働き方改革のキーワード - 第20回

災害に負けないスマートワーク実現のために


新しいエネルギー網の整備が必要

台風15号による交通機関のパニックは、首都圏の企業であっても災害時の対応策(事業継続計画)が必須であることを示す結果となった。企業に求められているのは、早期のリモートワーク判断など、災害を想定した「出社しなくても業務が継続できる」体制作りだ。

文/まつもとあつし


企業も毎年の大災害への備えが要る時代

 台風15号は千葉県を中心とした地域に甚大な被害をもたらしました。筆者の周りでもまだ電気が通らず困難な状況が続いている人もいます。暴風の影響で設備に大きな被害を受けた工場や商業施設は再開の目処が立たないところも少なくありません。台風の進路が少し西寄りになっていれば東京にこのような被害がもたらされていても不思議ではありませんでした。地球温暖化の影響で異常気象がもはや日常となったいま、あらゆる企業は大災害に備えなければならなくなったと言えるでしょう。

 昨年、特集記事の中でBCP(事業継続計画)策定の必要性について紹介しました。皆さんがお勤めの事業所ではBCPを作成しているでしょうか? またその内容は従業員に周知され、定期的に見直しが図られているでしょうか? あらためて中小企業庁が公開している取り組み状況のチェックリストを確認しておきましょう。

中小企業庁作成の「BCP取組状況チェック」より。

 今回、残念ながら災害に対する備えは首都圏でも整備されていないということが報道等からも明らかになっています。台風15号の影響で、9月9日の朝はほとんどの鉄道が運転を見合わせたものの、「8時~9時頃には再開」とアナウンスされていたため、出社しようとする人が駅に向かいました。しかし、実際には架線に飛来物が引っかかっていたり、接続する他の鉄道のダイヤの影響で、通常通りの輸送力がない状態が長く続き、駅には長蛇の列ができたのでした。対策をとった企業も少なくないはずですが、「午前中はリモートワークとする」といった判断がより多くの企業で取られてもよかったのにという声がTwitter上でも多く見られました。台風の直撃を想定し「出社しなくても業務が継続できる」体制作りが急がれるのです。

国や地方自治体でなければできないことも

 一方で、今回の千葉県や昨年の関西での台風被害を目の当たりにすると、一企業で出来ることには限界があることも思い知らされます。

 いま国は「国土強靭化」の掛け声のもと、建築物の耐震化や港湾・河川の堤防の強化などに数値目標を定め予算を配分し、対策を推し進めています。しかし、今回の台風で明らかになったように、災害そのものに対する備えを全国津々浦々まで行き渡らせることは現実的ではありません。国や地方自治体には、起こってしまった災害に対していかにそこからの復旧を迅速に行い、人的・経済的な被害を最小限に留めるかといった減災の取り組みがより求められるはずです。

国土強靭化推進本部が策定した「国土強靭化年次計画2019(案)」より(PDF)。電力や通信への対策も挙げられてはいるが……。

 台風の被害によって復旧に想定以上の時間が掛かっている電力については、国の現時点での計画は「市街地等の幹線道路の無電柱化」となっており、地方・山間部での送電網が寸断された状況とはかけ離れたものになってしまっているのは気になるところです。

 今回の停電被害であらためて注目を集めているのはスマートグリッドやスマートシティといった、太陽光発電などの自然エネルギーを起点とし、家庭・企業での蓄電設備をネットワークで結ぶ新しいエネルギー網の整備の必要性です。

国土交通省都市局「スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】」より(PDF)。

 上記の図で示されているように、国が描くスマートシティはあらゆる社会問題の解決や経済的な発展も企図されており、「どこから実現できるのか」が見えづらい状況にあるのも事実です。しかし、人命と経済活動に直結する災害対策を切り口に優先順位を定めることは可能ではないかと筆者は考えます。

 もはや避けられない大災害への備えを、新しい会社や地域・国のあり方に繋げていくことができるのかがいよいよ問われているのです。

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筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。