猶予期間は2023年12月末まで

各業界においてデジタル化の波が押し寄せるなか、2022年1月に改正電子帳簿保存法(電帳法)が施行された。対応が間に合っていない企業も多く、2023年12月末までの猶予期間が設けられることになったが、今回の改正では要件が大きく緩和された部分も多い。これをデジタル化やペーパーレス化の好機と捉え、準備を進めてみてはいかがだろうか。

ただし、自社の状況や目的によって、最適な対応策は異なるので注意が必要だ。どのようなサービスによって電帳法への対応が可能なのか。サービスの選定において気をつけるべきポイントとは。本稿では、各社の具体的なサービスを挙げながら紹介したい。

電帳法改正のポイントは「データはデータのまま保存」

電帳法は、会計帳簿や決算書、請求書等の国税関係帳簿書類の保管負担を軽減する目的で1998年7月に施行された法律。各税法で原則として紙での保存が義務づけられている帳簿書類について、一定の要件を満たしたうえで電子データによる保存を可能とすること、および電子的に授受した取引情報の保存義務等が定められている。

2022年の改正の大きなポイントは、電子取引に関する書類はデータでの保存が義務付けられたこと。つまり、請求書や領収書などを電子的に授受した場合、そのままデータとして保存しておくことが求められる。猶予期間である2023年12月末までの電子取引については、従来どおり書類を紙に出力して保存することが可能だが、以降はデータをプリントアウトして保存しておくことが認められなくなる。

電帳法の保存区分と対象書類

電帳法の保存区分は主に、1)電子帳簿等保存、2)スキャナ保存、3)電子取引データ保存の3種類に分けられる。

1)電子帳簿等保存は、会計ソフト等で電子的に作成した国税関係帳簿書類をデータのまま保存すること。国税関係帳簿書類には、貸借対照表や損益計算書といった決算書類、注文書、契約書、領収書、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳等がある。

2)スキャナ保存は、紙で受領または作成した書類を画像データで保存すること。相手から受け取った紙の請求書や領収書などをスキャンまたは撮影して保存する場合がこれにあたる。

3)電子取引データ保存は、電子的に授受した取引情報をデータで保存すること。前述のように、請求書や領収書などを電子的に授受した場合は「電子取引」に該当し、電子データは紙に出力せず、そのままデータとして保存しておくことが求められる。請求書をメールで受け取ることも電子取引に含まれる。

サービス選択の基準と注意点

いずれにしても電子データで保存する際には、可視性・検索機能の確保、データの真実性を担保する措置など電帳法の要件を満たす必要がある。現在、電帳法に対応した機能を持つソフトやクラウドサービス等が多く登場しているが、こうしたシステムを利用することで、企業は電帳法の詳細な要件まで把握しなくとも、法令に準拠した運用が可能となる。

電帳法の要件を満たしているサービスかどうかの判断基準の1つとなるのが、「JIIMA(日本文書情報マネジメント協会)」からの認証を取得していること。認証を受けた製品は、Webサイトなどで認証ロゴが使用されているので、確認してみてほしい。また、JIIMAの下記Webサイトからも確認可能だ。

電子取引ソフト法的要件認証製品一覧
電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証製品一覧
電子帳簿ソフト法的要件認証製品一覧

ただし、「電帳法対応」と謳っていても、サービスによって管理できる書類や機能はさまざま。また、既存の業務フローやシステム、企業規模、解決したい課題などによって、適切な対応策も異なる。ベンダーの立場から電帳法推進を担当する、マネーフォワード ビジネスカンパニー クラウド横断本部の野永裕希氏は次のように、現状の業務フローやシステム、導入の目的などを改めて整理したうえで検討を進めるべきとアドバイスする。

「何もないところからサービスを探しにいくことは難しい。2023年10月開始のインボイス制度への対応も見据え、まずはシステムや運用のAs-Isを整理するところからはじめてほしい。現状の業務フローを洗い出して、電帳法への対応として最低限やらなければならないことを明確にしていただけると、ベンダー側からの提案もしやすくなる」(野永氏)

目的別に見る、電帳法対応可能なサービス

以下では、目的別に電帳法対応可能なサービスについて見ていきたい。

1. 取り急ぎ電子取引に対応したい場合

中小企業・小規模事業者で、人手による紙の請求書や領収書対応が現状で大きな負担となっていない場合、まずは2022年の改正で義務化された電子取引データ保存から対応していくことを野永氏は推奨している。紙で請求書や領収書を受領している場合には、電子取引の対象外となるため、従来どおり紙のまま保存していても問題ないためだ。

電子取引においては、受け取った請求書や領収書のデータの原本性を証明するタイムスタンプの要件について確認しておく必要がある。データの訂正や削除を行った履歴が残るなど、電帳法に対応した会計ソフトを使用して作った帳簿についてはタイムスタンプは不要となるが、データを受け取った場合、受領者側は最長約70日(2か月とおおむね7営業日)以内にタイムスタンプを付与する必要がある。

たとえば、マネーフォワードが提供しているサービスの場合、クラウド型会計ソフト「マネーフォワード クラウド会計」と電帳法対応ストレージサービス「マネーフォワード クラウドBox」を組み合わせて利用することで、電子取引への対応を実現できる。

「マネーフォワード クラウドBox」について(提供:マネーフォワード)

「マネーフォワード クラウドBox」について(提供:マネーフォワード)

メールで受け取った請求書やWebサイトからダウンロードした領収書などの電子取引データを「マネーフォワード クラウドBox」内にアップロードしておき、月次決算や確定申告の際に「マネーフォワード クラウド会計」に紐づけて処理をするという流れになる。他社のクラウド会計ソフトでも、機能やサービスを組み合わせて対応する形が一般的だ。

各種サービスを組み合わせることで企業のニーズにあった対応が可能となる(提供:マネーフォワード)

各種サービスを組み合わせることで企業のニーズにあった対応が可能となる(提供:マネーフォワード)

野永氏は「電子取引に取り急ぎ対応するには、受け取ったデータは『マネーフォワードクラウドBox』へ保存、紙で受け取ったものは紙で保存するという形で問題ない。ただし、紙をデータ化したうえで廃棄したい場合には、より要件が厳しいスキャナ保存に対応していく必要がある(※クラウドBoxは2022年9月16日時点でスキャナ保存には未対応。猶予期間内には対応可能となる予定)」と説明する。

2. 紙の原本を廃棄したい場合はスキャナ保存

紙の原本廃棄やペーパーレス化を目指すのであれば、スキャナ保存への対応を検討していく必要がある。スキャナ保存の場合、スキャンしたデータにタイムスタンプを付与する、または訂正削除の履歴を残す(バージョン管理)といった要件のほか、画像の解像度、帳簿との相互関連性の確保などといった要件も求められる。これらの要件を正しく満たしていれば、電子化した後に紙の原本を即時廃棄することが可能となる。

アンテナハウスが提供するスキャナ保存に対応した文書管理システム「ScanSave」は、国税関係書類をはじめ幅広い書類の保存を対象としている。クライアント・サーバ型、デスクトップアプリ型など組織規模に合わせた製品形態から選ぶことができ、導入済みの会計ソフトやワークフローシステムとのデータ連携も可能だ。

「[ScanSave](https://www.antenna.co.jp/scansave/)」

ScanSave

最近では請求書に特化したサービスも多く登場している。インフォマートが提供する請求書電子化ソリューション「BtoBプラットフォーム請求書」は、オプションのAI-OCR機能を利用することで、取引先から送付される紙やPDF形式の請求書を処理可能な電子データに変換し、電子請求書として保存することで一元管理が可能となっている。

Sansanが提供する「Bill One」は、あらゆる請求書をオンラインで受け取ることができるクラウド請求書受領サービス。紙の請求書の場合、Bill One側が代理で受け取り、スキャンまで実行する。PDFの請求書はアップロードするだけでよい。データ化された請求書は、専用のデータベースで一元管理することが可能となっている。

電帳法対応はDXの事前準備と捉える

電帳法対応というとどうしても義務感を強く感じてしまうが、電帳法は、経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上を目的としたものであり、昨今各社が推し進めているDXやデータ活用にもつながるものといえる。

野永氏は、「電帳法対応は、デジタル化やAI活用をしていくための事前準備と捉えると良い。瞬間的な対応コストは高いかもしれないが、この壁を乗り越えることで、将来的には書類をアップロードするだけで仕分けが完了しているような世界観になるなど、経理業務がスムーズになっていくはず。"やらされている"という感覚ではなく、"乗り越える"という気概をもって取り組んでいただければ」とメッセージを送る。

紙をベースとした既存の業務フローのままでは自動化は進まず、生産性向上や働き方の変革は見込めない。DX推進の一環として、ぜひ前向きに取り組んでみてほしい。

著者プロフィール

周藤 瞳美(すとう ひとみ)

フリーランスの編集者/ライター。新卒でIT系出版社に入社し、書籍編集に携わる。その後、Webニュースメディアの編集記者として取材・執筆・編集業務に従事し、2017年に独立。守備範囲はテクノロジー、ビジネス分野。現在は、DX、IT導入・活用などの話題を中心に執筆。