働き方改革のキーワード - 第21回

「インボイス」の衝撃をどう乗り切るか?


早急な経理システム対応が必須に

新制度「インボイス」の導入によって、個人事業主をはじめとする免税事業者は多大な労力を強いられるだろう。そして、あらゆる企業の経理業務にも変更が求められる。経理ソリューションによる解決は急務だ。

文/まつもとあつし


増税、軽減税率導入、そして――

 2023年10月より「インボイス制度」が始まります。これは事業者が国に消費税を収める際のいわば「証拠」となる請求書が、国が定める要件を満たしていなければならないという制度で、フリーランスのような個人事業主をはじめ、あらゆる事業者(※一部例外あり)に影響が及びます。そして、この制度への対応はさっそく始めなければならず、経理業務にも負担が増えることになります。

 インボイス制度は、正しくは「適格請求書保存方式」を指します。これまでも取引に際しては様々な様式での「請求書」を発行してきたわけですが、インボイス制度導入以降は、国が定める以下の記載事項を満たした書類を交付し、保存しなければならないのです。

国税庁 資料より。

 10月1日より始まった10%への消費税率アップでは、景気への影響を最小限とするため特定の商品や、条件を満たせば8%に税率を据え置く軽減税率制度が導入されています。これに伴って、事業者が国に収める消費税についても10%対象のものと8%対象のものを請求書でも明示する必要が生じたわけです(負担その1)。

 かつこの「適格請求書」を発行するためには、所轄税務署に登録申請書を提出し、審査を受け、「適格請求書発行事業者」として登録されている必要があるのです(負担その2)。登録の際に発行される登録番号は適格請求書にも記載しなければなりません。

国税庁 資料より。

 制度導入以降は、上記の条件を満たした適格請求書を発行・保存していなければ「消費税を正しく仕入れ先に支払っていない」ことになってしまいます。つまり、仕入れを行う事業者は、仕入税額控除を受けるために仕入れ先に対して適格請求書の発行を求めていかなければなりません。仕入れ先がフリーランスや個人事業主の場合は、対応に時間が掛かる可能性も高く、上記の登録申請や請求書のフォーマット変更を早めに促していく必要もあると言えるでしょう。

ITによる解決が必須

 なお、これまで前々年の課税売上が1000万円を超えていない、いわゆる「免税事業者」にとっても、取引先から適格請求書を求められれば、申請・審査を経て「適格請求書発行事業者」となる選択をし、これまで免税となっていた消費税を支払わなければならないケースも出てきます(負担その3)。取引を継続するために登録を行い納税するか、取引継続を諦めて免税の状態を維持するか、判断に迷うケースが出てくるかもしれません。その面からも、早めの検討が必要であると言えます。

 増税のインパクトを小さくするための軽減税率導入でしたが、それに伴い控除される仕入税額が複数となり、その証明を残す書類上のコストと、仕入れ先にとっての意思決定コストが掛かることになっています。ニュース等の報道に見られるようなレジ入れ替えや、店頭接客での混乱以上に、根の深い問題となりそうです。いずれにせよ、サプライチェーンにも複雑な影響を与えますので、ITによる解決がもはや欠かせない状況です(幸いにも適格請求書は電子保存も認められています)。

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筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。