ワーキング革命 - 第50回

リモートワークを成功させる秘訣


新型コロナウイルスが猛威を振るう中、在宅勤務の推進が緊急事態宣言の対象都府県の企業を中心に要請された。ただし、以前からテレワークに取り組んできた一部の先進的な企業を除くと、多くの企業では準備が遅れ、課題が残っている。こうした状況の中で、リモートワークを円滑に遂行させるには何が必要なのだろうか。

文/田中亘


この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

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リモートワークのチェックリスト

 米国でリモートワークを積極的に推進するマイクロソフトのようなIT企業では、次のようなチェックリストを発表している。

・作業環境の設定
・頻繁なコミュニケーション
・健全な境界線を維持
・オンライン会議を活用する
・全員参加への気配り
・会議を記録する
・非公式な会話を補完する
・チームを一つに
・楽しみましょう!

 リモートワークというと、モバイルデバイスや通信環境などのテクノロジーが注目されがちだが、実践している企業では使い方にも配慮している。今後の働き方改革に向けたIT商材の提案にとっても有用な情報になるので、このチェックリストのいくつかのポイントについて、詳しく考えていこう。

・作業環境の設定
 職場と家庭が分かれている理由は、職場に働くための生産性を追求した「場」としての意味があるからだ。実際のところ、家庭の中で「書斎」のような働くために隔絶された空間を確保できる人は少ない。多くの場合、ダイニングテーブルやリビングのソファなどでPCを操作している。個人でくつろいで仕事をするのであれば、それでも十分だが、ビデオ会議などを考えると困ることもある。こうした背景から、職場とは異なる家庭での作業環境をデバイスとロケーションという両面から再設定する必要がある。そうした配慮なく、単にツールだけを提案しても、家庭でのテレワークは進まない。

・頻繁なコミュニケーション
 リモートワークに移行すると、職場で同僚と顔を合わせられなくなるので、各自の疎外感が増す心配がある。そうした不安を払拭するためには、頻繁にコミュニケーションをとる必要がある。しかし、在宅での作業では、育児や介護などを担っているケースがある。そのため、頻繁にとはいっても、オンライン会議をつなぎっぱなしにしておくことはできない。こうした課題を解決するには、メールやビデオ会議だけではなく、チャットやビジネス向けSNS、共有スケジュールなどを活用する。そうすることで、離れていても適度な距離感のあるコミュニケーションを維持できる。

・健全な境界線を維持
 これは「働き過ぎに注意」を意味する。在宅勤務では、仕事をサボる人がいるのではないかという心配が指摘されるが、組織によってはずっと働いてしまう熱心な社員もいる。そうした人たちの健康面への配慮も、リモートワークの生産性を維持して、継続的な利用を実現する重要なチェックポイントとなる。

 具体的な取り組みとしては、在宅であっても職場を意識して、定時になったらPCを切って散歩に行くなど、通勤に代わる運動や行動の切り替えを習慣にするといいだろう。

・オンライン会議を活用する
 職場に行かなくなるリモートワークでは、顔の見えるコミュニケーションが難しい。それだけに、ビデオ会議のような表情が確かめられるミーティングは重要だ。もちろん、ビジネスチャットのように、小さなオンライン会議の繰り返しも効果的。オフィスでの立ち話のような感覚で、短いコミュニケーションを頻繁にとると、距離や場所の疎外感を軽減できる。

・全員参加への気配り
 オンライン会議において配慮するポイントが全員参加の意識だ。オンライン会議ツールでは、参加者の顔やアバターがPCの画面に表示されるが、全員参加を意識していないと、特定の人だけが発言する一方的な会議になりがちだ。オンライン会議の進行役は、できるだけ発言者の傾向を把握して、全員の意見が聞けるように配慮すると、生産性の高い議論が交わされるようになる。

・非公式な会話を補完する
 新しい意見やアイデアは、いつも会議室から出てくるとは限らない。廊下での立ち話から大きなプロジェクトのきっかけが生まれることもある。リモートワークになると、そうした場と機会が失われる心配がある。そこを補完するために、会議だけではないカジュアルな会話なども残しておくと、後で役に立つ。チャット=おしゃべりの内容は、アイデアの原石とも捉えられるのだ。

・チームを一つに
 リモートワークの欠点は孤立にある。独りで働くことは、仕事のモチベーションの低下や、働き過ぎによる体調不良など、ネガティブな側面がある。そうした事態にならないようにリーダーは常にチームの全員に気を配り、オンラインで一丸となってビジネスの課題に取り組めるような雰囲気作りをこころがけたい。

・楽しみましょう!
 今回の感染症対策によるリモートワークは、避難の意味合いが強いが、できるならば普段とは違う環境や、新しい働き方を楽しむような余裕も大切だ。将来的に、本格的なリモートワークを全社で導入するにあたっては、これまで触れてきたようなチェックポイントを踏まえて新しい働き方を楽しめるようになれば、生産性を理想的に向上させられるはずだ。

(PC-Webzine2020年5月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系まで、広範囲に執筆。代表著書:『できる Windows 95』『できる Word』全シリーズ、『できる Word&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売/価格480円)からの転載です。

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