ITを活用して地域活性化を図る
「無人店舗運営の実証実験」

近年、小売業で注目されているのが「スマートストア」だ。AIやIoTなどのテクノロジーを活用して、業務の効率化や最適化を進めつつ、顧客に新しい体験をもたらす次世代型店舗のことを指す。そんなスマートストアで地域課題の解決を目指す実証実験が秋田県由利本荘市で実施された。秋田県立大学、東日本電信電話秋田支店(以下、NTT東日本秋田支店)、みちのくキヤンテイーン、テルウェル東日本と共に行う産学官連携の取り組みだ。

秋田県由利本荘市

秋田県の南西部に位置する人口約7万2,634人(2023年1月31日時点)の地方都市。比較的温暖な地域だが、海岸部と山間部では気候条件が異なり、特に冬季においては積雪量に差がみられる。市内には、17世紀後半に建築されたと伝えられる県内最古の民家「土田家住宅」や、縄文時代後・晩期の遺跡「湯出野遺跡」などがある。

ITを活用した産学官連携の取り組み

実証実験で秋田県立大学本荘キャンパス内に設置されたコンテナ型の無人店舗。

 人口減少の深刻化によって、地方都市における小売店の撤退や廃業などが相次いでいる。今まで利用していた店舗がなくなることで、食料品や日用品の買い出しをするために、数十キロ離れた市街地まで移動が必要となるケースはまれではなく、住民にとっては死活問題だ。高齢化が進み、歩行や車の運転が困難な住民も多い地域では「買い物弱者」を生み出す要因にもなっている。

「当市においても、小売店の撤退や廃業による買い物弱者が問題となっていました。買い物弱者となったことで都心へ転居する住民も多く、地域の人口減少に拍車がかかっています。人口減少によって働き手の不足にもつながっており、多くの課題を抱えていました」と話すのは、由利本荘市 総務部 次長 兼 DX推進監 藤原慎哉氏だ。

 そうした問題を解決するべく、由利本荘市が、秋田県立大学、東日本電信電話秋田支店(以下、NTT東日本秋田支店)、みちのくキヤンテイーン、テルウェル東日本と共に行ったのが、スマートストアシステムを用いた「無人店舗運営の実証実験」だった。「普段から付き合いのあった電気通信事業者、コンビニエンスストア事業者、小売店をはじめとする複数の民間事業者、秋田県立大学で地域活性化を検討している研究室などに当市が抱える課題を相談していました。そんな中で、NTT東日本秋田支店さまから、無人運営が可能なテルウェル東日本さまの店舗向けスマート化ソリューション『SMARTORE』と、コンテナ型の無人対応店舗『ピックスルーBOX』を紹介いただき、共同で実証実験を行うことになりました」と藤原氏は振り返る。

スマートフォンのみで完結

 無人店舗運営の実証実験の実施場所には、無人運営の効果を検証するため、有人実店舗との比較が可能で、一定の大学生の利用が見込める秋田県立大学本荘キャンパスが選定された。キャンパス内にコンテナ型の店舗であるピックスルーBOXを設置し、2022年10月20日から12月20日までの2カ月間で実証実験が行われた。

「店舗は、販売要員およびレジ要員は置かず、入店から商品選択、セルフレジ決済、退店までの一連の流れを利用者のスマートフォンのみで完結する仕組みになっています。24時間営業しており、利用者はいつでも好きな時に店舗を利用できます。無人店舗で懸念される犯罪行為は、AIカメラを含む複数の防犯カメラ、入退店のゲートを設置するなどの対策を講じました。店舗の利用には、専用アプリケーション『ピックスルー』に事前に氏名の登録などが必要となるため、防犯対策にもつながり、実証実験では万引きなどのトラブルもなく営業できました」(藤原氏)

 本実験では、将来的な無人店舗の運営に関する有用性の有無や、店舗の利用者から得た行動データの活用などを検討するべく、さまざまな検証が行われた。


1. 無人運営での商品ロス増減の調査・検証

2. 店内監視システムの設置効果・検証

3. データ解析による動向実態調査、売れ筋商品の分析

4. 商品陳列による有人店舗と無人店舗の比較


「実際の効果については、現時点ではまだ分析中ですが、実証実験で、店舗の商品購買データを基に商品構成を入れ替えることで、売上に変化が起きるなど、データ活用が店舗運営に重要だと実感しました。また、無人店舗でも有人店舗と同じように、運営が行えることを実証できましたので、過疎化地域への展開に向けてさらに検討を重ねていきます」(藤原氏)

デジタル技術を街づくりに生かす

 無人店舗運営の実証実験では、延べ900人以上の利用があったという。「学生からは、『サークルや研究で夜遅くまで残っている時などに校内の売店が閉まっているので、24時間営業しているのは非常に助かる』『セルフレジ決済が簡単で、スムーズに買い物できた』『対人のやりとりがないので良い』といった声がありました。また、視察に訪れた企業さまからは、病院内や工場内の店舗の無人化を検討しているなど大きな反響をいただきました。この無人店舗はコンテナ型で設置も簡単にできますので、多くの場所でこうした取り組みを広めていきたいですね」と藤原氏は話す。

 今後も由利本荘市では、デジタル技術を活用した施策を進めていく予定だ。「当市では、これまでにも『窓口キャッシュレス化』『LINEによる情報発信の強化』『職員の辞令交付の電子化』『移動市役所の実証実験』『スマート申請』などさまざまな施策を実施してきました。もちろん、今後もデジタル化による市民サービスの利便性向上に取り組んでいく予定です。由利本荘市の市民が、いつまでも住み続けられる街づくりを目指していきます」(藤原氏)