東京無線、AIタクシー導入でドライバー不足解消に期待



急ぎの時にタクシーを止めようとしても、なかなかタクシーが現れない…。
そんなイライラを解消してくれるのがAIタクシーだ。
AI(人工知能)が、現在から30分後までのタクシー乗車需要を予測し、タクシーに乗りたい人がこのあたりに現れるはずと、ドライバーに教えてくれるのだ。
この春、AIタクシーを導入した日本最大級の無線配車グループ・東京無線協同組合を訪ねた。

文/豊岡昭彦


過去の運行データと「モバイル空間統計」のリアルタイム版を活用

 東京無線協同組合(東京無線タクシー)は、東京23区と武蔵野市、三鷹市にある53のタクシー会社が加盟するタクシーの無線配車グループ。無線配車というのは、客からの電話を受けると、街中にいるタクシーに連絡して、客先に配車するという業務を協同で行うもの。同組合に所属するタクシーの総台数は約3760台と日本最大規模。本年2月から順次利用開始し、現在までに組合に所属する総台数の3分の1にあたる1350台にAIタクシー(※)機能を搭載した。AI(人工知能)を利用するAIタクシーとはどんなタクシーなのか。どんなメリットがあるのかについて尋ねるため、同組合を訪問した。

東京無線協同組合の副理事長の村澤儀雄氏。日本自動車交通株式会社の代表取締役社長も務めている

 東京無線協同組合の副理事長で、日本自動車交通株式会社の代表取締役社長の村澤儀雄氏は、AIタクシーを導入した意図について次のように語る。

「少子高齢化が進む日本では、労働人口が減り人手不足になっていますが、それはタクシー業界でも例外ではありません。そこでこれまでドライバーの中心だった熟年男性だけでなく、主婦や若い男性などでも働ける環境を作りたいと、カーナビゲーションを導入するなど、ドライバーの働く環境を整備しようと努力してきました。そういうなかで一昨年、NTTドコモからAIタクシーの実証試験の話がありましたので、協力させていただきました」

 今回のAIタクシーは、NTTドコモ(以下、ドコモ)が開発したシステムで、ドコモの携帯電話ネットワークの仕組みを使用して作成される人口の統計情報で、性別・年齢層別などの人口構成を知ることができる「モバイル空間統計」のリアルタイム版(※)と東京無線協同組合の運行データ、気象情報などをAIが分析し、需要を予測するものだ。

「当組合では2004年5月から、順次カーナビゲーションと連動したデジタル無線⾃動配⾞システムを導入しました。これはタクシーにデジタルGPSを搭載し、無線配車センターから各タクシーがどこにいるか、実車か空車かということがすべてわかるものです。この14年分のデータがすべて蓄積されていました。さらに、このシステムに対応していないタクシーも料金メーターの自動日報機能で、走行記録がすべて残っていました。こうした当組合の運行データと、ドコモの「モバイル空間統計」のリアルタイム版を活用し、気象データなども加味して、AIが需要予測をし、その結果がタクシーの画面に表示されます」

AIタクシーのイメージ。ドコモの「モバイル空間統計」のリアルタイム版、東京無線協同組合のタクシー運行データに加え、気象情報なども加味して、需要を予測する( NTTドコモサイト「AIタクシー」ページより転載)

30分後の未来を予測し、客の待ち時間を減らす

 AIタクシーの運転席にある画面には、周辺の地図が500m四方のエリアに区切られて表示され、そのエリア内の現在から30分後までのタクシー乗車台数の予測値が10分ごとに表示される。

「これまでは遠距離のお客様をお送りすると、ドライバーは馴染みの場所まで空車のままで戻るのが一般的でしたが、このシステムを使えば、お客様を降ろした場所の周辺で、どの場所に行けばお客様が見つかるかが予測できるのです。その結果、ドライバーは見知らぬ土地でも容易にお客様を見つけることができます」

 2016年12月から4カ月間行った実証試験では、実車率が約3%アップし、新人ではタクシー車両1台あたり平均で1日に3000~4000円アップした。また、予測の正解精度は92.9%だった。この結果を受けて、同組合ではAIタクシーを本格的に導入することになったという。

 ドライバーの生産性が上がるとともに、客を乗せずに走る距離が減り、エネルギー消費が減る(燃料代も少なくなる)ため、地球環境にも優しい。そして、村澤氏が何よりも強調するのは、客の待ち時間が短くなり、利便性が上がるということだ。

「AIタクシーの需要予測が当たるということは、お客様側からすると、タクシーに乗りたい時にタクシーが通りかかるということです。AIタクシーでは、ドコモの「モバイル空間統計」のリアルタイム版で駅に通常よりも多くの人がいる時は、電車が止まっていると判断して、そこの需要数を多く表示します。電車が止まって困っているお客さんたちに向けて、タイムリーにタクシーが集まるということになります」

ドライバーの労働環境の改善とフレキシビリティを

 AIタクシーでは、画面に需要予測が表示されるだけで、必ずそこに向かわなければならないわけではなく、その判断はドライバーに任されている。ベテランであれば、AIの予測よりも自分の勘や経験を重視することがあってもいい。その意味では、AIタクシーは新人のドライバーが使用することで、より多くの効果が期待できる。

「AIタクシーを使えば、新人のドライバーでもベテランと同じようにお客様を捕まえることができ、ルートはカーナビゲーションで教えてもらうことができます」

 ベテランドライバーの勘と経験をAIタクシーが代替することができる。村澤氏は、これによって新人ドライバーにも自信を持って仕事に当たってもらえるし、それがドライバー不足の解消につながるのではないかと期待する。

「AIタクシーなら、新人でも不安はない、ちゃんと稼げることをアピールすることで、ドライバー募集にも効果があると思います。また、日中だけ働きたいという主婦や夜だけ働きたいという学生など、さまざまな人に応募していただければ、ドライバーの働き方にフレキシビリティをもたらし、労働環境を改善することができるのではないでしょうか」

 現在、ほとんどのドライバーは朝9時から翌朝4時までの隔日勤務で、働き方のバリエーションはほとんどないという。しかし、女性ドライバーによる昼だけ勤務という勤務体系を組み合わせることができれば、さまざまなシフトを組むことができるようになる。ひいてはドライバー全体の労働環境を改善することもできるのではないかと村澤氏は考えている。

AIタクシーの運転席に表示される画面の表示例。周辺エリアが500m四方のエリアに区切られ、そのエリア内の現在から30分後までの予測値が表示される(A:タクシー乗車台数の予測値 B:乗客獲得確率の高い100m四方のエリア情報 C:乗客獲得確率の高い進行方向 D:需要が高くAIが予測した必要車両数) ( NTTドコモサイト「AIタクシー」ページより転載)

配車のオペレーターへの効果は?

東京無線協同組合のコールセンター。ドライバーへの連絡は、デジタル無線で行われている

 タクシー会社でドライバーとともに、勤務時間の長いのが配車のオペレーターだが、オペレーターへの影響はどうだろうか。

「AIタクシーは、いわゆる“流し”という街中を走りながらお客さんを乗せる営業方法を効率化するものなので、オペレーターの“無線配車”とは直接は関係ありません」

 そう答えてくださったのは、同組合の業務部次長の川地正展氏だ。

「無線配車は、電話やインターネットなどでお客様からコールセンターにご依頼をいただき、お迎えに上がる方式です。オペレーターが対応する電話でのご依頼のピークタイムは朝の7~10時になっており、この時間にはできる限りの人員を割いて、電話対応していますが、それでも全部には対応できない状況になっています。しかし、AIタクシーが普及すれば、電話しなくとも街中でタクシーを拾うことができるようになりますので、ピーク時間帯になかなか電話がつながりにくいという状況の改善が進み、お客様の利便性向上に役立っていけるのではないかと思っています」

副理事長の村澤儀雄氏(左)と、業務部次長の川地正展氏(右)

 タクシーのドライバーの生産性が上がるとともに、労働環境の改善にもつながりそうなAIタクシー。利用する客の立場としても、乗りたい時にすぐにタクシーが捕まるのは、とてもうれしい。タクシーの新しい可能性が広がりそうだ。

※ドコモの「モバイル空間統計」のリアルタイム版は、エリアごとや属性ごとの集団の人数を示す情報であり、ユーザー個人を特定できる情報は一切含んでいないため、この人口統計によりユーザー個人の行動が他人に知られることはない。なお、「モバイル空間統計」のリアルタイム版は、ドコモの モバイル空間統計ガイドラインに基づいて運用される。

※「AIタクシー」「モバイル空間統計」は株式会社NTTドコモの登録商標です。

筆者プロフィール:豊岡昭彦

フリーランスのエディター&ライター。大学卒業後、文具メーカーで商品開発を担当。その後、出版社勤務を経て、フリーランスに。ITやデジタル関係の記事のほか、ビジネス系の雑誌などで企業取材、インタビュー取材などを行っている。