作業の自動化からビジネスの自動化へ
ハイパーオートメーションが始まる

業務の効率化における理想は人手による作業を最小限に抑えて、関連する業務を含めて全社規模で自動化することだろう。そもそもITは業務の自動化に大きく寄与してきた。さらに昨今ではRPAが作業の自動化を実現している。そしていよいよ理想に近づく自動化が現実となる。それが「ハイパーオートメーション」と呼ばれるテクノロジーだ。ハイパーオートメーションは単一のテクノロジーではなく、既存のRPAも取り込みつつ、さまざまな自動化ツールやAIなど複数のテクノロジーで構成される。このハイパーオートメーションによってこれまで自動化が難しかった複雑な業務や専門性の高い業務、高度な知識を必要とする業務など、あらゆる領域の業務を広範囲に自動化できる可能性がある。またオフィス業務だけではなくシステムの運用・管理、開発・設計など情報システム部門にも適用できる可能性もある。果たしてハイパーオートメーションは国内IT市場に新たなビジネスを生み出すのか。結論から言うと、テクノロジートレンドの潮流はすでにハイパーオートメーションに向かっているのだ。

日立ソリューションズでは顧客企業の業務の効率化の支援策の一つとしてRPA事業を展開してきた。しかし国内のRPA市場が飽和しつつあること、またRPAだけでは業務の効率化に限りがあること、そして今後の事業の拡大および成長を踏まえて従来のRPA事業をハイパーオートメーション事業に発展させた。間もなく国内でもハイパーオートメーション市場が形成され、成長していくとみている同社は社内にハイパーオートメーションの仕組みを構築し、業務プロセスの自動化を実践している。日立ソリューションズのハイパーオートメーション事業について計画と展望を伺った。

出所:ガートナー「2022年の戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」(2021年11月)

ハイパーオートメーションとは何か
RPAと異なるアプローチの自動化

 そもそもハイパーオートメーションとは何か、国内では認知度は低いが、海外では画期的なテクノロジーとして注目を集め、今後の進展が期待されている。ハイパーオートメーションが注目されるきっかけとなったのが、IT分野を中心に市場の調査・分析やコンサルティングなどのサービスを提供する米国のガートナーが2019年にハイパーオートメーションを定義し、提唱したことだ。

 ハイパーオートメーションはガートナーが提唱したキーワードであるが、ハイパーオートメーションと同様の定義をインテリジェントオートメーションやインテリジェントワークフローと表現している企業もある。

 ガートナーは毎年発表している「戦略的テクノロジーのトップトレンド」の2020年版(2019年発表)の中で初めてハイパーオートメーションを取り上げた。さらに翌年の2021年版、その翌年の2022年版でもハイパーオートメーションを取り上げ、テクノロジーとしての重要性が非常に高いことを市場に発信した。

 日立ソリューションズでハイパーオートメーション事業を推進するスマートワークソリューション本部 ハイパーオートメーションビジネス部 部長 佐藤恒司氏は「ガートナーの戦略的テクノロジーのトップトレンドに3年連続でランクインするテクノロジーは見たことがありません。それほど同社はその重要性を訴えていると感じました」と語る。

 ところでガートナーが注目し続けるハイパーオートメーションとは何を意味しているのか。オートメーション(自動化)という言葉からRPAの発展形だとイメージしがちだ。しかしRPAを包含しつつも、全く異なるアプローチによるオートメーション(自動化)なのだ。

 ガートナーによるとハイパーオートメーションについて「複数の機械学習(ML)、パッケージソフトウェア、自動化ツールなどを組み合わせて一連の仕事を実行する概念と実装。ツールセットの幅広さだけを議論するのではなく、自動化のあらゆる手順(発見、分析、設計、自動化、測定、モニタリング、再評価)を考える必要がある。ハイパーオートメーションでは自動化メカニズムの範囲や、そうしたメカニズムがどのように相互に関連し、それらをどのように組み合わせて調整できるかを理解することが重要」だと説明している。

 さらにハイパーオートメーションについて「RPAから始まったトレンドだが、RPAだけではハイパーオートメーションだとは言えない。ハイパーオートメーションはツールの組み合わせによって、人がタスクに関与している部分を模倣できるよう支援することが必要」とも説明しており、RPAを包含しつつも人が関わるさまざまな仕事をテクノロジーが代替して行うことだと理解できる。

 ただしこれは戦略的テクノロジーのトップトレンドで初出となる2020年版での定義だ。翌年の2021年版では「ビジネス主導のハイパーオートメーションとは企業が規律をもって、できる限り多くの承認されたビジネスプロセスとITプロセスを迅速に特定・精査し、自動化するアプローチ」であると表現が変化している。

 さらに2022年版では「ハイパーオートメーションは、可能な限り多くのプロセスを迅速に特定し、検証し、自動化することにより、成長の加速とビジネスのレジリエンス向上を実現する」と説明している。

 3年連続でガートナーの戦略的テクノロジーのトップトレンドに取り上げられたハイパーオートメーションだが、その市場についてガートナーは2021年版で「ハイパーオートメーションは過去数年にわたって容赦ないペースで勢いを増しており、パンデミックによって全てが『デジタルファースト』であることが突然求められるようになり需要が高まっている」と成長を続けていると指摘している。

 さらに2022年版では「先進的なハイパーオートメーションのチームは仕事の質の改善、ビジネスプロセスの高速化、意思決定におけるアジリティの強化という三つの重要な優先課題に注力している。ビジネステクノロジストは過去1年で平均4.2件の自動化イニシアティブをサポートした」と具体的な動向を示している。

日立ソリューションズ 佐藤恒司

国内にも市場が形成され商機が広がる
専門部署を設置していち早く事業展開

 ガートナーが定義した通り、ハイパーオートメーションは複数の機械学習やパッケージソフトウェア、自動化ツールなどのテクノロジーを組み合わせて構成される。現在はその構成要素が拡大しており、例えばRPAやiPaaS、ビジネスプロセスオートメーション(BPA)、インテリジェント・ドキュメント処理(IDP)、タスクマイニング、意思決定管理スイート(DMS)、ローコード開発プラットフォーム、OCR、そしてAI/機械学習と自然言語処理も含まれる。

 日立ソリューションズの佐藤氏は「ハイパーオートメーションによる自動化の領域が広がることで、構成するテクノロジーも増えていくとみています」と説明する。日立ソリューションズではハイパーオートメーション事業においてRPAやiPaaS、そしてRPAやAIを組み合わせてビジネスプロセスの管理を一元化するプラットフォームとなるiBPMS(intelligent Business Process Management System)を主なテクノロジーとして提供している。

 米国を中心に市場が形成され拡大、成長を続けているとみられるハイパーオートメーション市場だが、日本の市場では認知度が低く、ビジネスにおける自動化にはRPAが活用されるケースがほとんどだろう。

 しかし佐藤氏は「マイクロソフトやセールスフォース・ドットコムなどのITベンダーのグローバルリーダーたちが企業買収により急速にハイパーオートメーション事業を強化しています」と指摘する。こうしたビジネストレンドの潮流に加えて、国内でもRPAベンダー各社がハイパーオートメーションに関するセミナーを積極的に開催しているという。

 また佐藤氏は国内のRPA事業の新たな展開に備えるためにも、いち早くハイパーオートメーションを事業展開するべきだと考えている。佐藤氏は「国内では2017年ころからRPAの導入が本格化しました。それから5〜6年たった現在、せっかくコストをかけて導入したRPAですが、本当に効果が得られているのかという課題が顕著になっています。その要因として特定の部門や業務で利用されるケースが多く、全社的な展開ができていないことが挙げられます」と指摘する。

 さらに自動化の対象となる業務の見極めやエンジニアの不足によるロボット作成の限界もRPAの活用範囲が広がらない要因だ。一方でRPAの活用範囲を広げていくとロボットの数が増えてしまい、運用の負担が増大するという課題も生じる。

 佐藤氏は「当社としてはこの業務にだけRPAを活用していたのでは費用対効果が低いと指摘させていただき、ほかの業務にも導入して活用範囲を広げていただく提案を積極的に行っています」と説明する。

 しかし「RPAは個人のタスクを自動化するツールです。活用の仕方によってはより広い範囲で業務を自動化できますが、それには限界があります。またお客さまがRPAを導入する際、この業務で使いたいといった要望があり、その要望に応えるためのプロジェクトとなります。プロジェクトの枠を超えて、例えばワークフローと組み合わせるとより高い効果が得られますといった提案をすれば、お客さまへの貢献の度合いを高められますし、ビジネスの拡大にもつながります。そうしたことを目指して今年4月より従来のRPAソリューション部をハイパーオートメーションビジネス部へと改め、RPAからハイパーオートメーションへと事業を拡大しました」と話を続ける。

ハイパーオートメーションで事業領域を拡大
顧客に提示する環境と事例を自社で実践

 日立ソリューションズがRPAソリューション部をハイパーオートメーションビジネス部へと組織を変えたことに伴い、実際のビジネスの内容も大きく変化させている。同社の従来のRPA事業ではAutomation Anywhereのみを扱い、ライセンスビジネスとSIやBPO(業務受託)などを展開してきた。

 現在のハイパーオートメーション部ではRPAに加えてiPaaSやiBPMSの製品も扱い、そのラインアップも増やしている。RPAではAutomation Anywhereに加えてUiPathとマイクロソフトのPower Automateを、iPaaSではAutomation AnywhereとWorkato、Power Automateを、そしてiBPMSではAutomation Anywhere Robotic Interface(AARI)、Workato、マイクロソフトのPower Appsを展開している。

 今後国内では少子高齢化による労働力人口の減少が進み社員の獲得がより難しくなり、また必要なスキルを習得した人材の確保もより厳しくなる。また企業が存続するには高収益体質への転換が必要で、収益につながらない無駄をそぎ落とすことが求められる。そうした背景の下で業務を横断的に広範囲に自動化し、省力化できるハイパーオートメーションへとニーズの拡大が期待できるだろう。しかし前述の通り国内ではハイパーオートメーションの認知度は低い。今後その効果を理解してもらうには何から取り組むべきなのだろうか。

 佐藤氏は「ハイパーオートメーションに限らず新たな市場が形成され成長し始めると競合も増え、顧客の奪い合いになることはご存じの通りです。ですから新しい市場が生まれたらいち早く参入してビジネスの苗を植えるべきです。当社は数年前よりハイパーオートメーションへの早期参入を視野に入れており、早くから準備を進めていました。ただしハイパーオートメーションは新しいソリューションですから、お客さまも自社での活用をイメージしにくいと思います。しかしお客さまから問い合わせをいただいても国内にハイパーオートメーションの事例もなく、見ていただく環境もありませんでした」と説明する。

 そこで日立ソリューションズのハイパーオートメーションビジネス部はハイパーオートメーションを自身の業務に導入して実践することで自ら環境と事例をつくり、顧客に具体的に提案することにした。そしてライセンス販売に加えて力を入れたのが、技術支援などのサービス提供に伴う顧客への保守サポートだ。

RPAのカスタマーサクセスに注力
次の要望から新たな商機につなげる

 日立ソリューションズのハイパーオートメーションビジネス部が開発したハイパーオートメーションを体現するシステム基盤は、2022年10月より稼働を開始し、機能の追加や強化、サービス内容の見直しなどを続けて進化させている。

 同システム基盤はAutomation AnywhereとWorkato、Power Automateを自動化の基盤として、顧客サポートおよびサービス管理を支援するZendeskをはじめマイクロソフトのOutlookやTeams、Power BI、SharePoint、Power Apps、そしてFormsなど、適材適所でSaaSをつないで構成されている。

 現在、同社のハイパーオートメーションビジネス部内で実現されている自動化は、例えばライセンスの納品やユーザー追加作業、問い合わせ対応状況の集計や分析、顧客からの問い合わせ内容の社内共有などが挙げられる。

 佐藤氏は「現在のシステム基盤は具現化されたハイパーオートメーションのベースラインとしては十分参考になると自負しています。お客さまにソリューションを提供する場合は、本システム基盤をモデルケースとした提案だけではなく、お客さまが運用中のRPAやシステムおよびサービスを生かして、最適な組み合わせによるハイパーオートメーションも提案していきます」とアピールする。

 ところでハイパーオートメーションを実現するテクノロジーとしてAIは非常に重要な役割を担う。AIを活用するにはモデルを構築して学習させなければならない。AIのモデルをどのように実装していくのだろうか。

 佐藤氏は「ハイパーオートメーションの事業化を視野に準備を進めていたところ、2年ほど前にAIのモデルを学習させるためのデータの入手が課題となりました」と振り返る。そこでRPA事業において、お客さまが導入したRPAの成果を向上させるためのCoE(Center of Excellence)となるRPAセンターの業務を受託するBPOサービスの提供を始めたという。

 佐藤氏は「お客さまのRPAセンターの業務を受託することで、ご了承をいただいた上でお客さまのRPAの適用業務や活用方法などの匿名情報を蓄積でき、その情報をAIのモデルの学習に生かすことができると考えました。将来的には日本のお客さまの業務に最適化された、実践的な学習済みのAIモデルの構築に向けて、いろいろなことを検証しています」と説明する。

 今後の戦略について佐藤氏は「すでにRPAを活用しているお客さまがたくさんいらっしゃいますが、使いこなせていないケースが少なくありません。当社はカスタマーサクセスにも力を入れており、RPAを使い倒して最大限の効果を得るためのお手伝いをしています。そうすれば次の要望が出てきます。そこでiPaaSやiBPMSで徐々に自動化を広げていく提案をしていきます」と説明する。

 つまりRPAによる「点の自動化」から関連する業務とつなげる「線への自動化」へと提案を広げ、それを全社規模で展開を進めて「面の自動化」を目指していくというシナリオだ。そうすることでカスタマーサクセスを実現しながら、ビジネスも伸ばせるというわけだ。

 最後に佐藤氏は「ハイパーオートメーションではいろいろなシステムやデータをつなぐことと、その結果として広範囲にわたる業務を自動化することが求められます。今後はインテグレーションとコンサルティングのスキルとノウハウが問われます」と語る。ハイパーオートメーションはSIerのビジネスを原点回帰させる側面もありそうだ。

ハイパーオートメーションに含まれる「オートメーション」は20年以上前からアステリアにとって重要なテーマとなっており、それを具現したのが2002年に発売した同社初のノーコード製品「ASTERIA R2」で現在の「ASTERIA Warp」となる。ASTERIA Warpはテクノ・システム・リサーチ「2022年ソフトウェアマーケティング総覧 EAI/ESB市場編」において16年連続でトップシェアを獲得しておりロングセラーを誇る製品だ。長年にわたりオートメーションに取り組んできた同社に、ハイパーオートメーション市場の可能性を伺った。

三つの要件によって
オートメーションがハイパーに

アステリア
平野洋一郎

 アステリアが約20年前に市場に投入したオートメーション製品となる「ASTERIA Warp」は複数システムへのデータ入力作業や受発注処理業務、Excelデータの更新作業などの業務をノーコード開発で自動化するデータ連携ツールだ。RPAも存在しなかった当時、ASTERIA Warpはセールスポイントの一つとして「ビジネスオートメーションプラットフォーム」を掲げていた。

 同社の代表取締役社長/CEO 平野洋一郎氏は「ASTERIA Warpはデータ連携ツールですが、それがもたらす成果は自動化です。何を自動化するのかというと、作業や業務だけではなくビジネスそのものを自動化することを目的としています。データ連携を通じて自動化する仕組みでなければ、広い範囲に適用できません」と説明する。

 業務や作業を自動化するツールとして数年前からRPAが注目され、数多くの導入実績があり成果が挙げられている。RPAは操作の自動化を通じてデータを扱ったり連携させたりすることが可能だが、「元のデータにアクセスして処理するわけではない」(平野氏)という仕組みの違いがある。

 ハイパーオートメーションが「ハイパー」であることについて、平野氏は次の三つの定義を示している。一つ目は複数のアプリケーションやシステムに跨るオートメーションであること。従来のオートメーションは一つのプロセスがある場所のシステムやアプリケーションを自動化するが、ハイパーオートメーションでは自動化のスケールを非常に大きくできる。

 二つ目はデバイスの広がりだ。従来のオートメーションはPCの画面の中で行われるが、ハイパーオートメーションでは画面を超えてPCやサーバーだけではなくセンサーやカメラなどのIoTデバイスにもつながり、やはり広範囲に自動化できる。画面を超える点もハイパーであるゆえんの一つというわけだ。

 三つ目が最も重要なポイントでAIを活用することだ。企業ごとのリアルなデータを基にAIを活用することで、単純な定型作業だけではなく複雑な作業やプロセスの自動化も可能となる。平野氏は「これら三つの定義を満たすにはいずれもデータ連携が必須となります。これまでデータ連携を実現するツールはさまざまな仕組みを下支えする縁の下の力持ち的な存在でしたが、ハイパーオートメーションの実現に向けた取り組みが本格化することでデータ連携ツールがソリューションの中心的な役割を果たすようになります」と強調する。

 アステリアではデータ連携、デバイス連携、システム連携、AI活用などこれら三つの定義を包含する「Gravio」も提供している。平野氏は「Gravioはハイパーオートメーションをうたってはいませんが、ハイパーオートメーションと言われる世界を目指して開発し、進化しています」とアピールする。

ASTERIA Warpは社内に存在する各種システムやデータと、クラウドサービス上に存在するさまざまなデータをノーコード開発で連携できるツールだ。

経営に必要かつ課題に有効なシステムを
AIが動的に組み合わせて構築・提供

アステリア
東海林賢史

 データ連携によるオートメーションによってビジネスを自動化できるようになることに加えて、経営環境やIT環境の変化、課題に応じて適切なシステムを自動的に構成することもできるようになるという。

 データ連携とAIの活用によってあらかじめ設定されたオートメーションだけではなく、業務や経営、システムの状況や課題をAIが判断し、その解決策となるシステムを稼働中のアプリケーションやSaaSなどから適切な組み合わせを選択してつなげて自動的に構築して稼働させる。またその組み合わせを動的に変えて変化に対応するというイメージだ。

 平野氏は「ChatGPTのように課題(プロンプト:命令文)に対して回答が生成されるイメージです。今やChatGPTでプログラムコードも生成されるレベルです。AIが(課題の解決や業務の効率化、新たな事業や業務などに)必要なアプリケーションやサービスを探して仕様を確認し、つなぐために必要なAPIを判断したり、つなぐための設定やルールを自動的に生成したりすることは不可能ではありません」とハイパーオートメーションの展望を見立てる。

自然言語で誰でも扱えるように進化
SIビジネスに変化をもたらす可能性も

 このようにハイパーオートメーションの進展によって自動化の領域がぐっと広がることがイメージできる。さらに平野氏は「これまでAIを活用するには専門のエンジニアが必要でした。ところがChatGPTのように自然言語で誰でも簡単にAIを利用できるようになりました。同様にハイパーオートメーションにおいてもエンジニアではなく経営者や業務の現場の社員がAIに指示して、さまざまな自動化を実現、利用できるようになるでしょう」という。

 ただし同社のプロダクトマーケティング部 東海林賢史氏は「ChatGPTを例に挙げると、プロンプトのわずかな違いや実行タイミングの違いによって回答が異なるという課題があります。プロンプトを工夫することで回答をある程度安定させることは可能ですが、ロジックとしてそのまま利用するには現時点ではまだ不安が残ります。一方、ノーコード開発はロジックが明確であるため、誰が利用しても同じ結果が得られるという特長があります。そのためAIとノーコード開発を組み合わせることがメリットを最大化する方法として期待できます。AIが持つ柔軟で強力な情報処理能力を、ノーコード開発によるロジックの一部として利用するのです」と指摘する。

 ハイパーオートメーションが本格化することで、SIビジネスに変化をもたらすとも指摘する。平野氏は「これからのSIビジネスにはシステムを作ったり提供したりするだけではなく、使うことを支援するサービスが重要になるでしょう。また活用の伴走をするにはビジネスモデルが変わるため、売上ではなく利益を重視する経営が求められます」とアドバイスする。

 ハイパーオートメーションが実現する世界において、有効なサービスの見極めや選択の支援、いろいろなサービスの接続、顧客の社員への教育などがSIerに求められるだろう。

プライム・ストラテジーはWebページ高速化ツールの開発や顧客の複数のWebサイトを統合運用するマネージドサービスで業績を伸ばしている。同社はRPAやデータ連携、AIなどのテクノロジーを活用するハイパーオートメーションで提供サービスの監視や運用、顧客対応、そして社内業務を合理化することで少数精鋭での高収益体質を追求し、今年2月に東京証券取引所スタンダード市場への株式上場を果たした。すでにハイパーオートメーションの成果を得ている同社に、その有効性と導入・運用におけるポイントを伺った。

サービス提供に伴う業務負担軽減と
サービス品質向上を図る切り札

プライム・ストラテジー
渡部直樹

 プライム・ストラテジーはWebページを高速化するCMS実行環境の「KUSANAGI」(クサナギ)と画像やテキストの表示を高速化する「WEXAL」(ウェクサル)を組み合わせて、Web表示の全てのプロセスの高速化を実現する製品を提供しているほか、複数のWebサイトを統合運用するマネージドサービス「CMSプラットフォーム統合サービス」も提供している。

 KUSANAGIはMicrosoft AzureやAWS(Amazon Web Services)、GCP(Google Cloud Platform)をはじめとしたクラウドを通じてプライム・ストラテジーが自らサービスを提供するとともに、顧客が自身でKUSANAGIをクラウドに展開して利用するケースもある。

 同社の人材開発部 管掌取締役 兼 部長 渡部直樹氏は「マネージドサービスを提供するためにKUSANAGIをリアルタイムで監視し、問題や課題を検知して対処しなければなりません。しかしグローバルに分散して稼働している多数のKUSANAGIを監視して対処するには、従来の方法では非常に多くの人手を要し、対応に時間もかかります」と説明する。

 こうした課題は顧客が増えるほど問題が大きくなり、収益を圧迫するとともに対応への遅れや人為的なミスなどサービス品質への影響も懸念される。そこで同社はマネージドサービスの提供に伴う業務負担の軽減とサービス品質の向上に向けて、ハイパーオートメーションの仕組みを自社で構築し、活用している。

ハイパーオートメーションを社内活用
社内業務もつなぎビジネスを自動化

 同社が構築したハイパーオートメーションの仕組みは「KUSANAGI Cloud」をデータ連携のハブとして、Zabbixを用いてさまざまなクラウドプラットフォームに分散して稼働するKUSANAGIの死活監視などを行うとともに、各クラウドでユーザーが利用しているサーバーやアプリケーションのサービスの状態を取得して解析し、ボトルネックなどの課題を検知して対処する。こうした監視や運用に関する作業の大半を自動化しており、人手で対処する場合も従来と比較して少ない負担および時間で済む。

 さらにこの仕組みを社内業務にも連携させている。例えば会計ソフトの「freee」やプロジェクトおよびタスク管理ツールの「Backlog」、案件管理ソフトの「board」、そしてMicrosoft 365などのクラウドサービスと連携しており、プロジェクトやコミュニケーションの情報や契約・請求の情報などを、前述のKUSANAGIの監視・運用の情報とひも付けている。

 その結果、例えば新しいインスタンスが起動されると自動的に請求書が発行されるという自動化を実現している。一方で新しいインスタンスが起動されているのに請求書が発行されていない、逆に請求書が発行されているのに該当するインスタンスが起動されていないというように、連携する業務を確認することもできる。

 渡部氏は「関連する複数の業務のデータを連携することで処理が自動化できるとともに、その正否も自動的に確認できます。こうしたハイパーオートメーションの仕組みをうまく活用してお客さまへのサービス提供や対応に伴う業務を高度に効率化するとともに、社内の間接業務も連携させて自動化することでビジネス全体の合理化が図れています。現在、当社の社員はわずか23名ですが少数精鋭で無駄なくビジネスを展開できており、高収益体質を突き詰めた成果として今年2月に東京証券取引所スタンダード市場への株式上場を果たしました」と話す。

ポストモダンERP with ハイパーオートメーション(未来のERP)は適材適所でアプリケーションやサービスを選択して組み合わせ、データ連携させることで実現する。

全ての日本の企業に必須のテクノロジー
導入の第一歩はマスターデータの整理

 それではハイパーオートメーションの導入、運用を成功させるにはどのような取り組みが有効なのだろうか。渡部氏は「ハイパーオートメーションはビジネスで取り扱う全てのデータのつながりを管理する仕組みだと理解するべきです」とした上で、ハイパーオートメーションを導入するに当たり特に重要なのがマスターデータの整理だとアドバイスする。

 データを有効活用するにはデータの各項目の表現を統一する必要がある。例えば同一商品であっても取引先ごとに異なるコードを用いるなど同じ商品に複数のコードがあると、コードを軸に売上推移などを見える化する際に正しく表現できない。

 ただしマスターデータを整理するのはとても大変な作業だ。しかしデータ連携を通じて自動化を図るハイパーオートメーションを実現するにはマスターデータの整理が前提となり、マスターデータの整理の度合いがハイパーオートメーションの成果を左右するというほど重要なことなのだ。

 このほかレガシーシステムのWeb化やクラウド化などつなぎやすい環境を整備することも大切だ。異なるアプリケーションやサービスをAPIやデータで連携させることで、適材適所でアプリケーションやサービスを自在に組み合わせてシステムを構築できる「ポストモダンERP」が実現可能になる。さらにハイパーオートメーションで全てのデータの連携を管理すれば、広範囲にわたる高度な自動化が実現できる。その際にAIの活用も必須となる。

 渡部氏は「KUSANAGIはCMSの実行環境として提供していますが、今後はハイパーオートメーションのプラットフォームとして提供していく計画です。またKUSANAGI Cloudとデータ連携できるSaaSの拡充やAI機能の強化を図り、ハイパーオートメーションとしての高度化にも取り組みを続けます」とアピールする。

 そして「当社が実践して成果を示している通り、ハイパーオートメーションは全ての日本の企業に必須のテクノロジーであり、企業の経営と業務の全てに貢献できます」と強調する。

IT専門の調査会社であるIDC Japanの調査結果によると、国内のAIシステム市場が大きく成長している。その用途としてはナレッジマネジメントとITオートメーションだという。実は国内のAIシステム市場は2022年に成熟期に差しかかっていたとみられた。ところがChatGPTの突然の出現によって市場が刺激され、今後も成長が継続すると予測されている。

国内AIシステム市場は前年比35.5%増
調査対象の72.4%がAIシステムを利用

IDC Japan
飯坂暢子

 IDC Japanが今年4月27日に発表した「2023年 国内AIシステム市場予測」によると、2022年の国内AIシステム市場の市場規模(エンドユーザー支出額ベース)は前年比35.5%増の3,883億6,700万円だった。

 また2022年のAIシステム市場の53.5%を占めるソフトウェア市場が前年比29.4%増加し、これが国内AIシステム市場の継続的な成長をけん引していると指摘している。さらに国内AIシステム市場の28.7%を占めるサービス市場は前年比44.1%の増加、同市場の17.8%を占めるハードウェア市場も前年比41.9%の増加と、国内AIシステム市場の成長を支えている。

 2023年の国内AIシステム市場の市場規模は前年比27.0%増の4,930億7,100万円になると予測している。2023年は前年比27.0%増と前年に比べると成長スピードは鈍化するが、その後も同市場は成長を続けるとみられ、2022〜2027年のGACR(年平均成長率)は23.2%で推移し、2027年には1兆1,034億7,700万円になると予測している。

 IDC Japanでは2018年からAIシステムの企業利用調査を継続実施している。今年4月5日に発表された「2023年 国内AIシステムに関する 企業ユーザー調査」の結果では、国内542社を対象にAIシステムの取り組みを把握していると回答(単一回答)した担当役員や管理職、情報システム担当者など従業員規模が100人以上の522社のうち、限定された部門でのPOC(Proof Of Concept:実証実験)から全社利用までを含めると、調査対象の72.4%がAIシステムを利用していることが分かった。

 IDC Japanでこの調査を担当したSoftware&Services リサーチマネージャー 飯坂暢子氏は「日本ではディープラーニングが認知され始めた2015年あたりから機械学習やAIの利用が広がり、大企業を中心にユースケースが増えていました。さらに2022年までの数年間で従業員1,000名未満の中堅中小企業でも機械学習やディープラーニングなどのAIテクノロジーへの支出が増え始め、国内のAIシステム市場は成熟期を迎えたとみていました。ところが昨年末にChatGPTが登場し、AIの新たな用途やその効果に期待が高まり、国内AIシステム市場は引き続き成長を続けています」と解説する。

日本ではナレッジマネジメントに
海外では意思決定の迅速化にも活用を期待

 IDCではChatGPTのようなジェネレーティブAI(生成系AI)について利用予定に関する調査をグローバルで実施しているという。その調査からジェネレーティブAIへの投資傾向は日本と海外とで大差がないという結果が得られており、日本でもAI活用への意欲が高いことが伺える。

 日本でAI活用への意欲が高い背景として、現在の社内に蓄積されたナレッジから必要とするナレッジを検索する際には、最適な単語を選ぶ能力やコツが求められ、比較的には「あいまいさ」が許容されていない点が課題にあると考えられる。ところがChatGPTのような自然言語を活用する対話型AIでは、あいまいなプロンプト(命令文)も利用できるようになり、誰でもナレッジを探し出しやすくなっている。これにより、社内のナレッジの共有や活用の促進を期待していることが挙げられる。

 またビジネスプロセスの高度な自動化にAIが寄与する領域やユースケースは数多く存在するが、特に海外ではAIが組み込まれたビジネスアプリケーションを活用するケースが多く見られる。

 その背景として例えば海外ではERPを標準仕様のまま利用するケースが大半であり、ERPを標準仕様で導入・利用することで、おのずと業務が標準化されるため自動化がしやすく効果が期待できることが挙げられる。AIを搭載するERPに組み込まれたAIの推測モデルが次に行うべき具体的な行動をいくつか提示し、従業員がそこから選択して実行することで意思決定を迅速化できる。

 例えば請求書と発注書、納品書を突合する場合、関連するデータの抽出や数値の突き合わせ、その正誤まではAIで自動化するが、それを決裁して業務フローに流すかどうかは人が判断するという仕組みだ。つまり意思決定(この場合は決裁の判断)に必要な情報をAIで自動的に収集することで意思決定が迅速化でき、その結果、業務フロー全体が迅速化されてビジネスのスピードが上がるというわけだ。

 今後は高度化されたビジネスプロセス、すなわちインテリジェントオートメーションにおけるAIの活用の仕方に変化が生じると飯坂氏はみている。飯坂氏は「現状のインテリジェントオートメーションは業務の処理の仕方やフローの手順のルールをあらかじめ人が決めた上でAIに学習させて自動化し、重要な意思決定に人が介入します。今後は標準化されていないあいまいな業務の処理やフローに関連したデータをAIに学習させるなどして、あいまいな状況から定型化を探り出して最適化を続けて洗練していくという、いわばアジャイル開発の手法のようなインテリジェントオートメーションへと変化していくとみています」と分析する。