今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第12回

働き方改革の次はこれ! 令和時代には「DX」が求められる


『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓 著

5年後に「崖」が待っていると言い切った経済産業省による衝撃的なレポート。そのタイトルには「DX」なる耳慣れない単語が掲げられていた。DX=デジタルトランスフォーメーションは、働き方改革の次に来る、避けられない変革の波だ。本書はその必要性を解説してくれる。

文/成田全


最大12兆円の経済損失になってしまうかも?

 経済産業省は2018年、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』という文書を公開した。今一度よくタイトルを見てほしい。「2025年の壁」ではなく「崖」だ。行き止まりや袋小路に迷い込み、「最悪戻ればいい」という退路がある状態ではない。落ちたら一巻の終わりの断崖がこの先に待っているかもしれないというのだ。これは穏やかではない。

 「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」のことだ。これは2004年、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、古くなって現代のスピードについていけない既存の経営の仕組みや事業のあり方、仕事の進め方や働き方などを、新たなデジタルテクノロジーによって再構築することを意味している。

 もし日本の企業などがデジタルトランスフォーメーションを取り入れず、現行のビジネスの維持・運営を続けると、古いシステムが複雑化・ブラックボックス化し、2025年以降には1年あたり最大12兆円の経済損失が生じる……経済産業省のレポートの中身はこんな衝撃の内容なのだ。しかもこの損失額、なんと現在の3倍だという。働いても働いても巨額の損失が増え、やがて事業や社会が立ち行かなくなる悪夢のような未来……これを経済産業省は「崖」と表現したのだろう。もちろんそんなディストピアな状態は誰も求めてはいない。

 しかしデジタルトランスフォーメーションの重要性は理解しているが、正直どう進めたらいいのか……そんな変化に悩める人のために書かれたのが『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』だ。

オフラインはやがてなくなり、世界は「アフターデジタル」となる

 あらゆる方面において凄まじい勢いでデジタル化が進み、ビジネスに変革が起きている中国在住で、ドラスティックな変化を肌で感じている株式会社ビービットのコンサルタントである藤井保文氏と、IT批評家の尾原和啓氏の共著である本書。「まえがき」の冒頭には「『デジタルトランスフォーメーション』を行いたいと思いつつも、『何をしたらよいのか分からない』と悩んでいる方に向けて、『変革の武器』として使っていただくことを想定しています」とあり、悩める人の力強い味方となってくれる一冊だ。

 中国の都市部やアメリカの一部、エストニアといった北欧の国々では、すでにオンラインとオフラインの主従逆転が起きている現代。IoTやカメラといった各種センサーによるオフラインとオンラインを結ぶ接点が増え、人間行動のすべてをオンラインデータ化することがさらに進むと、オフラインがデジタル世界に包含される……そんな世界を本書では「アフターデジタル」と呼んでいるのだ。

データは「インフラ」になる

 オフラインを軸にしたオンラインの活用を考えている日本は、世界の最先端から一歩や二歩どころではない遅れを取っている「ビフォアデジタル」の状態だと指摘する本書は、ビフォアからアフターへ移行するにはどうしたらいいのか、段階を追って解説している。

 第1章では世界の先進事例を紹介。アフターデジタルへとアップデートされた世界がどういったものになるのか、理解を深めることができる。

 第2章では、この本の英文タイトルでもある「Online Merges with Offline=OMO」が説明される。OMOはオンラインとオフラインが融合した社会のことであるが、本書ではここから一歩踏み込み、デジタルトランスフォーメーションに成功したアフターデジタル時代の企業が共通して持っているという「オンラインとオフラインが融合し、一体のものとして捉えた上で、これをオンラインにおける戦い方や競争原理として捉える考え方」へとシフトアップするために必要な視点を得ることができる。また「日本企業にありがちな思考の悪例」などの事例もあるので、古くなっていたり間違っている知識を適宜修正できることだろう。

 第3章はOMO型ビジネスへと変革するにはどういった視点が必要なのかが説明され、最後の第4章は日本企業が変革するにはどうしたらよいのか、これまでの知識を総動員し、世界の最先端を知る著者二人からのアドバイスが詰まっている。

 本書には、中国のネット企業「アリババ」でスマートシティを推進する方の発言がある。

 こと都市計画においては、データは資源であり、水や電気と同じ大切なインフラです。ですから、みんなでデータを提供し、活用しないと、街はアップデートされていきません。水がある街とない街、電気がある街とない街は、作り方が違いますよね。データは水や電気と同じです。データを公的資源と捉えて、街や社会を設計していくことが必要だと思っています。

 アフターデジタル社会では、デジタル行動データのやり取り自体が社会インフラのような役割を持つようになり、金融、電力、通信、エネルギーといった社会的な基盤企業の位置づけが変わっていく。ドラスティックな変化が起きるアフターデジタルの世界で生き残っていくには、旧式のやり方を捨て、根本から思考や考え方を変えなければならないのだ。

 膨大なデジタル行動データの使い方についての是非、またデータを集めること自体に懐疑的な意見もあるなど、プライバシーの問題も含め様々な議論がある。しかしデジタルトランスフォーメーションをしない未来には急峻な崖が待っていることを忘れてはならない。より良い未来のためにはどうしたらよいのか、本書を考えるきっかけにしたい。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『プレゼン資料のデザイン図鑑』前田鎌利 著/ダイヤモンド社

スライド設定、フォント、キーメッセージ、グラフ、図解、フローチャート、画像、アニメーション…。これらをどう組み合わせれば”パワースライド”が生まれるのか?見て真似るだけで、あなたのスライドが劇的に変わる実例スライド300枚。はじめてのプレゼン資料デザイン図鑑!(公式サイトの内容紹介より)

『世界基準の「部下の育て方」 「モチベーション」から「エンゲージメント」へ 』田口力 著/KADOKAWA

部下は会社の「資産」ではない/自らの成長を止めた上司は人を育てられない/部下が大事にしている「価値観」を知っていますか?――元GEクロトンビルのマスター・トレーナーが教える「人を育て、導く方法」。1万人の幹部候補を育てることで見えてきた、「部下のエンゲージメント」を高め「成果を出す」マネジャーの新潮流。(公式サイトの内容紹介より)

『任せるリーダーが実践している 1on1の技術』小倉広 著/日本経済新聞出版社

「1on1」とは、「上司と部下の間で、週1回~月1回、30分~1時間程度、用事がなくても定期的に行う1対1の対話」のこと。インテル、マイクロソフト、グーグル、ヤフーなどの外資系IT企業を筆頭に、日本企業にも導入が相次いでいます。働き方が多様化し、かつ、働く人の価値観が多様化している昨今、従来よりもより深いコミュニケーションが求められるはずなのに、逆にコミュニケーションの機会がグッと減ってきています。そんな企業の悩みに対して、1on1が解決策の一つとして注目を集めています。(Amazon内容紹介より)

『2020年4月スタート! 同一労働同一賃金ガイドラインに沿った待遇と賃金制度の作り方』菊谷寛之 著/第一法規

2020年4月1日に適用となる同一労働同一賃金ガイドラインを、同時期施行のパートタイム・有期雇用労働法との関連も踏まえて解説した上で、ガイドラインの趣旨に沿った待遇と賃金制度の作り方を最新の統計・豊富な図表を用いて解説するもの。あわせて正社員・非正社員の統合人事制度を導入した企業事例も掲載(Amazon内容紹介より)

『フィンテック FinTech(やさしく知りたい先端科学シリーズ4)』大平公一郎 著/創元社

その言葉にまだ馴染みはなくても、すでに誰もが利用している技術「フィンテック(FinTech)」。ビッグデータ、AIなどの技術革新に支えられた金融サービスと社会的背景を豊富な実例とともに紹介。身近なキャッシュレス決済をはじめ、ブロックチェーンと仮想通貨、新しい保険サービスのインシュアテックまで、複雑なしくみもイラスト入りでやさしく図解する。話題の先端科学に触れたいという知的好奇心に応えるシリーズ第4弾。(Amazon内容紹介より)

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。