今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第19回

中小企業のほうが働き方改革はやりやすい! 豊富な成功・失敗例が見られる一冊


『勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書』野口浩之、長谷川智紀 著

日本企業にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)の実行はもはや不可欠だ。しかし国内における中堅・中小企業のDXは事例が少なく、どんなメリットがあるのかすらわからない経営者も多い。この本は目線を大企業から中堅・中小にずらしたうえで、DXのメリットそして成功例と失敗例を紹介してくれる貴重な一冊だ。

文/成田全


DXの真価が問われる時代

 世界的に流行するCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大を受け、不要不急・夜間の外出、大都市圏や海外への移動や往来の自粛要請、さらには政府から「緊急事態宣言」が出されるなど混乱が続いている。このため社員に出社をさせず、リモートワークに切り替える企業が増えている(人が集まっての会議なども禁止されているところもある)が、あなたの勤め先や取引先はどうだろう?

 この危機的な状況で「会社に行かないと仕事ができないシステムがある」という問題が浮き彫りになったところもあるだろう。こうした旧態依然とした働き方やビジネスのやり方を根本から変えるのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。DXについては、本連載でもこれまでに何度もご紹介してきた。

第12回「働き方改革の次はこれ! 令和時代には『DX』が求められる」
第16回「職場改革する前に! 他社の成功事例をチェックするための一冊」
第17回「ソフトウェアで失敗した日本。挽回のカギはやはりソフトウェアである」

 今回ご紹介する『勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書』は、タイトルの通りDXとは何か、中堅・中小企業がDX導入のために何から始めたらいいのか、失敗の原因はどういったことにあるのか、また定着させるにはどうしたらよいのかといったことまでわかりやすくまとめた一冊だ。著者は主に中堅・中小企業のIT・システムに関する提案~導入・定着までを専門にコンサルティングを行う企業の経営者とシニアマネジャーという、現場を知り尽くしているお二人だ。

中堅・中小企業こそDXに取り組みやすい&早期実現が可能

 本書では「多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に変化し続ける」ことがDXであると考えており、「DXは、小手先のデジタル化ではありません。既存のビジネスモデル全体を見直す営みです。それは、1年や2年で終わるようなものではなく、5年以上先を意識して、すぐにでも取り組むべきものなのです。『他社の動き』を見てから取り組もうなどと考えていては、完全に手遅れとなります」と警鐘を鳴らしている。

 この本でも経済産業省が公開した文書「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(第12回「働き方改革の次はこれ! 令和時代には『DX』が求められる」を参照ください)に触れ、「大手も中小企業もDXにまったく対応しようとしなければ、崖というより坂道を転げ落ちるように売上を落としていくことになる」と分析をしている。

 しかし「DXレポート」やDX関連書籍の多くが大企業目線で書かれていると指摘し、中堅・中小企業向けの本がないことで取り組むきっかけがつかめない可能性があること、そして中堅・中小企業(特にオーナー企業)は経営者が思い切った手を打ち、社内調整がしやすい環境を生かして、事業をシフトすることでDXに取り組みやすい&実現が早いということを伝えるために本書を出版したと語っている。

中堅・中小企業に向けたDXに特化

 本書は第1章でDXの定義を提示、第2章ではDXの大企業を中心とした導入事例を挙げ、第3章では中堅・中小企業ほどDXに取り組みやすい理由が説明されている。

 また第4章では「失敗例」を列挙してケーススタディを行っており、現在取り組んでいるが機能していないという会社、以前DXを導入したが、上手くいかなかったという会社が再チャレンジするためにも有用である。

 第5章では成功事例をもとに、実際にどうDXを進めたらよいのかが提示されている。豊富な資金や長い時間、大人数を投入せずとも大きな成果を生み出している中小企業の事例が多数掲載されているので、ぜひ参考としてもらいたい。そして「おわりに」では、今後に向けた専門的な問題についての解説もあり、「DXの教科書」としてフルに活用できる内容が詰まっている。

 日本は少子高齢化が加速しており、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の約8700万人がピークで、2015年にはそこから1000万人減って約7700万人となった。それだけでも驚きだが、2060年には2015年からさらに約4割も減って、約4800万人になってしまうと予測されている(中小企業庁「日本の人口動態と労働者構成の変化」より)。人手不足が深刻な事態とならないよう、そして少数精鋭で優れたビジネスを展開するために、今から本書を参考に準備を進めておくことが生き残りの必須条件になる。まずはすぐにできるDXに取り組んで現在の厳しい状況を乗り越え、ぜひ未来につながる仕事に役立ててもらいたい。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『百貨店・デパート興亡史』(梅咲恵司 著/イースト・プレス)

江戸時代の呉服屋に起源を持ち、およそ400年の歴史を誇る百貨店。近代小売業の先駆、業界のトップとして、日本の消費文化を創ってきた。しかし、いまや経営は厳しさを増す一方で、その存在が揺らいできている。三越、伊勢丹、髙島屋、松坂屋、大丸、西武、東急、阪急……。かつて隆盛を極めた百貨店は、商品販売で、宣伝戦略で、豪華施設で、文化催事で、いかにして日本社会を牽引してきたのか。「モノが売れない」時代となり、デジタル化が進む現代において、何を武器に活路を拓くのか。「週刊東洋経済」副編集長が、その歴史と展望に迫る。(Amazon内容紹介より)

『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』(大手町のランダムウォーカー 著、わかる 絵/KADOKAWA)

決算書は最高にシビれる“謎解き”だ! Twitterで3万人が熱狂中! クイズ×会話で、数字に隠されたビジネス戦略が見えてくる。■Chapter 0 introduction;決算書の全体像って? ■Chapter 1 貸借対照表(B/S)ってどんなもの? ■Chapter 2 損益計算書(P/L)ってどんなもの? ■Chapter 3 キャッシュ・フロー計算書(C/S)ってどんなもの? ■Chapter 4 B/S+P/L複合問題に挑め!(公式Webサイト紹介より)

『任せる技術』(小倉広 著/日本経済新聞出版)

任せることがうまくできれば、上司・部下双方のスキルアップにつながる。「働き方改革」を進めるうえで、さらに必要となる、上手な仕事の任せ方。2011年1月に刊行したロングセラーの文庫化。コミュニケーション下手なリーダーが抱える、「仕事を部下にお願いすることができない」「お願いできても部下の仕事の品質に不安があるので自分でやってしまう」といった悩みを解決する。折しも残業時間の削減が問題となる中、できる人に仕事を集中させることなく、業務を標準化するためにも、「任せる技術」はさらに必要となっている。(Amazon内容紹介より)

『会社のSNS担当になったらはじめに読む本』(落合正和 著/すばる舎)

近年大注目のSNSを活用したマーケティング。その有効性は広く知られていて、多くの企業がSNSアカウントを運用しています。しかし、SNSを「上手に」活用できているという企業は思った以上に少なくはないでしょうか。上手くいかないのは、「なんとなく」やってしまっているからです。本書では、SNSの基本から各種SNSの特徴、いかにして有効に訴求するかなどを、はじめてSNSマーケティングについて学ぶ人でもわかるように簡単に解説します。(Amazon内容紹介より)

『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』(柳澤大輔 著/KADOKAWA)

どこでも働ける時代が到来し、若者を中心に東京から地方への流れが加速しています。「東京一極集中」から、「東京も選択肢のうちの一つ」の時代へ。それは、「企業」ではなく、「人」を中心とした生き方への思考の変化であり、その流れは、これまでの価値観をガラッと変えるパラダイム・シフトになりつつあります。2002年、いち早く鎌倉へと本社を構えた面白法人カヤックCEOの柳澤大輔氏がこの大きな時代の流れを「リビング・シフト」と位置づけ、働き方・生き方・経済などがどのように変わってきたのかを考察。合理的に考えても答えが出ない今、カヤックの働き方・在り方を織り交ぜながら、次世代の生き方論を展開します!(Amazon内容紹介より)

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。