ワーキング革命 - 第21回

「サードワークプレイス」の可能性

一般社団法人 日本テレワーク協会は、テレワーク最新事例研究会の報告書「ワークスタイル変革に資する第三の場(サードワークプレース)活用の可能性」を発表した。第三の場とは、第一の場所(オフィス)、第二の場所(自宅)、以外の働く場所となる。その魅力と可能性、そして商機はどこにあるのだろうか。

文/田中亘


この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

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自宅で常に仕事ができるわけではない

ワークスタイル変革に資する第三の場(サードワークプレース)活用の可能性」という報告書では、「在宅勤務の実施事例が徐々に増えているが、首都圏の住宅環境では家庭内に仕事場を持つことが出来ない場合も多い。また、家庭は生活の場であり、常に仕事ができる環境が整っているとは限らない」と指摘している。実際に過去に取材した事例の中でも、生活空間が背景に映る環境で、Skypeなどのビデオ電話を使いたくないという女性の声は多かった。また、子育て中の家庭では、音声会議中に子供の声が割り込むこともある。

 こうした理由もあり、一般社団法人 日本テレワーク協会はサードワークプレイスを提唱した背景として、「テレワークは普及してきていますが、在宅勤務にそぐわない業務や自宅には仕事に適した執務環境がない人もいるのでサードワークプレイスが必要なのではないかと考えました。また、タッチダウン型のサードワークプレイス事業が複数立ち上がってきて、企業でも導入検討が可能な状況となってきたので研究部会のテーマとして検討しています」と話す。

 その有用性については次のように説明する。「利用目的に適した執務環境がより身近に利用できます。例えば、高品位な複合機や机にエルゴノミクスチェアなどセキュリティを含めて自宅より優れた執務環境が得られ、場合によっては自社オフィスの環境を上回る可能性もあります。移動時間の短縮や、出張時や休暇中の一部の時間を使った生産性の高い執務も期待できます。特にコワーキングスペースをサードワークプレイスとして利用した場合は、オープンイノベーションの機会の増大、利用者のスキルアップが期待できます」

 一般的に個人で利用する三番目の仕事場所というと、カフェのイメージが強いが、ビジネス環境として考えたときに、コワーキングスペースのような機能を備えた場所は重要になる。

理想的なモデルケースとは

 それでは、実際のサードワークプレイスとしては、どのような場所が理想なのだろうか。「一般的に外出機会の多い営業担当者などが都市型のタッチダウンオフィスとしてサードワークプレースを利用する場合や、仕事を集中して行う場合に利用している企業が出てきています。また、個人事業主が会社登録し、高いセキュリティ環境や高品質の設備環境で執務を行い事業を展開している場合も多くなってきています。ベンチャー事例とはなりますが、当研究部会の副部会長は本社登録をコワーキングスペースで行い、複数のサードワークプレイスを利用して執務を行っています」

 一方で、「サードワークプレイスに限りませんが、テレワークを人と結びつけるのではなく、業務(アクティビティ)に結びつけて考えることも重要です」と指摘する。そのためには、従来のオフィス、特に自席で執務するという考え方から脱し、業務タスク(アクティビティ)に応じて適切な場所を働き手が選んで執務するという考え方に立つワークスタイルとその思想に基づいたオフィス設計、いわゆる「アクティビティベースドワーキング(ABW)」の概念を広く普及させなければならないとする。そのうえで、以下の取り組みが必要となる。

  1. 企業側では、アクティビティを実施可能なワークプレイス要件を整理して、それに基づく規定を作成していくこと
  2. 行政あるいはテレワーク協会のような団体が、要件を充足する評価項目を標準化して客観的な評価ができるような環境を作り上げていくこと
  3. サードワークプレイス事業者が、その評価項目に対応した情報開示を行うこと
  4. 適当なポータルサイトが機能すること

 日本テレワーク協会では、「料金を含めたコスト面でのメリットを企業内で説明できることについても整理が必要だと考え、研究部会の中でも検討課題と捉えています」と話す。

都市部だけではなく地方でも可能性がある

 テレワークやコワーキングスペースというと、どちらかといえば都市部に集中する働き方と考えられがちだ。地方の企業では、車を中心とした広域な営業が展開されているケースも多い。そうした働く環境に対しては、「移動時間の多い地方の営業などは、モバイルワークを活用する機会が多いかと思いますが、落ち着いて集中して業務を行う必要も出てきます。このため、営業以外の方も含めて地方自治体や地元の商工会議所など、他の施設との併合型で、駐車場なども備えた施設が今後必要となるかもしれません」と同協会は指摘する。

 つまり、地方ではその土地に合った施設の活用で、外回りの業務を行う人たちに対してサードワークプレイスを提供できる可能性があるというのだ。ある意味で、地方型モデルで新たなサードワークプレイスを立ち上げることができれば、そのファシリティやオフィス機器なども商材となり得る。もちろん、都市部でも郊外にあるマンションの共有スペース内にコワーキングスペースを設けるなど、新たな住民サービスや資産の付加価値として、サードワークプレイス的な「場」の提供に取り組み始めている例もある。

 サードワークプレイスは日本人の働き方をどのように革新していくのか。そのポイントについて同協会は次のような展望を示す。「限定された場所から非限定された場所で仕事ができるようになります。これにより、多様な人が多様な働き方を行うことで効率よく仕事ができ、生産性向上やイノベーションにつなげられるでしょう。 Web会議などを活用して離れた場所ともコラボレーションできるため、出張費用の削減も可能です。通勤時間の短縮や隙間時間の有効活用による業務効率化、生産性の向上によるコスト軽減にも結び付くでしょう。サードワークプレイスの利用が普及して生産性が向上することで、家族と過ごす時間が増えたり、健康管理に向けたスポーツや資格取得に向けた自己啓発などに使える時間も増えるはずです。また、将来は副業などへ展開されることも考えられます」

 商材として考えたときには、先に触れた新規のコワーキングスペースに提供するIT機器だけではなく、個人で持ち歩く各種のモバイルデバイスなども需要が増す。さらに視点を変えると、インクジェット複合機のようなパーソナルなビジネスツールも、需要が伸びる可能性が高い。実際に、コワーキングスペースに個室などを契約している人の多くは、インクジェット複合機を利用する例も多い。個人オフィス的なニーズの高まりは、新たなビジネスの広がりにつながる期待も大きい。

(PC-Webzine2017年12月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系ITまで、広範囲に執筆。代表著書:『できるWindows 95』、『できるWord』全シリーズ、『できるWord&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

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