Web3NFTメタバースは終わったのか

最近のIT系の話題というとChatGPTやBing、Stable Diffusionなど生成系AIツールが中心になっており、Web3・NFT・メタバースはやや影が薄くなってしまった。Facebookがメタバースに社運をかけると、社名をメタに変更し、開発費を1兆円以上投入したザッカーバーグ氏だが、同社はメタバース事業がさっぱり成長しない一方、本業であるFacebookの広告収入激減とも相まって大幅赤字となり、この1年間で2万人を越えるリストラを余儀なくされた。

さらには昨年11月、最大手暗号資産取引所の一つであったFTXが破綻し、創業者が金融犯罪容疑で逮捕されるという事件が起きた。この影響もあり、多くの暗号資産の価格が大幅に下落した。ビットコインは2021年11月には1BTCが733万円とピークを付けたが、FTXが破綻した22年12月には216万円と3分の1まで急落。現在はやや持ち直したものの、ピーク時の半額以下となった。

また、NFTの成功例として必ず取り上げられる例の一つがTwitter創業者であるジャック・ドーシー氏による世界初ツイートのNFTが21年3月にオークションで3億円で落札されたこと。だが、このツイートを1年後にオークションに出したところ、100万円台の価格しかつかず、1パーセント以下に暴落したという。

これらのニュースはIT業界の移り変わりの速さを象徴する出来事と言えるだろう。

逆風が吹いているように見えるWeb3・NFT・メタバースだが、一時のバブルをくぐり抜け、着実に発展、普及が進んでいる。

著者の増田雅史氏は、東京大学工学部システム創成学科を卒業後に弁護士となった「理系弁護士」。ブロックチェーン技術者、研究者でもあり、経済産業省、総務省、内閣府、自民党などのデジタル化推進・メタバース・Web3などに関する研究会メンバーを務めるなど、日本の国家戦略の構築にも関わっている。

増田氏は、「『NFTは一過性のブームに過ぎない』と指摘する向きもありますが、現在も大量の相談を受けている私としては、NFTはむしろ、Web3時代のインフラとして不動の地位を確立しつつあり、その重要度はまったく変わらないどころか増していると考えています」と語る。

法的問題には注意が必要

本書は2ページ見開きのQ&A形式で、仮想通貨やブロックチェーン、NFT、メタバースといった分野について初心者にも分かりやすく解説している。

最初に、仮想通貨やブロックチェーンの基本的な概念について解説した後、NFTやメタバースといった最近注目されているトピックについても詳しく解説している。さらに用語の解説に留まらず、その先の可能性についても具体的に語っている。

例えば、NFTによって、デジタルコンテンツの所有権が明確になることで、アーティストやクリエイターが収益を得やすくなるといったことが期待される。メタバースについては、仮想空間上でのビジネスが発展し、現実世界と同様に経済活動が行われるようになるという展望も示されている。

一方、法律家として、NFTに関する法的問題についても詳しく解説している。まず日本では「NFTを法的に“所有”することはできません」とはっきり書いている。多くの人がNFTを「所有」できるものと考えているようだが、日本の民法ではデジタルデータのような無体物には所有権が認められない。NFTを保有しているとは、NFTの秘密鍵などの情報を、その人だけが知っていることに過ぎない。また、NFTの取引で売買されているのはNFTアート作品そのものではなく、作品に紐付けられたトークンだけであり、デジタルデータであるNFTアートはコピーも改ざんもできる。

著作権についても注意が必要だ。著者は「NFTを購入したからといって自分が著作権者であるかのように振る舞うと、著作権を侵害してしまっている場合がある」という。さらに他人の作品を勝手にNFT化する詐欺行為も頻発していると警鐘を鳴らしている。

また、NFTが暗号資産に該当するかどうかも重要だという。暗号資産となると、そのトークンを販売するためには資金決済法に基づき、暗号資産交換業者の登録を受けなければいけなくなる。「ほとんどのNFTは現在の日本において暗号資産に該当しないと考えられます」というが、NFTビジネスを始める際にはこの点も確認すべきである。

政府の取り組みはどうなっているのか

著者は政権与党や中央省庁のWeb3関連審議会メンバーを務めていることもあり、日本の将来にWeb3がどのように寄与していくかもしっかり解説している。たとえば、内閣府は日本発の破壊的イノベーション創設を目指した「ムーンショット目標」を掲げている。そのうち「身体、脳、空間、時間の制約からの解放」はメタバースを意味しているという。

1人の人間が一つのタスクに対して10体以上のサイバネティック・アバター(Cybernetic Avatar、以下CA)を操作できる技術を2030年までに開発するという目標があり、これにはアバターに加えて人の身体的能力や知覚・認知能力を拡張するロボット技術を含んでいる。CAが現実となれば少子化で人口減が不可避となっている日本にとっての救世主となり得るかもしれない。

自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討プロジェクトチームはNFTホワイトペーパーを発表している。その中では、他人の著作物を勝手にNFT化して販売する権利侵害事案が著作権法上で規程されていないこと、NFT販売が賭博罪に該当するかどうか明確でないこと、暗号資産取引の損益に最大55%もの税金が課せられることで取引が低迷していることなどが挙げられ、改善策を提言している。

日本では暗号資産の交換・媒介を業務で行うには資金決済法に基づいて暗号資産交換業の登録を受けなければならないのだが、この要件を満たすためには非常に多くの項目をクリアしなければならないという。審査には1~2年かかるため、気軽に登録できるものではない。この高いハードルが日本の暗号資産制度を遅らせているという批判がある。だが、資産保全ルールは諸外国と比べて充実しており、22年に起きたFTX破綻の際にはFTXジャパンが日本国内の顧客資産を保全していた。今後、日本の規制が世界標準になる可能性もあるという。

キラープロダクトの登場に期待

「おわりに」では、現時点ではWeb3の活用を前提としたメタバースやブロックチェーン、NFTのツールは一般化しておらず、使い勝手も良くないと正直に分析している。だが、ひとたび便利なツールやインフラが登場すれば、状況は劇的に変わるだろう。「インフラが整い、キラープロダクトとなるサービスが出現すれば、Web3・メタバースは一気に市民権を得る可能性を秘めていると考えています」という。

本書はWeb3やメタバースに興味を持っているが、基本的なことが分かっていない、これからどうなるのか見当が付かないという人にお勧めの一冊だ。

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世間をにぎわせている最新テクノロジーが、60分でさくっと学べる。前提知識を持っていない人でもわかるような丁寧な解説を心掛けています。最近トレンドになっているWeb3は、GAFAが中心となっているWeb2.0の次のインターネットの仕組みとして期待されています。中心となっているのは非中央集権という考え方ですが、独自用語が多いのが難しいポイントです。本書では重要な用語である「仮想通貨」「メタバース」「NFT」からわかりやすく解説しているので、Web3全体の考え方まで身に付きます!(Amazon内容紹介より)

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『メタバースの教科書: 原理・基礎技術から産業応用まで』(雨宮智浩 著/オーム社)

「メタバース」は、VR・AR・MR、ブロックチェーンなどの技術を駆使して、仮想空間上に設けられた環境上でさまざまな形のエンターテインメント、コミュニケーション、ビジネス(例えば、アパレル/不動産/建設/小売業/観光/広告/医療/製造業/金融など)を展開する概念で、ここ数年でバズワード化しています。本書は、メタバースの概念が生まれてきた背景・経緯やその目指すところをはじめ、メタバースを実現するための種々の要素技術・仮想化技術やその原理・応用と魅力を取り上げて、具体的に解説した書籍です。 (Amazon内容紹介より)

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著者プロフィール

土屋 勝(つちや まさる)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。