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2019/03/29

働き方改革のキーワード - 第16回

働き方改革のベンチマークは幻だった!?――「名目賃金と実質賃金」


統計問題から一躍注目の的に

国会を揺るがした毎月勤労統計問題。論戦が進むにつれて「名目賃金と実質賃金」という言葉が注目され始めた。今回はそれぞれの指す意味をあらためて確認するとともに、この統計の信頼性が落ちることで働き方改革の進捗に黄信号が灯ってしまう理由を解説する。

文/まつもとあつし


似ているけれど意味合いが異なる2つの言葉

 国会が統計で揺れています。厚生労働省が行う従業員500人以上の大手企業はすべて調査するはずの「毎月勤労統計」で、東京都において対象の3分1しか調査されていないことが判明したのです。この結果、失業手当の算出根拠である賃金が低く集計されていたため、手当を本来受け取れる額よりも低く支給していた可能性があり「統計偽装ではないか」という批判も高まっています。本コラムではこの問題そのものではなく、この論戦のなかで一躍注目を浴びることになった「名目賃金と実質賃金」というキーワードに焦点をあてます。

 国会ではここから更に「実質賃金が下がっているからアベノミクスは失敗ではないのか」「いや名目賃金や総給与所得が上がったのでそんなことはない」といった論戦が展開されています。この2つは何が異なっているのでしょうか?

 名目賃金は簡単にいえば、給与明細に記載され支払われる「金額」そのものです。一方、実質賃金はこの名目賃金を「消費者物価指数」で割った数字です。つまり、物価が上がれば、可処分所得が減るので、実質的な賃金としてはたとえ金額が同じであったとしてもその価値は下がってしまうというわけです。

 これまで政府はデフレ脱却を掲げ、日銀は2%という物価(上昇)目標を定めてきました。つまり、政策的に物価を上げようという取り組みが進んでいますので、賃金がそれ以上に上がらなければ、実質賃金はどんどん下がっていってしまうということになってしまうのです。社会保険費も増加傾向にあるなか、実質賃金が上がらなければ、可処分所得も増えず、アベノミクスが目指す景気回復は絵に描いた餅になってしまいます。実際、企業業績が伸びているにもかかわらず、個人の景況感を示す各種指標は低い水準に留まっているのです。

現在の景況感 [前年対比] (日本銀行「生活意識に関するアンケート調査 第76回〈2018年12月調査〉の結果」より)

 もちろん実質賃金も万能な指標ではありません。名目賃金での評価を主張する意見の中には「景気対策によって新規雇用が増えた=比較的低い賃金で雇用される人の割合が増えた」として、実質賃金は下がる傾向にあるのだというものもあります。こういった主張はたしかに頷ける部分もあるのですが、だからといって実質賃金と景況感を無視することもできないのではないでしょうか。

働き方改革とも密接な関連が

第一章 総則

  (目的)

 第一条 この法律は、公的統計が国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報であることにかんがみ、公的統計の作成及び提供に関し基本となる事項を定めることにより、公的統計の体系的かつ効率的な整備及びその有用性の確保を図り、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。

(統計法より)

 政府が進める「働き方改革」では「同一労働同一賃金」が掲げられ、また長時間労働の禁止=残業代の削減も求めていく方向で法改正が行われてきました。つまり、正規・非正規雇用の賃金格差を無くすこと、さら残業とそれに伴う残業代を減らしつつも、トータルの賃金そのものはあげていくよう企業には努力が求められています。

 このように賃金は働き方改革におけるベンチマーク(水準点)となっています。その賃金を測る統計に誤りがあっては、企業としても賃金の上昇は一体どのあたりを目指すべきなのか、そのために働き方改革の取り組みにどの程度投資すればよいのか、という基準が不明確になってしまいます。あるいは仮に景気はこれまで発表されてきたほど良くなっていないのであれば、10月に控えている消費税増税と更なる景気後退に備え、賃金の増加はやはり抑制すべきではないか、といった懸念すら生じることになってしまいます。

 いま野党は2018年の実質賃金の参考値を明らかにするよう求めていますが、これに対し政府・与党は「再集計が困難である」ことを理由にこれに当面応じない方針を示しています。しかし、統計の正確性は企業にとっても重要な指標です。また統計についての各種取り決めを定めた統計法でも、当然ながら正確さが強く求められています。何をさておいても、信頼のできる数字を早急に示す努力をしてもらいたいと思います。

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筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。

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