VUCA時代に臨むメーカー各社の
ハードウェア製品の販売戦略
~激変するワークスタイル、ライフスタイルにどう対峙するか~

突如、世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルス。感染拡大からおよそ1年がたったいま、脅威も混乱もいまだ続いているが、ワクチンの接種が始まるなど対抗策が講じられ始め、経済活動を正常化しようとする動きも見られるようになった。ニューノーマル時代という新たな生活様式の中、非接触での行動が求められており、ネットワークやIT製品の活用がよりいっそう欠かせなくなっている。果たしてITビジネスの実情と今後の見通しは明るいのだろうか。特にモノが売りづらい状況下でハードウェアメーカー各社はどのようにビジネスを展開しているのか。PC、サーバー、ネットワーク機器のメーカー各社のビジネスをリポートする。

テレワーク需要は継続、働き方・用途の多様化で需要を伸ばす

PC

 2020年のPC市場はWindows 7の延長サポート終了に伴うリプレース特需の落ち込みが懸念されていたが、コロナ対策需要とGIGAスクール構想需要により過去最高と言われた2019年と同等あるいは上回る出荷台数を記録した。2020年にPCの需要を支えたテレワークの実施状況についてIDC Japanが5月11日に国内テレワーク市場予測を発表した。発表によると2020年における国内のテレワーク導入企業は2019年の62万社から161万社に拡大し、テレワークの実施率は42.6%(2019年 16.3%)であると推計している。また2020年のテレワーカーは2019年の約100万人から997万人に増加したと推計している。ただしワクチン接種によってコロナ禍の収束が期待されている2022年でのテレワーク導入企業およびテレワーカーは、一旦は減少するとも予測している。

 しかし企業ではテレワークの活用によって社員の多彩な働き方への対応方法が見えてきたこと、経費が軽減できている企業が少なくないことなど、テレワーク実施に伴うメリットと課題への解決を模索する企業が増加していくと考えられ、これにより2023年以降徐々にテレワーク実施企業が増加すると予測している。

 各PCメーカーに取材したところ「まだテレワークの整備が終わっていない企業や、一時しのぎで整備した企業が本格的に整備したいといった需要が遅れたタイミングで出てくる」という見解や「テレワークの推進によってPCの使用頻度が高まり買い替え期間が短くなる」といった見解が聞かれた。また「仕事の仕方や場所が多様化することでPCへのニーズも多様化する」や「外出自粛で動画や音楽の鑑賞など仕事以外でもPCが使われている」など今後もPCの需要は堅調だと見る意見が多かった。

デル・テクノロジーズ

13インチが伸びているが世界標準の14インチにも注力

 デル・テクノロジーズでは13.3インチのラップトップおよび2in1がラインアップするメインストリームモデル「Latitude 5320」と、15インチのスタンダードモデル「Latitude 3520」の2機種がLatitudeシリーズで60%を占める人気製品となっている。売れ筋の傾向についてクライアント・ソリューションズ統括本部 クライアント製品本部 フィールドマーケティング シニアアドバイザー 吉田将信氏は「コロナ禍以前よりデスクトップからノートPCへのシフトが進んでおり、現在はノートPCが7割を占めている。またコロナ禍以前はノートPCの7割が15インチだったが現在は15インチと13インチの割合が拮抗している」と説明する。

 今後の見通しについてクライアント・ソリューションズ統括本部 クライアント製品本部 フィールドマーケティング本部長 三井唯史氏は「まずはエグゼクティブにハイエンドでフルスペックのLatitude 9420を使ってもらって評価していただき、社内にはLatitude 7320デタッチャブルを自社に適した構成で導入していただくシナリオで販売を拡大していきたい」とアピールする。

日本HP

使用頻度の高まりに伴い買い替え需要が早まる

 テレワークが常態化する一方で、PCの持ち出しに慎重な中小企業も見られるという。執行役員 パーソナルシステムズ事業本部 事業本部長 砥石 修氏は「専用チップなど独自のセキュリティソリューションを搭載する当社の製品は、テレワーク時のセキュリティに不安を感じるお客さまへの提案に効果的だ」と話す。

 また働き方の多様化に伴いPCへの要求も細かくなっており、日本HPではラインアップの拡充を進めている。例えばAMD Ryzenを搭載して高いコストパフォーマンスを実現したHP ProBook 635 Aeroや、15.6インチの大画面を備えるHP ProBook 450、グラフィック性能を重視した14インチのモバイルワークステーションのHP ZBook Fireflyなどを発売した。またデスクトップPCにはZoom Roomsに対応したモデルもある。

 パートナー営業統括 第一営業本部 本部長 塩谷義嗣氏は「PCの使用頻度の高まりに伴い買い替え需要が早まるなど、今後もPCの商機は続くだろう。販売パートナーの皆さまが提案しやすい環境を準備したい」と見通しを語る。

レノボ・ジャパン

働き方の傾向はこれから数年かけて変化

 コロナ禍による販売傾向の変化についてコマーシャル製品事業部 部長 大谷光義氏は「コロナ禍以前はだいたい6割がノートで4割がデスクトップだった。さらにノートの半数が15インチモデルだった。それがコロナ禍によってデスクトップの需要がノートに移り、さらに15インチの割合が10%ほど減少し、モバイルの需要が増加した」と説明する。さらに周辺機器の売れ筋も変化したという。大谷氏は「Web会議用にヘッドセットやスピーカー、マイク、さらに14インチのモバイルモニターも売れている」と話す。

 こうした傾向で売れ筋を見通すのは時期尚早なのかもしれない。大谷氏は「オフィス以外の場所で働くことが一般化したが、働く場所や家庭の環境はさまざま。ニーズの傾向はこれから数年かけて変化するだろう。現在は多様な要望に応えられるラインアップが必要だ。当社はPC製品のポートフォリオを増やしており、モバイルPCだけではなくオンライン会議専用の端末『ThinkSmart Hub 500』や会議室専用カメラ『ThinkSmart Cam』、会議室専用スピーカーマイク『ThinkSmart Bar』なども用意している」とアピールする。