筆者プロフィール:吉田 典史
ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。
2020/08/27
新型コロナウイルス対策で急拡大したテレワーク。しかし、慣れない在宅勤務に従業員側も管理者側も手探りで改善を図っている企業は多い。しかし、在宅勤務導入に成功している企業もある。彼らは環境の問題や生産性の問題、管理の課題など、ウイズコロナ時代のテレワークにどのように取り組んでいるのだろう?
文/吉田典史
新型コロナウイルス感染拡大防止のために、在宅勤務に取り組む企業が増えてきた。政府は、全社員の7割を在宅勤務にするように経済界に奨励している。積極的に取り組む企業がある一方で、様々な事情で難しい企業もある。今後、この試みは2極化する可能性が高い。
このシリーズでは、在宅勤務に積極的に取り組む企業の実務担当者(人事部の管理職など)にオンライン・インタビュー取材を試みる。大企業から中小企業・ベンチャー企業まで業種を問わず、果敢に取り組む企業を選び、紹介をしていきたい。取材のポイントは、企業として壁をいかに乗り越えようとしているかだ。そこに今後、在宅勤務に取り組む企業や社員に有益な情報があるはずだ。ぜひ、ご覧いただきたい。
法人向けSaaSの比較・検索サイト「BOXIL SaaS」(https://boxil.jp/)を開発するスマートキャンプ(東京都港区)は、全社員を対象に在宅勤務を実施している。社員は、約160人。内訳は本社に正社員が70人程で、パート社員とインターン生(主に大学生)が20人程。北海道支社に正社員が10人程で、パート社員とインターン生が60人程。主な職種はエンジニア、デザイナー、営業、企画編集、戦略コンサルタント、管理部門(人事、総務、経理、広報、社内SEほか)などだ。
同社では国内での新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した2月上旬に、全社員に時差出勤を、同月下旬から在宅勤務を奨励した。それ以前に、週1回(水曜日)、「リモートワークデー」を設け、希望者は自宅などで仕事ができるようにしていたこともあり、スタート時に混乱はなかったという。
政府が4月7日に緊急事態宣言発令をした同日から原則、発令が解除される25日までを出社禁止とした。例外として期間中、約2週間に1度、ローテーションで役員と管理部門の社員数人が出社した。主に郵便物や宅配物の処理や契約書などの書類に押印をするためだった。
発令が解除された後は、2020年7月28日現在まで「在宅勤務(終日)を奨励する」といった方針に切り替えている。原則として、1日の出社人数を全社員の原則2割以下と定め、多い場合でも、5割は超えないようにしている。社員や家族の安全確保と事業の安定的継続を維持するためだ。
全員が同じ日に在宅勤務にシフトしながら、現在に至るまで業務や社員間の意思疎通がおおむねスムーズで、混乱がない要因には次のものが挙げられる。
2016年の創業時から、各部署や部署内のチームごとに業務や進捗の状況に応じてミーティングを繰り返し開催してきた(下記、一覧図参照)。ベンチャー企業は組織が急成長する時期、社員の成長が追いつかないために様々な問題が生じる傾向がある。同社ではそれを想定し、社員間の情報共有の場を増やしてきた。
4月以降、全員を在宅勤務にしてからは、部署ごとのミーティングを増やした。その1つが「夜会」で、基本的には毎日午後6時30分から午後7時まで開催する。各部署で社員が「Zoom」などのビデオ会議システムを使い、1日の各自の仕事について現状や進捗、課題、問題点を共有する。
夜会のきっかけは、社員の声だった。全社員を対象にしたアンケート調査で「社員間のコミュニケーションを活性化してほしい」と書かれてあった。人事本部長の内堀奈美氏は感じ取るものがあった。「全社員の平均年齢は28歳で、独身者が多い。在宅勤務となり、1人の時間が増え、さびしい思いになっている人も多いとわかり、スタートした」。
夜会ではそれぞれの社員が会の終了後、仕事(この場合は残業となる)をするか否かを話す。残業の場合は、その仕事の内容と予定終了時間を伝える。皆の前で宣言することで残業をできるだけ短くし、“オン(仕事)とオフ”の切り替えを明確にさせる。聞く側も、意識の切り替えができるという。また、コミュニケーションを増やすことが目的のため、雑談も多い。
「夜会を毎日行い、部署や個々が仕事の生産性を維持し、向上させることができている。生産性が全般的に上がっている。心身の不調者も、現時点までは現れていない」(広報部長兼デザイン部長 森重湧太氏)
通常、オンライン会議を多人数で行うと、積極的な発言をする人とそうでない人が現れる。森重氏によると、同社でも発言が他の社員と比べ、控えめな人がいるという。「ふだんからおとなしい性格で、発言をあまりしない傾向があるが、こちらから話すように強いることはしない。コミュニケーションの場をつくること自体が大切だと思う」
日々の仕事についての社員間の情報共有にも力を注ぐ。具体的な進め方は部署ごとで多少の違いはあるが、メールやチャットツールを通じて互いに伝え合うだけで終えないことを重視する。メールやチャットツールに加え、ビデオ会議ツールで向かい合い、丁寧に確認するところまで踏み込み、共有意識を高める。
人事本部では、内堀氏の他、3人の社員がチャットツールを使い、部内の意思疎通を図るが、ビデオ会議でも1日の終業間際に20分程、1日の仕事の内容や課題、問題を毎日話し合う。在宅勤務を始めた4月は1日に2~3回、オンラインミーティングをした。その際、下図のように業務をまとめたツールを活用することが多い。これらの多くは、前々から社員間の共有意識を高めるに作成し、情報共有ツール「Kibela(キベラ)」(https://kibe.la/ja)にアップしておいたものだ。
4人のデザイナーがいる事業部では森重氏のもと、チームとしてチャットツールを使い、仕事を進める。そのうえで、毎週1回、ビデオ会議ツールでオンラインミーティングを行う。ミーティングの特徴は、互いに仕事の現状や課題を画面に文字や画像を見せて説明し、話し合うやりとりに重点を置いている。森重氏によると、「音声だけでは十分でない場合もある」という。このため、日頃から社員間で深いコミュニケーションができるように、ルールを作り、心得ておくことが大切だ。
「デザインの仕上がりは担当者の感性によるものが大きいと言われるが、数字などを使って共有することで、互いの認識の誤差をある程度防ぐことはできる。たとえば、文字と文字の間の幅などを何センチと数字で表すことをルール化するとコミュニケーションはスムーズになる」(森重氏)
人事本部では複数人でのオンラインミーティングとは別に、内堀課長と個々の社員が話し合う「ワンオンワン (1on1ミーティング)」を1週間に1回、約30分行う。週間の仕事の進捗や課題を共有したうえで、内堀氏が聞き役に徹しつつ、時々、助言をしている。「在宅勤務をすると、上司が部下の仕事の評価をすることが難しくなる一面があると言われる。私がこの数か月、経験した範囲で言えば、ワンオンワンも含めてコミュニケーションを今まで以上に活発に心がけることで部下の仕事は適切に評価できると思う」
全社規模と各部署、チームごとのミーティングを繰り返し行うことが在宅勤務を混乱なく進めるために不可欠であることがわかる。同社の場合は、話し合いをするうえでのツールやルール作りにかねてから熱心に取り組んできたことが大きい。社員間の共有意識を高めるためには、チャットツールやビデオ会議といったツールに目を奪われるのではなく、その前段階のふだんからのコミュニケーションが重要であることが、同社の取り組みから教えられる。コミュニケーションをいかに深くするか。そのためにはどうするべきか、と突き詰めて考えることが必要なのだと筆者は思った。そこまで踏み込むことが在宅勤務の成否の分岐点なのではないだろうか。
今後の在宅勤務継続について、森重氏、内堀氏はともに「社員間のつながりを強化するイベントや行事、コラボレーションを一層に増やしていきたい」と話す。出社し、仕事をするスタイルと在宅勤務を状況に応じて使い分ける「ハイブリッド化」を推し進める考えだ。
ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。
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