町内に整備されたケーブルテレビ網で
休校時のオンライン授業を円滑に実施

2020年4月に政府から出された緊急事態宣言。全国の小中高校が臨時休校となった中で、学びを止めないためにオンライン授業に取り組む自治体も多く見られた。中山間地域に位置する西会津町も、その自治体の一つだ。町内のほぼ全ての家庭にインターネット環境が整っているという同町では、どのような学びを実現できたのか。その様子を見ていこう。

中山間地域にある“ICTの町”

 福島県と新潟県の県境に位置する福島県西会津町。西会津町では少子高齢化が進み、2021年1月1日現在の人口は計6,022人。小中学校も統廃合により、町内に小学校1校、中学校1校となっている。そんな同町だが、実はICT環境整備の進んだ“ICTの町”でもある。

 日本の国土の約7割を占めると言われる中山間地域では、その土地柄から通信網の整備が困難とされている。しかし、同じく山々に囲まれた中山間地域である西会津町ではケーブルテレビが普及しており、ほぼ全ての家庭でインターネットの接続が可能な環境が整っている。背景には、高齢化が進む町民の健康増進のため、自治体からの情報発信をケーブルテレビ網で実施すると同時に、そのインフラを活用した在宅健康管理システムを整備していたことがある。

 2018年に西会津町教育委員会の教育長に就任した江添信城氏も、当時は西会津町のICT環境整備に驚いたという。もともと先進的なICT教育に取り組む埼玉県戸田市の教育委員会で学校経営アドバイザーを担っていた江添氏は、西会津町長からの強いオファーがあり現職に就任した。

「就任当時から西会津町でICT教育に取り組んでいく強い思いがありました。2018年からジャストシステムに依頼し、半年間授業支援ソフト『ジャストスマイル』をお借りしました。2019年度からは予算化し、ライセンスを購入。現在も授業に活用しています。また、端末整備は他県在住の西会津町支援者から寄付を募り60台のiPadを当時の小学校4年生60台分に導入しました。2019年度は農林水産省の補助金を獲得し、当時の4年生と6年生の80台分の端末を整備しました」と江添氏は振り返る。

小学校ではiPadを活用して授業を行う。
学習ツールとして文房具のように使ったり、オンライン授業参観を実施するツールとしても利用した。

ケーブルテレビでオンライン授業

 授業でもICTを活用する環境が整いはじめていた中で起こったのが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う全国一斉の臨時休校だ。児童生徒が登校できない中、学びを止めないために西会津町で活用されたのが、ケーブルテレビだ。

「当時は非常に急な臨時休校となったので、3月末の終業式までは西会津町のケーブルテレビを使って一方通行のオンライン授業を実施しました。8時半から小学生、そのあとに中学生というように時間や曜日によって放送内容を変えながら、健康観察も兼ねた授業を行いました。その後新学期がスタートした2020年4月中旬ごろからは、既に端末整備がされている小学校5~6年生を対象に、Zoomによる双方向型のオンライン授業を実施しました」と江添氏。中学校では各家庭で所持していた端末を活用し、教育プラットフォーム「Classi」を活用したオンライン教育を実施。休校期間中もほぼ遅れることなく、本来の授業内容を家庭で学べたという。

 もちろん、一部の家庭ではインターネット契約をしていないケースもあった。西会津町では全ての子供たちの学びを保証するため、そうした家庭に対しては町で回線契約金を負担し、学習用端末しか接続できないように設定することで、学びを継続させたという。

 コロナ禍によってGIGAスクール構想の整備計画も大きく前倒しされた。西会津町ではGIGAスクール構想の補助金を利用し、中学校では6月に2in1タイプのWindows端末を100台、全学年を対象に導入した。端末と併せて学習用のアプリケーションを検討した際に導入を決めたのが、ICT教材「すらら」だ。

中学校では2in1タイプのWindows端末「MousePro P116Bシリーズ」を導入。
教室には電子黒板も備えられており、協働的な学びに役立てられている。

夏休みの学習もICTを活用

 江添氏は「すららは、最初に単元の説明があり、その後に問題を出すという流れが子供たちの学びに最適な教材でした。夏休みに一学期の復習内容をすららを使って学習してもらい、夏休み明けの実力テストもすららを使いました。従来の紙ベースの実力テストと異なり、問題を解いたその場で正解・不正解が分かるので、学習の間違いにすぐに気付けるのがよいですね。1時間の授業の中ですららで30分テストをして、残り20分は答え合わせをした後個別指導をするといったような、効率的な学びにもつなげられました」と活用の効果を語る。

 小学校1~3年生の185台分の端末整備も、9月には全て完了した。小学校では全学年iPad、中学校ではWindows端末を選択した理由について、江添氏は「小学生の場合、タッチ操作で直感的に使えるiPadが学びに有効です。特に低学年は、キーボード操作よりもモニターをタップした方が操作の効率がよいと考えました。6年生など高学年になると、キーボード付きのiPadカバーを使ってタイピングするケースもあります。しかし、学習用アプリケーションを見ると、Windows端末の方が種類も豊富にあり、教員もその操作性に慣れています。そのため、中学生用の学習端末ではWindowsを選択しました」と語る。

「これからのAIの時代で子供たちに求められるのは、AIでは代替できない能力と、人工知能を活用する能力です。それらを育成するためには、ツールとしてのICTを基盤とした指導の個別化や学習の個別化といった、個別最適化された学びが不可欠になります。西会津町のような人口減少地域では人材教育が何より重要で、さまざまな教育にまつわる施策を、今後も産官学民が連携して進めていきます」と江添氏は展望を語った。