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第10回 デジタルワークプレイス


テレワーク浸透で一気に現実味を増したDX推進の立役者

働き方改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも貢献すると期待される業務環境「デジタルワークプレイス(デジタル上の働く場)」。テレワークの急速な浸透で、一気に注目されるようになりました。デジタルワークプレイス実現のために必要なツールやインフラ、そして考え方について解説します。

文/ムコハタワカコ


単なるデジタル化やリモート化ではない、働く場の変革

DXの推進、働き方改革やテレワーク導入と生産性向上の両立を目指す企業や組織にとって、欠かせないのが「デジタルワークプレイス」の考え方です。

デジタルワークプレイスとは、デジタル上で実現する業務環境。ビジネスチャットやオンライン会議ツール、クラウドサービスなどのツールやITインフラにより、いつでもどこでも同じ環境で作業や情報共有などが行えるような環境を指します。

デジタルワークプレイスは、働く場所を「物理的なオフィスかデジタルか」のいずれかに限定するものではありません。また、テレワークが実施できていれば、すぐに実現できるというものでもありません。

デジタルワークプレイスの実現にはまず、紙の書類の電子化や業務フロー、情報共有手段のデジタル化といった準備が重要となります。しかし、単にデジタル化を進めるだけで実現するわけでもありません。

カギとなるのは、組織内外のコミュニケーションをより活発にし、快適かつ安全に業務ができる環境が用意できるかどうかです。ツールやリモートワークの導入で、かえって協業がやりにくくなったり、セキュリティが担保できなくなったりするようでは、本末転倒。デジタルワークプレイスが実現できたとは言い難いでしょう。

デジタルワークプレイスとして目指すべきは、いつ、どこからでも、誰でも働きやすい職場環境であり、なおかつ、コミュニケーションが取りやすくコラボレーションがしやすい、生産性も従業員のモチベーションも高めるような“場”づくりです。

テレワーク実施はデジタルワークプレイス実現の第一歩

デジタルワークプレイスが注目される背景には、働き方改革の推進、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックでテレワークが爆発的に浸透したこと、デジタルデバイスやクラウドツールの進歩によるデジタルシフトやDXの加速などがあります。

労働人口の減少による労働力不足を解消すべく、近年、政府が推進する働き方改革では、高齢者や女性など多様な人材の誰もが働きやすい職場を実現し、生産性を向上させることが求められます。そこで、オンライン会議やビジネスチャット、クラウドサービスといったツールやモバイルデバイスを活用した時間や場所に縛られない働き方は、ここ数年、着実に広がってきました。

こうした働き方の変化を強く後押ししたのが、2020年に起こったコロナ禍です。テレワークの普及推進に取り組む国土交通省の「テレワーク人口実態調査」によれば、令和2年度(2020年4月~2021年3月)はテレワーク実施者の割合が、コロナ禍による初回の緊急事態宣言中に増加。昨年度比で倍の19.7%となっています。

雇用型就業者のうちテレワーク制度等に基づくテレワーカーの割合
出典:令和2年度 テレワーク人口実態調査(国土交通省)

一方、同じ調査ではテレワークを実施して悪かった点として「勤務状況が厳しくなった(仕事に支障、勤務時間が長くなる等)」(約47%)、「仕事をする部屋等の環境が十分でなく不便だった」(約35%)といった課題も挙がっています。

テレワークを実施して悪かった点
出典:令和2年度 テレワーク人口実態調査(国土交通省)

このことからも「テレワークの実施」イコール「デジタルワークプレイスの実現」ではないことが分かります。

ただし、テレワークの実施で組織・業務のデジタライゼーションやDX推進における課題が浮き彫りになるということは、「何を解決すればデジタルワークプレイスを整えることができるかが分かる」ということを意味します。これは、ひいては「どうすればデジタル変革を進めることができるかが分かる」ということでもあります。ですから、可能な業務、可能な部署からでもテレワークを導入することには、そうしたデジタル変革を推し進める意義もあるのです。

デジタルワークプレイス実現に必要なツールや環境と考え方

デジタルワークプレイス実現のためには、スムーズで安全なコミュニケーション、コラボレーション環境の整備が必要です。したがって、単純なデジタル化やツールの導入だけではなく、業務フローの根本的な見直しによる最適化、強固な組織文化の醸成や体制の最適化、遠隔でも対面以上の情報が得られるようなコミュニケーションの確立が求められます。

個々の人材が個別最適化により生産性をアップするだけではなく、組織としてデジタルワークプレイスを活用し、コラボレーションで生まれるアイデアや全体最適化による事業成長の場として機能することが大切です。

デジタルワークプレイスが実現すれば、離れた場所にいるメンバーともチームワークによる成果を享受することが可能になります。このことは、DX推進、企業のデジタル変革推進にも通じます。このため、繰り返しになりますが、デジタルワークプレイスの構築は、変革による事業成長の土台作りにもなると言えます。

また、いつ、どこででも、誰とでも同じ環境で働くことが可能になれば、多様な人材が各自最大のパフォーマンスを発揮して生産性を高め、かつ、仕事や生活の満足度が上がることによる「従業員体験」の向上も同時に両立できるはずです。

従業員体験の向上は、仕事への意欲やモチベーション向上につながって、さらなる生産性向上に寄与します。この好循環は事業成長、組織の成長・発展にも大きく貢献します。これはデジタルワークプレイスの実現により、期待できる効果のひとつです。

デジタルワークプレイスの実現を支える代表的なツールとしては、「Zoom」「Webex」「Google Meet」などのオンライン会議システム、「Slack」「Microsoft Teams」「Chatwork」「LINE WORKS」などのビジネスチャットツール、ネットワーク経由でアクセスできるオンラインストレージ等のクラウドサービスなどが挙げられます。

オンライン会議やビジネスチャットについては、VRやARなどのXR技術がさらに発達すれば、より自然なコミュニケーションがデジタル空間上でも行えるようになるでしょう。「雑談」などのちょっとした対話による情報共有が、今後やりやすくなることも期待できます。

また、ドキュメントの電子化やワークフローの整備が進めば、電子決裁ツールや電子契約締結サービスなどの導入も可能となります。これにより、時間や場所を選ばずにできる業務の幅は一層広がります。これまでは紙・対面での業務が当たり前だった人事・総務などのコーポレート業務においても、クラウド型のサービスの活用が増えており、こうしたことからもデジタルワークプレイスの実現はより現実味を帯びたものとなっています。

これら業務のデジタル化、遠隔化を支えるのが、ITインフラです。PCやスマートフォンなどのモバイルデバイスへのセキュリティ対策やユーザー(ID)管理、デバイス管理、安全にシステムを利用するためのリモートアクセスツール、高速な通信環境など、デジタルワークプレイスを実現するには、アプリケーションだけではなくインフラ面でも整備を進めなければなりません。

特にセキュリティについては、今までとは異なる考え方で対策を講じる必要があります。テレワーク、クラウド型サービスの利用が前提となれば、オフィスの内側のネットワークを保護するだけでなく、さまざまな環境のさまざまなデバイスで、ネットワークを通じて安全に業務が行えるようなセキュリティ対策が求められます。

企業や組織のネットワークの内・外を問わず、すべてのトラフィック、ユーザー、デバイスを信頼できないものと考える「ゼロトラストセキュリティ」モデルを取り入れることも、デジタルワークプレイス実現のためには検討すべきでしょう。

また通信に関しては今後、従来より高速・大容量で低遅延の通信が可能となるモバイル通信技術「5G」ネットワークの普及・浸透や、2030年ごろにサービス開始が見込まれる次世代通信技術「6G」「Beyond 5G」の実現が想定されています。これらの通信技術により、今よりずっと場所や通信速度に縛られずに仕事ができる環境がもたらされることも期待できそうです。

筆者プロフィール:ムコハタワカコ

書店員からIT系出版社営業、Webディレクターを経て、編集・ライティング業へ。ITスタートアップのプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。派手さはなくても鈍く光る、画期的なBtoBクラウドサービスが大好き。うつ病サバイバーとして、同じような経験を持つ起業家の話に注目している。