この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売/価格480円)からの転載です。

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新時代のChromeブラウザー端末

Chromebookを一言で表現するならば、WebブラウザーのChromeを使うためのモバイルデバイスだ。Chrome OSという専用のOSを搭載し、最新版のChromeが快適に動作するように設計されている。10年前に米国で誕生した当時は、クラムシェル型のノートブックのみのラインアップだったが、最近ではキックスタンド付きのタブレット型やディスプレイが360度回転する2in1型など、バリエーションも増えてきた。基本的な設計がWindows用PCと大差ないので、メーカーとしてもWindows用に開発したデバイスを大きく変更せずに、製品化できる利点がある。

ChromebookがWindows PCと異なる点の一つは、キーボードのレイアウトだ。Chromebookにはファンクションキーの代わりに、Webブラウザーの[進む]や[戻る]、[更新]などの機能に該当するキーがある。例えば、Windows PCでは、EdgeやChromeを使う場合に、F5キーやCtrl+F5キーでページの[更新]などを行うが、Chromebookでは固有の更新キーを押下すれば簡単に実行できるのだ。また、Windows PCにはない「検索キー」が割り当てられている。Chromebook的には、「Everythingボタン」と呼ぶらしい。Webの検索はもちろんだが、ファイルやアプリも探し出せる。検索のGoogleが設計したキーボードらしい存在感がある。

ちなみに、日本語入力の操作はWindows PCよりもMacに近い。スペースバーの左右にある[英数]と[かな]キーで、日本語と英数文字を切り替える。最近では、マイクロソフトもSurfaceの一部モデルで、同様のキーレイアウトを採用しているが、Macも含めて今後の日本語キーボードは、この[英数]と[かな]キーが標準になっていくと考えられる。こうしたキーボードの細かい違いを除けば、ChromebookはWindows PCからも容易に乗り換えられるChrome専用デバイスと言える。

OSの自動更新でマルウェアに強い

Chromebookをビジネスで活用する最大のメリットは、なんといってもセキュリティ対策にある。それが、Chrome OSの自動アップデートだ。インターネットに接続している間に、Chrome OSは自動アップデートを行うことで、常に最新の状態に保つことができる。OSの脆弱性を悪用するマルウェアに強く、新たにエンドポイントセキュリティ製品を追加する必要がない。また、Chrome OSで実行されるソフトウェアは、それぞれサンドボックス化されている。仮に一部がマルウェアに感染しても、ほかのソフトウェアに影響が及ぶことはないのだ。

万が一、動作が不安定になった場合は、デバイスを完全に工場出荷時の設定にリセットできる「Powerwash」機能を利用すればよい。リセット操作は簡単なので、管理者の手を煩わせることなく対応が可能だ。デバイスごとに年額50米ドル(※価格は地域や販売パートナーによって異なる場合がある)で、「Chrome Enterprise Upgrade」も利用できる。Chrome Enterprise Upgradeは、モバイルデバイスの遠隔管理や保護に対応した管理サービスだ。リモートでのデータ削除やシングルサインオンの対応、年中無休のIT管理サポートなどが用意されている。Active Directoryとの統合を必要とする企業には、ほぼ必須のサービスとなる。

約300%の投資収益率が得られる

Googleの試算によれば、Chromebookの導入によって、295%の投資収益率が期待できるという。また、利用者が1週間で削減できる作業時間は3時間に及ぶ。こうした効果が期待できる理由は、ChromebookがChromeブラウザーに特化した設計になっているからだ。旧来からあるOSの多くは、多種多様なアプリケーションを実行するための基盤であり、そのために各種デバイスの制御と管理を行ってきた。レガシーOSにとって、インターネットへの接続やWebブラウザーによるクラウドサービスの利用などは、数ある機能の中の一つでしかない。こうした汎用性が、反対に標的型攻撃、さらにはマルウェアにとって、格好の攻撃対象となっている。

それに対して、Chromebookは、WordやExcelなどのアプリケーションは動作しない。Android互換により、スマートフォン用のアプリはインストールできるが、WindowsやmacOSのようなローカルでのフルサポート機能は利用できない。その代わりに、Google Workspaceのドライブやドキュメントにスプレッドシートを利用する。Microsoft 365もクラウド版であれば利用できる。基本的には、ほとんどのアプリケーションをクラウドサービスとして利用するので、マルウェアに感染するリスクはかなり低い。こうした理由から、テレワークが進むニューノーマル時代においては、クラウドベースの新ブラウザー端末として、Chromebookをビジネスに導入するケースが増えている。

Chromebookをニューワーキングの秘密兵器として活用できるかどうかは、ハードウェアの性能差よりも、その企業がどれだけデジタルトランスフォーメーション(DX)に本気で取り組んでいるかにかかっている。先に書いたように、Chromebookの基本はWebブラウザーのChromeによるクラウドサービス利用にある。そのため、社内システムがオンプレミスのままでは、Chromebookによる業務移管が実現できない。裏技としては、仮想デスクトップなどを組み合わせて、VPNアクセスした社内システムを使う方法もあるが、それでは働き方を支えるためのDXにはつながらない。オフィスやビジネスチャットなど、情報系システムのクラウドサービス移管はもちろんだが、バックオフィス系アプリのクラウドまたはハイブリッド対応は必須となる。初期投資はかかるが、それだけの投資をしてChromebookが活用できるクラウドIT基盤を整える価値はある。アフターコロナで勝ち残れる企業の強靭なニューワーキングのためのDXにつながるはずだ。

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系まで、広範囲に執筆。代表著書:『できるWindows95』『できるWord』全シリーズ、『できるWord&Excel2010』など。

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