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2018/05/10

あの人のスマートワークが知りたい! - 第16回

グーグル流スマートワーク――及川卓也さんに聞く「OKRを働き方改革に活かすには?」



『自分の仕事は会社にとって無駄だった……』をなくす妙手

及川卓也さんは、マイクロソフトでWindows、グーグルでChromeやGoogle日本語入力の開発をエンジニアリングマネージャーとして主導した人物です。現在ではフリーの技術/プロダクト戦略/開発組織アドバイザーとして活動する及川さんは、最近発売された『OKR(オーケーアール) シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法』(日経BP社)に解説を寄せています。Googleも採用する目標管理手法「OKR」とはどういうものなのか? スマートワークにどう活かすことができるのか、詳しくお話を伺いました。

文/まつもとあつし


及川卓也
日本ディジタルイクイップメント株式会社(日本DEC)を経てマイクロソフトでプログラムマネージャーとグループマネージャーを担当。2006年からはグーグルでプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーを経験、2015年にはQiitaを開発運営するIncrements株式会社のプロダクトマネージャーに就任。そして2016年にフリーとして独立、主にスタートアップのアドバイザーとして活躍中。

組織と個人の目標を一致させる「OKR」

―― 書籍を拝読して「OKR」はスマートな働き方にも大いに活かせそうだと感じました。まず、スマートワーク総研の読者に向けて「OKRとは何か」という簡単な紹介をお願いします。

及川 Objectives and Key Resultsの頭文字を取ってOKRと呼んでいるのですが、目標(Objectives)と主要結果(Key Results)に着目した管理ツールです。……そう聞くと無味乾燥な印象を受けるかもしれませんね(笑)

 ただ、他の管理ツールと異なるのは、「個人と組織を同じ方向に進ませるための動機付けのフレームワーク」という点です。それがシリコンバレーのスタートアップでこぞって採用されている理由でもあるのですが、急速に成長する企業では、会社の目指すところと、いま自分がやっている仕事に乖離が生じたり、会社の目標には入っていないのだけれど、自分がやらなければマズいという仕事も生まれがちです。前者は本来、組織と個人の目標が紐付いてなければならないのに、それが見えなくなっている。後者は、目標や評価に紐付いていないけれど、とても大事だ、というものが埋もれてしまっているのです。

 OKRはこの両方を解決する仕組みなんです。組織全体の目標(O)をまず1つ(規模が大きな組織では数個あっても良い)定め、チームメンバーがそれぞれの目標(O)に対して、「成功したかを評価できるような主要結果(KR)」をさらに数個決めます。その際には、いまお話ししたような「埋もれてしまっているけれど大事な仕事」を、KRとして定め、場合によっては上位のOにも反映させないといけない、といったコミュニケーションが生まれます。こうすることで、自分がどんな状況を生み出すことが求められていて、何を達成すれば評価されるのか、組織と個人の歩みが一致しているのかということが明確になっていくのです。

 さらに階層型の組織であれば上部組織のKRが下部組織のOになり、そこから自分たちのKRを決めてトラッキングしていくことになります。O→KRが組織のなかで数珠つなぎになり、可視化されるというのがポイントです。

従来の管理手法の1つ「MBO」と「OKR」の違い(OKR Japanより抜粋)。

OKR構築の例。四半期ごとに目標(O)を決定し、その目標達成に必要な動きを主要結果(KR)として設定する。

 わたしがいたころのマイクロソフトはいわば「上意下達」型の組織でしたので、OKRのような仕組みを明示的には取り入れていませんでした。しかし、その後移ったグーグルのように、「皆がやりたいことをやる」タイプの組織では特にこのOKRが有効でした。各自の創意工夫を発揮しつつ、グーグル全体として目指す方向を皆が理解し、その実現に貢献しようという流れが生まれるからです。

 例えば、わたしが関わったウェブブラウザ「Chrome」の場合、グーグルのビジョンである「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」をOとして、「そのために健全にインターネットが発展すること」という大きなKRを定めました。その上で、その時期に応じてユーザーに対して何を提供するかというテーマを定め、四半期ごとのKRを決めていきます。

 ある時期ではデスクトップよりもモバイルファーストだというObjectivesが定まります。そうなるとChromeもモバイルへの最適化を実現することがKey Resultsとなるわけです。Chromeもいくつかのプロジェクトチームに分かれていますので、わたしがいた東京チームでは「レンダリングエンジンのBlinkについて、メモリをできるだけ必要としない仕様にする」というKRを定めました。特に新興国においては、メモリをさほど多くは搭載しないスマートフォンが急速に普及していたからです。

―― なるほど、よくわかりました。では具体的に「O」から「KR」を決めよう、となったときに、どのようにそれを決めるのでしょうか? 従来は上司と部下が面談で、といった方法がとられることが多かったわけですが。

及川 組織が大きくなればなるほど、上意下達型だと時間が掛かります。従来であれば四半期の目標策定に1ヵ月以上掛かるといったことも珍しくなかったはずです。けれども年間の組織全体のOKRが決まっていれば、ボトムアップで自らOKRを先回りしてチームで決めてしまうといったことが可能になります。いざ上からOKRが降りてきて仮に整合していないところがあれば、そこだけ調整すればよいのです。実際グーグルではそうしていましたね。四半期ごとに決めたことも、環境の変化に応じて期末を待たずに変えるということも柔軟に行われていました。

「動機付け」につながることもOKRの大きな特徴です。チーム全員から自分たちがどんなことをするか、というコメントをできるだけ集約し、目標を誰かから押しつけられたものではなく、自分のものとして「腹落ち」させていきます。

―― 本のなかでも紹介されていますが、グーグルでは週の終わりにTGIFという全世界ミーティングを開催しているそうですね。それも動機付けにつながる取り組みですか?

及川 世界中のグーグルのオフィスをオンラインで結んで行われる「Thank God It's Friday」という名のミーティングですね。これはOKRとは直接結びついたものではないのですが、その時々の優れたプロダクトが紹介され、それを皆で讃える、というようなこともやられていました。

 OKRについても同様に、各事業のOKRとその達成スコアをレビューするといったことも行われています。社内ネット――これはクラウドのことですが――に置かれた情報は公開されているのでとてもテンポ良く1時間ほどで毎回、会社が何を目指し、実際どのくらい達成できたのか、ということが分かる機会となっています。

―― グーグルだからそこまでスマートにできる、という声もあがりそうですが、実際、たとえば日本の非IT系の会社などでもOKRは導入できるものなのでしょうか?

及川 OKRに「こうでなければならない」という型は、じつはありません。この本に書かれている四象限を用いた管理でなくても構わないのです。

OKRに加えて、チームの健全性やOKR達成の自信度も管理する形を取っている(書籍より引用)。

 本のなかで物語として紹介されている事例は、小さなスタートアップを舞台としたものです。日本の比較的大きな企業が、いきなり全社的にOKRを導入するというのはなかなか難しいかもしれません。その場合でも、1つのプロダクトについてまず導入する、あるいは1つの部門で導入するといった方法を取ることができます。まずはそこで組織と個人の向かう方向を一致させる成功事例を作った上で、組織全体に導入を拡げていくのがスムーズだと思いますね。そうなっていけば、複数の部署にまたがるプロジェクトでも、全社の目的(O)を踏まえて、各自の成果(KR)を無駄なく・漏れなく目指すことができるようになります。

スマートワーク実現にも活かせるOKR

―― たとえば、働き方改革のなかで重要な要素として挙げられる「テレワーク」を導入するといった際にもOKRは活かせそうですね。

及川 そうですね。テレワークはあくまで手段ですから、「何のために導入するのか」という目的(O)を明確にすることにも役立てることができます。テレワークの導入によって、何がどのように変わっていると目的を達成したことになるのか、という測定や評価が可能なKRとして記しておくことが大切です。

 テレワークは、福利厚生という面と、生産性の向上と言ったポジティブな効果を期待する面の2つの目的があると思います。前者は育児や介護などやむを得ない事情があって出社が難しい社員への代替手段として導入するものです。これはどんどん導入すべきものです。後者の場合は、何らかの効果を狙うわけですから、それをKRとして設定しておくべきです。例えば、地方の優秀なエンジニアをテレワーク前提で求人し応募が〇人くらい集まる、あるいはテレワークによって社員の満足度を〇%上げるけれども生産性は現状を維持する、といった具合ですね。

―― ソリューションを導入して一段落ついてしまう、とならずに、本来の目的に向けて動いていくためにもOKRは役立ちますね。

及川 ソリューション導入のような新規の案件もそうですが、継続的な、ある意味ルーティンになっている事業でも、そもそもの目的が見失われてしまっているケースが――わたしがアドバイスを行っている企業でも――散見されます。もし、時代の変化とともに元々の目的や効果が失われてしまっているのであれば、それは極論すれば今すぐ止めてよい取り組みかもしれないのです。逆に、何にも紐付いていないけれど、それでも必要な取り組みであれば、それは上位のOKRを見直すべきなんですね。

―― 多くの会社で「達成が難しい努力目標が設定されて、実際はその半分程度の達成度でもじつは丁度良い塩梅だった」といった状況があるかと思います。それに対して本書で紹介されるOKRは「自信度5/10」といった指標で管理して、高すぎたり低すぎたりしてもNG、毎週トラッキングして自信度の変動にもその原因は何かに注意を払う、という点がユニークです。

及川 そうですね。OKRには型がないので、自信度・健康度・健全度の数値管理など組織の状況や文化に応じたカスタマイズができるのも利点です。わたしはグーグルでは、KRに紐付いたタスク(タクティクス)もOKRを管理するツールに記入し共有して管理するようにしていましたね。そうしておけば、「KRを構成する5つのタスクのうち、3つまではこの四半期で達成できた」というように、より具体的に評価できるからです。

―― 最後にOKRを導入したい企業のために、おすすめのソリューションはありますか?

及川 この本にあるようにごく小さな組織では、紙で管理したり、を用いるのも1つの方法ですが、わたしのクライアントには、Resily(リシリー)を薦めることが増えています。名刺管理ソリューションのSANSANなどでも導入されているものですね。クラウドベースでOKRを管理できるので、導入コストがとても低く設定されているのでおすすめです。

 OKRは、組織と個人の目的を合致させます。それはすなわち、大事なことにフォーカスするサイクルを回す、ということなんです。働き方改革で重視される生産性の向上にも直結する取り組みですので、ぜひ取り入れる企業が増えて欲しいと思います。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。

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