すべての帳票をデータ化する必要はない

電帳法(電子帳簿保存法)は1998年に施行された。元々は会計ソフトで作成した会計データをデジタルのまま保存することを認めた法律。ただ利用にあたっては所轄税務署長の事前承認を受けなければならないなど条件が面倒で、あまり普及していなかった。会計ソフトのデータや、データで送られてきた請求書・領収書はプリントアウトして紙で保存するのがほとんどだった。

2022年1月から電子帳簿保存法(改正)が施行され、事前承認制度が廃止されたり、紙の原本を即座に廃棄して良くなったりといった規制緩和が実現した。ネット通販の領収書など、電子データで送られてくる帳票類はデジタルデータのまま保存しなければならないが、紙ものはわざわざデジタル化する義務は無く、紙のまま保存しても良い。この点は誤解している人が多いらしく、本書でも独立してフリーランスになったばかりのイラストレーターとフリーランスでは先輩であるエンジニアとの間でこんなやりとりから幕を開ける。

「先輩、確定申告ってどうしてます? 今、税務署で説明聞いてきたんですけど、法改正があって、領収書とかも全部データで取っておかないといけないらしんですね」
「え?それって電子帳簿保存法のこと? その理解はちょっとちがうよ、請求書をデータでもらったときにデータで取っておくためのルールが変わっただけだよ」

というように、会話形式で、わかりやすく解説されている。

ところで電子メールなどでデータとして請求書や領収書をやりとりするとなると、「ハンコはどうするんだ?」という疑問が出てくるだろう。コロナ禍で緊急事態宣言が出て、できる限り在宅勤務、外出は控えるようにと言われた時でも、経理担当者は請求書にハンコを押すために出勤を余儀なくされている、などという話もあった。

これについて本書では「これまで、私たちは請求書や領収書は押印があるものを紙でもらわないといけないものだと思っていました。でも、実際にはこうした書類の発行義務がある規程はなかったのです」という。

民法では代金を支払った側が要求した場合だけ領収書を交付するとなっている。押印した請求書や領収書を交わすというのは、商習慣化したに過ぎない。実際、評者の取引先でも紙の請求書を送れというところはほとんど無くなり、社判の印影をPDFに張り込むように求められるところと印影は不要というところが混在している。

考えてみれば発注書はすでにPDFですらなく、発注内容、金額、納期などをメールで交わしている。いずれ領収書もデータで交わされるようになり、社判押印といった習慣も消えていくだろう。

デジタルデータの改ざん防止対策が大切に

デジタルデータは容易に改ざんできるため、後から改ざんできないようにすることが必須だ。「真実性の要件」を満たすためにはいくつかの方法がある。タイムスタンプを付ける、データの訂正・削除ができないシステムで保存する、訂正・削除した場合にログが残るシステムを利用する、訂正・削除に関する事務処理規程を設けることだ。

タイムスタンプといってもファイルのプロパティで表示される作成日時は簡単に書き換えることができる。電帳法で認められるタイムスタンプはデータのハッシュ値を時刻認証局(TSA)で認証してもらったものでなければならない。とは言っても小さな会社の経理部がアマノやセイコーソリューションズといった時刻認証局とやりとりするのは現実的ではない。

本書では「会計ソフトのベンダーが「時刻配信業務認定事業者(TAA)」となってTSAと契約してタイムスタンプを発行できる」という。TAA認定マークが付いている会計ソフトを使えば電帳法の要件を満たしているタイムスタンプ作成ができるのだ。

あるいは、会計ソフトベンダーが提供しているクラウド上にデータを保存することで、データの訂正削除をできなくしたり、変更した際にそのログが残せるものを使っても良い。一番簡単で、現在使っている会計ソフトが上記要件を満たしていない場合でも適用できるのは訂正削除に関する事務処理規程を作成し、それに基づいて経理業務を遂行することだ。

インボイス制度スタートで免税事業者が岐路に立たされる

このところ、ニュースで騒がれているのが消費税インボイス制度ではないだろうか。紙とか押印とか関係なく、メールで送信されるデジタルの請求書であっても、消費税額の記載を義務化する制度だ。ここで問題となるのが消費税免税事業者の扱い。現在は、年間売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者となり、消費税の納税が免除されている。

これまでは免税事業者にも消費税込みの金額で代金が支払われていた。税率10%の商品であれば1万円に1,000円を加算した1万1,000円が支払われたわけだが、免税事業者は消費税納税義務がないので消費税分の1,000円は利益となってしまう。

本書では、「こうしたことが起こらないようにするために、お互いがインボイスを作成して、①納税義務のある事業者かどうか? ②税金の金額はいくらなのか? を請求書で明確にわかるように制度化されました。これが、インボイス制度です」という。

問題は年商1,000万円以上の課税事業者ならば税務署に事業者登録することでインボイスを発行できるが、免税事業者は発行できないということ。発注者からするとインボイスがないと消費税分を控除できなくなり、その分利益が減ってしまう。年商1,000万円以下でも事業者登録すれば発行できるようになるが、そうすると免税ではなく課税事業者になってしまい、上の例では1,000円の利益がなくなるわけだ。

発注者側が損するか、受注者側が損するか。どちらにしても酷な制度だ。発注者にすれば免税事業者と取引しなければ損は出ないが、受注者、免税事業者はほぼ選択の余地はない。立場が強いのは発注者側なので、公正取引委員会はインボイス制度スタートに際して・取引対価の引き下げ・商品役務の成果物の受領拒否・取引の停止などを禁止事項としているが、フリーランスや零細商店が立ちゆかなくなるのではないかということで、社会問題化しているわけだ。

電帳法とインボイス制度。さすがに経理担当者がこの本を読んでこれから勉強します、というのはお粗末だが、免税事業者と取引がある営業担当者、現時点で免税事業者であるフリーランスや零細商店の経営者にお勧めの本だ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『2時間で丸わかり インボイスと消費税の基本を学ぶ』(吉澤大 著/かんき出版)

令和5年(2023年)10月、消費税導入以来最大の改正が実施されます。それが「インボイス制度」の導入。「インボイス」とは、売り手が買い手に対して発行する「消費税の納税額の証明書」のこと。「適格請求書」とも呼ばれています。年商1,000万円以下の小さな事業者は、消費税の納付義務を免除されてきました。こうした「免税事業者」には、消費者等から預かった税金を懐に入れる「益税」が認められてきたのです。かつては全事業者の4割が免税事業者と言われましたが、令和5年9月30日をもって、益税は終わります。本書は、インボイス制度が始まっても手取りを減らさないために、売り手と買い手のそれぞれができるだけ損をしない「最適解の見つけ方」を、さまざまな角度から解説します。(Amazon内容紹介より)

『いまだに全然意味がわかっていない個人事業主・フリーランスですが、インボイスって結局どうすればいいのか教えてください』(川崎晴一郎 著/すばる舎)

「インボイス制度」とは、2023年10月1日から始まる消費税の新しいルール。実はややこしい、この新制度。個人事業主やフリーランス、法人、すべての事業者のあり方が、変わらざるを得ないのが現状……。特に、免税事業者だった個人事業主やフリーランスにとっては、インボイス制度導入後、企業は「インボイス登録していない取引先とは取引しない」という、厳しい現実が待ち受ける可能性も……。というのも、課税事業者である企業が、免税事業者の消費税を支払わなければならいからだ。本書は、個人事業主やフリーランスの方へ向けて、インボイス制度についてなるべくわかりやすく、知らないと絶対に損をする必要な情報だけをご紹介!(Amazon内容紹介より)

『消費税の「インボイス制度」完全解説』(太田達也 著/税務研究会出版局)

令和5年10月1日より、「適格請求書等保存方式」(いわゆる「インボイス方式」)の適用が始まります。インボイス方式は、現行の区分記載請求書等保存方式とは大幅に内容が異なる制度になります。本書は、適格請求書発行事業者の登録制度、適格請求書等保存方式における帳簿・請求書等、適格請求書等の交付・保存等、仕入税額控除の要件、税額計算の方法、免税事業者の取扱い、実務上の諸課題への対応など、適格請求書等保存方式(インボイス方式)について、基本事項から実務レベルの必要事項や留意点などを一通り網羅しています。会社実務担当者および税理士・会計士等の専門家に幅広くお薦めします。(Amazon内容紹介より)

『新版 電子帳簿保存法の制度と実務』(PwC税理士法人 編集/清文社)

改正電子帳簿保存法について、制度のしくみと実務上のポイントをわかりやすく、かつ詳しく解説。数多くの企業の電子帳簿保存法対応を支援してきた著者法人のノウハウを凝縮し、システム対応のポイントや実際の事例、電子インボイス、電子契約等まで言及した必携書。令和4年度税制改正後の法令通達に対応。各種情報をアップデートし、「電子インボイス」や「取り組み事例」の章も加筆・リニューアル。(Amazon内容紹介より)

『改正電子帳簿保存法ハンドブック』(税理士法人 山田&パートナーズ、山田&パートナーズアカウンティング 著/大蔵財務協会)

前版発刊(令和3年8月刊)後に税務当局より「取扱通達・一問一答」などが立て続けに公表され、実務を進める上でこれらの詳細な情報のフォローが重要になっています。また、令和4年度税制改正において、2年間の宥恕措置が置かれ電子取引データを紙出力により保存することが容認され、納税者は令和5年12月末までに新電帳法の対応をすればよいことになりました。本改訂版においては、令和3年中に公表された通達等の内容を織り込み、最新の情報に更新し、改正情報によりシフトした内容に変えて、「電子帳簿等保存制度」について、「電子帳簿」「電子書類」「スキャナ」「電子取引」の4つの観点から、制度概要や活用メリットなどをQ&A形式でわかりやすく解説します。(Amazon内容紹介より)