5G × フィールドで変わるソリューションの未来【第一回】

MM総研 渡辺克己アナリスト


大手キャリアによってサービスが開始された「5G」。この技術を応用してプライベートな空間で運用し、産業や行政の場でも活用しようという「ローカル5G」の実用化へ向けた取り組みが活発化しています。今回は、ローカル5G技術を企業や自治体など、限られた場所で独自に運用し、より一層の業務の効率化を図る「ローカル5G」に着目し、そのメリットや可能性、市場規模の推移予測について、5G技術をはじめ市場や今後の見通しにも精通するMM総研の渡辺克己アナリストに聞いてみました。

文/古作光徳


高精細カメラを用いたIoTには高速な上り回線が必要
それがローカル5Gに注目が集まる理由です

渡辺 すでに大手携帯電話キャリアでサービスが開始され、一般的にも周知されてきた第5世代移動通信システム(通称5G)ですが、この技術を産業や行政システムにも取り入れようという動きがますます加速しています。そのなかでも企業や自治体が特に力を入れているのが、広域利用を目的としたものではなく、自社の敷地や特定エリアでの利用を想定した「ローカル5G」という技術です。

 5G技術とトレンドの動向に詳しく、予想される市場規模について研究を行っているMM総研の渡辺氏によると、このローカル5Gの研究開発が急がれる背景には、IoTの普及によって爆発的にデータ量が増える中で、既存のLTEやWi-Fiよりも高速な通信網に対する需要が高まっているのが大きな要因とのこと。AIによるディープラーニングを行うために収集される画像や映像は、高画質化に伴って容量も膨れ上がっているため、さらなる高速化や低遅延が期待できるローカル5Gに対する需要に大きな期待が持てるとの見解です。

ローカル5Gはまだ実証実験の段階
企業や自治体による免許申請がますます活発化

渡辺 日本国内においてローカル5Gを利用するには、総務省による無線局の免許が必要となりますが、すでに2019年の12月から無線局の免許申請が開始されており、通信機器メーカー、通信事業者、自治体、大学などを中心に免許を取得。各種ソリューションの実用化に向けた実証実験が繰り広げられています。免許申請開始の時点で利用できる周波数帯は、28GHz帯で100MHz幅と限られたものとなっていますが、2020年の制度改正によって4.5GHz帯(4.6~4.8GHz、4.8~4.9GHz)といった周波数帯が追加され、28GHz帯も100MHz幅から900MHz幅へと大幅な拡大が図られました。100MHzから900MHzと帯域幅が広がれば、単純計算で約9倍のデータ通信が行えます。

 周波数帯とは、通信に利用する電波の周波数域を表すもの。周波数が高いほど直進性が強く、低くなるほど直進性が弱まって障害物などに対して回り込みやすくなるため、低周波帯域が利用できることで、事業所や倉庫といった障害物の多い室内でも通信が安定します。また100MHz幅といった数値は、“帯域幅”と呼ばれ、一度に通信できる情報量の大きさを表す数値です。

夢物語ではなく、もう実用までは秒読み段階
高精細カメラからの情報収集がソリューションの肝となる

渡辺 さまざまな分野での活躍が期待されるローカル5Gですが、2020年11月の時点では、国内大手企業や自治体を中心とした組織によって実証実験が行われています。特にローカル5Gの導入に意欲的なのは工場やプラントといった分野です。高精細カメラの画像解析を使うことで、生産設備の稼働監視や不良品の検知、作業員の動作解析、安全確保のソリューションを効率的に構築できるためです。

 MM総研がまとめたローカル5G市場の概況によると、実証実験段階にあるソリューションの多くが高精細カメラを使った技術であることが確認できます。前述の渡辺氏によると、4Gの LTE回線では高精細カメラが捉えた画像や映像を通信し続けることは、回線速度や帯域幅にハードルがあるため難しいとのこと。企業や自治体という運用者がローカル5Gを導入することによって、上りと下りの帯域を必要に応じて柔軟に変更することが可能となるため「高精細カメラで検知して画像解析する」といったソリューションが構築しやすいと分析しています。

出典 : MM総研

出典 : MM総研

慢性的な人手不足をテクノロジーで補う
人に替わって業務をこなすソリューションに5Gが必要不可欠

渡辺 表のように、ローカル5Gの実用化に向けた実証実験で特に多いのがスマートファクトリーに関する技術です。業種を問わず慢性的な“人手不足”が叫ばれるいま、3年後や5年後にはその状況がさらに深刻さを増すこと必至。ラインの監視や自動搬送車、製造機器など、そのすべての操作を自動化したり遠隔操作したりすることで人材不足を補うことを考えるのが、経営者にとって一番の課題です。さらに、イベント会場などにローカル5G環境を構築すれば、会場に足を運んだ人だけに特別映像を配信することも可能で、実用化に向けて実証実験が行われています。この技術はすでにいくつかのスタジアムで導入が計画されており、早ければ2~3年後には誰もが体験できる技術になるでしょう。

高すぎる導入コストの課題は汎用パーツやオープンソースで解決

渡辺 高速かつ低遅延、転送可能な情報量が多いといったメリットを持つローカル5Gですが、当面の課題は導入コストの高さです。事業者の規模によって大きく変わりますが、例えばWi-Fiの導入コストが100万円ほどの規模でローカル5Gを導入する場合は、基地局1局あたり約1,000万円とWi-Fiなどの既存環境と比較すると10倍を超えるコストが必要です。
 このローカル5G導入コストですが、普及のカギとなる低価格化に向け、各社は、インテルのIAサーバーのような汎用のサーバーを用いるほか、オープンソースソフトウェアやクラウドサービスを積極的に活用することで、ハードウェアとソフトウェアの両側面から低価格化へのアプローチを実施。さらに無線局の免許申請やNW設計、システム運用管理なども一括して行うサービスを提供することで導入から運用までのコスト削減を図るといった取り組みも始まっています。

 MM総研の試算では、概ね2~3年後の導入コストは半額以下になると予測。もちろん、導入コストの課題がクリアになれば、それに伴って市場規模も拡大されるため、2020年現在で約18億円の市場規模が3年後の2023年には113億円、さらに5年後の2025年には352億円を超えるといった急成長が予測されます。

さらに広がりを見せるローカル5G
“超高速でつながる”が当たり前の時代へ

渡辺 現時点では、工場やプラント、自治体などが主体の実証実験が行われていますが、2~3年後には多くの企業や自治体でローカル5Gを活かしたソリューションが運用されていることでしょう。さらに医療における遠隔診療や手術、交通機関における運行管理や保守点検、さらに建設現場における遠隔操作、防犯対策など、画像や映像を伴うあらゆる分野での実用化に向けた取り込みも行われており、実用化が見込まれます。高速&低遅延な通信だからこそ実現できる新しいソリューションがより身近になるのも、そう遠い未来でないと言えるでしょう。

5G × フィールドで変わるソリューションの未来【第一回】
5G × フィールドで変わるソリューションの未来【第二回】