デジタル庁の重点プロジェクト
行政DXの現場リポート

短期連載:2回目

学校現場のICT化から波及した
マイクロソフトと愛知県の連携協定

行政機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて、中央官庁や自治体への支援を進める日本マイクロソフト。円滑かつ包括的なサポートを実現できるよう、自治体のデジタル化に向けた包括連携協定の締結も結んでいる。愛知県は、そうした協定を結んだ自治体の一つだ。同県のデジタル化をけん引しているのは、一歩先を行くICT教育への取り組みだった。

契機は教員への端末配備

 愛知県は2020年12月16日、日本マイクロソフトのクラウドやAI技術を活用しながら、オンライン学習や行政のデジタル化、それを支えるデジタル人材の育成に向けて取り組むことに合意し、同社との包括連携協定を締結した。取り組みとしては以下の4点が挙げられている。

1.デジタルを利用した学校教育
2.行政のデジタル化・DXによる県民の利便性向上
3.デジタル人材の育成
4.その他、県のデジタル社会の実現

 こうした包括連携協定締結に至った背景には、愛知県でのICT教育への取り組みがある。愛知県では、県立校の教員用端末として約1万1,500台の「Surface Go」を導入するなど、学校現場でのICT教育環境整備が積極的に進められていた。

「これだけの規模の台数を一カ所で導入するというのは世界的に見ても大口だそうです。もともと教員用に1人1台のPCは整備されていましたが、校務系と学習系のネットワークを分けることを考えた際に、学習用の端末としてSurface Goを追加で導入して1人2台持ちの環境を構築する方が利便性が高いと判断しました」と語るのは、愛知県教育委員会 教育企画課長の稲垣宏恭氏。

 その後、Microsoft 365 EducationのOffice 365 A3ライセンスを包括的に契約。2019年度末までに全教員と生徒を対象に、アカウントを発行した。

「そうした整備を進めている内に、文部科学省からGIGAスクール構想が発表されました。2019年12月当時は小中学校に1人1台の端末整備を進める計画でしたので、県立の特別支援学校はもちろん、今後を見据えた高等学校への整備が必要だと判断し、2020年度は高等学校の生徒に対してSurface GoおよびSurface Go 2を合計4万台整備しました」と稲垣氏。

マイクロソフトツールで人材育成

 特長的なのが、その配備計画だ。愛知県の県立高校は150校あるが、その1校当たり平均80台を配備することに加え、内48校に対して生徒1人当たり1台の端末を重点的に配備する。48校にはICT研究校や、山間部の学校、定時制高校のほか、商業高校や工業高校などが指定されている。

 こうしたICT教育環境の整備が、日本マイクロソフトとの包括連携協定における「デジタルを利用した学校教育に関すること」および「デジタル人材の育成に関すること」につながっている。特にデジタル人材の育成を進める上で、商業高校や工業高校へのICT環境整備は不可欠となる。

 稲垣氏は「まずはICT研究校として指定した10校で、Microsoft Teamsなどを活用した学習スタイルを構築していきます。日本マイクロソフトからのサポートも受け、教員の指導力の育成も進めていきます。兵庫県では各教科のICT活用を先導する教員として『HYOGOスクールエバンジェリスト』の養成を進めていますが、こうした学びの核となる教員の育成の取り組みを愛知県でも実施できないか検討しており、実際にTeamsを活用した情報交換の場なども立ち上げています」と語る。

 プログラミング教育にもマイクロソフトのサービスを利用する。具体的にはアプリケーション作成ツール「Microsoft Power Apps」を活用してノーコード/ローコード開発ができるような学びにつなげていく。まずは商業高校や工業高校を皮切りにMicrosoft Power Appsを活用したプログラミングの学びを進める方針だ。

「2021年4月から、県立工業高等学校の校名を工科高等学校に変更すると同時に、その内4校に新たな学科として『IT工学科』を創設します。こういった学校では実際にセンサーを使って物理的にデータを収集・分析するような授業ができないかも含めて検討を進めています」と稲垣氏。新時代に対応した学科再編に合わせて、マイクロソフトのプラットフォームを活用したデジタル人材育成を強力に推進していく。

県庁に広がるデジタル化

 デジタル人材の育成は、愛知県庁の行政全般でも実施していく。行政のデジタル変革を進める上で、行政職員全体のITリテラシー向上と、デジタル利活用人材の育成は不可欠だ。これらの「行政デジタル変革人材の育成」も日本マイクロソフトを含めたIT企業とも連携し、求められる人材像から育成計画の実施までを進めていく。

 行政全般のデジタル化も実現していく。日本マイクロソフトと連携し、行政手続きのオンライン化、テレワーク環境の実現、働き方改革などに取り組む予定だ。

「デジタル庁(仮称)の創設も含め、世の中全体がDXに向かっています。愛知県は自動車産業が盛んな地域であり、Society 5.0時代に向けた行政の組織作りが急務です。県全体がDXにシフトする組織に向かうため、今回の連携協定締結に至りました。もちろんDXを進める上では日本マイクロソフトさまだけでなく、ほかのIT企業さまとの連携やサービス活用も不可欠です。実際に教育現場ではロイロノートやスタディサプリなど、多様なITツールを活用して個別最適化の学びや教員の働き方改革を実現しています。愛知県の教育現場では今後教育のクラウド化を目指していきたいと考えており、2024年のネットワーク更新に向けての整備も進めていきたいですね」と稲垣氏は展望を語った。