ワーキング革命 - 第48回

テレワーク・デイズの効果から働き方改革の提案ポイントを探る


昨年7月22日~9月6日の約1ヵ月間に「テレワーク・デイズ 2019」が実施された。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府、さらには東京都および関係団体が連携して、2,200団体が実施した。このテレワーク・デイズに3年連続で特別協力団体として参加している KDDIは、位置情報のビッグデータを活用して、その効果を測定した。

文/田中亘


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テレワーク・デイズと通常日の通勤者数の比較

 KDDIは、総務省の「ビッグデータを活用したテレワーク・デイズ2019の効果測定に関する請負」を受託し、2019年7月22日から9月6日の期間で、位置情報ビッグデータを活用した効果測定を実施した。テレワーク・デイズ2019の期間の中でも、集中実施期間と通常期間において通勤者の減少量の比較と、2020年の大規模イベント開催で混雑緩和が課題となる重点16エリアでの通勤者の減少量の比較を行った。その結果、東京23区内の通勤者数が集中実施期間内外の比較で9.2%減少し、7月22日から7月26日の前半1週間においては、昨年対比で約3倍となる延べ約124万人が減少した。集中実施期間内外の比較で最も通勤者が減少したのは、重点16エリアの中で新宿だった。

 KDDIによる調査では、同社のプライバシーポリシーとプライバシー保護の取り組みに同意した顧客を対象に、KDDIが提供するアプリなどを利用者が登録し、位置情報に関連するデータをKDDIに提供した。その対象は、東京23区内に勤務している勤労者に限られている。計測では、東京オリンピックを見据えて16の重点エリアが定義された。その重点エリアの中でも、通勤者の減少率は新宿が-7.4%と高い成績をあげ、減少量は-6万9,973で1位になった。2位は渋谷で、-2万5,915(-6.5%)、3位が品川の-1万2,599(-3.4%)。16エリアの合計では、減少量が-56万2,950(-7.3%)という結果になった。

 この結果について、KDDIでは内容を評価する立場ではないが、通信やサービス面での貢献を検討しているという。また、テレワークを利用促進するポイントして、次の4点を指摘する。

・オフィスと限りなくシームレスで業務を行えるツール類の整備
・社員のOAリテラシー向上
・テレワークを働き方の選択肢の一つとして日常的に使える風土の醸成
・上司部下ともに安心して多様な働き方ができる勤務制度や評価制度の整備

 これら四つのポイントは、ワーキング革命を目指す企業において、全てに共通するポイントと言える。働き方改革のIT商材を提案する上においても、まずはツール類の整備に向けた提案に加えて、利活用する社員の教育も含めた実践が重要になる。また、具体的な商材には結びつかないものの、企業風土の醸成や各種の評価制度の改革は、個々の企業のトップによる経営判断が求められる分野になる。経営者の意識改革を促すためには、今回の調査結果のような事実を提示するのも、一つの提案材料になるかもしれない。加えて、KDDIではテレワークを社内で促進する取り組みとして、以下のようなケースも指摘している。

・子育て世代の参加意向や積極的な参加が見られたため、企業の育児支援と合わせて利用喚起を行うことも望ましいと考えられる
・利用者の意識と昨今の自然災害も踏まえ、災害時のリスク低減と合わせた利用促進も望ましい
・企業への参加呼びかけだけではなく、個人へのテレワーク利用の呼びかけも行うことで、さらなるテレワーク利用促進が期待できる

 これらの指摘の中でも、特に子育てや介護などの取り組みが必要な世代にとって、テレワークが効果的であり、導入のきっかけにつながる。

アンケートによる社会的証明も効果的

 昨年のテレワーク・デイズ2019には、KDDIも実施企業として参加した。同期間においてKDDIでは、2018年の約2倍にあたる延べ約6,200名の社員がテレワークに取り組んだ。そして、通勤混雑の緩和に貢献し、テレワーク参加社員の約86%が「テレワークの働きやすさを実感した」と回答している。さらに、約90%が「1時間以上の時間を創出できた」と答えた。KDDIでもテレワークの有効性を生かした多様な働き方を推進していく考えだ。

 社内だけではなく、外部の企業に対してもKDDIはテレワークの利用促進のための介入としてテレワーク・デイズの認知度や利用意向に関する事前アンケートを実施している。つまり、アンケートを通してテレワーク・デイズという政府の取り組みを各自に自覚してもらうことで、実施する割合が変化するかを調査した。

 事前アンケートには、社会的証明という心理効果があるという。それは、自分の判断よりも周囲の意見を頼りにして行動しがちになるという人の心理をつくもの。この効果を利用して、テレワーク・デイズを認知してもらうことで、実施率が上がるかどうかを調査した。アンケートに回答した50代の男性では、約1.7倍の実施率となった。また、アンケートで問う項目も、認知についての設問のみの被験者と比較して、実施への賛同・共感に関する設問にも回答した被験者は、約1.3倍の実施率向上につながった。つまり、単に知っているだけではなく、同僚なども関心を持って実践していると知ると、本人も参加への意欲が湧いてくる。

 こうした結果から、テレワークに関連したIT商材の提案においては、単にツールの種類や使い方を伝えるだけではなく、より具体的で比較対象となるケーススタディや事実を訴えることが重要になる。2020年は、東京オリンピック・パラリンピックという一大イベントを通して、首都圏でのテレワーク実施は加速する。今後は、そこで得られた成果をもとに、各地方都市での展開と提案が大きな商機となる。

(PC-Webzine2020年3月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系まで、広範囲に執筆。代表著書:『できる Windows 95』『できる Word』全シリーズ、『できる Word&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売/価格480円)からの転載です。

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