やはりカラオケルームこそ最先端テレワークスペースだ!



ビッグエコーとパセラリゾーツがサテライトオフィス代わり!?

ビジネス街にほど近いカラオケ店。真っ昼間だというのに、不思議なほど人足が絶えない。ノートPCを抱えたビジネスマンらしき人たちが、ひっきりなしに店舗を訪れる。チーム単位ほどの人数で訪れる集団さえある。彼らはいったい──?

文/奥村サトシ


カラオケルームを企業向けワークスペースに

 以前、カラオケ店の「テレワークスペース化」についてお伝えした。その記事ではモバイルワーカーたちの“新たな職場”としてのカラオケ店活用を紹介している。ゆったり作業できる椅子と机を完備し、飲食自由、(店舗によっては)Wi-Fi完備でPCを接続できる大型ディスプレイもあり、何より遮音性に優れているカラオケルームは、急に開催されるビデオ会議やちょっとした作業スペースにもってこい。まさにモバイルワーカーの楽園といえる職場環境なのだ。

 そしてここに来てさらなるムーブメントが見え始めた。カラオケ店の空き室を「企業向けワークスペース」として貸し出す取り組みだ。冒頭で見かけた、昼間のカラオケ店へチーム単位で入店するビジネスマンたちは、まさにカラオケルームで最新ワークスタイルを実践しようとする人々だったのである。

 多くの企業がテレワークを実現すべく躍起になっている昨今ではあるが、障壁となるのは社外におけるビジネス環境だろう。“企業公認”のワークスペースを社外に設けるとすれば、インフラが整備されていることはもちろん、低コストであること、そしてなによりセキュリティが確保できていることが必要だ。

 そんな需要に応えるべく立ち上がったのが、カラオケ店大手・第一興商だ。同社はNTTコミュニケーションズと共同で、カラオケルーム「ビッグエコー」において、「企業向けワークスペース」を提供すると発表した。

ビッグエコー、トライアル実証実験を実施中

 第一興商は、首都圏のビッグエコー直営21店舗内のカラオケルーム約100室に、Web会議システムや無線LANなどのビジネスインフラを整備。インフラの敷設はNTTコミュニケーションズが担当し、カラオケルームを企業向けテレワークスペースとして利用できるようになる。まずは「トライアル」という名目で2016年12月から2017年2月まで実証実験が進められる。

 実証実験の実施店舗は以下の通り。

東京都秋葉原駅前店、神田西口店、八重洲本店、銀座数寄屋橋店、有楽町店、新橋銀座口駅前店、浜松町駅前店、品川港南口駅前店、渋谷宮益坂口駅前店、西新宿センター店、池袋西口店、赤羽店、中野通り店、八王子店
神奈川県横浜相鉄口駅前店、新横浜店、川崎東口駅前店
千葉県千葉駅前店、成田駅前店、柏駅前店
埼玉県大宮南銀通り店

 よし、それでは弊社もトライアル実証実験に参加だ! と積極的な姿勢を見せる企業があるかもしれないが、第一興商に詳細を尋ねたところ、今回は「クローズドの実証実験」とのこと。基本的に、共同参画企業であるNTTコミュニケーションズを“限定ユーザー”として実験が展開されていくこととなる。第一興商広報部によれば「本トライアルを通じて、課題を抽出したうえで環境を整えたいと考えています」とのこと。2月末日にトライアルが終了すれば、企業向けに何らかのアナウンスがあることだろう。また「このトライアルが、ビジネス立地で比較的昼間の利用が少ないカラオケルームの有効活用につながればと考えています」(同広報部)とも。利用条件(料金、対象企業規模)などが明らかになったら、また追って紹介したい。

 ただ気になるのは、ビッグエコーの各店舗で法人利用が推進されることによって、前回紹介したような、個人のモバイルワーカーがカラオケルームをビジネス利用する機会が失われてしまうのではないかというところだ。その点も同広報部へ尋ねてみると「個人でビジネス利用されることを排除するようなことは一切ありません」とのコメントをいただいた。カラオケルームに新たな働き方を見い出しつつあるモバイルワーカーにとって、ビッグエコーの店舗を活用する機会が増えることになりそうだ。

東急電鉄もカラオケテレワークに参入! 狙いは「通勤時間の短縮」!?

 一方、ワーキングスペース事業とは一見関係のなさそうな分野からも、カラオケルーム活用の波が訪れている。

 首都圏で鉄道事業やバス事業を展開している東急電鉄は、2016年5月に新事業「NewWork(ニューワーク)」を開始した。NewWorkは同社による「会員制サテライトオフィス」サービスで、東急線沿線を中心とした駅周辺に会員制のサテライトオフィスを設置し、ワークスペースとして提供する。現時点では東急電鉄沿線の要所といえる自由が丘、横浜、吉祥寺、たまプラーザの各駅にてサテライトオフィスが展開されている。

 NewWork事業のビジョンは「日本中どこでも働ける場所の提供」だという。同社広報部によれば、「在宅勤務を導入する会社が増え、働き方改革を積極的に推進する企業が増えてきました。利用者の自宅近くにサテライトオフィスを設置し、出勤勤務と在宅勤務の間の選択肢を提案することが、働き方改革支援になると考えました」と、事業展開の理由を説明する。また、「朝の混雑時に自宅近くのサテライトオフィスで勤務し、電車が空いてから出勤できれば、体力的にも仕事の効率的にも効果があるのでは」(同社広報部)と、鉄道事業者ならではの視点による新たなワークスタイルの提案も伺える。ユーザーからは実際に「通勤時間が往復120分から20分へ、83%も削減できた」とうれしい反応も届いているという。

 そんなNewWorkが、2016年7月にカラオケ店・カラオケパセラを運営するニュートンおよびサンザとの提携を発表。この提携により、カラオケ店「パセラリゾーツ」11店舗をNewWork会員が利用できることとなった。料金システムは直営店と同様だという。カラオケルームについて、「日中の稼働率はあまり高くないものの、立地は駅前、設備は防音完備の個室と、考えようによっては会議や執務にとっては最高の空間です」(同)と提携の理由を説明する。

 提携するパセラリゾーツの店舗は以下の通り。

東京都池袋本店、新宿靖国通り店、新宿歌舞伎町店、渋谷店、銀座店、上野公園前店、上野御徒町店、秋葉原マルチ店
神奈川県横浜ハマボールイアス店、横浜関内店
大阪府大阪天王寺店

 各店舗とも、主に平日正午〜夕方のカラオケ利用客の少ない時間帯がコワーキングスペースとして利用可能になっている。

 提携したパセラリゾーツは東急沿線以外の主要ターミナル駅に店舗の多くを展開している。そのため東急沿線会員が沿線以外の外出先でワーキングスペースを必要としたとき、近場の主要駅前ですぐに利用できるというメリットが生まれる。また、東急沿線以外を利用する会員を増やし、逆にその会員が東急沿線を訪れたときに直営店へと誘導できるという意味合いでも、提携には大きな価値がありそうだ。

繁華街のパセラリゾーツがコワーキングスペースに。

 またパセラリゾーツは、パーティルームなど“大箱”を備える店舗も多い。NewWorkの直営店は、基本的にオープンなフリーアドレス席がほとんどで、企業ユーザーが複数人で利用できるような「ミーティングルーム」の数はそれほど多くない。ゆえにビッグエコーのような「グループのワークスペース」としての利用が可能になることも期待できそうだ。また同社は、今後もカラオケ店や他のシェアオフィスサービスと提携を進め、日本全国100カ所以上でNewWorkサービスを利用できるネットワーク構築を進めていくというから、今後は出張先での貴重なワーキングスペースとして活躍することだろう。

 今回、カラオケチェーン店の大手・第一興商とNTTコミュニケーションズによるワーキングスペース事業の実証実験の模様、そして鉄道事業者である東急電鉄のコワーキングオフィス事業がカラオケ店活用も視野に入れていることをお伝えした。やはり、モバイルワーカーならずとも、多くの社会人にとって「カラオケルーム」こそが外出先でのワークスタイル変革を支える心強き存在になりつつあるようだ。

筆者プロフィール:奥村サトシ

デジタルとネコをこよなく愛するフリーライター。都内外れに3匹のネコと暮らしながら日々研鑽しつつ文章を書き連ねている。昨今の関心事は地方のコワーキングオフィス事情。