オフィスやテレワークにおけるAR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)技術の利用



やがて新しいコミュニケーション手段と無限のデスクトップが手に入る

AR/VR/MRの技術は、エンターテインメントをはじめ教育、医療分野などにおいて導入事例が増えつつある。では、我々が働く場所――オフィスやテレワークでの実用は現在でも可能だろうか? 今回は、現在と少し先の未来のオフィスやテレワークにおける利用について考察してみた。

文/亀山悦治


現在利用できる技術の限界

 2016年は各社が競うようにハードウェアを開発、VRの楽しみ方を提供し「VR元年」と呼ばれた。また、スマートフォン向けアプリ「ポケモンGO」の登場により、ARという言葉が再び目立つようになった。技術の進化は明らかだが、果たしてそれらを日常のオフィスやテレワークで使用することは、今の時点で現実的にあり得るのだろうか。

今利用できる技術

 利用できる技術として、すぐに思い描けるハードウェアは、スマートフォンとパソコンの2種類だ。そして標準ないしオプションで比較的安価に利用できるハードウェア技術には、カメラ、マイク、ジェスチャー認識等が考えられる。また、スマートフォン装着タイプのVR製品であれば容易に入手できるが、それらは単にVR動画が観られるだけか、簡単な操作しかできないため、残念ながらオフィスやテレワークでの実用的な利用には限界を感じる。ARでは画像認識タイプの機能で情報を検索すること、決まった情報を可視化する程度であろう。

 では、MRやVR関連機器の導入はどうだろう? 企業内の取り組みで潤沢に予算を用意できる場合は、大掛かりな装置を導入することも可能だと思うが、オフィスやテレワークにおいては、費用面・利用面(目の疲れなど)・運用面からみても今の時点では一般的な導入は難しい。また、ハードウェアだけで成り立たないため、安価で役に立つソフトウェアが必要となる点を忘れてはならない。

現在のオフィスやテレワークで発生する課題

 オフィスやテレワークでは、今どのような課題が発生しているだろうか。まず考えられる課題は「遠隔における適切なコミュニケーションの方法」であろう。そして仕事の課題を解決するための適切な情報が適切なタイミングで必要となる。

 それでは、我々は現在どのようにコミュニケーションをとっているだろうか? チャット、メール、電話、TV会議(Skype等含む)がすぐに思い浮かぶと思う。現状の技術ではこれ以上の手法を取り入れることは困難であろう。

 なぜ多くのビジネスマンは社屋まで物理的に移動して業務をこなす必要があるのだろうか? 生産性や時間のロス、豊かな生活を考える場合、技術の進化が解決する部分も出てくるであろう。近い将来実現される可能性がある利用方法を考察する。

仮想空間上でのコミュニケーション

 前回、Microsoftの取り組みとFacebookが取り組んでいる技術を紹介したが、仮想空間上での複数間コミュニケーションは今までのTV会議から置き換わることも予想される。

 未来映画のような人の姿そのものを3Dでホログラム表示するか、自分のアバターを登場させるかどうかは、まだまだ議論する余地があるだろう。あなたは、生々しく自分の状態がそのまま表示される方が良いだろうか、それともアバターを選ぶだろうか。アバターといえども、最近は顔の表情などもそのままリアルに表現できるようになった。もしかしたらアバターの方がコミュニケーションをよりスムースに進められる場合もあるだろう。

 仮想空間上のコミュニケーションは、今までのTV会議方式より良いといえるだろうか? リアリティーが増すこともメリットだろう。しかし、仮想空間上ではさまざまな情報やオブジェクトを双方向で見ることや、それらをリアルタイムで更新して双方で確認するなど、現実世界では不可能なことができる。広大な空間内で情報を可視化できるため、より新しい、優れたコミュニケーションが実現可能となる。

自宅の部屋全面が会社のオフィス空間に

 例えば、自宅の部屋に特別なカメラが設置されており、また部屋全面がオフィスの映像となっていたらどうだろう? その空間に入ることで仕事が開始となるイメージだ。CORNING製品のようなガラス製のモニターがタッチパネル化することにより、パーソナルオフィスや生活の中で利用されるようになるだろう。

CORNING Markerboards

無限に広がる仮想空間――バーチャルデスク

 仮想空間のメリットの1つは、物理的な空間から解き放たれることであろう。あなたの机の上はどのくらいのスペースが空いているだろうか。またパソコンやタブレットが表示している、目に見える表示エリアはどのくらいの大きさであろうか。VRやMRの装置を装着し、仮想空間をバーチャルデスクとして使用することで、限られた平面から360度の空間を使用することが可能となる。

 その空間に見える情報を音声で検索し、手のジェスチャーで情報を振り分け、また新たな情報を書き込むといった、まさに未来のイメージ映像のようなことが実現可能となる。無限に広がる空間が全て自分のデスクになるというわけだ。

 もちろん現時点では長時間の利用に耐えられないことが課題として存在するが、軽量で目に負担が少ないMR装置は、そう遠くない未来に開発されることが期待される。

擬人化したAI(人工知能)エージェントが仕事を支援

 今、あなたの仕事を支援してくれる人はいるだろうか? もし、あなたにとって必要な情報が必要なタイミングで提供されるとしたら……。

 昨今話題となっているAI(人工知能)がそれらを実現する可能性がある。現時点ではAIといえばチャット風に対話する方式が多いが、もしそれが擬人化し、まるで自分の相談役やアシスタントのように常にサポートしてくれたら必要不可欠なパートナーになるだろう。

 AR/VR/MRの技術とは、ある意味では「見えないものを見せることができる可視化の技術」に過ぎない。現在は主にコミュニケーションの向上に有効と考えられているが、膨大な情報や過去のさまざまな経験値から必要な情報・適切なアドバイスを抜き出す手段として生かすことができれば、なお一層素晴らしい利用方法が生まれてくるだろう。今後の技術の発展に期待したい。

筆者プロフィール:亀山悦治

ナレッジワークス株式会社 取締役。1987年〜オフコン、クライアント&サーバ系のシステム開発に従事。主に検査センター・病院・自治体向け検査・健診・福祉関連システムの開発を上流工程から担当。1999年〜 Web系システム開発会社に移籍後、主にECサイトの開発マネージャを担当。以降もWEB系のシステム開発を多数担当。2004年〜ナレッジワークス(株)にて、システム開発、新規サービスの企画等を担当。2009年より、同社にてAR・VR・MRなどの技術を使用したソリューションの開発、実用化のための企画・提案・アプリケーション開発を行っている。また、AR・VR・MRについては、一般向け、企業向けセミナー講師を年に数回以上実施、AR関連書籍の執筆等、精力的に活動を行っている。

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