スマ研・ニュース解説 Vol.1



スマートワーク関連の気になるニュースをピックアップし深掘りする「スマ研・ニュース解説」。ついつい読み飛ばしてしまう日々の膨大なニュースのなかから、報道だけでは分からないそのニュースの隠れた意味や、ビジネスに役立つポイントなどを解説します。これからスマートワークを実践していくためのヒントにしていただけると幸いです。今回は「IT導入支援補助金」「+メッセージ」「Little Japan年間パス」をピックアップしました。

文/狐塚淳


【NewsPickUp-1】

平成30年度「IT導入支援補助金」公募開始

中小企業・小規模事業者を対象にした経済産業省の「IT導入支援補助金」の公募が4月20日に開始された。同補助金は中小企業の経営課題解決や、ニーズに適したITツール導入にかかる資金を上限50万円まで、補助率1/2で補助する。申請は事務局が選定したIT導入支援事業者による代理申請という形を採る。昨年度も1次、2次の公募で1万以上の企業が利用した同補助金だが、本年度の1次公募期間は6月4日までなので、応募を考える企業は準備を急いでほしい。

https://www.it-hojo.jp/

【解説】

 スマートワーク実現のためには、ITの活用は避けて通れない。しかし、ソフトウェアやサービスを導入しようと考えてもコストの問題が立ちはだかる。そこで活用したいのが、経済産業省の「IT導入支援補助金」だ。下限15万円~上限50万円までを補助率1/2で補助してくれるので、コスト的に導入は難しいと考えていたITツールにも手が届くのではないだろうか。交付手続きや参考になる資料など、「IT導入補助金サイト」(https://www.it-hojo.jp/)でほぼ完結できるため、申請のハードルは低い。

 ただ、「IT導入支援補助金」は交付申請の手続きが少し変わっている。多くの補助金の申請は、必要な書類を企業自身が揃え、自分で申し込むが、「IT導入支援補助金」の場合、経済産業省・IT導入補助金事務局が事前に選定した「IT導入支援事業者」による代理申請という形を採る。IT導入支援事業者はITベンダーやサービス事業者などだ。

 中小企業は交付申請にあたって「導入したいITツール」と「ITツール導入後の事業計画」を用意し、「IT導入補助金サイト」で、「申請者マイページ」を開設、会社情報等を入力する。次に、IT導入支援事業者が登録した企業から申請に必要な詳細情報をヒヤリングし、取りまとめた情報を申請画面に入力。この内容を「申請者マイページ」で確認し、承認すると、IT導入支援事業者が代理で申請を行うという形だ。なお、今年度のIT導入支援事業者の受け付けは開始されているがまだ発表されていない。昨年度の事業者を同サイトで確認することは可能だ。

 自力で申請する方が面倒がないと考える企業もあるかもしれないが、ITに強い人材があまりいない場合などには、専門家(IT導入支援事業者)が企業の事情に合わせて、申請作業に協力してくれるというのは心強い。不確かだった知識もヒヤリングで補ってもらえるだろう。

 なお、「IT導入支援補助金」の交付を受けた場合、翌年から5年間、計5回、生産性向上などに関する報告を「申請者マイページ」から行わなくてはならない。補助を受けた企業にとっても、自社事業にITがどう貢献したのか、結果検証のいい機会になるだろう。

「IT導入支援補助金」の1次申請締め切りは6月4日なので、公募を考える企業は速やかにアクションを起こしたい。まずはIT導入補助金サイトを覗いてみよう。

【NewsPickUp-2】

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが新メッセージングサービス「+メッセージ」をスタート

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は5月9日からSMSの機能を進化させた新しいメッセージングサービス「+メッセージ」の提供を開始した。世界的な携帯通信事業者の業界団体GSMAが標準化したRCS規格をベースにし、電話番号を知っているスマートフォン同士で、長文のメッセージやスタンプ、写真などが送れる。従来のSMSの制限がはずれ、異なるキャリア間でもLINEのようなコミュニケーションが可能になる。

https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2018/04/10_01.html 他

【解説】

 SMS(ショートメッセージングサービス)は、携帯電話を掛けづらいシチュエーションや、相手が電話に出ないときなどに、コミュニケーションを補助するサービスとして、「折り返し電話ほしい」などの伝言を残すのには便利なものだった。しかし、スマートフォンの通常のメールサービスに押され、その後さまざまなSNS(ソーシャルネットワークサービス)の登場もあって、もはやほとんど利用されないサービスになっていた。

 これを進化させ、国際標準のRCS(リッチコミュニケーションサービス)をベースとしたアプリという形で提供し、3キャリアをまたがる新しいコミュニケーションサービスの形で提供するのが「+メッセージ」だ。

 SMSの最大全角70文字だったテキストが最大全角2,730文字となり、写真・動画、専用スタンプ、グループメッセージ、音声メッセージ、地図情報の送受信が可能となる。確かに以前のSMSとは段違いのリッチなコミュニケーションが実現できる。SMSでは一通あたりの料金設定だったが、「+メッセージ」ではパケット料金がかかる形になる。今のところAndroid端末が対象でiPhone、iPadへの対応は準備が進んでいるそうだが、現在のところMVNO(仮想移動体通信事業者)への対応は希望によっては検討するという。

 3社は「SMSの機能を進化させた新サービス」と紹介しているが、世間的な見方としてはLINE対抗という意見も強い。画面イメージを見てもLINEと似通って感じられるし、無料のスタンプ提供という点も、LINE的なコミュニケーションとして、乗り換え候補として推したいのではないかと推測される。

「+メッセージ」の画面イメージ

 新機種には「+メッセージ」のアプリがインストールされて発売されるものも出てくるようだが、従来機種の場合はアプリのダウンロードやアップデートが必要になるため、現在のLINEユーザーがそこまでして乗り換えるメリットがあるかどうかは疑問だ。

 また、「+メッセージ」の送受信が可能な相手は、スマートフォンに電話番号が登録されている相手のみとなっており、今やLINEのIDはやりとりしても、電話番号までは知らない(通話もLINE電話を利用する)若い世代には、利用のハードルは高そうだ。

 もちろんこのプラットフォーム上で提供されるサービス次第では新たな利便性が提供され、スマートフォンと一体の決済を利用した予約や申し込み、購買などのB2Cのモバイルニーズが生まれてくる可能性はある。

 ただ、現在の機能で考えた場合は、クローズドなビジネス利用が有望かも知れない。多数のビジネスチャットツールが登場してきているが、未だ圧倒的なシェアを獲得したものはない。会社支給のスマートフォンであれば、上司と部下とのグループチャットは有望そうに見える。名刺交換でモバイルの番号を知る機会が多い顧客とのコミュニケーションにも有用だろう。その意味では、新たなスマートワークツールとなる可能性を秘めている。

 ただし、スマートワーク利用での普及を図るには今回のリリースでは発表されていないPCとの連携が重要になってくる。直接のメッセージングの形は難しくても、クラウド経由やAPI連携のような形で、コミュニケーションデータの蓄積や一元利用が可能にならないだろうか? マイクロソフトもRCSには賛同しておりWindows10 mobileはRCSにはすでに対応している。今後の「+メッセージ」サービスの進展が待たれる。

【NewsPickUp-3】

パラレルキャリアの実現に貢献。Little Japanが、月1万円で東京のゲストハウスに1年間宿泊し放題の年間パスをスタート

空き家問題の解決等の地域創生に取り組む株式会社Little JapanとNPO芸術家の村は、2018年3月21日、東京・浅草橋にある地域と世界をつなぐゲストハウス「Little Japan」に月1万円、年間12万円で、日曜日から木曜日まで、1年間宿泊し放題の年間パスの販売を開始した。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000024445.html

【解説】

 政府が示す「働き方改革」の方向性の中で、今のところ具体的な道筋がよく見えないのが「副業(パラレルワーク)」の推進だ。企業が労働時間短縮に取り組むことで、従業員が自由に使える時間が増加し、その時間で本業とは別の生産性を上げる仕事を始めれば、労働人口の減少が進んでも、新たな生産力が得られるというのは理解できる。多くの企業は従来禁止していた副業を許可する方向に向かうだろう。

 しかし、副業を許可された会社員たちは、どうやって副業を始めればいいのか? 勤める企業は副業を許可はしても、副業を紹介してはくれないだろう。また、都会ほど産業が豊富ではない地方では、本業以外の仕事を探すのに苦労することも考えられる。クラウドソーシングやアルバイト斡旋サイトを利用するのもひとつの方法だが、そこで自分が取り組みたい副業が見つかるとは限らない。本業のライバル企業の仕事をするわけにもいかないし、自分にできる新しい仕事を発見するところからスタートする必要がある。 

 そのためには資格取得を目指したり、異業種交流会に参加してヒントを探したりなど、自主的な活動に取り組まなくてはならないだろう。そして、自分に適した副業を発見したときに、それが自宅でできる仕事や本業の勤務先の最寄りでできるものとは限らない。本業の終業後に働くとなれば、通勤時間を節約したい日も出てくるだろう。

 Little Japanの1年間宿泊し放題の年間パスは、月1万円という手軽な価格で、東京都内に気軽に拠点をもつことができる点で、副業を実現する環境整備に利用することも可能だ。もちろん、拠点を確保しただけで副業が開始できるわけではないが、今後、こうしたパラレルワークを目指す従業員のための副業支援サービスはいろいろ登場してきそうだ。

筆者プロフィール:狐塚淳

 スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。