三上洋のハッピーITタイム【番外編】

Windows 11はどんな役割を持ったOSなのか?ビジネスに及ぼす影響は?


6年ぶりのメジャーアップデートとして登場したWindows 11。どんな背景で登場したのか? 新しい機能やユーザーインターフェイスはどのように優れているのか? これからビジネスの現場で、どう利用されていくのか? 新OS、Windows 11の意義を、ITジャーナリストの三上洋氏が語った。


Windows11は何故いま登場したのか?

―― 最後のWindowsと言われていたWindows 10登場から6年を経て、Windows 11が登場しました。

三上 Windows 10登場時から、ずっと10の名前を使っていくという方針については、多くの人が違うのではないかと思っていました。OSは時代やハードウェアの性能、セキュリティなどの状況から、数年に一度はメジャーアップデートが必要になります。メジャーアップデートというのは大きな機能改編という側面と、ハードウェアをスペックの要求基準で足切りをする点が重要です。どこかの段階で以前のCPUパフォーマンスやメモリ容量では駄目だと言わなくてはなりません。セキュリティをはじめとしたいろいろなサービスを向上させるためにも、ハードウェアの要求基準を一段階上げることが必要です。

このため、結局Windows 11という名前にしなくてはいけなかったし、今後で言えば12も13もきっとあるだろうということです。もう一つはマーケティングの問題がやはりあります。Windowsの更なる普及というのはマイクロソフトの常に抱える命題なので、ブランド強化のためにも11は必要でした。ただ、無償であるという点については変わりはなく、10の基本的な方針は守っている。以上の要素を満たしたアップデートがWindows 11だと思います。

―― これまで次期OSまでの発表の間隔が最長だったのはWindows XPの5年1か月ですが、Windows 10は6年3か月とこれを超えました。実現したのは、アジャイル型のアップデートという方針の効果なのでしょうか? とすると、Windows 11の寿命はさらに長くなる可能性もありますか?

三上 2025年にはWindows 10のサポートが終了します。当然その時はWindows 11に置き換わっているわけですし、そこから4~5年経てば12が発表されるのではないでしょうか。ハードのスペック向上やセキュリティ強化の必要性に合わせて次のバージョンが必要とされるので、状況次第で多少短くなる可能性もあると思います。

Windows各バージョンの登場年(※Windows 95以降、NT系は除く)

―― ユーザーサイドの、PCの使い方の変化も影響しますか? コロナによって加速されましたが、テレワークの普及によってPCの使われ方も変わりました。

三上 そうですね。まず、圧倒的にノートPCの需要が強くなったということが言えます。ここ10年以上続いていることですが、リモートワーク、テレワークでその傾向はさらに強くなった。ノートPCのCPUなども高スペックが必要とされるようになり、タブレット以外のデバイスでもタッチアクションが必要にされるようになりました。また、リモートワークの進展により、持ち出した端末のセキュリティを企業側として担保する必要が出てきました。今までよりも高い要求基準が求められるようになった。持ち出しPCのセキュリティ基準をどうするか? 残念ながらPCはスマートフォンとは違いBYODではカバーしきれない。企業が従業員にノートPCを渡さなければならない。では、企業のファイアウォールの外に持ち出して安全に使えるものがあるのですかという点では、やはりOSのセキュリティ基準も上げなくてはならない。そこで、アカウントなどのセットアップを事前に登録してから個別のノートPCに送り付けるためにWindows Autopilotを使用すれば、起動してすぐに安全に使えます。これは、Windows 11でも使用できるし、注目されている機能です。

新ユーザーインターフェイスはスマホを強く意識している

―― Windows 11では、ユーザーインターフェイスが一新された点に注目が集まっていますね。

三上 今回、これはいいなと感じるのはスナップレイアウトです。これまでだとウィンドウの並べ替えを行う時にフリーウェアなども使用していましたが、非常にシンプルな操作で整列できるようになりました。右上の全画面ボタンで、複数のウィンドウを並べ、並びも一瞬で元に戻せます。スナップグループの切り替えも簡単なので、並行して行う作業で、WebブラウザとWord、WebブラウザとExcelなどをグループ化しての切り替えもスムーズです。ノートPCの狭い画面でも効率的に作業を進められるありがたい機能ですね。

スナップレイアウトは三上氏も気に入っている機能だ

個人的にはマルチディスプレイを使用している時に、それぞれのディスプレイでウィンドウの位置を記憶してくれているのもありがたい機能です。外出時に使用したノートPCを家に持ち帰って外付けディスプレイと接続使用する時にも便利です。

今回の新しいインターフェイスはスマホを意識した変更を強く感じます。コントロールパネル的なものをまとめたところが便利になりました。今までは右下のタスクトレイに、電源やスピーカーなどが一個一個並んでいましたが、Windows 11では、通知領域としてWi-Fi、電源、音量といった物理的なコントロールの部分がまとめて出てくる。これはすごくいい。これらはスマホアプリのイメージですね。モバイル端末の機能として洗練されています。

SkypeからTeamsへの移行はテレワーク時代への対応

―― OSからTeamsチャットが直接立ち上げられるようになりました。マイクロソフトとして、Teamsをプッシュする姿勢が強くなっています。Windows 11にとって、Teamsはますます重要なアプリになっていくように思われます。

三上 現状のTeamsは企業アカウントと個人アカウント(マイクロソフトアカウント)で表示が違うなど、微妙なところがあります。しかし、SkypeからTeamsへの移行というのは、テレワーク時代への対応だと言えるでしょう。このため、ビジネスチャットやオンライン会議、グループウェアとしての利用を広げていくでしょう。個人用Teamsと組織用のTeamsはより接近する部分が出てくるのではないでしょうか。また、テレビ会議ではマイクミュートもAPI提供をするので、ZoomやGoogle Meetなどが対応すればそのまま使えるのも大きいです。画面共有も、タスクバーから選べるようになったのは便利ですね。

―― Teamsはメタバース化も進める予定です。マイクロソフトは2022年にMesh for Microsoft Teams を提供して対応する予定を発表しています。

三上 メタバースについては、まだ、各社が手を上げた状態です。メタに改名したFacebookは、SNSのつながりがもともとある点が有利ですが、マイクロソフトのメタバースはビジネス運用にフォーカスしてくる可能性があります。テレワーク用のバーチャルオフィスとして使えると、テレビ会議のタイル表示ではなく、仮想のオフィスを作ってそこで働いている感覚で使えるようになる。グループウェアとメタバースの連携ですね。現実とは別の共有仮想社会であるメタバースです。そうした利用には、もしかしたらHMD(ヘッドマウントディスプレイ)は必要ないかも知れません。

Mesh for Microsoft TeamsによってTeamsとメタバースの連携が始まる(出典:Microsoft)

クラウド時代のセキュリティが段階を上げた

―― Windows 11ではセキュリティの強化が進んでいます。

三上 最もわかりやすいのはTPM(トラステッドプラットフォームモジュール)です。TPMはすごく簡単に言うと、暗号化で利用する鍵を安全な場所に保存しましょうということです。TPMでは、Windowsの暗号化機能であるBitLockerを使ったデバイス暗号化ができます。内蔵SSDやHDDをBitLockerで暗号化しておけば、万が一内蔵SSDやHDDを抜かれたとしても他の端末で開くことができません。Windows11では、このTPMが2.0になったことでより安全性が高まっています。盗難や電車の置き忘れ対策としても有効ですね。企業にとってはいまだに電車やタクシーでの置き忘れは少なからず問題なんです。そういった意味では暗号化対策は重要です。セキュリティが高度化する中で、物理的に盗られる、持って行かれてしまうことへの対策は本当に少ない。そういう意味でTPMは有効です。

あと、Windows 10ではデバイスのセキュリティ、起動時のセキュリティはオプションでしたが、Windows 11ではマストになっているので、その部分はハードウェア的には安心です。これを実現するために対応ハードウェアの制限、足切りを行っているわけです。セキュリティの段階を一つ上げてきたと言えるでしょう。Windows 11はWindows 10の2021秋アップデートだったもので、以前の意味でのメジャーアップデートではありませんが、機能設計などは連続性があり、オプションのマスト化などが進んでいるわけです。

企業は2025年対応をスタートすべきだ

―― Windows 11の全体像が見えてきたように思います。まだ、アップデートを決めかねている企業やビジネスマンに、今後Windows 11とどう向き合っていくべきか、アドバイスをお願いします。

三上 Windows 10のサポート期限の2025年はすぐだということは意識しておいてほしいです。Windows 11の登場で、サポート終了が現実味を増してきました。計画を立てておかないと3年ちょっとでそのタイミングはやってきます。その時に、自社のPCをすべてWindows 11に移行できるように、テストや実環境の実験をしていってほしいです。企業のマシン管理を考えると、Windows 11と10が同居するタイミングはあると思いますが、Microsoft Endpoint Managerを使用すれば10も11もOKなので、並行状態でデバイス管理は可能です。Windows Autopilotの存在を考えると、リモートワークの従業員や、地方に新しい出張所を作る時や外注利用などにも、統一したOS環境を提供する場合もWindows 11に統一した方が今後を考えるといいわけです。Windows 365 Enterpriseも英語地域ではWindows 11をサポートしましたので、じきに日本でも利用可能となるでしょう。日本でも対応すれば、企業のWindows 11移行への意識も高まってくるでしょう。

筆者プロフィール:狐塚淳

スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。