、企業は存続できない」ということを意味し、経済産業省が使ったことで一躍有名になりました。新型コロナウイルスの影響によるテレワークの普及で、この言葉は企業だけでなく「個人」においても無視できないようになりました。そんな時代にこそ、個人に向けたDX活用術=DX仕事術が求められています。本書は、官民をまたにかけて活躍するITツールオタクでDXコンサルタントの著者が、膨大なITツールの中から「超初歩から個人で使えるものだけ」を徹底的に体系化! どこでも働けるテレワーク時代必携の1冊です。(Amazon内容紹介より)

『1冊でわかる! 経理のテレワーク〈第2版〉』(原幹 著/中央経済社)

テレワーク導入検討時の考え方、対象業務の選定、労働時間・勤務体系といった社内ルールの調整、ITインフラの整備など、「経理」のテレワーク導入に必要な知識はこの1冊で万全です。請求、支払、給与計算、取引登録、月次処理、決算処理(単体・連結)、監査対応、税務申告、開示書類の作成といった経理の業務プロセスごとにテレワークの留意点を解説しています。さらに、改正電子帳簿保存法やインボイス制度といった重要論点をテレワークとも関連づけながら解説し、最新の制度対応も念頭に置いたテレワークの環境構築の道標になるよう工夫しています。 (Amazon内容紹介より)

『テレワークも業務改善もさっぱりわからない私に新しい働き方を教えてください! 』(沢渡あまね 監修/朝日新聞出版)

パラレルキャリア、雇用形態の変化、終身雇用の崩壊、SDGs……など、目まぐるしく変化している仕事の現場。これからどのように向き合えばいいのか、わからなくなってしまった人に向けて、沢渡あまねさんの明快な語り口調で丁寧に説明。図やイラストも豊富でやさしい。 (Amazon内容紹介より)

『テレワーク本質論 企業・働く人・社会が幸せであり続ける「日本型テレワーク」のあり方』(田澤 由利 著/幻冬舎)

コロナ禍を機にテレワークを導入したはいいものの、コミュニケーションが取りにくい、マネジメントができない、社員の生産性が下がるなど、さまざまな課題を目の当たりにした企業が多くあります。しかし、だからといって「テレワークは合わない」と出社勤務に戻ってしまってはいけません。テレワークを単なる感染防止対策で終わらせてしまうことは、日本の企業における生産性向上、人材確保、危機管理対策など、ポストコロナ時代を生き抜くための武器を捨てるようなものだからです。適切なテレワークを行うために最も大事なのは、テレワークの本質を理解して社員とのコミュニケーションを強化し、適切な人材に適正に業務を振り分け効率的に運用することです。本書では、日本の企業・働く人、そして社会がテレワークによりさまざまな課題を克服していくための基本知識、考え方、具体的な実践法などを詳細に解説しています。(Amazon内容紹介より)

著者プロフィール

土屋 勝(つちや まさる)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。