ベンチャー女優・寺田有希さんから学ぶ――これからのビジネスパーソンに求められる働き方

第1回 リモートワーク前提の時代に求められるマインドセットとは?



演技にMC、さらには音楽活動まで幅広く活躍する寺田有希さん。早くからフリーランスとして独立し、自らを「ベンチャー女優」と称して活動を続ける寺田さんは、パラレルキャリアの実践者としてもその名を広く知られている。今回は、そんな時代を先取りする先進的なワークスタイルを武器に自律的なキャリアを構築してきた寺田さんにこれからのビジネスパーソンに求められる働き方について全3回にわたって話を伺った。

文/勝木健太


リモートワーク前提の働き方が当たり前に

 ―― 新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、寺田さん自身の働き方が大きく変化したと感じる機会はありますか?

寺田 私自身の働き方はコロナを契機に本当に様変わりしたなという実感があります。例えば、これまではお仕事を頂いた場合、まずは対面で事前の打ち合わせを行うことが通例でしたが、コロナ以降はオンラインで顔合わせを済ませた上で、対面でなければできない撮影等の業務だけを対面で行うといった形に変わりつつあります。リモートワーク前提の働き方が当たり前になってきていると感じる機会は確実に増えていますね。

 ―― やはりIT企業の方々のオンライン移行が特に早かったという印象をお持ちでしょうか?

寺田 そうですね。あとは、私が普段から接している中では、出版業界の方々もかなり早い段階からオンラインベースの働き方に切り替えられていたと思います。実際、拙著『対峙力』の制作は全工程がほぼオンラインで進行し、出版社にお伺いしたのはたったの一度だけ。原稿の修正等も含め、基本的にすべてオンラインで完結することができたのは個人的にも大きな驚きでした。

寺田 その他、私にとって身近なところで言うと、中小企業経営者の方々のリモートワークへの移行に関しては、まだまだ途上段階にあると思います。ただその中でも、早くからオンライン配信等の先進的な取り組みを積極的に行っていた方ほど今回のコロナへの対応も早かったという印象がありますね。

独立して活躍する人が備えている共通の資質

 ―― 寺田さん自身、かなり早い段階からフリーランスとして活動を開始されていますよね?

寺田 私がフリーランスとして独立したのが2012年なので、今年で9年目になります。当時、フリーランスになることを周囲に話したら、「どうして事務所に入らないの?」「事務所に入った方が絶対に良いよ」と散々に忠告された記憶があります(笑)その頃はフリーランスが社会全体に浸透しておらず、あまり一般的な働き方とは言えませんでした。しかし最近では、国全体でフリーランスを後押しする流れが生まれていますし、リモートワーク等の新しい働き方を奨励する会社も増えてきている。その意味で、社会環境の変化を感じる機会は本当に増えてきていますね。

 ―― どこかのタイミングで独立することを想定していたのでしょうか?

寺田 いえ、私はどちらかと言えば保守的な人間で、本来的には事務所のような自分を守ってくれる場所があった方が性(しょう)には合っているんです。なので、フリーランスになりたくてなったというわけではなく、期せずしてフリーランスになったというのが実際のところです。

ただ、「フリーランスが当たり前の時代がやって来る」ということは直感的に感じていました。なので、「その時がやってくるまではなんとしても生き延びよう」と強く思い続けていました。すると、世の中の雰囲気が徐々に変わってきたという感じです。

 ―― 大きな社会環境の変化の中で、特に何が求められると考えていますか?

寺田 色々な要素があると思いますが、やはり一番は「ここぞ」という時に覚悟を持って決断ができるかどうかだと思っています。覚悟を決めて全力でチャレンジしようとする人に対しては、周囲の人達も「助けてあげたい」と思うものです。

寺田 あとは、自分に求められていることを正確に把握して、適切な球を相手に対して打ち返し続けることですね。「目の前の仕事相手をどう楽しませるか」を意識することが出来る人は強いと思います。逆に、それが出来ないと、パフォーマンスを発揮し続けるのは難しい。リモートワーク前提の働き方が当たり前になれば、画面越しのコミュニケーションが中心となるため、その傾向はますます強まると思います。

パラレルキャリアの取り組み──自分の可能性を狭めないために

 ── パラレルキャリアについてもかなり早い段階から取り組まれてきた寺田さんですが、この働き方を意識するようになった直接的なきっかけなどはあるのでしょうか?

寺田 パラレルキャリアについては意識して始めたわけではないんです。どういうことかと言うと、この事は拙著『対峙力』にも書かせて頂いているのですが、当時、私に色々と至らないところがあり、所属していた事務所をクビになってしまったんです。その頃の私はとにかく女優になることだけを目指していて、役者としてのキャリアに直接的につながらない仕事をことごとく断ってしまっていた。けれど、それではキャリアも積み上がっていかないし、自分には何が向いているのかを判断することもできない。

その反省を踏まえて、自分自身の仕事に対するスタンスを大きく改めました。具体的には、「自分にできることなら全部やろう」「どんな仕事でもやるからには全力を尽くそう」と考えるようになったんです。その結果、パラレルキャリア的に様々な仕事に取り組むようになりました。

 ── パラレルキャリア自体を目的にしていたわけではないということですね。

寺田 そうですね。パラレルキャリアを目指すというより、「自らの可能性を狭めてしまってはいけない」ということに気づいたという感じでしょうか。そのことを自覚してからは、オファーを頂いたら、子供番組だろうが歌だろうがMCだろうが全ての仕事を全力でやらせて頂くということを心掛けるようになりました。

 ── このような軌道修正というか健全な自己否定は想像以上に難しいと思うのですが、寺田さんはどのような方法で自分自身と向き合っているのでしょうか?

寺田 私の場合、とにかく一人で部屋の中で反省します。ただ、本当に様々な方法があると思っていて、他人の人生に触れることでも色々と学ぶことはできると思うんです。例えば、友達に大きな仕事が決まったとき、「どうやってうまく行ったのか」「なぜ自分はダメだったのか」を振り返ると、自分にできていないことがどんどん出てきます。コツは、一度相手を尊敬してみること。その上で、自分との差分を埋めることを意識しています。

自立した個人として生き抜くためには

 ── 今は「個の時代」と言われるように、個人の力で色々なことに挑戦できる時代だと思います。組織の看板に頼らずにビジネスパーソンとして活躍する上で、何がポイントになるのでしょうか?

寺田 キャリアというのは、数学の問題を解くように決まった正解が出るようなものではないと思うので、他人を参考にして真似しすぎてしまうと、失敗してしまうかもしれません。人の成功体験はあくまで人の成功体験であって、自分とは素質も環境も考え方も全く違うわけです。今の時代、他人の成功事例を見る機会は本当にたくさんあります。でも、フリーランスの良さというのはその人の個性があるからこそ生まれてくるものだと思います。誰かの成功体験を真似しすぎるのではなく、自分は何が好きで何をやるべきなのかを考えた上で、やるべきことを片っ端から潰していく方が着実な方法なのかもしれません。

 ── 自分自身のことをまずは深く理解するということですね。

寺田 そうですね。まずは自分を理解することから始まると思います。その上で、反省を怠らない姿勢も重要です。私の場合、夜に一人でお酒を飲みながらその日の仕事の反省をすることが多いです(笑)仕事全体としては成功していたとしても、細かなところで至らない点が無かったかどうかを点検していきます。「小さな失敗を蔑ろにしない」ということを特に意識しています。

 ── それはほとんどの人が意識していないと思います。けれど、やろうと思えば誰もが実行できることですよね?

寺田 そうですね。最終的には、その作業を習慣化できればさらに良いと思います。小さな失敗というのは誰もが目を向けたくないもの。でも、失敗を繰り返したくないと思うのであれば、そこから逃げずに目を向ける態度が必要です。リモートワーク前提の時代においては、そのマインドセットの重要性はますます高まっていくと思いますし、それによって、相手とのコミュニケーションの質もさらに引き上げられていくと思っています。

 ── 次回は、リモートワーク前提の時代において寺田さんが心掛けている仕事の進め方や管理術などの実践方法についてお話を伺っていきます。

【第2回】ベンチャー女優・寺田有希さんから学ぶ――これからのビジネスパーソンに求められる働き方
【第3回】ベンチャー女優・寺田有希さんから学ぶ――これからのビジネスパーソンに求められる働き方

筆者プロフィール:勝木健太(かつき・けんた)

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング/有限責任監査法人トーマツを経て、経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。FIND CAREERSを中心に、「転職サイトZ」「転職エージェントZ」等の複数の情報サイトを運営。執筆協力実績として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』等がある。