MSのカリスマエバンジェリストが語る「ビジネスを加速させる冴えた方法」



日本マイクロソフト西脇資哲氏特別講演&インタビュー

先日開催された「DISわぁるど in 四国 たかまつ」で話題を呼んだ日本マイクロソフト エバンジェリスト 西脇資哲氏による特別講演「ビジネスを加速させるクラウド・モバイルとその課題」の模様および特別インタビューをお届けする。

文/飯島範久


 7月20日~21日に開催された「DISわぁるど in 四国 たかまつ」で注目を集めたのが日本マイクロソフトのエバンジェリスト 西脇資哲氏による特別講演「ビジネスを加速させるクラウド・モバイルとその課題」。

 デモを豊富に交えつつ、スマートデバイスやOffice 365などのクラウドサービスを活用することで生産性がどれほど向上するかを示す内容に、参加者は熱心に聞き入っていた。

 今回はこの特別講演および講演直後に行なったインタビューの模様をお届けする。

Office 365を導入すればデバイスを選ばず業務を進行できる

 マイクロソフトの主力ソフトの1つであり、ビジネスに必要不可欠な「Office」。しかし、バージョンアップごとに買い替える企業ばかりではなかったのも事実。そこで「Office 365」からは、常に最新バージョンのOfficeソフトを利用する“権利”が与えられることになった。

 また、PC、タブレット、スマートフォンのそれぞれのデバイス毎に5台、最大15台のデバイスにインストールすることが可能であり、インストールしていないデバイスからも ブラウザー経由でのファイルの閲覧が可能。従来のパッケージ販売とは異なり、クラウド上から提供されるOffice 365は、ユーザーニーズに合わせた新形態と言えよう。

 マイクロソフトといえば、Windowsの会社というイメージが強い。実際、かつては全体の売上の75%を占めていたが、現在では30%を切っている。それに変わって台頭してきたのがクラウド事業なのだ。クラウドであればユーザーはソフトを各自ダウンロードする形になるため、メーカーとしてはデータセンターの用意とソフト開発に専念できる。また、ユーザーにとっても場所を選ばずインストールできるメリットがある。

 Office 365はWindowsのみではなく、iPhoneでおなじみのiOSのほかMac、Androidに対しても提供され、ブラウザーが利用できる環境ならどんなデバイスでも使用可能だ。今回の“モバイルでビジネスを加速させる”というテーマ設定も、実際の利用シーンがPCからモバイルデバイスにシフトしているからにほかならない。モバイルデバイスでも利用できるというのがOffice 365最大の利点だ。

モバイルデバイスの利用とアプリの関係

 最近のアンケート調査で、「オフィスへ行く前にスマホでメールを確認して返信する人」は56%。「オフィスを出たあとにメールに反応してしまう人」は73%もいる。

 もちろん、オフィス以外で仕事をすることを助長しているわけではなく、メールを見て反応するか否かは、ユーザーに与えられた権利。ただ、それを使えば仕事の効率が良くなり、評判も良くなり、成績が上がって、給与も上がり、人生が豊かになるのであれば、やってもいいじゃないかというのが西脇氏の考えだ。BYOD(私的端末の業務利用)が増えてきたのも、こうした理由からである。

 また、「3ヵ所以上で仕事をしている人」は37%おり、さらに「3台以上のデバイスを使っている」という人は53%もいる。ただ、その結果、「7つ以上のアプリで作業をしている」という人が82%にも上った。

 西脇氏自身もその一人で、講演当日も、会社がある品川、講演地の高松、そして講演後は大阪へと巡り、その間もメールはもちろんスケジューラー、フェイスブック、ツイッターも確認している。持ち歩いているデバイスは5台以上。メールはPCで「Outlook」を使い、iPhoneで「標準メール」アプリを使用、移動時は「Google Map」を利用して場所の確認、「乗換案内」でルートを検索。今回の講演ではPowerPointやExcel、ブラウザーを使うといった具合だ。

 利用するアプリが増えている中で、Officeの互換ソフトは使用しないでほしいと西脇氏は訴える。というのも、保存する際に異なる形式になってしまう可能性があるのと、官公庁ではExcelやWordのファイルでしか受け入れてもらえず、互換ソフトのために生産性を落としかねないからだ。

 Office 365であれば、どんなデバイスからでも利用できるので、ファイル形式が変わって生産性を落とすこともない。また、クラウドで処理できるものはクラウドに任せるようになっているので、デバイスに縛られず済む。マイクロソフトとしても、地球上のあらゆる人と組織が、より多くのことを解決できるようにするため、クラウドやモバイルに力を入れているという。

Office 365は常に最新バージョンが利用できる。それによって、新たなアイコンを使った棒グラフもカンタンに作成可能。

 Officeで作成したファイルは、どのデバイスからでも利用できるようにしたい。そんなときは、まずローカルに保存。続いてブラウザーでOffice 365にアクセスすると、利用できるアプリのアイコンがズラッと並ぶ。Officeアプリはもちろん、メールや予定、Todo、開発ツール、ファイルの共有などさまざまなものが用意されている。その中からチームで仕事をするエリア(SharePointの機能)にファイルを保存するには、単純にファイルをブラウザー上へドラッグ&ドロップすればいい。それだけでクラウド上に保存される。

 保存したファイルをクリックすると、ブラウザーを使ってファイルが開かれる。つまり、利用するデバイスにアプリがインストールされていなくても、ファイルを開いて閲覧や編集が可能なのだ。それは、PCに限らずiPhoneでもAndroidスマホでも構わない。もちろん、アプリがインストールされていればアプリで読み込んで閲覧編集もできる。どんな場所、どんなデバイスでも作業する機会を失わないのがOffice 365のメリットである。

コミュニケーション方法の変化がビジネスを加速させる

 チームで仕事を進める上で重要なのがコミュニケーション。西脇氏いわく、最近電話はほとんど利用せず、メールの頻度も少なくなったという。逆にLINEやツイッター、フェイスブックといった、より手軽にやりとりできるツールの利用頻度が上がってきており、特に社外の人間関係はフェイスブック・メッセンジャーが最も多いという。

 また今後はVineやSnapchatが台頭してくる可能性が高いと予測した。これは、相手への伝え方がテキストから動画に移りつつある表われだと西脇氏はみる。ただ、これらのツールは社内で利用するには少し厳しい面もある。

 Office 365にはビデオを共有し配信するサービス「Office 365 Video」が用意されている。このビデオの優れている点は、再生ボタンを押してからの数秒間で、ネットワーク環境や画面解像度、処理能力を判断し、最適な画質でストリーミング再生するところ。画質や解像度によって複数のファイルを用意したり、デバイスによってファイル形式を変える必要もない。この仕組みを企業でも使ってもらうべく提供を進めている。

Azure Media Servicesを活用した動画配信サービス。五輪の配信サービスにも活用されている。

 さらに動画でコミュニケーションするツールも用意されている。「Skype for Business」がそれだ。メンバーがオンラインか否かや、出張中で出られないなどのメッセージも表示され、相手の状況も把握できる。当然テキストメッセージも可能なため、カンタンなやり取りならメールより数倍効率がいい。ビデオ会議になれば、テキストでは荒くなりがちなコミュニケーションも距離が縮まる。

 こんな調査結果もある。テキストよりビデオのほうが意思決定に90%以上の人が役立つと答え、80%の人が見た動画を1ヵ月間は覚えていて、46%の人が見た動画に対し何らかのアクションを起こすと答えている。テキストよりビデオのほうが、ビジネスの速度を加速させるのだ。

 Skype for Businessの優れた点は、ファイルを共有して作業できること。どんなに離れた場所同士でも、相手が操作した内容を自分が見ている画面にもすぐに反映してくれる。ファイル上で指示しつつ、ビデオで会話しながら作業を進めていけるので、同じ会議室内で相手のPC画面を見ながら作業するのと同じ感覚だ。

 こういった作業を“インターネットによる労働力の提供”と西脇氏は呼ぶ。メールを使って労働力を停滞させるより、いますぐ作業してもらって評価を上げるほうが断然良い。また、労働力がオフィスから離れた場所に居ても、滞ることなく進められるわけで、労働力を有効活用できることにもつながる。

Skype for Businessによるビデオ会議で作業効率がアップする。

 このような手法は生産性向上に寄与し、しかもOffice 365のライセンス1つで行える。なお、ブラウザーベースでの作業になるため、セキュリティ面で気にする人がいるかもしれない。その点も2段階認証の採用でクリアしている。たとえばPCでIDとパスワードを入力してアクセスしようとすると、所有するiPhoneに通知が届き、TouchIDで認証することで利用できるようになる。ポイントは、マイクロソフト以外のソリューションも使えるところ。もちろん毎回ではなく、一定時間空いた場合のみなので、それほど手間にはならないだろう。

さまざまなセキュリティ対策により、漏えい防止を図っている。

 IoTと人工知能の台頭によって、自分たちの仕事が奪われやしないか心配する人がいるかもしれない。しかし仕事は奪われるのではなく、変わっていくものであり、時代の流れにいち早く気がついて変化させていくことが大切。そのためにも今回紹介したようなクラウド・モバイルを活用する必要があると語り、西脇氏は講演を締めた。

西脇氏の持ち物大公開! 複数のデバイスをいかに使い分けるのか?

西脇資哲(にしわきもとあき)。日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト・業務執行役員。IT業界にその名を馳せるカリスマエバンジェリスト。多くの製品やサービスをわかりやすく伝え広める活動をしている。講演のほか執筆活動も行っており、最新刊は『図解&事例で学ぶプレゼンの教科書』(カデナクリエイト)。

―― 5台以上のデバイスを持っている理由は?

西脇 表示するコンテンツや媒体、チャネルによって変えています。

 たとえばツイッターは140文字で、ほとんどの場合で写真を入れるので、スマホのほうが使いやすく、キーボードを使って文字を打つまでもない。

 ところが、仕事のメールはキーボードがあったほうが品質を保てます。もちろん、小さい端末でも作業はできますが、大切なお客さまに対しては、メッセージやアドレスにミスがあってはいけないので怖くて使えません。大切なビジネスコミュニケーションで質の高さを求めたいときには、キーボード付きのフル画面を使います。

―― SurfaceといわゆるノートPCの2台を併用する理由は?

西脇 Surfaceは生体認証も入っていますし、前面と背面にカメラも装備されているので、写真を撮ってツイートしてもいいし、ビジネスのメールを書き込むこともできるので、一番用を足してくれています。一方のノートPCは、売上の集計や、ガッツリ作業をしなければならないときに使っています。昔は、重かったので持ち運ぶと身体も疲れましたが、いまは軽いので、だいぶ楽になりましたね。

講演後、西脇氏が日ごろから活用しているデバイスを見せてもらいながらお話を伺った。

Surfaceは広い用途で使えるデバイスだという。

―― しかしケーブル類が意外とかさばりますよね。

西脇 デバイスに関するすべてのケーブルを持ち歩いています。USB Type-Cのケーブルはまだまだ希少なので必須です。困るのがディスプレイケーブルですね。RGBやHDMIなどコネクター形状が多種多様ですから。あと、講演会場によっては有線LANしか使えなかったり、ネットワークが入らない場合に備えてモバイルルーターを、au回線が入らないときのためにバックアップも用意してあります。これぐらい備えておかないと仕事ができないんですよ。

―― 普段からこのような装備なのですか?

西脇 はい。ですから会社で作業するとき、会社以外で作業するときの差がありません。というのも、日本マイクロソフトはフレキシブルシーティング(自由席)なので、会社だからといって重装備なデスクがあるわけではないんです。これまでなら、会社に行けば充電器や外部ディスプレーがあるので生産性も高かったのですが、現在は会社以外の方が仕事しやすいと思います(笑)。

エバンジェリストという立場上、社外での講演やデモンストレーションは日常茶飯事。接続ケーブル類など周辺機器だけで、B4サイズの小物入れがパンパンになる量を持ち歩く。

―― 話は変わりますが、日本マイクロソフトに在宅勤務制度はありますか?

西脇 はい。そしてつい最近、2016年5月に「リモートワーク制度」と名称を改めまして、自宅だけでなく国内のどこでも、自分で仕事場所を選べるようになりました。

―― もちろんOffice 365を活用しながら、ということですよね。

西脇 そしてBYODですね。驚くべきことに、私が所有しているものはすべて個人所有物です。日本マイクロソフトではBYODが許されていますので。セキュリティ面では、社内のネットワークに接続した瞬間にセキュリティ基準を満たしているかの確認が入り、それを満たさないと接続できない仕組みになっています。さまざまなデバイスを利用することで、“どのデバイスを使っていてもOffice 365は生産性が高い”と訴えることができますから。私も良いお手本になりたいと思います。

机いっぱいに広がっている機器すべてが個人の所有物。BYODオンリーで業務がスムーズに進むのも、デバイスに捕らわれないOffice 365の特性あってのこと。

企業には新たなITを取り入れる柔軟な姿勢が必要

―― 講演のテーマは「ビジネスを加速させるクラウド・モバイル」でした。これは、どこでも仕事はできるから、みなさんも働き方を変えましょうというメッセージでしょうか?

西脇 どこでもオフィスと考えて、働き方を変えようというメッセージは発しています。ただ、フィットする会社とそうでない会社があると思います。

 ですが皆、ビジネスの速度は上げたいと思っています。その足かせとなっていたメールをチャットにしたり、記憶に残りづらいテキストを動画に変えたりすることで改善できるわけです。いまの世の中、ビジネスを加速させないかぎり生き残っていけないので、その点は考慮すべきでしょう。

―― チャットやビデオ会議を取り入れるということに対して、一般の企業はどのように受け止めているのでしょう。

西脇 一昔前、メールの導入を勧めるために営業していました。そのとき、「うちにはファクスがあるから必要ない」と仰る企業がありました。翻って現在、ファクスより断然メールですよね。速度が違います。同じように、メールからチャットにコミュニケーションが変化しつつあるのです。

 「チャットなんか使ったらコミュニケーションの質が悪くなる」というイメージをもつ方がいるのですが、チャットで活性化するなら良いじゃないですか、といつも言っています。質の良し悪しは、ITのせいではなく企業文化によるもの。質が悪いのであれば、文化の方を変えていくべきだと思います。

―― これからくるトレンドにはどんなものがありますか?

西脇 コミュニケーションはチャットが主流となり、相手がいればすぐ返答しますが、これを自動化するBOTがこれから出てきます。たとえばサポートセンターからの返答がAIに変わり、自動的に対応してくれるようになります。チャットを使っての会話になりますが、あたかも人間と会話しているように感じるレベルになるでしょう。

―― 今後、働き方の多様性を推進する上でアドバイスはありますか?

西脇 とにかく、ツールを入れて触ってみることがいちばんですね。そこから「やってみた」「成功した」といったようなインフルエンサーが生まれます。そして、その人たちの成功体験を社内で共有することが重要です。SNSと同じで、凄い体験を共有することで興味がわき、使いたくなって浸透していく……この順番だと思います。若者はこの手のITに敏感なので、積極的に意見を聞いて取り入れるようにすると、ビジネスを加速させるのに役立つでしょう。

筆者プロフィール:飯島範久

1992年にアスキー(現KADOKAWA)へ入社し『DOS/V ISSUE』や『インターネットアスキー』『週刊アスキー』などの編集に携わる。2015年に23年務めた会社を辞めフリーとして活動開始。PCやスマホはもちろん、ガジェット好きで各種媒体に執筆している。