三上洋のハッピーITタイム 【第5回】

今さら聞けないクラウドストレージ活用法・完全同期と巻き戻しを活用しよう


仕事や生活で欠かせないツールとなりつつあるクラウド。もはやデフォルトの保存エリアと言えるクラウドストレージですが、漫然とセーブするだけという使い方をしていませんか? クラウドストレージの優れた機能を使いこなして、仕事やスマホ連携が便利になる方法を改めてまとめます。

文/三上洋


デジタル庁の肝となる「ガバメントクラウド」はAmazonとGoogleに

 デジタル庁が政府・自治体のデジタル化を進める中、最も重要なのが「ガバメントクラウド」です。ガバメントクラウドは、自治体が使うアプリケーションやデータなどを共通化して使う仕組みのこと。デジタル化の基盤となるもので、どのクラウドサービスが採用されるのかに注目が集まっていました。

 10月末に発表されたガバメントクラウドに採択されたのは、Amazonの「Amazon Web Services(AWS)」とGoogleの「Google Cloud Platform(GCP)」でした。国産クラウドは採択されなかったのです。日本政府が用意するガバメントクラウドに、日本の企業が採択されないことにSNSでは疑問の声が上がりました。

 しかし残念なことに、日本の国産クラウドはガバメントクラウドが要求する基準には達していなかったようです。ガバメントクラウドには堅牢性・セキュリティ・スケール(規模の増減)など高い基準が要求されており、その基準に達するのはAWS(Amazon)とGCP(Google)だったというわけです。

 実際に国内企業の多くはAWSやGCPを使っており、世界標準となっています。これらには新しいサービス・機能が競って導入されており、今後もAmazonやGoogleのクラウドサービスのシェアが広がるでしょう。

 今回取り上げるクラウドストレージでも、やはりグローバルIT企業のサービスが強力です。MicrosoftのOneDrive、GoogleのGoogleドライブ、そしてDropboxの3サービスが抜きん出ています。改めてクラウドストレージの実践的活用方法を見ていきましょう。

クラウドストレージの便利さは完全同期から

 クラウドストレージは単純に言えば「ネット上のファイル置き場」ですが、ファイル置き場にしておくだけでは意味がありません。クラウドストレージの真髄は、完全同期にあります。

 完全同期とは特定のフォルダを、パソコンとクラウドストレージでシンクロさせるもの。PC上でファイルを更新した瞬間に、クラウドストレージ上のファイルも更新されます。複数のPCから閲覧・編集することができますし、スマホでもすぐに閲覧・編集できます。

クラウドストレージの完全同期

 例えば出先でちょっとExcelをいじっても、職場に戻ればすぐに同じ状態のExcelで作業できます。電車の中で思いついたことでも、スマホ経由で企画書に追記できるのです。

 筆者のiPhoneにはExcel・Word・PowerPointのアプリを入れてあります。電車の中でWordの企画書に手を入れたり、Excelでデータチェックをすることもあります。iPhoneアプリから変更することもできますから、ちょっとした校正や直しなら十分に使えます。

 PCの乗り換え時にも便利です。筆者も先日PCが突然故障しましたが、クラウドストレージの完全同期のおかげで、すぐに別のPCで作業を再開できました。最新のファイルが常にクラウドストレージにあることは安心感があります。

デスクトップを作業に使うのならぜひ完全同期を

 ここで問題になるのが「どのフォルダを完全同期するのか」という点です。ドライブ全部を完全同期するのは意味がありませんから、基本的にはドキュメントフォルダを同期させることになります。「マイドキュメント」もしくは「Dropbox」「OneDrive」などのクラウドストレージ専用のフォルダを完全同期させるのが一般的でしょう。

 ポイントは一時的な作業フォルダこそ完全同期するべきだということ。ExcelやWordでの作業をするフォルダ、一時的に保存するべきファイルを置くフォルダこそ、クラウドストレージに完全同期させたほうがいいのです。移動先で使うため、または故障や乗り換え対策としても、作業フォルダを同期させたほうがいいでしょう。

 筆者はクセで一時作業にデスクトップを使っています。分類できないファイルや、急ぎで使うファイルをとりあえずデスクトップに置いてしまうのです。

Dropboxのバックアップ機能。デスクトップも完全同期できる

 そこで筆者はデスクトップをDropboxで完全同期させています。Dropboxではアプリの設定画面でデスクトップを同期させることが可能です。他のクラウドストレージでは、Windowsのデスクトップフォルダを変更するなどの方法で可能です。デスクトップにずらずらとファイルを並べてしまうクセのある人は、ぜひWindowsデスクトップを同期させましょう。

ファイル更新履歴の「巻き戻し」が強力

 そしてクラウドストレージは、バックアップとして最適です。単純に故障やトラブル時のバックアップになりますし、更新履歴から巻き戻すことも可能です。

 たとえば下の画像は、この記事を書いているファイルのバージョン履歴です。Dropboxによるものですが、WindowsではOSに統合する形でエクスプローラーから呼び出せるのです。

DropboxではWindowsのエクスプローラー上で右クリック。「バージョン履歴」から過去のバージョンに巻き戻せる

過去30日間の更新履歴がすべて記録されている

 具体的にはWindowsのフォルダを表示させ、ファイルを右クリックしてメニューから「バージョン履歴」を選ぶだけ。これで今までのファイル履歴をすべて呼び出せます。Dropboxでは30日間か180日間の履歴が残っているので、古いファイルに戻すこともできます。

 たとえば企画書の編集を間違えて白紙にしてしまった、最初に書いていた原稿を消してしまったが戻したい、という「巻き戻し」ができるのです。筆者は間違えて上書きした原稿を巻き戻すときに使っています。この「巻き戻し」は、PCだけでは特別なソフトがないとできません。クラウドストレージの完全同期だからこそ実現できる安全対策と言えるでしょう。

 巻き戻しはウイルス感染対策としても有効です。セキュリティ対策というより、万が一ウイルス感染した場合のレスキューとして役立つのです。

 Dropboxを例に取ると、最大30日間か180日間までフォルダ全体を巻き戻すことができます。Dropboxで同期したフォルダ全体を、まるごと巻き戻せます。

Dropboxの巻き戻し機能。履歴のグラフで更新回数が多い日付からウイルス感染したタイミングを見ることも可能

 Dropboxでは上の画像のように、更新履歴の多さをグラフで表示できます。仮にウイルス感染しウイルスがファイルを書き換えたとすれば、このグラフが急激にアップするはずなので、どこでウイルス感染したかがわかります。それより前に巻き戻せば、ウイルス感染前のファイルに戻せます。

 重要なファイルを扱う人ほど、この巻き戻しがあれば究極の安全対策になるはずです。セキュリティとして事前の対策だけでなく、クラウドストレージで「感染後のレスキュー」も準備したいものです。

クラウドストレージは有料プランにしてこそ意味がある

 このようにクラウドストレージは単なるファイル置き場ではなく、完全同期で場所を選ばず使えること、デスクトップ同期で一時的なファイル操作も保存できること、巻き戻しでウイルス感染後のレスキューになるなど安全で便利なPC環境を実現できます。

 ただしそのためには、作成・作業するファイルはすべてクラウドストレージ上に置く必要があります。中途半端に同期をするのではなく、更新するファイルはすべて完全同期にすることで便利な環境になるのです。

 そのためにはクラウドストレージは有料契約することを強くおすすめします。無料プランの2GB(Dropbox)や5GB(OneDrive)では、クラウドストレージ本来の機能を活かせません。有料契約でTB(テラバイト)単位にし、PC・スマホの作業・更新ファイルをすべてクラウドストレージに入れることがベストでしょう。

大手クラウドストレージの無料・有料プラン

 TB単位の契約にすれば、スマホの写真バックアップにも使えますし、巨大ファイルの扱いも便利になります。

 もしMicrosoft 365を契約しているのであれば、そのままOneDriveの大容量(5TB~)を使えるので追加料金は不要です。Dropboxユーザーなら月額1200円~ですが、安全のためと思えば十分納得できる投資です。

 筆者としてはPCとスマホをビジネス利用する人すべてに、大容量の有料クラウドストレージを使ってほしいと考えています。

筆者プロフィール:三上洋

東京都世田谷区出身、1965年生まれ。東洋大学社会学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、1995年からフリーライター・ITジャーナリストとして活動。専門ジャンルは、セキュリティ、ネット事件、スマートフォン、Ustreamなどのネット動画、携帯料金・クレジットカードポイント。毎週月曜よる9時に、ライブメディア情報番組「UstToday」制作・配信。Ustream配信請負、ネット動画での企業活用のコンサルタントも行う。