“見えない物が見える” 8Kの超現実感で鑑賞

8K Interactive Museum

事業ビジョンとして「8K+5GとAIoTで世界を変える」を掲げるシャープは、8Kテレビ「AQUOS 8K」や業務用8Kカムコーダーを商品化するなど、8Kの普及推進に力を入れている。テレビ以外にも、医療やインフラ、スポーツ、教育などの分野において8Kを展開し、8Kによる新たな価値創造に取り組んでいる。

人の目を超えた解像度“8K”

シャープマーケティングジャパン
本山 雅 氏

 8K事業の中でも、主に教育分野を担当しているシャープマーケティングジャパン ビジネスソリューション社 デジタルイメージング営業推進部 8K事業企画 参事 本山 雅氏は、8Kコンテンツのメリットを次のように話す。「8Kは人間の目の解像度を超えた解像度と言われています。そうした高い解像度のディスプレイでコンテンツを表示すると何が起こるかというと、実物との見分けが付かなくなるのです。例えば最近は、テレビ番組でも密集を避けるため、一部の出演者はディスプレイを介して出演しています。そうした時に8Kディスプレイに人物を表示させると、隣のリアルな人間と、ディスプレイに表示された人間の差異がほぼありません。目が錯覚を起こして、ディスプレイに表示された物や人がリアルと遜色がないレベルに高精細に見えるのが、8Kなのです」

 この8Kの良さを生かし、博物館や美術館といった文化施設に同社が提案しているのが8Kビューアーシステム「8Kインタラクティブミュージアム」だ。8Kディスプレイ(サイネージ)と専用ワークステーションで構成されている。手元でのコントローラーを利用する場合は、タブレットなどのコントローラーとWi-Fiルーターもシステム構成に含まれる。

 8Kインタラクティブミュージアムは、約3,318万画素の超高精細技術によって、リアルな映像の表示を可能にしている。画面に近づいても液晶のドットが分からないほど高精細だ。また、表示したコンテンツをぼやけることなく、タッチ操作で自由に拡大したり、移動させたりできる。これらの特長を生かし、美術品や工芸品などを、これまで見られなかった角度やサイズで楽しめるのだ。

 例えば美術館や博物館で展示物を見る場合、来館者は展示物から一定の距離を保って鑑賞する。展示物に触れると皮脂が付着し、傷んでしまうからだ。しかし美術館の絵画は細部まで描き込まれており、それを遠目で全て見ることは難しい。そうした作品を8Kインタラクティブミュージアムで表示することで、展示物をより細部まで詳しく鑑賞することが可能になる。

重要美術品に擬似的に触れる

昨年3月に法隆寺の大宝蔵院に導入された事例では、法隆寺および法起寺の建築物や仏像など、数々の国宝や重要文化財の高精細画像を70Vインチの8Kタッチディスプレイに鮮明に映し出しました。画像の拡大によって、高所に施された建築技法や、玉虫厨子の玉虫細工の羽の輝き、釈迦三尊像、百済観音像、救世観音像といった仏像のご尊顔などを間近でじっくりと鑑賞することが可能になります。これらの宝物は、普段は劣化から守るため暗い中で展示しているのですが、8Kインタラクティブミュージアム用にライトで照らし、非常に明るい中で撮影した高精細な画像で鑑賞できます」と本山氏。

 また文化財の新たな鑑賞方法の共同開発も行っている。文化財活用センターおよび東京国立博物館と協力し、実物に触れているような臨場感を体験できる茶碗型のコントローラー操作式および音声ガイドの8Kインタラクティブミュージアムシステムを開発し、2020年7月29日~8月2日と11月10日~23日の期間、東京国立博物館「東洋館」で公開された。

「重要美術品『大井戸茶碗 有楽井戸』の3Dデータを作成すると同時に、茶碗型のコントローラーを作り、実際に手元の茶碗を回すとそれに併せて画面上の茶碗も回転する仕組みを実装しました。さらに手前に引くと画面上の茶碗が拡大し、奥に戻すと縮小するといった、直感的な操作にも対応しています。通常博物館では、こういった重要美術品はケースの中にしまわれて触れられず、裏側を見ることもできません。しかし、8Kインタラクティブミュージアムであれば擬似的ながらそれに触り、裏側を見ることもできます。“見えない物が見える体験”を提供するシステムが、8Kインタラクティブミュージアムなのです」(本山氏)

地域図書館で本物の美術品を知る

 従来の博物館や美術館でも4K大型ディスプレイ(サイネージ)を設置し、展示物の説明など情報発信は行われていた。しかし8K解像度のディスプレイを持つ本システムは、情報発信のみならず展示のメインコンテンツとなり得る力を持つ。また、8Kインタラクティブミュージアムで展示する8Kコンテンツを作成することは、博物館や美術館の収蔵品のデジタルアーカイブを作成することにつながる。災害などによる資料の喪失に備えると同時に、博物館、美術館の新たな展示コンテンツして来館者を楽しませることが可能になるのだ。

「展示物、収蔵品のデジタルデータ化が進めば、施設同士の収蔵品の貸し借りがリスクなく行えるようになります。データを送ってその場で展示できれば、都内近郊だけではなく地方でも希少性の高い展示物を体験できるのではないでしょうか。例えば地域の図書館に8Kインタラクティブミュージアムを設置してもらえば、子供たちに“本物”の美術品に触れてもらう機会を提供できます。今後は8Kインタラクティブミュージアムをさまざまな場所で体験できるよう、コンテンツを増やしていくと同時に、図書館や各自治体への提案も進めていきたいですね」と本山氏は語った。

法隆寺 大宝蔵院
奈良県生駒郡にある聖徳宗総本山 法隆寺の大宝蔵院に設置され、2020年3月25日から一般公開されている。法隆寺および法起寺の建築物や仏像など、数々の国宝や重要文化財の高精細画像を、70Vインチ8Kタッチディスプレイに鮮明に映しだす。タッチ操作で拡大や縮小もでき、細部までじっくりと鑑賞できる。
ふれる・まわせる名茶碗
「8Kで本物に触れる」をテーマに、8Kインタラクティブミュージアムをベースに共同開発した文化財鑑賞ソリューション。茶碗型コントローラー(試作機)に触れたり動かしたりしながら重要美術品「大井戸茶碗 有楽井戸」を鑑賞できる。

プロジェクションマッピングが変える体験

Space Production

プロジェクションマッピングという言葉が広く知られるようになったのは2012年ごろのこと。東京駅の丸の内駅舎保存・復原工事の完成を祝うイベントにおいて、駅舎をスクリーンに高精細フルCG映像を投映。その完成度の高い幻想的な映像ショーに、多くの人々が目を奪われ、プロジェクションマッピングという表現手法が注目されるようになった。そのプロジェクションマッピングが、いま文化施設に普及しつつある。

空間を幻想的に彩るプロジェクター

 プロジェクションマッピングは、いまやイベントだけでなく商業施設や飲食店、文化施設にも導入されるほど身近な存在になっている。このプロジェクションマッピング向けのビジネスプロジェクターとして「映像空間演出向けプロジェクター」をラインアップしているのがエプソン販売だ。

 同社 VPMD部 VPMD二課 課長 坂本 茂氏は「プロジェクションマッピングでは、床や壁、天井などの大きな面に対してコンテンツを投映します。そのため、レーザー光源を採用した高輝度のビジネスプロジェクターが必要です。また、設置する場所によっては遠くから映像を投映したり、逆に非常に近くで投映したりするケースもあります。当社の映像空間演出向けプロジェクターでは、設置が柔軟に行えたり、単焦点で投映距離が確保できない場所でも使えたりする製品をラインアップしており、さまざまな業種で導入が進んでいます」と語る。

 中でも有名なのが、最新のテクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツの開発を行うチームラボが運営するデジタルアートミュージアム「チームラボボーダレス」だ。施設面積10,000m2の空間に、470台のエプソン製プロジェクターが設置されており、圧倒的なスケール感でその空間を幻想的に彩る。

インタラクティブ性で理解を深める

 水族館や博物館にも導入が進んでいる。特に需要があるのが水族館だ。仙台うみの杜水族館では、2017年7月に展示が一部リニューアルされ、大水槽を中心とした360度大パノラマプロジェクションマッピングを実施。そこで採用されたのがエプソン製の映像空間演出向けプロジェクターだった。また、センサーなどを用いたインタラクティブ性のある展示も一部で使用し、壁面を触ることで演出が変化するような空間演出を行っている。

 こうしたインタラクティブ性のある演出では、プロジェクターとセンサーやカメラなどを組み合わせ、人が触ったり動いたりした動作に投映するコンテンツを連動させている。こういったインタラクティブなコンテンツは、特に子供たちに人気が高い。展示されている内容をただ見るのではなく、実際にインタラクティブな体験をすることで、展示されている内容をより楽しめたり、理解が深まったりするのだ。

 エプソン販売 VPMD部 VPMD二課 柳田広宣氏は「プロジェクションマッピングは、360度空間全体を映像で包み込めます。また投映しているコンテンツは映像なので、一瞬で内容を切り替えられます。そのため、以前行った施設でも、再度訪れたらプロジェクションマッピングの演出が変わっていて新鮮な気持ちで楽しめるといったような、来館者の集客につながるメリットもあります。プロジェクターでの投映になるので、特に館内が薄暗い水族館とは非常に相性がよく、さまざまな施設での導入が進んでいます」と語る。

多言語対応のインフォメーションに

 空間全体に投映して演出する以外にも、インフォメーション用途としてプロジェクションマッピングを利用している文化施設は少なくない。床や壁にプロジェクターでインフォメーションを投映し、開館時間や順路の案内を行うような活用だ。「プロジェクターでインフォメーションを行う最大のメリットは、空間の雰囲気を壊さないことです。また、紙や看板などの案内の場合、インバウンド向けの多言語対応を行うには、スペースが不足してしまいます。プロジェクターによる表示であれば、言語ごとに表示を切り替えて容易な多言語対応が可能になります」と坂本氏はその活用メリットを語る。

「文化施設の中でも期間限定のイベント型の展示などでプロジェクションマッピングが活用されるケースも増えてきています。常設ではないため販売店を経由したレンタルでの利用がメインで、需要は大きいですね」と柳田氏。今後5Gが普及していく中で、プロジェクターで投映するコンテンツはプレイヤーに保存されているものだけでなく、リアルタイムに配信されるコンテンツに対応するなど、自由度も高まっていくと予想される。インタラクティブなプロジェクションマッピングによる文化施設の新しい体験は、今後もさらに広がっていくだろう。

チームラボボーダレス
芸術家集団・チームラボによる「地図のないミュージアム」をコンセプトにしたデジタルアートミュージアム。エプソン製の450台のプロジェクターが館内に設置されており、幻想的な空間をプロジェクションマッピングで表現している。左は「人々のための岩に憑依する滝」作品のためのプロジェクター施工を行っている様子。右はその完成図だ。