女性労働力活用のために、企業が超えなくてはならないハードルとは?



労働力不足が進行する日本で、現在は仕事を離れている潜在的女性労働力の活用に関心が高まっている。行政もさまざまな政策でそれを支援しているが、まだ十分な成果を得られているとは言えないだろう。女性労働力を求める企業と、新しい就労機会やキャリア構築を希望する女性たちとは、これからどのように関係を構築していけばいいのだろうか。

文/狐塚淳


女性が活躍できる社会に向けて

少子高齢化、労働力人口の減少が進むなか、女性の活躍への期待が高まっている。従来、最も大きな働き手の割合を占めてきた成人男性労働力の減少を補うためには、最初にRPAの導入などIT利用の推進が考えられるが、人材の確保という点では、2つとも女性とシニア、外国人労働者を労働力として積極的に活用するという可能性しかない。そして、これらのうちどれか一つを選択するのではなく、すべての可能性を探り、作業効率化と労働力増加の施策を推し進めていかなければ、人口減少のスピードに追い付けない。

女性の就労のあり方という問題は古くから議論されてきたが、現在のように関心が高まってきたのは、第二次安倍政権が、社会のために女性の力が発揮されることの重要性に注目し、平成26年10月に「すべての女性が輝く社会づくり本部」を設置してからだろう。その後、待機児童対策をはじめ、女性の就労支援、女性活躍に向けた多くの政策が検討、実行されてきた。

平成30年6月に開催された「第7回 すべての女性が輝く社会づくり本部」で、安倍総理はこれらの政策の成果として、女性就業者が200万人増加し、25歳以上の全世代で女性就業率がアメリカを上回ったことに触れ、「女性活躍加速のための重点方針2018」として、男性国家公務員の産休100%取得など今後の取り組みを決定した。

政府方針と足並みを揃えるように、各省庁や地方自治体でもさまざまな女性の労働支援に向けた活動が行われている。たとえば経済産業省では平成24年から女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定・発表しており、女性の活躍できる企業が優良企業であり企業価値が高いという観点を表明している。「なでしこ銘柄」としては、東京急行電鉄とKDDIが初回から6年連続して選ばれ続けているほか、働き方改革に先進的に取り組んでいる多くの企業が選定されている。

また、各自治体の女性就労支援の動きも活発だ。北九州市では平成28年5月に、女性の就業相談やキャリアアップ、創業、子育てとの両立などについて総合的な支援を行う「ウーマンワークカフェ北九州」をオープン。国・県・市の3者が連携して、それぞれの強みを生かし、ワンストップによる総合的な支援を行い、女性の就労を応援する枠組みを提供している。

働く女性の実情と課題

現在、日本の労働力全体のなかで、女性の占める割合はどうなっているのだろうか? 厚生労働省の「平成28年版働く女性の実情」によると、労働力総人口に占める女性の比率は43.4%で前年より0.3%上昇し、女性の雇用者数は2,531万人。また、女性の完全失業者数は前年より6万人減少し82万人となっている。女性の雇用は上昇方向で、15歳以上人口に占める労働力人口の割合を示す「労働力率」は、平成28年には女性は前年度比0.7%上昇したのに対し、男性は0.1%の上昇にとどまっている。

女性が活躍できる社会に向けた動きは少しずつ進展しているが、そこには解決すべき課題もある。最大の問題は女性の収入が低く抑えられていることだ。国税庁の「平成28年分民間給与実態統計調査」によれば、男性の平均給与521万円に対し、女性は276万円。また、同調査には正規485万円と非正規171万円という数字もあるため、単純な男女の給与格差に加え、女性の方が非正規が多いことが読み解ける。もちろん扶養控除の上限に合わせて働く女性もいるが、それ以外でもパートやアルバイト労働では、年収100万円台の層がかなりの割合を占めることになる。

ここで考える必要があるのが、女性の再就労とキャリアの問題だ。出産や育児、介護で正社員としての就労を中断した女性のキャリアを継続させる仕組みを持っている企業は少ない。出産休暇はあるが、子育ての期間をすべてカバーできるわけではない。最近では男性が介護のために、キャリアを中断するケースも増加してきたが、まだまだそうした立場に身を置くのは女性の方が多く、キャリア再開の悩みを抱えている。

これは、多くの専業主婦が存在した高度経済成長時に成立した社内制度を引きずっている企業が多いためだ。終身雇用制を背景に男性が会社で猛烈に働き、女性は家事や子育てを受け持つという分業制のなかでは、「腰かけ」「寿退社」など、今では差別的にさえ受け取られる言葉が市民権を持っていた。

当時の主たる労働力であった男性社員が、定年まで一つの会社で仕事を全うすることが当たり前であったために、それを基準とした労働の枠組みが定着してしまった。数年にわたる就労の空白期間を持った人間を活用する仕組みが、日本の企業には必要とされていなかったために、現在そのマイナスの影響を最も強く被っているのは女性だ。

そのため、再び働くことを希望しても、パートや非正規などの選択肢しか見つからず、低い賃金での労働を選ばざるをえないケースが少なくない。しかし、今も多くの女性が経験する就労の中断、キャリア構築機会の消失について、解決が準備されなければ、真の女性が活躍できる社会は構築されない。キャリアからいったん離れた時点に近い収入を得て、今後新しいキャリアを積み重ねていける環境や枠組みが必要だ。

女性のキャリア再構築に向けたマッチング支援

行政が数々の施策を行っても、労働力を求める企業と、働く意思を持つ、再就労希望の女性のマッチングはまだまだうまくいっていない。「企業の側が意識を変革し、新しい取り組みとして女性の採用を考える必要があります」と、Warisで女性の再就労マッチング事業「Warisワークアゲイン」に取り組んでいる小崎亜依子氏は指摘する。

Warisは現在、女性のための再就職支援サービス「Warisワークアゲイン(以下、ワークアゲイン)」と、フリーランス女性と企業とのマッチングサービス「Warisプロフェッショナル(以下、プロフェッショナル)」の2つのサービスを提供して、女性の就業を支援している。

Warisワークアゲイン事業統括/Waris Innovation Hubプロデューサーの小崎亜依子氏

⽂系総合職のフリーランスとして、プロジェクト単位の仕事などをマッチングする「プロフェッショナル」は、Warisが創業時から取り組んでいるサービスで、すでに登録者も5,500名を超えている。会社員10年前後の経験があり、専門スキルを持っている人が向いているそうだ。

「サービス登録者の3分の2がフリーランスを希望します。⼦育てとの両⽴など、バランスのいい働き⽅が可能なためです。しかし、自己管理や責任も大きくなるため、私たちは安易にフリーを勧めることはしません。キャリアカウンセリングなどによって適性を判断したうえで、⼀緒に可能性を探っていきます」と、⼩崎⽒はいう。

Warisでは、高い専門性を持ち、取引先企業と対等な関係で、企業の組織変革やイノベーション創出の触媒としての役割を担う「変革型フリーランス」に注目している。変革型フリーランスは、「ビジョン・モチベーション」「ヒューマン・キャピタル(能力・スキル)」「ソーシャル・キャピタル(ネットワーク)」をバランスよく持っている必要があるという。こうした人材が増えていくことで、女性の収入が低く抑えられているという問題も解決していくはずだ。

また、企業としてはフリーランスを使う場合には、仕事を明確化しないと成果をあげることが難しいが、社内スタッフがどんな仕事を発注すべきかをぼんやりとしか把握していないケースもあり、その場合、Warisがヒヤリングして課題を明確化したうえでマッチングに進むという。

一方、Warisが2016年から取り組みを開始した「ワークアゲイン」は、経営企画、マーケティング、広報、人事、経理、営業、事務職など文系総合職経験者の再就労のためのマッチングだが、その特徴は、インターン制度を組み込んでいる点にある。「再就職の前に1~3カ月のインターン期間を置くことで、希望者と企業のミスマッチを防ぐことができます」と小崎氏は説明する。小崎氏自身、最初の勤務先を退職後、出産などで6年のブランクを経て再就職しているこの道の経験者だ。

例えばパートナーの転勤で10年間の離職期間がある場合、フリーランスとしては企業に紹介するのは難しいが、それ以前に十分なキャリアを積んでいれば、その経験・能力を生かせるかどうかを、実際に職場でインターンとして一定期間働いてもらうことで、企業と応募者の双方で適性などの判断が可能になる。この仕組みでインターンを経験した8割程度が採用に結びついているという。

行政の仕組みづくりだけでは、女性の再就労環境を整えることはなかなか困難だが、Warisのような民間のマッチング支援サービスがボトムアップで成功例を作っていくことで、企業サイドの取り組みに変化を促し、新たな女性のキャリアが構築可能な時代が訪れる可能性が生まれるのではないだろうか。

「しかし、女性の新しい就労の形を理解してくれる企業の数はまだ多くはありません。そこがハードルになっています。企業とお話しして、やってみようという方との出会いがあって初めて前に進むという形です。新しいことはやりたくないという方はとても多いので、自分もそういう立場になるかもしれないというリスクを理解し、共感していただくことが前提です」(小崎氏)

人手不足が進行する現在、企業の人事は従来の募集のやり方に固執していては、人材確保は困難になってきている。HR(ヒューマン・リソース)部門に求められるのは、攻めの人事、新しい取り組みへのチャレンジだ。そして、それは企業にとって、人材確保にとどまらない可能性を提供する。

「これからの企業にとって、女性活用に向けて、自社の仕組みを変えていくことは重要です。イノベーションによる企業価値の向上を求めるなら、これまでと同じ経験を続けていくだけでは難しいでしょう。変化を求めた人材の活用は企業のブランディングにもなります」(小崎氏)

現在、企業がさらされている変革状況への有効な戦略として、従来とは異なる女性の就労、キャリア構築のチャンスを提供するWarisのような取り組みは、企業にも働き手にも変化をうながす。行政の取り組みだけでは十分とは言えない、女性が活躍できる社会の在り方を民間サイドからバックアップしていくことで、企業・働き手双方の意識変化をスピードアップしていくことが可能となるのではないだろうか?

筆者プロフィール:狐塚淳

 スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。