特集:ペーパーレス最前線 2020

AI-OCRとRPAの連携でペーパーレスを一歩進める


RPA(Robotic Process Automation)は2018年以降急速な普及を見せている。しかし、デジタルデータに関わる業務を効率化し、単純な繰り返し労働を削減するRPAにとって、企業内のまだデジタル化されていない多くの紙の存在は、さらなる普及を妨げる。そこで注目されているのが、OCRの読取精度を上げたAI-OCRとの連携だ。

文/豊岡昭彦


RPAの利用拡大には、書類のデジタルデータ化が必要

 MM総研は2019年1月の「RPA国内利用動向調査」で、RPAの導入率が3割を超えたと発表している。また、導入済みの企業の8割近くが、利用拡大に前向きであることも伝えている。

 働き方改革を推進するために必要なバックオフィスの業務効率化、生産性向上の有力なツールとして期待されるRPAは、大企業先行で現在普及期を迎えているわけだが、RPAが取り扱えるのはデジタル化されたデータのみであり、未だ多くの企業に大量に保管されている紙の書類をそのまま利用することはできない。

 RPAはすでにデジタル化されているデータでは効率アップという成果を上げられるが、今後の利用拡大を考えていくときには、紙データのデジタル化が必要になってくる。例えば、経理部門の請求書や領収書の処理を考えると、請求書をPDFでもらうことや、領収書をスキャンしてデジタルデータとして保管することが手前で必要になる。

 そうした紙をデジタル化するツールとして関心が高まっているのがAI-OCRの活用だ。従来のルールベースで認識するOCRでも、活字やフォントの読取精度はある程度のレベルになっていたが、手書き文字は精度が低いという問題があった。そこで学習能力のあるディープラーニングなどを活用して精度を高めたのがAI-OCRだ。

 RPAが必要とするデジタル化は単なるスキャンとは異なると、RPAのトップベンダーの1つであるRPAテクノロジーズ製品・サービス開発本部執行役員の笠井直人氏は指摘する。

「自分の仕事を考えても、あの見積書はどこにいったかなと探すような場面は多々あり、ペーパーレスにして検索できるようにするだけでも、業務の効率化が図れるであろうことは認めます。でも、それとRPAとはまったく関係がないといっていいでしょう」

RPAテクノロジーズ 製品・サービス開発本部執行役員 笠井直人氏

AI-OCRによって、よりスピーディーに正確にRPAが扱えるデジタルデータ化していくことで、さらなる効率化が図れる。現在、多数のRPAベンダーが出展するような展示会では、多くのブースでAI-OCRと連携した展示が行われている。

 企業のペーパーレスをもう一歩進めるための動機がRPAのさらなる活用であり、そのための有力な道具としてAI-OCRが注目されているという形だ。

AI-OCRのプロダクトDX Suite を提供するAI inside 事業開発本部ビジネス企画部長の幸田桃香氏は「AI-OCR市場はRPA市場に追従する形で広がります。RPAはデジタルからデジタルの処理を自動化するわけですが、導入を進めていっても結局手間のかかるアナログ入力が残ってしまいがちです。そこで、AI-OCRとRPAを組み合わせて使うことが急増しています。現在、いくつものAI-OCRサービスが登場していますが、活字の読み取りが得意なものと、手書きの読み取りが得意なもの、請求書や領収書などの書類のモデルに特化したものの3種類に大別できます。DX Suite は活字、手書きの読み取りで高い精度を持っており、非定型帳票にも対応しています」と説明する。

DX Suite を提供するAI inside のページ

AI inside 事業開発本部ビジネス企画部長 幸田桃香氏

 DX Suite はクラウドだけではなく、エッジコンピュータ「AI inside Cube」にDX Suite をインストールして利用するオンプレミスでの提供もされている。当初、初期ユーザーの膨大な書類データを読み込んで学習させることで汎用モデルを作り、その後は導入が拡大され複数のユーザーの利用データで再学習を繰り返し、読取精度を上げてきた。

一方、RPAテクノロジーズの笠井氏は、AI-OCRの先進性を認めつつも、読取精度が100%にはならないという問題点も指摘する。

「大きな問題は、コストです。AI-OCRでデータ化したあとに、それを人がチェックする必要があります。その際に、どちらがコスト的に有利になるかはそれぞれの業務量や仕事内容によって異なります。タイピストという人とAIのどちらをより信頼するかという点でも、まだまだ人の方が信頼できると考えるユーザーが多く、いまは過渡期にあると感じています」

 たとえば、5人のタイピストが入力していた作業をAI-OCRで代替し、チェックは1人で済むようになるなら、業務改善につながるが、1人のタイピストが月のうち1週間で入力するような仕事ならば、チェックの1人はどうしても必要なので、その作業が軽減されたとしてもAI-OCRを使おうということにはなかなかならないだろう。AI-OCRの活用については、企業規模が小さく、紙のデジタル化の作業量が少ない場合には導入ハードルが高くなる傾向がある。

 RPAテクノロジーズは、クライアントの各現場に合わせたソフトウェアロボット(デジタルレイバー)を開発しているが、広く利用可能な「BizRobo!」というソリューションを用意しており、ユーザーニーズに応えた、AI-OCRを含むOCR全般に対応する「BizRobo! Document」を提供している。

「BizRobo! Document」は、AI-OCRによる文字の読み取りの後に必要となる、「複数帳票の仕分け処理」、「チェックフローの管理」、「OCR結果のチェック画面」などの機能が準備されており、最小限の人数で最大限の生産性を上げる業務フローが構築できるもの。ユーザーのニーズに合った最適なAI-OCRエンジンを提供し、その後をサポートするものだ。

OCRをサポートしてペーパーレスを実現する「BizRobo! Document」のフロー

これからのペーパーレスの進展のために

 企業のペーパーレスへの取り組みは、現在まだ過渡期だが、今後ますます進展していくだろう。それに伴いAI-OCRの利用機会は将来的には減少するかもしれないが、その手前ではさらなる読取精度の向上や非定型への対応、使い勝手の改善などが求められる。

「AI-OCRは、読み取りたい箇所を事前に設定し、その設定がされている帳票フォーマットの読み取りをしていくのが一般的ですが、今後はそのような設定がなくても認識できるような技術がより進んでいくと思います。これがいわゆる、非定型帳票への対応ですが、例えば請求書のようにフォーマットが無数に存在する帳票においては、それぞれのフォーマットに対して設定をせずとも自動で読み取り箇所を認識し、OCRをかけることができます。今後は、請求書に限らず領収書や注文書など、あらゆる帳票での対応が広がっていくと思います。また、今後はセキュリティポリシー上、データの学習をしてほしくないというお客様のご要望にも応えていきたいと考えています」と、AI inside の幸田氏はこれからの方向性を語る。

 一方、RPAテクノロジーズでは、「BizRobo! Document」をさらに進めたソリューションとして、「BizRobo! Paper-free」の提供を開始している。「BizRobo! Paper-free」は、データの入力段階からタブレットなどを使用することにより、紙からデジタルデータにするのではなく、入力から出力まですべてペーパーレス化し、100%デジタルレイバーで完結させるものだ。

100%デジタルレイバーで完結させる「BizRobo! Paper-free」の例

「BizRobo! Paper-freeは、Adobe Acrobatを使用して入力画面を誰でも簡単に作成できるなど、変更に対して柔軟に対応できるのも特徴です。使用する場面が限られることやタブレットのコストなどの課題はまだありますが、タブレットの価格が下がっていることから、今後利用できる場面はますます増えてくると思います」と、笠井氏は説明する。

 データのデジタル化は、企業や団体の中でルールを決めれば実現できるため、全体効率化を図るうえで有効なソリューションだ。しかし、取引企業から届く紙の請求書などは事前の交渉で形を変えていく必要があるだろう。

 紙をなくすことやデジタル化することの煩雑さはまだ過渡期にあるものの、いったんデジタル化してしまえば、そこから先の定型業務はRPAがサポートしてくれる。AI-OCRの精度向上にももちろん期待するものの、それをうまく業務の中に組み込んでいく工夫や、定型フォームを業界全体で使用することなどの仕組み作りも、ペーパーレス(デジタル化)や業務の効率化には有効だろう。業務改善のためには、「ペーパーレス」という掛け声だけでなく、具体的な1つ1つの業務や書類を見直すところから始めなければならない。

筆者プロフィール:豊岡昭彦

 フリーランスのエディター&ライター。大学卒業後、文具メーカーで商品開発を担当。その後、出版社勤務を経て、フリーランスに。ITやデジタル関係の記事のほか、ビジネス系の雑誌などで企業取材、インタビュー取材などを行っている。