いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第11回

プレゼンが上手い人は段取りが違う! たった5日間の準備で相手を動かす方法



『最強のプレゼン段取り術』西脇資哲・著

「皆の前でプレゼンするのはなんとなく苦手」「資料はうまく作れたハズなのにイマイチ反応が薄い」なんて経験がある人は多いのでは? それはプレゼンまでの段取りが悪いせいかも!? プレゼンで上手く相手を動かしたいならこの本がオススメ。

文/成田全


苦手意識を払拭する“プレゼンの指南書”

 新製品の説明や企画の発表などで行われる「プレゼン」(正確には「プレゼンテーション」)ほど「得意だ」という自信満々の人と、「できればやりたくない」と尻込みする人に分かれるものもないだろう。「プレゼンテーション」の意味を調べると「提示。説明。表現。」「自分の考えを他者が理解しやすいように、目に見える形で示すこと。また特に、広告代理店が依頼主に対して行う広告計画の提示や、説明活動をいう。プレゼン。」(『大辞林』より)とあった。

 ここで「得意だ」という人に、これまであなたが行ってきたプレゼン(発表の当日だけではなく、準備や振り返りも含めて)を思い出してもらいたい。以下のようなことをしていないだろうか?

  • プレゼンの準備は、まず“PowerPoint”や“Keynote”などを開くことから始める。
  • スライドを使ったプレゼン中に「お手元の資料をご覧ください」と言ったことがある。
  • 次のスライドが出ると反射的に「はいっ、こちらをご覧ください!」と言ってしまう。
  • よくなかったところ、うまくいかなかった部分を徹底的に洗い出し、改善の努力を怠らない。

 質疑応答でしどろもどろになったことがある、準備していったことの半分も話せなくて焦った、というような苦手意識のある人はもちろんのこと、もし上記に心当たりがあれば(答え合わせは最後で)、次回の準備する前に『最強のプレゼン段取り術』を熟読してもらいたい。もしかすると、プレゼン本来の意味である「自分の考えを他者が理解しやすいように、目に見える形で示すこと」ができていない可能性があるからだ。

プレゼンとは「相手を動かす」こと

 本書の著者は前回の「働き方ブックレビュー」でご紹介した、資料作成の極意を伝授する『実例で見る! ストレスゼロの超速資料作成術』の著者であり、日本マイクロソフト業務執行役員/エバンジェリストの西脇資哲氏だ。

 資料とは「相手の行動を促すためにある」ものであり、最終的な目標は「プロジェクトに参加してもいいという相手からの『了承』」と指摘する西脇氏は、プレゼンについて「資料や商品を説明することではなく、相手を動かすこと」と記している。資料もプレゼンも、基本的なスタンスは同じなのだ。

 本書は準備からプレゼン当日までを5日に分け、やるべきことを説明している。まず「DAY1 プレゼンの準備は相手を知ることから」では、プレゼンをする相手を知ることに重点を置き、自分が伝えたいことは何か、聴衆はどんな人たちなのか、会場はどんな場所なのかなど「素材」を把握することに努めよとある。「DAY2 シナリオは話しやすい順に構成する」ではプレゼンで話すためのシナリオの原則を説明、シナリオ作りはA4の紙1枚に話したいことをまとめることから始めることを勧めている。

「DAY3 伝わりやすく、目線で誘導できるスライドをつくる」では見る人の目線を誘導し、メリハリをつける方法や、スライドのキーワードは13文字に収めるなど、資料作成でも指摘されていたルールがスライド作りにも有効であることが解説されている。また本書でも見開きで様々な悪い見本と良い見本を見ることができるので、どんな見せ方が効果的かが一目瞭然だ。

“素晴らしいプレゼン”は参考にしてはいけない

 続く「DAY4 自信に溢れ、わかりやすいトーク」では、どう聴衆に語りかけ、どんな言い回しやタイミングで話すべきかを指南。「DAY5 相手を動かすプレゼンテクニック」には当日にやるべきこと、プレゼン中のテクニックなどが盛り込まれている。そして「DAY+1 プレゼンを向上させるレビュー」はプレゼン後にやるべきことのまとめだ。

 そして少々意外なことだが、テクニック向上のために素晴らしいプレゼンを参考にするのはあまりよくないそうだ。西脇氏は「あまりうまいとは言えないプレゼンを見るほうが、プレゼン技術の向上には役立ちます」と指摘、うまくいかないプレゼンの改善ポイントを探すことが、スキルアップのトレーニングとなるそうだ。しかし自分のプレゼンの反省点やマイナスポイントを洗い出して改善する、ということばかりしているとプレゼンが嫌いになってしまうので、自分のプラスの部分に目を向け、そこを伸ばしていくことでマイナスが目立たくなるようにすべきとアドバイスしている。また褒め上手になることがプレゼン上手になる近道とあったが、確かに眉間にシワを寄せ、暗い顔をしながらマイナスのワードを連発する人のプレゼンなんて誰も聞きたくないはずだ。

 ではここで冒頭の質問の答え合わせを。「まず“PowerPoint”や“Keynote”などを開くことから始める」だが、まずは素材を集め、言いたいことをまとめることが先決なので「×」だ。次の「『お手元の資料をご覧ください』と言ったことがある」は、プレゼン中はスライドに視線を集めないとダメなので「×」。「反射的に『はいっ、こちらをご覧ください!』と言ってしまう」は、プレゼンをする人がスライドに操られているように見えてしまうこと、そしてスライドとスライドの間で人々の興味を引きつけるような話である「ブリッジ」がないこと(1回のプレゼンで8割がブリッジできているのが理想だそうだ)で内容がわかりにくくなってしまう傾向があるため「×」だ。また改善する努力はある程度必要だが、反省のし過ぎが良くないのは上記の通りだ。

 プレゼン細かな部分まで解説される本書で極意を学べば、苦手意識のある人も「流れ」や「型」をつかむことができ、もうプレゼンを怖がることはなくなるはずだ。そして本書でスキルアップを図れば、歴史的なプレゼンを何度も行った故スティーブ・ジョブズの域に迫れる……のではなく、自分らしいプレゼンを行うことが何よりも大事なことがわかるだろう。

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。