ワーキング革命 - 第24回

竹中工務店のスマートワークに学ぶ 顔認証システムを活用したノートPC導入

竹中工務店は、2018年1月から全社のPC約9000台をノートPCにリプレースし、2014年から推進してきた「竹中スマートワーク」というITによる生産性の向上に向けた取り組みを進化させる。約4年間の実績を経て、新たに導入するノートPCと顔認証システムの有用性や、ワーキング革命につながるIT基盤のあり方について取材した。

文/田中亘


この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

公式サイトはこちら→ PC-Webzine

約7000台のモバイル端末からスタート

 竹中工務店では、2014年4月から「竹中スマートワーク」という名称のもと、タブレットなどのモバイル端末約7000台を導入してきた。その利用の中心は、営業部門をはじめとして、設計や生産にFM(ファシリティマネジメント)部門など。当時の導入の主な目的は、必要な情報を必要なときに、モバイル端末を活用してどこからでもアクセスできる環境の整備にあった。

 例えば、営業担当者は外出先でもプロジェクトや技術などの社内情報を端末で閲覧し、顧客へのソリューション提供などに役立ててきた。また、設計担当者は最先端の設計技術や保有技術の情報にアクセスすることで、設計品質の向上やプレゼンテーションなどに活用してきた。そして、生産やFM部門では、施工管理に必要な情報を迅速に伝えて、確実なプロセス管理を推進してきた。

 2014年の機器導入にあたっては、SIMモデルのタブレットを採用し、Wi-Fiが使えない現場などでも、クラウドへのアクセスに困らないように配慮されていた。

 竹中スマートワークは、開始から約2年ほどで利用が軌道に乗り、社内で集計した評価においても、多くの社員が「作業が便利になり働き方が変わった」という意見が多かったという。それからさらに2年を経て、竹中スマートワークをさらに進化させるために、新たにノートPCのリプレースを推進することになった。

Windows 10移行で顔認証+ノートPCを導入

 竹中工務店のICT推進チームでは、初期の竹中スマートワーク導入の段階から、現場の利便性に配慮すると同時に、セキュリティ対策も充分に考慮してきた。そのため、当時はアプリケーションの安全性が確保されていて、リモートでのデータ消去などの管理性能にも優れたiPadを中心にタブレットの導入を推進してきた。しかし、現場での利用が浸透していくにつれて、課題に突き当たった。それは、データを加工する道具としてのタブレットの力不足だった。

 もともとデータの閲覧に優れたタブレットだが、文章を書いたり計算をしようとすると、タッチ操作だけでは効率が上がらない。仮に、キーボードやタッチペンなどを利用したとしても、やはりPCによる作業には及ばない。そこで、次世代の竹中スマートワークでは、全社のPC約9000台をWindows 10へのOSの移行とあわせて、顔認証システムを搭載したノートPCに順次リプレースしていくことにした。

 新たに導入されるノートPCは、現場の業務の用途に合わせて何種類かのモデルが用意された。例えば、社外に持ちだして使うことが多い社員には、パナソニックの「レッツノート」が支給される。この機種が選定された理由は、リモート消去の性能にある。他のノートPCと比べて、レッツノートは電源が落ちているときにもリモート消去を指定するとデータが消去される仕組みになっている。その信頼性が高く評価されて、同モデルが選ばれたのだ。その他には、CADを多用する設計部門に対しては、画面も大きく解像度が高い高性能なノートPCが用意されている。

 竹中工務店では、以前からセキュリティ対策の一環として、社員が保有しているIDカードを利用したPCへのログイン認証を実践してきた。しかし、セキュリティ対策の強化は現場での利便性を損なう面がある。IDカードによる認証は、パスワードだけのログインより安全性は高いものの、利用者には手間となっていた。そこで新たにNECの顔認証技術NeoFaceを採用した顔認証システムを導入した。その仕組みは、PCに内蔵されたカメラで取得した顔の画像とAD(アクティブディレクトリー)を連携させ、あらかじめ登録されている顔のデータを照合して利用者を高い精度で確認する。

 その結果、これまで採用してきたICカード認証での「カード忘れ」や「紛失のリスク」を排除できる。また、カードの抜き差しの手間やノートPC利用時のカードリーダー持ち歩きの不便さも解消する。

通信はタブレットのテザリングを活用

 これまでに導入されたタブレットは、すべてキャリア対応のSIMモデルだったが、リプレースが進められているノートPCはSIMモデルではない。その理由は、すでに支給したタブレットのテザリングを活用すれば、外出先での通信にも困らないから、という判断だ。そして、将来的にはタブレットの交換時期になったタイミングで、スマートフォンへのリプレースも検討していく計画だ。

 竹中工務店にとって竹中スマートワークは、ITを活用した先進的なワークスタイルの実践であり、世の中で話題となっている働き方改革については、このIT基盤を活用することはあっても、本格的な取り組みはこれからになる。しかし、竹中スマートワークが推進してきたモバイル端末の取り組みは、小規模な企業にとっては働き方改革の参考になるモデルケースだ。

 そのポイントは、タブレットからノートPCへの発展にある。タブレットを持ち歩くようになり、モバイル端末の便利さを知った社員が、現場での生産性を高めるために「データの編集や加工に優れた」ノートPCを使いたいと欲する点にある。その要望に応えるように、この数年でWindows 10を搭載したノートPCも進化してきた。特に、長時間のバッテリー駆動や遠隔消去機能、データ暗号化などのセキュリティ性能も強化されている。さらに、2in1モデルのように、タブレットとノートPCのいいとこ取りをした製品も充実してきた。

 こうした背景から、すでにタブレットを導入してワーキング革命に取り組んでいる企業があれば、より利便性と生産性が高く、セキュリティ対策にも配慮したノートPCの提案は、有用なビジネスチャンスとなる。

(PC-Webzine2018年3月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系ITまで、広範囲に執筆。代表著書:『できるWindows 95』、『できるWord』全シリーズ、『できるWord&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

公式サイトはこちら→ PC-Webzine