ワーキング革命 - 第26回

テレワークの真実を商材に結びつけるレノボの働き方改革

PCベンダーのレノボ・ジャパンは2005年からテレワークに取り組んできた。2016年の4月からは、社内の制度として正式に導入し、制限のないテレワークを実践している。社内のアンケート調査では、生産性が向上したと47%が回答し、ワークライフバランスへの影響を78%が評価している。それでも、ある時期に意識と行動で大きなギャップが生じる問題が発生した。そうした経験から、レノボ・ジャパンでは「テレワークの驚くべき真実」というレポートを作成し配布している。

文/田中亘


この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

公式サイトはこちら→ PC-Webzine

意識と現実の大きなギャップ

 レノボ・ジャパンが2015年11月にテレワークのパイロット実施を開始したときに、その利用率は90%以上という高いものだった。その後、2016年3月に正式な制度として導入がスタートすると、4ヵ月後には利用率が30%へと激減した。社内の調査では、80%以上の社員がテレワークに賛成しているのに、意識と行動には50%ものギャップがあったという。

 その理由を探っていくと、二つの大きな問題が現れた。「上司がテレワークに否定的」という意見と「上司や同僚がテレワークをしないため実施しづらい」というもの。周囲に配慮して仕事をする日本人としての気質や企業文化が、テレワークという自由な働き方に対するブレーキになっていたのだ。

 この問題を改善するためにレノボ・ジャパンでは、テレワークを促進するイベントを開催したり、トップダウンでメッセージを発信し、テレワーク・デイを定期的に設けるなどの施策を行った。その結果、4ヵ月後の2016年11月には、利用者が60%まで回復したという。

 こうした経験からレノボ・ジャパンでは、テレワークの実践にはツールを導入して体制を整えるだけではなく、継続的な施策による従業員の意識改革も重要だと指摘する。実際にレノボ・ジャパンに取材したところ、意識改革が促進される以前は「すみません。テレワークします」という気持ちで会社に来ないことに後ろめたさを感じるケースが多かったという。

ITツールを制度や文化の観点で提案

 レノボ・ジャパンでは、自社の経験を単なる事例として紹介するのではなく、積極的な営業ツールとしても活用している。テレワークに代表される「働き方改革」は、今や日本の社会や産業を改善するための重要なテーマであり、企業の大小を問わず関心を寄せる経営者は多い。

 実際に企業の中で働き方改革に取り組む部門といえば、通信やデバイスの面倒を見るIT部門ではなく、総務や人事、経営戦略室など、組織の中枢や意思決定層に近い部門が担当している。そのおかげで、これまではIT部門としか会話できなかった営業担当者が、テレワークや働き方改革というテーマで訪問すると、総務部や経営中枢に近い人たちから相談を受ける機会が増えたという。レノボ・ジャパンの営業効果は、PCベンダーに限らず「IT商材を扱う営業部門」にとって、共通したベストプラクティスとなる。働き方改革につながるITソリューションを「制度」と「文化」という観点から提案することで、新たな営業の接点を開拓できるのだ。

 テレワークで実際に成果を出すためには、「出先や家庭で利用するデバイスも重要になる」とレノボ・ジャパンは提唱する。これまで、デスクトップPCや15インチのノートPCで作業をしてきた内勤者が、持ち運びを考慮して小型のデバイスを使うと、画面の小ささから作業効率が低下してしまうケースもある。Officeを使った作業やWebブラウザーでの調べものなど、PCの画面は広いほど多くの情報を表示できるので作業ははかどる。

 そこでレノボでは、「ThinkPad X1 Carbon」や「ThinkPad T470s」など、14インチのモデルでありながら軽量で堅牢なモバイルPCの利用を提案している。実際にこれらの最新モバイルPCを目にすると、ベゼルが薄くて画面が広く、14インチとは思えない軽さに驚く。3~5年前の15インチモデルと比べると、はるかに高性能に進化している。こうした最新のモバイルPCも、先の企業文化への取り組みと合わせて提案すると、顧客企業には受け入れてもらいやすい。

ほぼ無人となったレノボ・ジャパンのオフィス(テレワーク・デイ/2017年)。

トップマネジメントの意識を変革

 レノボ・ジャパンのテレワークが成果を出している背景には、やはり経営トップの積極的な取り組みがある。社長が率先してテレワークを活用して、オンライン会議に参加するなど、会社にいなくても仕事がはかどる様子や、上司や同僚に気兼ねしないで働ける風土を育てることで、全社員の利用を後押ししている。

 しかし、テレワーク関連の商材を提案する企業のすべての経営者が、風土の大切さを認識しているわけではない。中には、「決まりだから」とか「制度として推進しなければならないから」という理由で検討している例もある。そうした後ろ向きな意識に対して、IT商材の提案だけでは、変革を後押しできない。少し時間はかかっても、レノボ・ジャパンのレポートのような「テレワークの問題点から、改善のための取り組み」を丁寧に説明していくような手順が大切になる。

「出社することが仕事」と思っている古い世代に対して、柔軟な働き方が個人のワークライフバランスに寄与するだけではなく、チームや組織、さらには事業や会社全体にとっても、業績や効率化において効果をもたらすのだと納得してもらう必要がある。

 例えば、首都圏に通勤する多くの人は、週のうち1~2日だけでも朝の通勤ラッシュを避けてテレワークができるようになれば、それだけ前向きに仕事に取り組めるようになる。車を中心に移動している地方の営業担当者でも、テレワークの実践で直行直帰が増えれば、より多くの客先を訪問しようと積極的に行動するだろう。そうした効果や期待を丁寧に伝えていけば、トップマネジメントの意識変革を促せる可能性は高い。

 ワーキング革命に対して消極的なトップマネジメントは、世の中の趨勢がテレワーク型になったときに、時代から取り残されてしまうだけではなく、新しいビジネスチャンスも逃してしまう危険性すらある。そんな危機感も共有しながら、テレワークを定着させるためのデバイスと風土改革の提案は、大きなビジネスチャンスとなっている。

(PC-Webzine2018年5月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系ITまで、広範囲に執筆。代表著書:『できるWindows 95』、『できるWord』全シリーズ、『できるWord&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

公式サイトはこちら→ PC-Webzine