地方自治体の悩みを解決できるのか。デルとインテルが高知県須崎市と提携し地域活性化と働き方改革を目指す



福井県鯖江市の成功に続き地方自治体と連携するデルの目的とは

 デルとインテルは、高知県須崎市と協業し、2 in 1マシンやビデオ会議システムを活用して、地域活性化や働き方改革を目指すことになりました。今回の支援によって、最新のITテクノロジーを地域の総合力の強化に役立てようとしている現場を取材してきました。

文・写真/飯島範久


福井県鯖江市に続いて2件目の地方自治体支援

 地方自治体は今、どこも似たような悩みを抱えています。減り続ける人口、縮小する産業、それに伴う財政難。このような状況で限られた資源を最大限に活かすためには、産学官民一体となって、効率よく時代に合わせた働き方改革と、さまざまな取り組みが必要です。

 デルとインテルは、2016年に福井県鯖江市を支援し、空き家を利用したサテライトオフィス誘致の一環として、お試し期間中のオフィスでデルのマシンを提供。最新IT機器によって地方と都市を結ぶことで、離れた場所でも効率よく作業できるのか、検証してもらいました。今回の須崎市への支援は、鯖江市に続き2件目になります。

 須崎市は高知市にほど近い、人口2万2000人ほどの海岸線に接した地域。須崎市の楠瀬耕作市長は、市の特徴について「須崎市の港の年間出荷額は四国1位。また鉄鉱石の不純物を取るのに必要不可欠な石灰石を国内外へ供給しています。さらに、みょうがの生産は日本一で年間出荷額は60億円に上り、少子高齢化の中でも、後継者が出てきました。
 3年前からは、行政としては日本初となる、下水道管渠コンセッション事業として、官民連携で公共下水道事業の経営改善と持続的な運営を目指しており、2019年度には契約が成立する予定です。また、市が持っている土地の有効活用に向けて民間と連携したり、民間会社と連携して国内外で須崎市のアピール活動をするなど、官民連携を意識して行政に取り組んでおり、ITを利用した人材育成にも注力しています」と語りました。

須崎市の楠瀬耕作市長。2012年に初当選し、現在は2期目

 今回のデルとインテルとの連携については「世界的企業との連携のお話は非常にありがたいこと。1つの柱として、教育のICT化を進めているところで、2018年度の予算で初めて、教育現場にICT機器を導入します。小中学校1校ずつをモデル校とし、教育の質のアップ、教職員の働き方改革につながるようITを活用していきたい。そんなときに、今回のお話をいただいたので、ぜひご指導いただきたい」と述べています。

すさきがすきさ産業振興計画で 2 in 1マシンを活用

 過疎指定を受けた自治体として何ができるのか……。全国レベルで見ても厳しい財政難である須崎市は、2015年度に「すさきがすきさ産業振興計画」をスタート。継続的に発展していくまちづくりをしようと5ヵ年計画をたて、12分野56項目について具体的な取り組みと目標を設定し、産学官民連携してすでに成果が出てきているそうです。そんな中での今回の連携で、働き方改革により効果的にまちづくりを進め、デルとインテルの協力、助言により2019年度の目標達成に向けて加速していこうとしています。

 今回の連携では、すさきがすきさ産業振興計画の中で4つの事業においてデルが提供する最新デバイスの2 in 1マシンを活用していくことになります。1つ目が「情報発信力の強化」。須崎市は、情報発信を強化するためにゆるキャラの「しんじょう君」が誕生。現在Twitterのフォロワー数は約6万人、ブログは年間約100万PV、フェイスブックの“いいね!”は約8000件となっており、2016年のゆるキャラグランプリでは優勝するなど人気は上々で、須崎市のPR活動を支えています。

須崎市のゆるキャラ「しんじょう君」。ニホンカワウソをモチーフに頭には地元の名物鍋焼きラーメンの帽子を被っている

 須崎市元気創造課の有澤聡明係長は「しんじょう君は、年間50回県外・国外へのイベント出張があり、担当者が職場にいない時間が多かったです。今回ご支援いただくことで2 in 1マシンを活用し、SNSやブログ、動画の編集をしてサイトへアップといった、スマホだけではできないことも、職場と同様に作業できるようになります。これによりファンが求める鮮度の高い須崎市の情報をさらに発信することで、2019年度末には、Twitterのフォロワー数を10万人、ブログは年間250万PV、フェイスブックの“いいね!”は1万7000件を目標にしています」とのことです。

須崎市元気創造課の有澤聡明係長

 2つ目は、海外と須崎市をつなぐこと。インバウンド観光推進と海外販路の拡大を目指し、この2年間で、日本のことが好きな外国の人が集まるイベントに、しんじょう君と地元の業者と一緒に参加してきています。今回の支援により、海外と須崎市をつなげ、双方向に情報を発信ができるようになると考えています。

 「現在は、海外からお遍路さんとしていらっしゃるのが、年間500人程度なのですが、これを大幅に増やすべくうまく活用していきたいですね。フランスのパリで開催されたJapan Expo 2017には日本が大好きなフランス人が24万人も集まり、しんじょう君ファンを多く獲得しました。また須崎市の特産品を出品したところ、100万円を超える成果を上げています。しんじょう君と須崎市の見どころを巡るツアーに招待する特典のあるアンバサダー企画を実施し、約1000人の応募がありました。その中から3名をオーディションで選び、今年4月に来ていただき、須崎市を体験してもらっています。この取り組みでは、フランスで須崎市を好きになってくれる人たちのコミュニティーを作り、須崎市とどう結びつけるか悩んでいましたが、今回の支援により実現可能になると考えています。たとえば、包丁作りの職人さんのところへ伺い中継で結んで説明したり、須崎市の観光地の中継や住民との交流も積極的に行っていきたいですね」と有澤氏は語り、インバウンドの誘致につなげていくとしています。

アンバサダーとして須崎市へ訪れたときの様子

地場産業に活用しふるさと納税と販売額を増やす

 3つ目が、生産地や加工施設と消費者をつなぐこと。しんじょう君の人気と情報発信により、ふるさと納税をPRすることで、2015年度の寄付額は、前年度比約3万%増の約6億円に。2016年度は約9億7000万円、2017年度は約11億円と順調に伸びてきており、今後20億円を目標にしています。

 「市役所の職員が商品の魅力を伝えるサイトを作成するには限界があります。そこで、2 in 1マシンを業者さんへお渡しして、自ら商品をPRすることで、より商品の魅力が伝わると考えています。発注状況も直接現場で確認できるため、スムーズな発注やふるさと納税をきっかけにネット通販や商品の改良にも取り組めます」(有澤氏)。

 ふるさと納税の返礼品に参加している木製品加工業者の土佐龍は、デルの2 in 1マシンを利用して、自社のサイトの更新や情報発信に力を入れていくとともに、商品開発にも活用していきたいと考えています。須崎市としては、商品の魅力をPRできる体制を整えて、さらにふるさと納税を増やしていきたいとしています。


土佐龍は、地元の木材を活用し、ひのきのまな板や桜の木の洗濯板、楠の防虫板など生活用品を中心に手掛けている

 土佐龍の池龍昇社長は、「これからは老人もパソコンを活用していかないといけない時代。50社近くの地元企業がふるさと納税の返礼品に参加しているが、ネット販売は避けて通ることはできない。店舗や通信販売を利用してきた人たちもみんなネット販売にシフトしてきている。海外は日本以上だ。だからパソコンを孫に教わりながらやっているけど、元気創造課が主導し、私たちはサイドから応援させてもらい、納税額も販売額も1円でも増やし、ノウハウを身に着けていきたい。成果が上がれば、ほかの地元企業も同様のことをするようになる。鮮度の高い情報を提供することが、ふるさと納税の勝ち組になるはずなので、サイトのリニューアルも積極的にやっていきたい。そして自分たちの経験をもとにほかの参加企業へ伝えていきたいと思っている」と意気込みを語りました。

土佐龍の池龍昇社長

 有澤氏は、「地元の家族経営をしている企業は、いまだに紙で経理をしています。それが土佐龍ならパソコンを使って処理し、しかも売上が伸びたといった手本となれば、イメージも湧きやすく時代に合わせた形になるのではないかと考えています。2 in 1マシンを使ったノウハウを積極的に共有していきたいですね」と語り、土佐龍に期待を寄せています。


サイトの更新やネット販売の管理・運営を2 in 1マシンを利用して行っていく

 最後は、ゲストハウスの運営と移住の支援。NPO法人の暮らすさきを通じ、須崎市への移住を促進していて、古民家をリフォームし気軽に滞在し須崎市を体験できる「暮らしのねっこ」を整備。情報発信や移住の支援活動を行っています。今回の支援で、2 in 1マシンやSkype用ディスプレイを活用し、移住に関する情報配信や国内外での移住に関する相談、そしてフランスの須崎アンバサダーとの交流を、Skypeを利用して行っていくそうです。

「暮らしのねっこ」。もともとは漁具屋だった古民家。その後ジーンズ店に変わり、閉店後は老朽化していたが、ゲストハウスの運営と移住の支援の場としてリフォームし活用している

 NPO法人暮らすさきの大崎緑事務局長は「2017年11月にここを借り受けて、クラウドファンディングにより集まった資金をもとに、浄化槽の整備や内装をリフォームしました。事務所と2拠点で活用しなければならないので、2 in 1マシンは役に立つと思います。また、これまでメールや電話でやり取りしていたのを、これをきっかけにビデオチャットで行なったり会話しながら施設内を中継で紹介することも可能になります」。

NPO法人暮らすさきの大崎緑事務局長

 「東京でコミュニティー“meets奥四万十”を作り、今まで以上に情報発信と交流が必要です。また、ゲストハウスのオープンにより、効率的な体制作りも課題で、今回の支援を活かして働き方改革を実現し、いっそうの移住支援を行っていきたいですね」(有澤氏)。


2 in 1マシンとSkype対応ディスプレイを使って、フランスの須崎アンバサダーと交流。宿泊施設のほか、お菓子などの商品の販売も行っている

地域活性化は変えていこうという強い意志が必要

デル 常務執行役員 クライアント・ソリューションズ統括本部長の山田千代子氏

 一方、デルの常務執行役員 クライアント・ソリューションズ統括本部長 山田千代子氏は今回須崎市を支援することを決めた理由として、「福井県鯖江市の成功後、次の自治体を探し候補が挙がった中で須崎市を選んだのは、まず、働き方改革を推進していることでした。
 デルではデジタルトランスフォーメーション、ITトランスフォーメーション、ワークフォーストランスフォーメーション、セキュリティトランスフォーメーションの4つのトランスフォーメーションを推進しており、今回の須崎市の取り組みは、その中のワークフォーストランスフォーメーション、場所や時間の制約にとらわれない働き方の推進により、人材を有効活用し、効果を上げていくという働き方改革に一致しています。
 次に、ICT教育に注力している点。 国際化や語学、プログラミングに代表されるICTの取り組みは、これからとても重要です。須崎市は最大限に活用して教育を変えようとしています。
 3つ目として、ITによって町おこしをしていくところ。若い力、若い発想を取り入れて実現に導いています。これらの3つの柱について、同じ方向へ向かっていけると感じ、今回インテルと協業するに至りました。
 そして、もっとも重要なのが、変えていくという強い意志です。楠瀬市長の強いリーダーシップ、元気創造課がいろいろなことに取り組んでいて、海外にも目を向けているところが大きな決め手になりました」。

デルは4つのトランスフォーメーションにフォーカスしてお客様のIT環境を支え成長に貢献する

 また、デルのメリットとしては「今回の協業はデルにとって、すぐに利益を生むものではありません。しかし、創業者であるマイケル・デルが掲げた社会に貢献するというミッションに沿ったものであり、須崎市での最適な使い方の実例を紹介できるという点としてはメリットがあると思っています」と語りました。

 取り組みはまだ始まったばかりのため、これからヒアリングをして、 提供する機材を決めることになるとのこと。デルが協業することに賛同したインテル ビジネス・クライアント マーケティングディレクターの飯田真吾氏は、「高知新聞の調べによると、高知県の企業における働き方改革の取り組みは、66%と進んでいます。しかし、テレワークの活動に関してはあまり進んでいません。インテルではICT基盤を使ったテレワークの可能性について、注目しており、労働力の減少のなかで、いかに柔軟な働き方で業務効率を上げていくのか。それにはテレワークが大きな貢献をすると考えています。
 インテルが働き方改革を推進する機材として考えているのは、2 in 1マシンです。職場の概念が大きく変わりつつあり、オフィスと言う限られた場所のビジネスから、場所を問わないビジネスへ。2 in 1マシンを活用すれば、より業務効率がアップします。デルと協業することで働き方改革を全面的に支援していきたいと考えています。インテルの持つさまざまな技術を使ってデルと一緒に働き方改革を実現していきたい」と意気込みを語った。

インテル ビジネス・クライアント マーケティングディレクターの飯田真吾氏

 福井県鯖江市との協業成果として、これまで毎年4月の統計では人口が減っていましたが、2017年は初めて増加に転じています。空き屋を使ったサテライトオフィスの活用や、テレビ会議システムを主婦が使いこなして情報交換をするなど、パソコンを活用することによる成果もあがったとのこと。今回2件目となる須崎市との協業も、働き方改革の推進だけでなく、移住受け入れのほか、サテライトオフィスによる若者が働く場所の確保などによって、過疎化が抑止されれば、産業も活性化して税収も上がり好循環へとつながっていきます。今回の協業も成功すれば、デルやインテルに地方自治体から支援をお願いする声が高まるかもしれません。