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2020/11/05

【特集】テレワーク反省会 第4回

労務管理と評価はテレワーク対応できているか?



~労使双方にストレスのない管理と評価の実現を

企業側はテレワークで従業員の仕事ぶりが把握できないと不安がる。従業員も自分の仕事が正当に評価されないのではないかという不安を持っている。コロナ禍で急速に普及したテレワークは、管理や評価の面でまだ多くの課題を抱えている。社会保険労務士の寺島有紀氏に現状と、解決に向けた方向性を聞いた。

文/狐塚 淳



寺島有紀氏
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。
楽天で社内規程策定、内部統制業務や社内コンプライアンス教育に従事した後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャーから上場企業まで、国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリーに従事。現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応や企業の海外進出労務体制構築など、幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

テレワークで従来の労働時間管理が見直されている

―― 新型コロナウイルスの影響で、急遽テレワークをスタートせざるを得なかった企業も多く、まだ制度や体制を整え切れていないケースもあると思います。今回は寺島さんが詳しい労務管理と評価の部分で、テレワーク化を進める企業の抱える悩みはどんなものがあるのか、どう課題解決を考えていけばいいのかについて伺いたいと思います。

寺島 テレワークになって、労務管理では従来の労働時間管理を見直す企業が増えています。これまで9時から5時までオフィスで働いていた会社も、テレワークにすると従業員は家庭を本拠にするわけで、お子さんの送り迎えなど、もう少し柔軟に時間配分したいという要望が上がってきます。会社側からも、もう少しそうした部分を認めていった方がいいという意見が出てきています。働きやすい環境を作っていかないと、今後会社として継続が難しいという危機感もありますから、フレックスタイムや専門業務型裁量労働制などを試験的に実施している企業は、私の顧問先でも数多く見られるようになってきました。いわゆる古き良き会社でも新しい働き方の検討段階、開始段階というところは増えてきているでしょう。

―― 現状は先進的な企業がある一方で、従来の時間管理の方法をテレワークの中でも継続していきたいがどうすればいいかと悩んでいる会社も多いと思います。

寺島 そうですね。勤怠管理の義務は働き方改革関連法でも規定されています。テレワークで時間管理が難しくなってきているのは確かですが、こうした義務を果たすために、最近は勤怠管理ソフトも発達していますので、どういうシステムを入れたらいいかなどを検討されています。「ChatWork」などのWeb打刻に対応したチャットソフトもありますし、クラウドでタイムカードが押せるような形は、勤務地がどこでも実現可能になってきていると思います。

―― そうしたツールを導入するには就業規則の変更が必要ですか?

寺島 勤怠管理では必ずしも必要ないですね。裁量労働制やフレックスタイムを導入する際などは、必ず就業規則の変更が必要ですし、従業員代表と会社側が合意して作る労使協定も必要になります。これらのハードルが中小企業にとっては働き方を革新していく時のネックになっていますが、社労士などの専門家のサポートがあればクリア可能だと思います。

評価で重要になる管理職のコミュニケーション能力

―― テレワークを開始したことだし、評価制度を変えていこうという動きもけっこう出てきていますよね。大手のジョブ型評価制度の採用とか。

寺島 日本企業がいきなりジョブ型に舵を切るのは難しいですよね。舵を切ったように見せている会社もあるかもしれませんが、実質うまくいっているかというと疑問です。テレワークで評価の基準は、成果をどのように計っていくかという点につきると思います。今までは日本企業は長時間働いている人が偉いみたいな風潮があったと思いますが、このコロナでそういう社内政治的な頑張りが成果に結びついていなかったことがあぶりだされてきました。そこで評価をどう計測し人事制度に成果を対応させるか? 目標管理制度みたいな形に変更しつつある企業は確かに増えています。そうでないと、会社も働きぶりが見えないのに適正な賃金になっているのかという疑問を抱えることになります。そのために、個々の従業員が目標を決めてどこまで達成して、今後どう目標に近づけていくのかを管理する、管理職側の能力が問われています。

―― しかし、日本企業は管理職にそうした教育を十分にしてきたとは言えませんよね? そのへんで使えそうなツールやソリューションなどはあるのですか?

寺島 これまで以上に管理が必要ということは、これまで以上にコミュニケーションが必要ということです。業務管理では、リモートで離れた物理的な距離を補うために、より充実したコミュニケーションが必要になります。そのためにはチャットツールなどで、これまでメールでは不十分だったコミュニケーションを改善していかなくてはなりません。私の顧問先の例では、重要な話はZoomでやると決めている会社があります。文面のやりとりだけだときつく見えがちで、いわゆる「文字ハラ」みたいな状況が発生しますが、ディスプレイでも顔を見ながらなら表現が柔らかくなり、部下の報告のストレスも軽減します。

評価を進化させる

―― コミュニケーションを強化して管理をしっかりした後で、一番問題になるのは評価制度の部分ですか?

寺島 そうですね。正直、皆さん正解をお持ちでない、難しい問題だと思います。ただ、今まで以上に職務と達成すべき目標の洗い出しは進めていかなければならないし、取り組んでいる会社では進んでいると思います。そのためには、当然、従業員側も自分の業務を把握しないといけません。アウトプットが提示しにくい総務や経理の部門でも、今日はこれとこれとこれを処理しましたのように、ある程度数字で測れるところもあります。そういう成果の見える化をして、どうにか計っていこうとしている各社の努力は感じられます。

―― 具体例などご存知ですか?

寺島 私の顧問先はIT系の会社が多いので、コロナの前からテレワークをやっている会社も多いのですが、逆に結構困っている会社も少なくはなくて、リモートがなじまないイベント制作会社が頑張って取り組んでいる例などもあります。その会社は典型的な中小企業なので、社長が毎朝Zoomでミーティングして、その日の作業と達成目標を確認しています。このツールをいれればうまくいくというのではなく、とにかく地道に、今までふわっと任せていた業務を細かく伝えていくことが必要だから、コミュニケーションを増やし、濃くしていくということです。その社長はいままでより管理が辛い、大変だと言っています。

テレワークをどのように制度化し進めていくか

―― 評価と同時に、新しい働き方の改革も進めていこうとした場合、制度的な変更などが必要になってくる可能性もありますよね?

寺島 いま、コロナの感染状況もある程度落ち着いてきて、やはりリアルな場が必要だからと、週に1回、2回と出社日を設ける企業も出てきています。極端に走らずにバランスを取っていこうと、各社新しい働き方を模索している段階ですね。先進的なところでは、働く場所も東京ではなく長崎の実家でもかまわないといった新しい人事制度を作りつつある会社もあります。

―― 働く場所が自由になった場合、労災とか大丈夫なんでしょうか?

寺島 労災もオフィスではなくて自宅で認められる場合もあります。ただ、温泉地とか、仕事に関係ない部分が多くなると、はたしてその労災が業務に関連して起こったのか、プライベート部分で起こったのか、ということが曖昧になりやすく、通常のオフィスでの勤務よりは認められにくくなる傾向はあるかと考えます。そのへんは従業員にも説明して了解してもらう必要があります。

―― ワーケーションなどでは認められにくいのですね?

寺島 そうですね。もちろん、自宅でも、現認者(災害発生の事実を確認した者のこと)が一緒にいないため、会社に比べれば認められにくくはなります。仕事でけがをしたのか、プライベートでけがをしたのか判定が難しくなりますよね。ただ、こうした新しい試みでは、労災が発生する可能性よりも、試みを実施するメリットの方が大きいと考える会社もあります。

―― コロナ禍以前は、テレワークでの生産性の維持、あるいは向上が前提になっていたと思うのですが、コロナでそれどころではなく、全員テレワーク、ステイホームという状況になりました。現在、企業は生産性を管理するための試行を並行して行わなくてはならなくなっていると思いますが、そうしたご相談を受けることはありますか?

寺島 テレワークがふさわしい仕事とそうでない仕事があります。同じ会社でも本社の方はテレワークに移行しやすいですが、店舗スタッフなど接客が必要な場合は難しい。そうすると、同じ会社の中でもテレワークの対象者にばらつきが出てくるし、それが不満の声になっている会社があるのも事実です。こうした場合、テレワークできない社員、出社する人には手当てを出す会社もあります。また、対象者などを定めるリモートワーク規程についても、緊急事態宣言直後には間に合わなかったけれども、徐々に作成を進めている会社はあります。

テレワーク手当と支援一時金

―― そのほかにもテレワークを推進していくなかで、企業としてさまざまな従業員サポートが考えられますよね。

寺島 そうですね。通勤手当を廃止して、テレワーク手当として一律に渡す会社もあります。

―― 通勤手当も普通就業規則などで明示されているので、書き換えが必要ですよね?

寺島 そうですね。テレワークが長期にわたる場合、通勤手当自体を廃止して、交通費は実費分だけを経費精算で渡したり、水道光熱費など従業員負担が大きいものは、3000円~1万円の間くらいで設定している企業は多いです。義務ではないですが、通勤手当をカットしているのであれば、そこは補填してあげないとかわいそうという考え方ですね。

―― 自宅の環境がテレワークできない環境の従業員に対して補助をする会社も多いのですか?

寺島 あります。週に1回のテレワークであれば話は別ですが、会社ではデュアルスクリーンだったのにとか、独身者だと机すらないケースもありますし、椅子はあっても腰が痛くなりそうな椅子だと、それこそ労災の問題にもなってきかねないです。そういうオフィスとの差異を埋める意味で、臨時手当として1万5千円~3万円くらいを1回支給するなどの取り組みもあります。

―― 自宅の椅子で腰が痛くなった場合、労災の可能性はあるのですか?

寺島 仕事以外で、ずっと椅子にすわりっぱなしということはないでしょうし、認められる余地はあると思います。テレワークの時にもそういう会社が配慮しなくてはいけない「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」があります。リスクヘッジのためにも、会社は従業員サポートのための補助金を考慮すべきです。

「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」パンフレット(厚生労働省)。「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の内容が見やすくまとめられている

―― テレワークだと残業が減るという意見がある一方、仕事時間が延びるという意見もありますね。

寺島 成果が求められるので、働きすぎてしまう可能性もあります。区切りがつけづらくて過重労働になってしまうのは、私も体験的にあります。こうした過重労働を避けるためのガイドラインも国が出していて、たとえば勤務時間外にメールは送らないようになどの内容が示されています。長時間労働防止策を企業は求められています。時間外にはシステムにアクセスできないようにするだとか、大手はすでにやっています。私も顧問先で話しているのは、チャットは気軽に送りがちだけど、送られた方は放っておきづらい。そうしたことを避けるために送らないルールを、管理職を含め気を付けようと。チャットの応答も労働時間と認定される可能性はかなり高いので、そうすると未払い賃金が発生する可能性もあります。

テレワークで長時間労働を防ぐための方法(「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」厚生労働省 より)

スモールスタートで、労使双方のリスクを避ける

―― まだテレワークの管理と評価がうまくいっていない企業、これからその部分の改善に取り組もうという企業は、どんな点に注意すべきでしょう?

寺島 社会的趨勢からテレワークをやらなくてはという会社に多いのですが、テレワークなのにがちがちに管理しようとするのですね。やっぱり、テレワークと細かい管理はあわないので、さきほど話したように成果をきちんと測定して評価していくことに注力していくことが重要です。そうして、労使ともにストレスなく進められるように考えるべきでしょう。性善説に寄った考え方をするほうが、労使双方にとって良いと考えています。

―― 新しい働き方を実現するという前提で、探っていかなくてはなのですね。

寺島 双方のリスク回避のためには、労使契約の中に「パフォーマンスを協議の上、取りやめる可能性がある」ことを盛り込むことで大きな問題にはなりません。従業員側にもテレワークのメリットは、ストレス軽減をはじめいろいろあります。テレワークは本来、自己管理できる大人が使用する制度ですから、それを継続してできるように、成果をあげていけるように、前向きに取り組んでいくことが大切だと思います。

―― 細かく決めて始めるより、暫定的な部分で取り組む方が自由度は高いかも知れませんね。

寺島 スモールスタートをお勧めします。一番リモートワークをしやすい部門から試験的に実施していって、成果が上がれば拡大していくという取り組みなら、まだうまくスタートできていないという感想をお持ちの会社にも向いていると思います。

筆者プロフィール:狐塚淳

 スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。

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