今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第39回

人類の未来を決めるZ世代を知り、ビジネスにつなげるために


『Z世代マーケティング 世界を激変させるニューノーマル』
ジェイソン・ドーシー &デニス・ヴィラ 著、門脇 弘典 訳/ハーパーコリンズ・ジャパン

1997年から2012年にかけて生まれた、現在9歳から24歳の若者たち。「Z世代」と呼ばれる彼らは生まれた時からインターネットやブロードバンドによる常時接続、スマートフォンを手にして育ってきた生粋のデジタル世代だ。片時もスマートフォンを手放せず、SNSで全世界とつながり、貯蓄と投資が好きで借金は嫌いなZ世代。Z世代の成長とともに消費はこれからどう変わるのかを膨大なリサーチで分析した。

文/土屋勝


ミレニアル世代の次はZ世代

先日テレビのクイズ番組を見ていたら「ミレニアル世代に続く、新しい世代は何世代?」という問題があった。出演者が「Z世代!」と答えて正解していたが、まだそれほど一般的に馴染みがある言葉とは思っていなかったZ世代が、クイズ番組に出題されるほど認知されていることに驚いた。

Z世代とは、1997年から2012年に生まれ、現在9歳から24歳となる世代を指す。カナダのベストセラー小説『ジェネレーションX―加速された文化のための物語たち』(ダグラス・クープランド著)を語源に、65~80年生まれを「X世代」と名付けたことから、その後の1981~1995年生まれを「Y世代」、続く1997〜2012年生まれを「Z世代」としたことによる。Y世代は現在26歳から38歳になる世代で、2000年代初頭、つまりミレニアル(千年紀)に成人となったので、「ミレニアル世代」とも呼ばれ、こちらの呼び方のほうが一般的だ。ミレニアル世代は子どものころからパソコンやページャー(小型情報端末)、携帯電話、インターネットに親しみ、ITリテラシーが高く、「デジタルネイティブ」と呼ばれてきた。

Z世代は、デジタルネイティブであることはもちろんだが、生まれた時にはスマートフォンがあった世代ともいえる。

既存のビジネスを危うくする

本書によれば、Z世代は既存企業のビジネスを危うくするという。Z世代にとっての「普通」の生活は車に乗って買い物に出かけることではない。Amazonでワンクリック購入し、車の免許を取らずにオンデマンドの移動手段を使い、小切手は持たずに決済・送金アプリで支払い、Instagramのダイレクトメッセージでベビーシッターやフリーランスの写真家としての副業をこなす。テレビはネットで一気見し、宿題は先生からのチャットで送られてくる。Googleで検索するよりもYouTubeやAmazonで検索し、メールの代わりにショートメッセージをやりとりする。

Z世代の30%は30分足らずでもスマートフォンから離れていると落ち着かなくなり、14%は片時もスマートフォンなしでは過ごせない。74%はテクノロジーを使わない娯楽を知らない。

日本でも言われていることだが、Z世代はFacebookを古くさいSNSと捉え、避ける傾向がある。なぜなら「Facebookには両親や祖父母がいる」からだ。著者らの調査によれば、親以上の年代の親戚が使っているからFacebookには登録していないという回答が41%あったという(それでも大学ではFacebookも比較的人気があり、サークルの活動やイベントを告知するためにFacebookページを使っている)。彼らが好むSNSはなんと言ってもTwitter、そして一度再生したコンテンツが10秒で消えてしまうスナップチャット。アメリカでも「インスタ映え」は同じで、凝りに凝った写真を投稿するのはInstagramだ。

Z世代はメールが苦手

著者は20歳のZ世代のインターンから、業務メールについて『メールの書き出しを「ヘイ」にしてもいい? ソーシャルメディアみたいに絵文字を使ってもいい? 「ハハハ」と書いてもいい?』という質問を受けたという。だが、友だち同士でしかメールやチャットを交わしていない若者が急にかしこまったメールを書けるわけがない。

私も、10年前に非常勤講師を務めている大学の学生から、タイトルも受取人名も挨拶も署名もないメールを受け取ったことがある。内容も無茶苦茶だった。

「自分ゎ4年生ですが、先生の授業に興味ありますが、就職活動で忙しく、授業出れないかもしれないのだけど、単位もらえないですか?就活生に対してゎどぅいった基準で評価しますか?」

当時、これから就職活動を経て社会に出ていく大学4年生に絵文字や顔文字「(^_^)」とか「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」は使ってはいけない、タイトルのないメールはスパムと判断されやすいという講義をしたこともあった。LINEのリリースは2011年6月だから、それ以前。まだSMSを使っていた時代だったが、いつの時代にもメールが書けない人はいるのだ。

10代から老後資金を貯蓄するZ世代

本書によれば、Z世代の金銭感覚は保守的だという。世界的不況で失業や学費ローンに苦しんだ親世代を見ているだけに、別の未来を描こうとしている。10代のうちから貯金や投資を始めるZ世代は少なくないし、なんと12%は老後資金を貯蓄しはじめているという。アメリカでも社会保障が十分に受けられなくなる可能性が高いというのだ。もちろん、貯金や投資についてロボアドバイザーなどフィンテックを活用するのもZ世代ならではのこと。

このあたり、日本のZ世代では「どうせ年金なんて貰えないんでしょ」と悲観するだけで、老後資金を貯蓄するといった話は聞こえてこない。経済的な面で、アメリカと日本のZ世代で大きく違うものに住居と学費がある。

日本では地方から都市部の大学に進学するのでなければ、親と同居して住居費、食費を払わないことをしばしば見かける。就職しても実家に住み続けて親のスネを囓る「パラサイトシングル」も多い。アメリカでは高校を卒業すると実家を出て経済的に自立することが一般的だ。だからお金のことについて、アメリカのZ世代はかなりシビアだ。

アメリカでは大学の学費を本人が払うことが多い。日本で国立大学の年間授業料は53万円、私立大学が120~150万円程度。これに対しアメリカの州立大学はだいたい100万円、私立大学だと250万円ぐらい、高額な学費で有名なハーバード大学は500万円に達するという。

日本の学費はアメリカに比較すれば安いとも言えるが、濱口桂一郎の『ジョブ型雇用社会とは何か』によれば、日本の大企業では親が大学の授業料を負担する「日本型家族」と、それを可能とする年功賃金からなるメンバーシップ型雇用が主流を占めてきた。最近では日本の年功序列賃金と生涯雇用の維持が困難になりつつある。奨学金が有利子金融ローンとなって、大卒者でも不安定な非正規雇用になることが増えたために奨学金返済ができなくなる問題が起きている。だが、アメリカの場合は返済額の桁が違う場合も多い。学費ローンの借り換えを可能にするSofiのようなフィンテックサービスが多くの学生に利用されているし、そもそも学費ローンを借りることに非常に慎重になっているのだという。

社会とZ世代はどう関わるか

アメリカでは人種差別に反対した「ブラック・ライブズ・マター」、性的暴力被害を訴えた「#MeToo」、同性婚の容認やLGBTQ+の権利向上など、さまざまな社会運動にZ世代がソーシャルメディアを通じて関わってきているという。人種差別、性差別、環境問題への取り組みは全世界で広まっており、10代にして世界的な影響を与えているスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんはそのシンボル的存在だろう。一昨年、都内で「高校闘争から半世紀~私たちは何を残したのか、未来への継承~高校生が世界を変える!」シンポジウムが開催された。元東大全共闘議長の山本義隆さんをゲストに、1969年当時、バリケードストライキを闘ったかつての高校生から、グレタさんに刺激されて授業を放棄して地球温暖化対策を訴えたり、ブラック校則告発運動や制服自由化運動をやっている現役高校生までが登壇した。

絶対的小規模マーケットである日本のZ世代

マーケットという面では、アメリカのZ世代と日本のZ世代は人数が圧倒的に違うことを考慮しないといけない。アメリカのZ世代にあたる10歳から24歳は総人口の約2割にのぼる。一方、日本では総人口の13%しかいない。実はアメリカでもZ世代の比率は少ない方で、全世界のZ世代は約25億人、全人口の32%を占めるという。少子化が進む中国でも日本の総人口の2倍以上、2億5,000万人に達する。

日本のZ世代だけを相手にして商売を展開していくのはビジネス規模が縮んでいくだけだが、全世界のZ世代を対象と考えれば、急速に成長する市場と捉えることができる。

いつの時代でも10代、20代は「いまどきの若者は」と呼ばれながら社会を切り開いてきた。日本のZ世代はマーケットとしては小さいけれど、彼らを決して無視することはできない。若者をターゲットとするビジネスを主としている人はもちろん、その後10年、20年先を考えれば今、彼らとの接点を作っておかなければ次はない。本書は、若者ビジネスで試行錯誤している人たちにお勧めの一冊だ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『世界のマーケターは、いま何を考えているのか? 』(廣田 周作 著/クロスメディア・パブリッシング(インプレス) )

ブランド戦略立案やイノベーション・プロジェクトに携わるブランドリサーチャーによる、激動の時代の新たなる指針! Z世代、コミュニティ、カルチャー、メタバース、D2C.......。モノやサービスが溢れ、テクノロジーの進化が進んでいます。マーケティングの最優先事項だった、消費者のニーズは見えづらくなり、逆に、SNSを通じて企業のふるまいそのものが、消費者から見えるようになりました。そんな複雑で難しい時代に、私たちは何をするべきなのでしょうか? 本書では、Nike、Netflix、バーバリー、Fentyなどの企業事例と、マサチューセッツ工科大学をはじめとする数多くの研究結果をもとに、その答えを探っていきます。世界中のユニークな事例から、マーケティングの〝新たな可能性?と〝面白さ?を学べる一冊です。 (Amazon内容紹介より)

『グロースマーケティング(Growth Marketing) 』(株式会社DearOne 著/クロスメディア・パブリッシング(インプレス) )

DX、デジタルシフトを推進する企業が増えてきていますが、マーケティングにおいて世界、特にアメリカ企業と比較すると、日本企業はまだまだ遅れています。アメリカ企業は、「カスタマーライフサイクル」における顧客のステータスを「行動ベース」でしっかり押さえ、新規獲得した顧客を定着させ、さらにロイヤルユーザーへと進化させていくというように、CRM(Customer Relationship Management)やマーケティングテクノロジーのソリューションを用いて、顧客のステータス管理をしっかり行っています。グロースマーケティングは、これからのDX時代において世界で勝つための企業・事業・製品・サービスの持続的成長にフォーカスしたマーケティング活動です。(Amazon内容紹介より)

『経済がわかる 論点50 2022』(みずほリサーチ&テクノロジーズ 著/東洋経済新報社)

日本有数のシンクタンクであるみずほリサーチ&テクノロジーズが2022年の経済見通しを徹底予測! 定番テーマはもちろん、いま旬のテーマまで網羅し、「日本経済」「海外経済」「金融・マーケット」「制度・政策」「ビジネス・社会」ごとに10の論点を解説します。これだけは押さえておきたいキーワード:プラットフォーマー規制、デジタル庁、量子コンピュータ、再生可能エネルギー、AI規制、ムーンショット、週休3日制、サステナブルファイナンス、CCUS、宇宙開発、スマートシティ、デジタルエンターテインメント、Fit for 55、半導体不足、事業承継、未富先老、超過貯蓄、医療保険制度改革(Amazon内容紹介より)

『データサイエンティストの要諦』(加藤良太郎、高山博和、深谷直紀 著/幻冬舎)

データ分析だけできても意味がない! 社会に必要とされるデータサイエンティストになるには――。デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しているなか、高度なデータ分析の実施に携わるデータサイエンティストは、将来有望な職業だと思われています。しかし、企業が求めているのは単なるデータ分析の専門家ではなく、コンサルティング能力をもち、ビジネス戦略の実現につながるデータ分析と、機械学習モデル作成ができる人材です。本書では、実例を交えつつ、データサイエンティストにコンサルティング能力が必要な理由、その能力の高め方、今後求められるデータサイエンティスト像についてまとめています。 (Amazon内容紹介より)

『脳科学者が教える 最高の選択 あなたは、AIよりスゴイ決断ができる! 』(茂木健一郎 著/ 徳間書店)

やるか、やらないか。AかBかCか……。人生は常に選択の連続です。少しでもリスクを減らそうとしてじっくり考えてしまう人、なかなか決められない人、いつも人任せにしてしまう人、問題を先送りにする人。決めかねているうちに、想定していた前提が驚くほど速く変わってしまう。AI時代、超高速ネット時代は、そういう時代なのです。ただ決断や選択に時間がかかってしまうのは、やり方を知らないからなだけです。イーロンマスク、孫正義、グーグル……成功している人や企業に共通する選択の仕方、決断の仕方を、脳科学の面から明らかにし、頭の使い方、トレーニングの方法をお伝えします。(Amazon内容紹介より)

筆者プロフィール:土屋勝(ツチヤマサル)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。