三年後の日本はこうなる テクノロジー×データ×ワークスタイル (第4回)

写真右からインテル株式会社 井田晶也氏、MM総研代表取締役所長 関口和一氏


社会情勢や働き方が大きく変わろうとするなか、ICTへの期待が高まっている。ICT市場で半導体分野を長年リードするインテル株式会社の井田晶也氏、ICT活用の調査分析をリードするMM総研代表取締役所長の関口和一氏を迎え、“三年後の日本はこうなる”をテーマに対談を実施した。全4回にわたって紹介していくうちの、第4回はインテルが描く今後の戦略について語ってもらった。

文/古作光徳


個人情報保護はソフトウェアとハードウェアの両面で対策

関口 プライバシーとセキュリティーに対する意識が高まっている今は、個人情報保護への対策も重要です。長年ハードウェアの分野でセキュリティー対策に注力してきたインテルとしても、個人情報保護は非常に重要な位置付けと理解してよろしいですよね。

井田 おっしゃる通り、インテルは以前からハードウェアにおけるセキュリティーについて非常に力を入れています。例えば、インテル® vPro® プラットフォームは、BIOSレベルでのセキュリティー管理により、情報漏洩や端末自体が盗難にあっても情報を保護できる画期的な機能です。現在も引き続きハードウェア上でのセキュリティーというところに注力しておりますし、インテル® vPro® プラットフォームも新しいバージョンに変わったことで、クラウドベースですべてが管理できるような仕組みも取り入れ、ローカルとクラウドの双方で管理ができる形へと進化しています。

インテルが掲げる“6つのイノベーションの柱”が描く未来のカタチ

関口 インテルは新たに“6つのイノベーションの柱”というキーワードを掲げましたが、これに込めた想いを改めてお聞かせ下さい。

井田 インテルがPC・CPUカンパニーから、データカンパニーへと舵取りを行っていくうえで、インテルが持つ6つのイノベーションの柱を伝えるための概念です。

 6つというのは、“プロセスとパッケージングのイノベーション”“多彩なアーキテクチャー。前例のない選択”“メモリとストレージの階層を再定義”“ハイパースケールなインターコネクト”“信頼に基づき構築されたセキュリティー”“総合ソフトウェア。爆発的イノベーション”です。

関口 この6つのイノベーションの柱を実現するためには、膨大なデータを処理するためのCPU性能の向上や、その処理を助けるメモリやストレージ、そしてGPUの進化も欠かせませんよね。プラットフォームによるデータの相互接続を確立する必要もありますし、セキュリティー対策やハードウェアすべてを制御するソフトウェア開発も重要になってきますね。

井田 例えば最新の「第 11 世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー」は、AI機能が非常に発達しています。新型コロナの流行によって自宅やカフェからオンライン会議に参加する人が増えていますが、周囲の声や雑音が入ってしまうと相手が聞き取りにくいということがあります。そういった雑音も自動的に感知し、自分の声以外はすべて消してくれます。最新のPCはそういった技術が盛り込まれるほど進化を遂げているのです。

関口 AIやビッグデータといったキーワードは現代のトレンドとなっていますが、今後さらに注目を集めていく分野です。しかし、集約されたビッグデータから人間の力で必要なデータを抽出することは不可能なので、AIの出番が増えることは間違いないでしょう。その辺りも上手く戦略を立てて業界をリードしていきたいのではないでしょうか。

井田 ビッグデータに関してはサーバー事業に注力しています。デバイスからデータを集め、そこからデータを発信するということを実現するには、ひとつの大きなサーバーが必要になります。そのため、サーバーに関するテクノロジーをさらに進化をさせていかなければなりません。

 また、IoTの拡大により、1日に生み出されるデータは、天文学的な数字となっていきます。その膨大なデータの中から本当に必要なデータを見つけるには、AIの力が必要不可欠です。そのため、AIの重要度はさらに増していきますし、我々も技術開発には力を入れています。

 先ほど例に出したノイズキャンセレーションするテクノロジーはほんの一例ですが、その他にも、PCの利用状況を機械学習させるといった技術もあります。1日に何時間使われ、どのアプリがよく使われるのかを学習することでバッテリーの駆動時間を効率化することが可能です。こういった技術が搭載されると、電源に繋がっていない状態のPCでも、パフォーマンスを損なうことなく、10時間以上使うことが可能になります。この技術がすでに取り入れられているPCもあります。

関口 インテルが提供するAI に関するテクノロジーのひとつに「Open VINO™ ツールキット」がありますね。深層学習やハードウェアへの展開など容易にできるといったメリットがある半面、セットメーカーと違って消費者に直接アピールしにくいものだと思います。セットメーカーあるいは広く産業界に向けて「インテルのAI技術はこうだ」とより広めていただきたいと思いますが。

井田 Open VINO™ ツールキットを使うことで、様々な検証作業であったり、故障を予知したりするようなテクノロジーを提供させていただき始めていますので宣伝効果を高めたいですね。

データの独占ではなく、民主化がエッジコンピューティング成長の鍵

関口 今の時代はIoTの本格活用へと向かっていますが、IoTが普及するとエッジコンピューティングのようなものがさらに広がっていくと思われます。そこはもちろんインテルが狙っていく分野ですよね。

井田 もちろんエッジコンピューティングの世界は、しっかり狙っていきたい分野です。

関口 エッジコンピューティングといえば、スマートシティも今後の重要な分野です。カナダのトロントでは、Googleが「街ごと自分たちが投資して作ります。その代わりデータは全部下さい」といってスマートシティづくりに乗り出しましたが、市民から反発され、頓挫してしまいました。一方、日本のNTTも米国のラスベガスでスマートシティ事業を進めていますが、取得したデータの保有を主張しませんでした。データの保有権は街づくりを進めるラスベガス市が持っていて、NTTは情報通信インフラの整備にだけ携わるという姿勢が評価され、コンペにも選ばれたわけです。

井田 それがまさにデータの民主化です。データを独占化しようとすると、うまくいかないということの非常に分かりやすい事例ですね。

関口 今日は貴重なお話をありがとうございました。

井田 ありがとうございました。

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