特集 働き方改革再入門

【緊急回】災害大国ニッポン――いまこそBCP(事業継続計画)の策定と見直しを



安全確保のあとに待つ困難に対策せよ

2018年6月18日、大阪府北部を襲った震度6弱の地震をきっかけに改めて浮き彫りとなった「BCP(事業継続計画)」の重要性。安全確保はもちろんのこと、その先に待っている操業停止や出社困難による会社存続の危機をいかに乗り越えるか――。それも働き方改革の一部と言えるだろう。

文/まつもとあつし


活かされなかった教訓

 今回の地震で被害を受けられた方に謹んでお見舞いを申し上げます。

 6月18日に大阪府北部を震度6弱の地震が襲った。6700棟を超える住宅が損壊、そしてパナソニックなど工場の操業停止・イオン系列をはじめとする小売店の営業停止や観光への影響などにより経済損失は約1800億円に達するとみられている。

 この地域は大阪中心部で働く人々が暮らすベッドタウンにもなっており、朝7時58分という通勤時間帯を襲った地震は、職場に向かう人々を直撃する形となった。

 混乱は地震後も続き、JR西日本など、在阪鉄道各線は地震発生直後から列車の運行を中止。沿線の道路が大渋滞となったこともあり、安全確認には長時間を要した。東海道新幹線が12時50分から運転を再開したのに対し、新大阪駅からの乗り継ぎ路線(北大阪急行・JR在来線)が終日運休となり、数時間タクシーを待つ行列が続いた。

 なんとか職場にたどり着いた人々も帰宅の足がなくなり、やむなく徒歩で帰宅した。大阪市内と大阪北部を結ぶ淀川大橋には沢山の人が押し寄せ、車道にあふれながら1キロ近い橋をわたることになった。

 ニュースで地震の様子を見て、東日本大震災の際、東京都内でも交通が寸断され、多くの人が帰宅困難に陥ったことを思い起こした読者も多かったはずだ。今回の地震は阪神淡路大震災よりも地震の揺れは小さく、その範囲も狭いものだったが、道路の渋滞はより広い範囲に及び、エレベーターに閉じ込められた人の救助にも長時間を要している。

 余震や火災が起きている状況では、主要な道路を大勢の人やクルマが移動しているだけでもリスクは非常に大きなものとなる。NHK等では不要不急の外出を控えるようアナウンスも繰り返されていたが、幹線道路の交通規制が適切に行われていたか、また登校・出勤を控える連絡がより迅速に行えなかったのか、など反省すべき点も多い。日本は地震大国であり、いつ・どこで大きな地震が起こってもおかしくない。これまでの教訓が活かされていたとは残念ながら言えない、というのが正直なところだ。

いまこそBCP策定・見直しを

 今回の地震でも改めて浮き彫りになったのは、たとえ範囲が限られた災害であったとしても、思わぬところで企業活動に影響を及ぼすことがあり、それが明らかになってから対策を講じても遅すぎるということだ。企業においては、社員の出社や操業が困難になる、取引先も事業を停止する恐れが出てくるという前提のもと、主要な事業をどのように継続し、会社を維持していくのか、対策を事前に想定しておく「BCP(Business continuity planning=事業継続計画)」の策定や、経営環境の変化に応じた改定が不可欠だ。

 これまでも職場における防災対策としては、ヘルメットや非常用の水などを準備する、什器を固定する、避難訓練などといった取り組みは行われてきた。しかし、いざ災害が起こった際には、怪我をしない・安全に避難をするというのは、最低限の備えでしかないのだ、ということも肝に銘じておく必要がある。地震の揺れのあとに生じてくる危機への備えがなければ、事業が継続できなくなったり、従業員の解雇を余儀なくされるなど経営そのものが危うくなってしまうからだ。

 中小企業庁ではBCP策定のためのマニュアル「中小企業BCP策定運用指針」を入門編・基本編・中級編・上級編の4段階に分けて用意している。誰でも無料で利用でき、問い合わせ窓口も設けられているため是非活用したいところだ。策定にあたっては、BCP取り組み状況を確認できるチェックリストも利用できる。

現在の事業継続能力を診断できる「BCP取組状況チェック」

 このチェックリストでは連絡網の有無、ビルの耐震性といった基本的な項目に加えて、「1ヵ月分程度の事業運転資金(キャッシュフロー)があるか?」「情報のコピーまたはバックアップを社外でとっているか」「取引先・同業者と相互支援の取り決めがあるか」など、災害発生時に初めてその必要性を意識することになる項目が押さえられている。復旧に必要な金額を算定するエクセルシートもダウンロードできるので、活用を図って欲しい。

 各地で地震が相次ぐ中「減災」という言葉が注目され始めた。「防災」が被害を出さないことを意識させる言葉であるのに対して、「減災」は被害が出ることを前提として、その被害をできる限り小さくしようという考え方のもと、対策を事前に講じておくというものだ。

 BCP検討の中でもバックアップ・リモートワークを普段から行っておくことが、災害発生時の減災、事業継続性に大きく影響を与えることがわかる。スマートワークの実践は、災害に対しても最大の備えになるのだ。

災害時の企業継続を助ける一手
「ソリューションファインダー」で見つけられます

 貴社に必要なソリューションを簡単に検索できる「ソリューションファインダー」では、今回のような災害のほかセキュリティー被害時などにも効果を発揮するソリューションを見つけることができます。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。