特集 働き方改革の基礎知識 2017 - 第1回

日本一スマートに働くお役所「総務省行政管理局」に働き方改革を聞きに行った



オフィス改革の結果、倍の仕事量にもかかわらず通常よりも時間短縮に成功!

まずは改革を推進する省庁側の事例を紹介する。抜本的な改革が必要になった理由、改革の地道な進め方、そして改革を実行した部署の変化と驚くべき成果とは――。総務省 行政管理局企画調整課 課長補佐 永田真一氏にお話を伺った。

文/まつもとあつし


総務省 行政管理局企画調整課 課長補佐 永田真一氏

全員テレワーク可能! ペーパーレスで机の引き出しも無し

 総務省に「役所らしくない」ユニークなオフィスを構える部署がある。行政における「働き方改革」を進める行政管理局だ。役所といえば、うず高く積み上げられた書類、パーティションや書類ロッカーで仕切られた打ち合わせスペース、というイメージを持つ読者も多いはず。しかし、ここはオフィスの隅々まで見渡せるスッキリとした空間でまさに「スマートワーク」を体現している。なぜこのようなオフィスを構えることができたのか? そこにある狙いとは?

―― 本日はよろしくお願いいたします。

永田 我々の取り組みに関心を持っていただきありがとうございます。

 行政管理局は、いわゆる「行政改革」と呼ばれる行政機関のスリム化、効率化を推進する部署です。古くは国鉄や、最近では郵政の民営化などがご記憶にあるかと思います。身近な例で言えば、例えば会社を作るときの手続きをもっとシンプルにできないか、という取り組みなども行っています。

―― たしかに私も経験がありますが、法務局から労基局までいろんなところに何度も足を運ばないといけないのが大変でした。

永田 例えばあのような手続きを、形式的なところは機械に任せ、大事なところだけ人力で確認する方向に改善する。それが我々です。

 経済が右肩上がりに成長する時代ももう終わっていますから、業務の効率化とダウンサイジングを図ろうというのは当然の流れです。ただここでひとつ気を付けたいのは、国際的に見ると日本は行政サービスの質が非常に高いと言われていることです。人口あたりの公務員数も多いわけではありません。つまり、相対的には少人数で質の高いサービスを実現できているのです。

 かつて行政改革と言えば「公務員の人数を毎年何%減らす」といった話が中心でした。しかし、実態を見ると人数が問題なのではなく、その生産性を如何に高めるか、ということこそが本質なのです。つまり、「必要な質は担保しつつ、少子高齢化がさらに進んでも日本が沈没しないようにするには、どうすれば良いのか?」ということです。

人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較(内閣官房内閣人事局公式サイトより)。

―― なるほど。少子高齢化で日本が沈むという話は、スマートワーク総研でも度々指摘しています。それを防ぐための「働き方改革」であり、行政機関もその例外ではない、ということですね。

永田 そうです。そこで、私たちは民間でいうところのBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の手法を用いています。簡単に言ってしまえば、「無駄な仕事はやめよう」ということですね。しかし、役所の仕事というのは、前例主義とか、サービスの受け手としての国民がいる中で、「本当にやるべき仕事」をゼロベースで見直すことが難しい。

 これまでは、仕事は減らないけれども人は減らされる、その上で効率を高めよう、という取り組みでした。そうすると、一人一人の職員に無理なしわ寄せがいくことになります。その結果、提供するサービスに影響が出てしまっては本末転倒です。

 そういったことが起こらないように行政改革を進めていくためには、私たち自身がお手本となる必要があります。そのために、この場所も「モデルオフィス」となっています。

今回お邪魔した総務省 行政管理局のオフィス。いわゆる省庁を取材・見学したことのある人なら皆驚く光景だろう。いち早くペーパーレス化を推し進めたことで、シンプルかつコンパクトなワーキングスペースとなっている。

ITベンチャー顔負けのモデルオフィスを作れた理由は「リーダーシップ」

―― ここに足を踏み入れた時には驚きました。省庁への取材もしばしば行っていますが、ここまで見通しの良いオープンな場所は初めてです。

永田 IT系の企業ではビリヤード台があったりと、かなり遊び心が感じられるオフィス作りもされていますが、役所でそこまでやってしまうと、国民の理解が得られません(笑) そこで本質的な部分に絞り込んでこのオフィスをデザインしています。

 このようなデザインで進められたのも、わたしの上にいる方々のリーダーシップに寄るところが正直大きかったと思います。一番のきっかけは、松本文明政務官(当時)がカナダのオタワに行った際、「ワークプレイス2.0」と呼ばれる場所を視察する機会があったことでした。オープンなオフィスであるだけでなく、上長の机には沢山のモニターが配置され、部下の作業の状況も逐次その場で確認できるようになっていたそうです。そこで、「日本でもこういう姿を目指すべきだ」という指示が下されたのです。

 また、この見渡しの良さを生んでいるのは、徹底したペーパーレス化を進めているからです。私たちは行政のクラウド化(電子政府)の仕事もやっていますので、率先して自分たちの仕事や仕事場を変えようということになりました。ご覧のように、このオフィスの机には引き出しがありません。引き出しがあると、書類を「取り敢えず手元にあれば安心」という感覚でしまい込みがちで、この紙を外に持ち出せないからテレワークができないという悪循環に陥りますから。これまで民間企業の方々が1000人以上ここを視察されましたが、皆さん「ウチもそうだ」と苦笑されます。

 高市総務大臣もテレワークに非常に積極的で、実際私たちはパソコン1台持ち出せば、どこでも仕事ができるようになっています。もちろん、データはセキュアなクラウド上にありますので、漏洩の心配はありません。総務省が率先してテレワークに対応することで、「東京や大阪の仕事を地方で」というように、行政機能を地方に分散するといった取り組みにもフィードバックすることができると考えています。今では総務省では幹部以下、子育てや介護といった条件とは関わりなく全員がテレワークできることになっています。

―― そう言われてみれば皆さん、ノートPCにプライバシーフィルターを付けていますが、これはテレワークも視野に入れた処置だったのですね。座席はフリーアドレスでしょうか?

永田 いわゆる「グループアドレス」になっています。グループごとに役割・担当が固まっていますので、完全にフリーですと仕事上差し障りがあるためです。ただ、グループの中では自由ですし、電子政府を推進しているフロアでは「シャッフルデー」を設けて、「ゆう活」のために早く帰る順ですとか、出身地ごとに座ったりなど色々試していますよ。そうすることで、コミュニケーションが生まれる意外なきっかけにもなったりしています。

自分の机に溜め込んでいた諸々を見直し、ペーパーレス化したところ、個人で保管すべきモノはこの小さなロッカーに収まる程度にまで減ったという。まさにペーパーレス化の恩恵だ。

―― 部門長の前にチームが並ぶ、という島型のレイアウトは維持しつつ、フリーアドレスの良いところも取り入れよう、というのは面白い取り組みですね。

永田 アンケートを採ると9割以上「やってよかった」という回答がある一方で、オープンなので、「共有したくない/してはいけない情報も共有されてしまう」という意見もありました。人事情報などがその一例ですね。オープンであるということは、一方でクローズドな空間がありませんから。

―― 壁に囲まれた会議室はないのですか? 大抵役所にはフロア/部門ごとにあったりしますよね? 中には特定の役職の人にしか使えない部屋があったりも……。

永田 このフロアにはありません。今座っているこの場所が会議のためのスペースです。オープンにレイアウトしたことによって、沢山数を取ることができますし、並び替えれば大人数の会議や作業にも対応できます。よく「会議室が空いていないので、打ち合わせの日程がなかなか決まらない」ということがありますが、ここではそういうことはありません。紙を無くし、それを収めていたキャビネットも無くしたことで、この自由にレイアウトできる空間が生まれました。

―― 本当にクローズドな話・作業というのは限られますから、そこにあわせてレイアウトするよりも、基本はオープンとした方がトータルでのコスト削減につながる、という風に理解しました。ところで、永田さんは入省以来こういった行政の「働き方改革」に取り組んで来られたのでしょうか?

永田 奈良県庁に赴任したり、場所や役職は色々と経験してきましたが、広い意味ではそうですね。現在は行政管理局の総括補佐という、全体のとりまとめを行う責任者ということになっていますが、これは若手にかなり委ねられたプロジェクトです。局長や課長も「30年後もここで働いているのは君たちだから、君たちの好きなようにやっていい」と。

 一昨年の8月に今の役職に就いてまず始めたことは、民間企業を視察させていただくことでした。その際、オフィス改革に反対の姿勢を取りそうな人、今までのやり方を変えたくないという人をむしろ積極的に連れて行ったんです。百聞は一見にしかずで、そういう人ほど現場を見ると意見が変わるんです。そうやって少しずつ雰囲気を醸成していきました。そこでも先ほどお話ししたような「リーダーシップ」に助けられたことは言うまでもありません。

シャッフルデーを設けているフロアの様子。インシデントが起きた際の情報共有を早めるべく、独特の座席配置となっている(総務省オフィス改革参考資料より)。

数字を追うのではなく、マインドを拡げよう

―― 民間企業ですと、ワンマン経営者の鶴の一声で決まる、ということもありますが、公務員ではそういう訳にもいかないと思います。

永田 そうですね、論理性を重視する傾向はあります。この件については、上からは「まずやってみろ」という指示でした。でも現場は、「それにどういう意味があるのか」ということを理解しないと動かない。その説得は大変ですし、やってみた後で「So What?(だからなんなの?)」という問いには常に応えられなければいけません。

―― そんな中、先ほどBPRのお話しもありましたが、ワークフローごとに数字で評価していくといったことが活きてきますか?

永田 それは大切なのですが、仕事を減らそうという取り組みを数字だけで判断するのはナンセンスだ、というのは行政管理局の局長以下みな一貫しています。例えば「毎年公務員を何%削減せよ」というのと同列扱いで数値目標を掲げてしまうと、「その数字を表面的に達成する」方向に取り組みが歪んでいくからです。

 もちろん合理化は必要ですが、やりたいことは人数の削減ではなく、生産効果を高めて成果をあげること。先ほどの登記の例であれば、最適化によって経済効果がどれだけ上がるか? ということが大切なわけです。したがって、現状の仕事を分析し、そこに潜んでいるムダを無くしていく、という文化を根づかせることを第一に考えないといけません。

―― そこは民間企業にも通じる話ですね。

永田 削減目標という数字によって思考停止するのではなく、「改革マインド」を拡げていくことが大事です。ですから、ここを視察に来られた方が「机をこういう風に並べ替えればいいんですね」というようなことを仰ったときは、「違います」と断言します(笑) 「働き方を変えた結果としてオフィスがこうなったんです」と。

―― その因果関係は重要ですね。たしかに意識改革こそが最初にあるべきで、それは数値目標を前提にすると取り組みが歪むという話と通じます。民間企業という観点からは、大企業では働き方改革が進む一方で、余裕のない中小企業ではなかなか難しく、逆にしわ寄せがいくのではという懸念もありますが?

永田 売上を減らさずに労働時間を減らせ、という目標を立てればその歪みは下請け企業に向かいますね。ですので、経営トップが自社だけでなく、自社に連なるサプライチェーン全体で「働き方改革」を進めるのだ、という強い意志を持ち、それを示していただく必要があります。

―― これがフィクション、例えば映画「シン・ゴジラ」ですと、物語の途中から一気にオープンかつ機動的なものに変わりますが、現実は……。

永田 そうでしたね(笑) あくまで一般論ですが、トップの意識は日本のこれまでの高度経済成長型だと思うのです。とはいえ、映画のようにそこが一気にすげ替わるということは起こりませんから、我々の世代が、上の世代にも働きかけて意識を変えていかないといけません。

 この場所はそのためにもあると思っていまして、最初は現場にいる30?40代のミドルマネジメントがやってきて(オフィス改革はやはり必要だと)確認されます。そしてその方々には、上の世代、特にいわゆる抵抗勢力と呼ばれる方を連れてくるようにアドバイスさせていただいております。

 実際にこの場所を見ていただいて、「国もこういう取り組みをしている」ということを目の当たりにすれば、意識の持ち方は変わらざるを得ないはずです。ぜひ我々を上手く使っていただければと思います。

オフィス改革の結果、倍の仕事量なのに通常よりも時間短縮に成功!

―― 意識改革と、BPRを進めて無駄な仕事をやめよう、という取り組みは中小企業を守ることにもつながるということですね。ちなみに、このオフィスでまさに働き方に変革があったという事例はありますか?

永田 例えば電子政府の取り組みを進めているフロアでは、卵形の机を組み合わせています。それは見た目の面白さもありますが、何かインシデント(突発事故)が起きた時に、情報共有を迅速に図ることを狙ったものでもあります。現場の職員が受けた第一報が上長に伝わるまでタイムラグが発生する、といったことがないように、ですね。

 机の配置でそれを防ぐことを狙っていますが、その前提として働き方を変えようという文化が根づいていることが大切なのです。何か重大なインシデント――それこそゴジラが襲ってくる――といったことがないと変わらない、ではいけませんよね。

 公務員は2年くらいの周期で担当が変わってしまい、せっかく培われた文化が失われてしまう、という指摘もよくありますが、そうならないために、こうやって広報活動にも力を入れています。外に対してメッセージを発信していく、外からも注目されている、ということが組織としての自意識を高めると考えているからです。

 最後に、まさにシン・ゴジラ的な「時間が切迫した状況」だったにもかかわらず、「残業時間を大幅に減らすことができた例」をご紹介します。

 私たちは国会開会期間中、答弁づくりで忙殺されます。翌日の質問への対応で深夜・明け方まで残業となってしまうことも珍しくありません。

 かつては幹部がいる6階と法案を作る担当者がいる5階という具合に離れてしまっていて、意思疎通が上手くいかなかったのです。そこで、6階のこの場所に、5階の人間がごっそりやってきて、幹部の近くでどんどん作業を進めようということになりました。パソコンと、ロッカーから取り出した資料(※筆者注:前述の通り、机には引き出しがない)を持ってきて、答弁書を作成する人、資料をセットしていく人、そして進捗を管理する人という具合にラインを作って合理的に作業を進めることができました。

オフィス改革の結果、作業時間の短縮に成功した例。この成果が認められ、総務省行政管理局は「ワークライフバランス職場表彰」を受賞した(総務省オフィス改革説明資料より)。

 このように、互いに顔の見えるオープンな場で仕事をすると、作業が滞っている人にすぐ声を掛けることができます。進捗を管理する人を別に置いたのはそのためで、誰かが困っていたら、手が空いている人を連れてきて手伝ってもらう、ということが可能になるのです。

 そして、上長もすぐそばにいて、その場で出来上がったものから決裁をとっていく。実はこの時は、普段の倍の答弁に備える必要があったのですが、このようにワークフローを整備したことによって半分の時間で完了することができたのです。関わった人が20人、のべ40時間の残業時間削減に成功しました。おかげさまで、この試みが評価を受けて「ワークライフバランス職場表彰」を2年連続で受賞することになりました。

働き方改革に官民の区別なし! リーダーシップと粘り強さが成功を引き寄せる

 働き方改革に注目が集まる一方、霞ヶ関では深夜まで煌々とビルに明かりが点いていることも珍しくない。そこには「国民に奉仕する」という大前提と、国会や議員から即応を求められるという状況がある。しかし、そんな中でも永田氏らの取り組みは、リーダーシップと粘り強い取り組みを続けることで「働き方の環境と文化」も変えていくことができることを示している。そして何より、役所という前例主義に縛られがちな仕事場でも改革は着々と進行しているという事実は、後に続く企業にとって大きな励みとなるのではないだろうか。

公開中!〈第2回〉
働き方改革は待ったなし! やらない企業は「滅びの道」です――夏野剛氏に聞く、「この先の日本で起こりうる事態」とは?

改革の号令は下ったものの、未だ多くの企業では制度変更以前に改革への意識が追い付いていないのが現状。そこで今回は、慶應義塾大学 政策・メディア研究科で教鞭を採る傍ら、NTTレゾナント・トランスコスモス・カドカワなど10社超の取締役をこなす夏野剛氏にご登場いただき、自身の経験の中で、二の足を踏んでしまう企業に改革を促すには? そして改革を進める企業と様子見の企業、将来的にどんな差が付いてしまうのか?など、企業側の対応について語っていただく。

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筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。