サイボウズ・ワークスタイルを具現化した日本橋新オフィスを探訪

文/飯島範久、写真/小林伸


サイボウズのオフィスは2フロア構成。計画段階では、上階から下階に直接降りられる「滑り台」を作る計画もあったとか。

 サイボウズは昨年7月に東京オフィスを日本橋へ移転。異なるワークスタイルの社員同士でもチームワークが円滑に回る環境を目指したオフィスだという。後編ではまだ真新しいオフィスを拝見しながら、引き続きサイボウズ株式会社 執行役員の中根弓佳氏に、スマートワーク時代にあるべきリアルオフィスのコンセプトを伺った。

中根弓佳氏。2001年、サイボウズ株式会社入社。開発部テクニカルライティングチーム、知財法務部長にて、経営法務、契約法務、M&A、知的財産管理等を担当した後、人事、財務経理に職務を広げる。現在事業支援本部長、執行役員、子供2人(9歳、6歳)。

日本橋で実現したかったオフィス環境とは

―― 昨年夏、東京・日本橋に引っ越されましたが、この新オフィスはどのようなコンセプトで構築されたのでしょう?

中根 実は、リアルオフィスは要らないのでは、という話も出たのです。(自社のグループウェアなどを使った)バーチャルなオフィス環境があるし、オフィスを借りるとお金もかかります。そこで、オフィスを無くすことに対して意見を聞いてみたら、それは嫌だと大反対に遭いまして。

―― 反対理由はなんだったのでしょう? 前編で伺ったワークスタイル変革の状況や、開発されているツールの内容を考えると賛成多数になりそうなイメージですが……。

中根 大きな理由の1つは、顔を見合わせて仕事をしたほうが、パフォーマンスが上がる局面もあること。そしてもう1つは、個人の成長、特に若くて経験の浅いメンバーはオフィスで先輩が(お客さまと)どんな風に話しているのか、チームメンバーとどう会話しているのか、そういうことを肌で感じる機会が必要ということでした。

 みんなで集まれる場が欲しいという意見は比較的若手に多かったですね。逆に経験豊かなメンバーは、自宅で働くからいいよ、って(笑)

―― 顔を見合わせて仕事をしたいという気持ちはわかる気がします。

中根 いわゆるパフォーマンスは、個人で発揮するものとチームで発揮するものがあります。ここで言うチームとは、サイボウズ社内のみで完結する類のものではありません。私たちはパートナーさんと一緒にチームワークあふれる社会を作るために同じ理想で働いていると思っているので、このパートナーさんを含めた“エコシステム”を構築してくださる人たち全員がチームです。

 このチームのパフォーマンスを高めるために必要とされるリアルオフィスとはどんなものだろうと考えたときに、人や情報が「Hub」になれる機能だとの結論が出まして、「Big Hub for Teamwork」というコンセプトが生まれました。

 同じ場所で同じ時間、同じ人と働くという、これまでの基本的なワークスタイルが崩壊し、これからは必要なときに必要な人数が集まれるHubこそが重要になるのではないかと。そういう考えもあって、場所も交通の便が良い日本橋を選んでいます。パートナーさんを含めてさまざまな方々にお越しいただきたいと思っていますので。

5つのテーマに沿って中身をデザイン

―― コンセプトと場所が決まりました。次に、中身のデザインはどのように考えられたのですか?

中根 Hubとして、何を達成できればいいのか、みんなと考えた末に、5つのテーマに決めました。

 1つめはコミュニケーション。せっかく集まるのだからリアルでもバーチャルでも、質・量ともに良いコミュニケーションができる場所にしよう。

 2つめはチームのあり方はどんどん変わっていくので、パートナーさんを含めて、変化に耐えられるオフィスづくりにしていこう。

アドレスフリーの席と固定席があり、部署やチームごとに壁はない。社長室もなく、開かれた場所に席がある。

重役専用ミーティングスペース「PEAK」。「社長に必要なのは、いつでも会議ができる場所であって、社長室そのものではない」という結論から生まれたもの。

中根 3つめが五感。五感を刺激することによって新たな何かを生み出したい、と。なぜリアルで集まりたいと思うのだろうと考えたとき、一体感・臨場感・リアル感などの意見が出たのですが、それらフレーズすべてに「感」が付くのです。つまり、感覚を得たいのですね。そのためにリアルのオフィスを作るのだとすれば、その感覚を最大限生かしたいと考えました。たとえば会議室はガラス張りになっています。誰が誰とコミュニケーションしているとか、それを見てどんなことが話し合われているのだろうとか、刺激が受けられるようにしています。

ミーティングスペースはガラス張り。中が見えることによって『どんな打ち合わせをしているのだろう?』と五感を刺激される。

中根 4つめは「Eco Expand」。これは、私たちが目指す世界を自社オフィスとして示し、それに沿った働き方をすることで、協力してくださるパートナーのみなさまに共感していただき、我々の理想がさらに拡大することを理想としています。

 そして5つめが「Trust&Secure」。私たちはクラウドサービスを提供しています。そのためには信頼とセキュリティを大事にしていきたいと思っています。実はこれ、今まで言ってきた「みんなが集まってコミュニケーションを促進する」ことと相反することがあるのですが、それでもセキュリティは保ち続ける、両立させたいと思い、テーマとして入れました。

―― Eco Expandとは会社としての仕組み、ワークスタイルに対してもパートナーさんに共感していただくことも含まれるのですよね。

中根 そうですね。あと私たちだけが中心にいるわけではなく、パートナーさんがビジネスを生み出す場になってもいいと思っています。ですから、パートナーさんがセミナーを行なう際は会議室を提供したり、自社の設備を持たないパートナーさんには、「Cafe」と呼ばれる場所を提供して、商談の場として使ってもらったりしています。会社の入口も「エントランス」ではなく「Park」と言っていて、公園のようにいろんな人が出会う場所となるべく設計しています。

「Park」と呼ばれるサイボウズのエントランス。入り口から入るとキリンがお出迎え。奥にはモニターが嵌まった大樹が見える。公園のようにいろいろな人が出会う場所となるべく設計されている。

パートナーを含めた「みんな」が集う場にするべく作り込んだ

―― デザインもスゴイのですが、どなたが考えたのでしょう?

中根 エントランスについてはマーケティング部のメンバーがアイデアを出して、『こんなデザインにしようと思う』と社内で公開したら炎上したりして(笑) 考え方は人それぞれなので「自分の意見を出して」と言うと大概炎上するんですよ。

―― それでも、酒の席でぐちぐち言うよりは炎上した方がいいと。

中根 全員が納得するかはともかくとして。そうして決まったのがいまの形です。Parkの先には「Port」がありまして、HoustonやTanegashimaといったロケット発射場(宇宙ポート)や世界各地の港町をイメージした会議室が並んでいます。Portでは、さまざまな物事を発信しつつ、いろんな方を港で受け入れる……出会いが生まれる場所ですね。

エントランスの「Park」を抜けると虹の架け橋が。その先は、まずパートナーとの打ち合わせ席(通称:ファミレス席)や単独ワークススペースになっている。

その先は雲(クラウド)上の港。世界の港町の名前を冠する会議室が並ぶ。Houston会議室の壁にはロケットの発射台が描かれていた。

―― そして前述いただいたCafeのほか、飲食できそうな広いスペースが何箇所も設けられているのが特徴的です。

中根 飲食のできるBar(バル)とLoungeですね。街のバルでは昼間から地域の人々がコミュニケーションする場であって、夜の街にあるいわゆるバーとは違います。 ここでアイデアを出し合ったり、外部の方を招いたラフな勉強会をしたりもします。

―― Barではお酒も飲んでいいのですか?

中根 18時以降はOKですよ。先日も勉強会のあとBarでお酒を飲みながらコミュニケーションしました。普通、パートナーさんと飲みに行く際は場所を押さえて移動して……と大変ですよね。社内にBarがあればハードルが下がりますし、そんな大げさにせずとも「缶ビールでも開けて一杯やりませんか」という形にすれば、先方も参加しやすくなりますから。

Bar(バル)では飲食可能。奥には床に座ってくつろげるスペースもある。子ども連れで来たときには託児スペースになることも。

Loungeは、社員が利用できるスペース。ミネラルウォーターやコーヒーは飲み放題で、壁の黒板には新入社員の営業活動状況が。

―― 実際に新オフィスを使い始めていかがですか?

中根 当初のイメージに近くなってきてはいます。ただ、たとえば会議室が見え過ぎて五感を刺激し過ぎであるとか(笑)、テレビ会議室が若干使いにくいなどいくつか改善すべき点はあります。また、もっとたくさんのパートナーさまにお越しいただきたいのですが、セキュリティとの兼ね合いもありますので、いろいろと試行錯誤しているものが多いですね。

テレビ会議ができるミーティングスペースがフロアのあちこちに用意されている。

―― ここへ移って働き方は変わりましたか?

中根 私の部門はママさんが多いのですが、テレビ会議の画像と音声の質が良くなって、在宅勤務がやりやすくなりました。画像が乱れたり、音声が聞き取りづらかったりすると、疎外感を感じて「もうこのミーティング入らなくてもいいかな」となってしまったり、聞こえなかった場合にも、在宅からですと「もう一度」と聞き返しにくいのです。新オフィスになって精度が上がりましたので、システムが理由で無理して会社にくる必要はなくなりました。

 なにより、パートナーさまがお使いの際に、私たちのワークスタイルを紹介することで、ツールだけでなく制度や風土、考え方にも共感していただけますので、(パートナー様との)関係も変わってきていると思います。IoTをさらに活用したりと、まだまだ理想に近づける工夫はできると思いますので、今後もチャレンジを続けたいですね。

―― ありがとうございました。

広めのテレビ会議室も用意。会議室の臨場感が伝わるよう、部屋全体の音声を拾う特殊なマイクも設置されている。

「みんなのHub」になったサイボウズの新オフィスを写真で見学

 ここからは、自社のワークスタイルに合わせて作られた「サイボウズ東京オフィス」をたっぷりの写真で紹介。

営業担当は基本的にフリーアドレスの席で作業。自分宛の荷物はポスト代わりのキャビネットに届けられる。

在宅勤務することになった社員が「同じデスクにいる感覚で仕事ができるようにしたい」ということでタブレットを通じて働く様子を中継。業務的な相談だけでなく雑談までできるという。

ミーティングスペースもさまざまな形のものが用意されていて、使いやすそうだ。

ミーティング帰りにちょっと立ち話も、なんとなく絵になる。

開発チームは、集中できるよう正面に人の顔が来ないハチの巣型の机配置になっている。謎の葉っぱは、ディスプレーに当たる照明を遮るためのもので、みんなの意見から試験的に導入したものだとか。

ライブラリーも充実。プログラミング本がカテゴリーごとに並んでいるほか、ボードゲームもちらほら。

Cafeでは、コーヒーなどを飲みながら商談やサービス説明ができるようになっている。CafeはPark内に3箇所点在。

ちょっと変わった会議室だが、実は開発の要と言える場所。サイボウズ Officeをはじめとするツールの操作を初心者などに試してもらい、その様子をマジックミラー越しにチェックできるようになっている。

セミナールームも常設。パートナー様にもご利用いただいている。

かつてサイボウズの認知度向上に大活躍した企業キャラクター「ボウズマン」がしっかりParkの片隅に健在していた。

筆者プロフィール:飯島範久

1992年にアスキー(現KADOKAWA)へ入社し『DOS/V ISSUE』や『インターネットアスキー』『週刊アスキー』などの編集に携わる。2015年に23年務めた会社を辞めフリーとして活動開始。PCやスマホはもちろん、ガジェット好きで各種媒体に執筆している。Microsoft Officeは95から使っている。