いつでもどこでも働ける環境づくり

コニカミノルタジャパン(東京都港区、代表取締役社長 大須賀健、 3334人 2020年4月現在)は2021年5月現在、全社員を対象に在宅勤務を奨励している。昨年4月上旬、政府の1度目の緊急事態宣言発令よりも2か月ほど前に、社員の安全確保と事業の安定的継続の観点から在宅勤務を奨励した。

その後、現在に至るまで本社の社員の出社率は平均で2~3割前後。全社や各部署で業務の混乱やトラブルは、ほとんどないという。在宅勤務を中心としたテレワークは2017年にスタートし、18年7月の時点で全社員の約7割が月1回以上、約3分の1が週1回以上実施していた。

全社規模でスムーズに在宅勤務が進む大きな理由の1つに、16年に運用を開始した「保管文書ゼロ化」の試みがある。13年から働き方改革に取り組み、「いつでもどこでも働ける環境づくり」を目指してきた。14年8月には、日本橋から浜松町に本社オフィスを移転し、約1000人の社員が移った。従来、個々の社員に自席が与えられていたが、これを機にフリーアドレスにした。オフィスには、1人で仕事をするソロワーク席、多目的スペース、数人で使用するファミレス席を設けた。

移転後の本社オフィス

この時期に、ネットワーク環境をさらに整備した。主に次のものだ。部署を超えた情報共有を目指したものであり、生産性向上や業務のクオリティを高めることを目指した試みだ。

・ビデオ会議システムの導入

・SSL-VPN (VPN接続をする2点間をSSL 暗号通信でつなぐ)によるセキュリティ環境

・Skypeによる在席確認と会議

・ユビキタス印刷(複数のPCでグループを構成。PCに蓄積した印刷ジョブを、グループ内の任意のPCから印刷できる機能)

・文書の電子化

本社オフィス移転時に本社内の紙文書の約6割を破棄した。例えば、会議資料、議事録、プロジェクトの報告書や提案書など紙による保存義務がない書類だ。だが、1年程後にはまた増えて、25%前後がリバウンドした。この文書が、テレワークの阻害要因の1つと捉えるようにした。

紙文書量の推移

そこで2015年4月、紙文書の保管を減らすための専任チーム「保管文書ゼロ化プロジェクト」を発足させた。紙を主体としている業務プロセスを根本から見直し、業務オペレーションの効率化の実現に向け取り組んだ。専任チームは、社員4人で構成。各支店支社では、業務部長の下に各グループ(部署)の担当者が1人いて、グループのメンバー(社員)に周知徹底した。

まず、専任チーム4人で本社の各部署のキャビネットを調査した。特に「どのような文書がどのくらいの分量あるのか」「そもそも、保存義務があるのか」の2点だ。その結果、紙による保存義務がある文書は、全体の3割程度で、残り7割は電子での保存で問題なかったり、そもそも保存義務がない文書であった。

「各部署で必要以上に文章を作っている場合があった。いわゆるローカル・ルールのようなもので、部署独自の仕事の仕方とも言える。仕事をしやすくするためなのだろうが、不要と思えるものもあった。例えば、報告書をプリントアウトして印鑑を押して、上司に提出することをしていた。一部の部署では、『これは捨てられない』といった声もあったが、混乱はなかった。それ以前に社長、役員などから全社への説明や理解を深めるためのキックオフミーティングを開催し、管理職を中心に納得感を高める試みをしていた」(デジタルワークプレイス事業部 ソリューションエンジニアリング統括部 ドキュメント&ナレッジソリューション部 平山 義一 氏)

専任チームによる巡回活動

4人はこの調査を通じて、下記のような「ルール」「システム」「人」を三位一体として捉えるようにした。この3つの点からアプローチをすることで、全社規模で一定のスピード感を持ち、文書を大幅に減らすようにした。その結果、社内全体の文書の88%を削減した。

三位一体の取り組み

紙がなくても仕事ができることを、多くの社員たちが気づき始めている

4人はまず、自分たちでたたき台となるルールを作り、関係部署を交えて話し合い、合意を得るようにした。例えば、押印を伴う申請書を約300種から100種に統廃合し、3分の1の文書を電子化(ワークフローシステムなど)の対象にした。

特に気をつけたのは、本社と支社支店へのアプローチだ。本社では、チームとして強いリーダーシップを発揮し、関係部署に文書削減を促すようにした。一方で、支社支店には直接出向き、話し合いを繰り返した。4人は、それぞれの支社支店に数か月間で計3回訪れた。

「支店は社員が多くて100人ぐらいで、互いにつながりが深い。1人が難色を示すと、他の社員に連鎖反応が起きるかもしれない。そこで徹底的に向き合って説明し、理解を得るように努めた。その場で、文書削減をするためのコーチングもした。1度目の訪問では話し合う中で課題を見つけ、2回目の訪問までに取り組んでいただく。2回目に取り組みが進んでいない場合はその理由や対策を見つけ、3回目の訪問までに取り組んでいただく。この流れで、PDCAサイクル(Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action( 改善))を進めた」

会議室での説明会

平山氏によると、文書の削減はチームの活動が終了した前後の17~18年までにおおむね順調に進んだという。削減された社内保管文書は、プロジェクト発足の2015年と18年を比べると88%が減った。単にペーパーレス化ではなく、紙主体のワークフローを電子化し、場所に縛られない働き方の実現に取り組んできた。

文書類の推移、ビフォアアフター

現在は、電子データの整理を全社の大きな改革テーマとして掲げ、新たな専任チームが動いている。平山氏もその1人だ。「紙がなくても仕事ができることを、多くの社員が気づき始めている。特に昨年からは、自宅でも仕事がスムーズにできることがわかった。今後もテレワークとオフィス出社を並行させ、対応をしていきたい」

コニカミノルタの事例からは、社内文書の削減がテレワークの前提にあるべきことがわかる。文書の削減には、抵抗する部署や社員が現れるのが定番だ。ここであきらめてしまう企業があるが、コニカミノルタジャパンは専任チームを中心に前に進めることができた。各支社支店への丁寧な説明や合意形成があったからなのだろう。

例えば、キックオフミーティングや4人が全国の支社支店を訪ね歩いた。そして、PDCAサイクルを回し、進捗を互いに確認し合い、その時点での成果を共有した。こういう試みがあったからこそ、文書を大幅に減らし、在宅勤務もスムーズにできるようになっているのだと思う。在宅勤務が浸透するか否かは、その企業の総合力が問われているのだ。

筆者プロフィール:吉田 典史

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。