ESG/SDGsがもたらす
ITビジネスの新しい商機

Dell Solution

~環境性能と自律化を強化したサーバー製品~

デル・テクノロジーズはPowerEdgeサーバーを進化させた新世代の製品を発表した。新世代のPowerEdgeサーバーでは従来のパフォーマンスや信頼性に加えて、運用・管理の自律化やカーボンフットプリントの優位性をアピールしている。ESGやSDGsへの関心が高まり、社会やビジネスの要請からIT製品は新しい基準で評価されるようになる。

ESGやSDGsに対応しないリスク
ITインフラにも対応が求められる

デル・テクノロジーズ
執行役員 製品本部長
データセンターコンピュート&
ソリューションズ事業統括
上原 宏 氏

 早くからESGおよびSDGsに積極的な取り組みを続けているデル・テクノロジーズでは、顧客からの同テーマについての問い合わせが今年に入って急増しているという。同社でサーバー製品のビジネスを統括する執行役員 製品本部長 データセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括 上原 宏氏は顧客からの問い合わせの傾向について次のように説明する。

 「ESGやSDGsに関するお客さまからの問い合わせが増えており、製品の切り口での説明を求められる傾向があります。その際に取り組みにはコストがかかるのではないか、と質問されることが多々あります」(上原氏)

 環境への配慮という取り組みにおいて、例えば再生紙を利用する場合、非再生紙と比較してコストが高くなることになぞらえ、リサイクル可能な資源の利用には追加コストがかかると認識しているようだ。しかしESGやSDGsへの取り組みは投資であり、もはやコストではない。

 上原氏は「現在はESGやSDGsに取り組む企業が注目されていますが、間もなく取り組まない企業が目を付けられる転換期がやってきます。ESGやSDGsに対応しているメリットよりも、対応していないリスクの方が大きいのです」と指摘する。

 企業の共通の課題であるDXの推進とESGおよびSDGsへの取り組みにおいて、ITは欠かせないツールでありインフラである。特にコンピュートリソースを提供するサーバーの役割はDXにおいてもESGおよびSDGsにおいても重要さを増している。

 DXの観点からするとデジタル化の拡大によって使用されるコンピュートリソースは指数関数的に増加し、より多くのデータをより高速に処理できるようになり、ビッグデータの解析やAIの活用、画像認識などより高度なデジタル化が実現できるようになる。

 その一方で使用されるコンピュートリソースの増加はサーバーに搭載されるCPUやGPU、メモリーの発熱量の上昇を招き、これらを冷却するための電力消費量も増加する。

カーボンフットプリントが
製品の評価基準に加わる

 電力消費の増加に加えて運用・管理の問題も大きくなる。上原氏は「求められるコンピュートリソースの増加に伴い、運用・管理の負担も大きくなります。情報システム担当者の業務のほとんどが運用・管理に費やされており、戦略的な業務が犠牲にされている問題は以前から指摘されている通りです。例えば自動車の自動運転はITのテクノロジーによって実現されています。ITを応用した自動運転が進化しているのに本家のサーバーはいまだに運用・管理の負担が問題となっており、その負担を軽減する進化も求められています」と説明する。

 そこでデル・テクノロジーズはPowerEdgeサーバーを進化させた新世代の製品を発表した。新しいPowerEdgeサーバーについて上原氏は「前世代のPowerEdgeサーバーは『インフラのベッドロック』(岩盤)というキャッチフレーズでお客さまのビジネスを支えるパフォーマンスや信頼性をアピールしました。新しいPowerEdgeサーバーでは『お客さまのイノベーションエンジンへ』をキャッチフレーズに掲げ、運用・管理の自律化やカーボンフットプリントの優位性をアピールしています」と強調する。

 カーボンフットプリントとは企業の事業活動に伴って排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を把握すること、プロダクトカーボンプリントは製品が与える気候影響を測定する手法だ。デル・テクノロジーズの資料によるとPowerEdge R840のカーボンプリントは15,600kg CO2e(最大コンフィギュレーション時)と示されている。

 上原氏は「カーボンフットプリント全体では設計、開発、製造、流通、設置、運用、廃棄までのライフサイクル全体でそれぞれ環境負荷がありますが、デル・テクノロジーズではサーバーをはじめ全てのハードウェア製品においてカーボンフットプリントを削減してエネルギー強度を向上させています。今後はお客さまの意識の高まりに伴い、カーボンフットプリントおよびエネルギー強度についても数値を示すことが求められるようになるのではないでしょうか」と指摘する。

ハードウェア設計とソフト制御で
消費電力に大きな差が生じる

 サーバーなどのハードウェア製品の消費電力や発熱量の削減はCPUなどの半導体の微細化と高集積化で実現されてきた。しかしこれからは独自の工夫を加えることで差別化できるという。上原氏は「最新のCPUやGPU、メモリーなどを寄せ集めて製品を作れば前世代の製品に対して消費電力を下げられますが、同じパーツを使用していてもハードウェアの設計とソフトウェアによる制御によって消費電力は大きく変わります」とアピールする。

 デル・テクノロジーズでは自社のハードウェア製品のエネルギー強度を網羅的に測定しており、2012年に対して2020年までにネットワーク製品で90%、サーバーやストレージ製品で80%、PCで70%、平均で70%向上している(上図参照)。「ITリソースの需要は大幅な増加を続けており、何もしなければ2012年に対して70%低下していたことになります」(上原氏)

 PowerEdgeサーバーの新世代の製品では筐体内のレイアウトを工夫して冷却効率の高いエアフローを生み出したり、iDRAC(integrated Dell Remote Access Controller)とマルチベクター クーリング 2.0によってCPUやメモリー、GPUの電力消費や筐体内の温度を監視し、ユーザーの設定に従って冷却ファンの動作を細かく自動的に制御することで消費電力を削減する。さらに今後は障害を予知して部品の予防交換などで発生を回避したりするなど、運用・管理の完全な自動化に向けて、自律型コンピュートインフラを進化させていく。

 上原氏は「お客さまはESGやSDGsへの関心を高めており、社会やビジネスの要請からIT製品の選択のポイントや評価基準が大きく変わるでしょう。IT製品のESGやSDGsへの配慮はベンダーによって差が生じるため、お客さまに提案する製品の選択によって、パートナーさまは付加価値をアピールできます」とアドバイスする。なおパートナー向けにSDGsをテーマとしたウェビナーを9月に開催する予定だ。

データセンターの電力消費を大幅に削減
電子回路基板を液体に浸して冷却する

PoC

~液浸冷却装置の実証実験~

世界的なDXの進展に伴いクラウドおよびデータセンターに用いられるサーバーリソースへの需要が増加を続けている。それに伴いサーバーが発する熱の冷却に用いられる電力消費量も増加を続けている。DXの推進にサーバーの利用が欠かせないが、ESGやSDGsを考慮する観点からクラウドやデータセンターには電力利用の効率化が求められる。そこでKDDIは三菱重工業やNECネッツエスアイと3社合同で、サーバーの冷却に使われる電力の削減を目指した実証実験に取り組んでいる。

サーバーの消費電力の20%を占める
冷却ファンを不要にする液冷を採用

KDDI
サービス企画開発本部
プラットフォーム技術部
エキスパート
加藤真人 氏

 実証実験ではサーバーの冷却に冷却ファンで空気を循環させる空冷ではなく、サーバーの筐体内に内蔵されている電子回路基板(ロジックボードあるいはマザーボード)を液体に浸してCPUやGPU、メモリーなどを冷却する「液浸冷却技術」が用いられていることが最大の特長だ。

 その理由について実証実験を担当するKDDI サービス企画開発本部 プラットフォーム技術部 エキスパート 加藤真人氏は「半導体メーカーは微細化による低消費電力化を進めており、サーバーメーカーも各社独自の技術で消費電力を削減しています。しかし市販の製品には空冷が採用されており、冷却能力に限界があるとともに、冷却に使われる電力も大きいという課題があります。また発熱を抑えられないとサーバーが持つ本来の性能を発揮できないという問題もあります」と指摘する。

 サーバーが消費する電力はCPUとGPU、そして冷却ファンの三つの部品が大半を占め、サーバーから冷却ファンを取り除けば消費電力を20%ほど削減できるという。加藤氏は「そもそも空気と液体では熱伝導率に4倍の差があり、液体の方が熱を奪う量が多いという利点があります。そこで冷却媒体に液体を用いるとともに、電子回路基板を液体に浸してCPUやGPUなどが発した熱を液体が直接吸収することで、消費電力が大きい冷却ファンを不要にしました」と説明する。

 今回の実証実験では電子回路基板をそのまま液体に沈めて稼働させる液浸冷却装置が新たに作られた。この液浸冷却装置をコンテナに収容して小型のデータセンターを構築し、液浸冷却装置の冷却能力や電力の利用効率、サーバーなどIT機器の動作の影響、システム全体の節電効果などが検証された。

 なお電子回路基板を液体に沈めたら故障してしまうのではないかと思われるかもしれないが、絶縁能力を持つ液体を用いるため動作に影響はない。また液体に浸すことでほこりや湿気、塩害から電子回路基板を守ることができ、故障率の低下と耐久性の向上にも効果がある。

実証実験で作られたコンテナを利用した小型データセンター。液浸冷却装置が収容されている。
液浸冷却装置。
油脂系冷却液に電子回路基板が沈められている。

環境への影響と単価を考慮して
実績が少ない油脂系冷却液を採用

 実証実験に用いられた液浸冷却装置は冷却に関わる設備の仕組みと、冷却に用いる液体の種類や特性が特長だ。別掲の図を見てほしい。まず冷却の仕組みには液冷だけではなく空冷の装置も組み合わされている。液槽ラックで電子回路基板を冷やして熱を帯びた冷却液は、熱交換器内の水で冷却されて液槽ラックに戻される。そして熱交換器内で冷却液を冷却して温度が上昇した水は外部に循環し、冷却塔の冷却ファンによって屋外の空気で冷やされ熱交換器に戻される仕組みだ。

 液浸冷却装置をコンテナに収容する場合は、冷却ファンがコンテナ室内の温度を下げる用途にも利用される。また冷却ファンの稼働を下げると水の温度が上昇し、熱交換器がヒーターとなってコンテナ室内の温度を上げることにも用いることができる。これらの仕組みによってコンテナの室内(データセンター内)の空調に使われる電力も削減できる。

 液浸冷却装置に用いられる冷却液には油脂系の液体が採用されている。その理由について加藤氏は「液浸冷却装置に油脂系の液体を採用する例はまれで検証データが乏しいため、我々が挑戦して効果を検証してみたいと思いました。また油脂系の液体は使用後に産業廃棄物として処理できるなど、環境への影響を抑えられ、しかも単価が安いというメリットもあります」と説明する。

 ただし油脂系の液体の冷却効果を向上させるのは容易でない。オイルには粘度がある。粘度が高いと冷却効果が下がり、粘度が低いと冷却効果は上がるが発火点が低くなり扱いが難しくなる。加藤氏は「日本の消防法に適合させつつ最大限の冷却効果が得られる特性を試行錯誤して、液浸冷却に最適な油脂系の冷却液を作り出すことに成功しました」と胸を張る。

50kVAの設備でPUE1.1以下を達成
制御の緻密化でさらなる効率化を狙う

 実証実験の成果目標としては「PUE」と呼ばれる指標が用いられた。PUEとはPower Usage Effectivenessの略で、データセンターなどIT関連施設におけるエネルギー効率を測定する一般的な指標だ。データセンター全体の消費電力量(kWh)/IT機器の消費電力量(kWh)の式で算出され、値が小さいほどエネルギー効率が良い。

 実証実験ではPUE1.1を目標に設定し、フェーズ1では20フィートのコンテナに25kVAの設備を収容して目標を達成した。さらに現在進められているフェーズ2では、12フィートのコンテナで50kVAの設備を収容してPUE1.1以下を達成するなど大幅な性能向上を果たしている。この成果によってデータセンターとしての消費電力を約35%削減できるという。

 NECネッツエスアイ エンジニアリング&サポートサービス事業本部 首都圏システム事業部 ファシリティソリューション部 システム課長 工藤 宣氏は実証実験の成果について次のように説明している。

 「PUE値を小さくするにはファシリティとITの両方を監視・制御する必要があります。冷却システム全体のエネルギー効率は熱交換器の水を冷やす外気温の影響を受けます。外気温が高い場合は冷却ファンの稼働を大きくして熱交換器の水の温度を下げるとともに、冷却液ポンプの稼働を上げて液槽ラック内の冷却液の循環を大きくして温度上昇を抑える必要があります。一方で外気温が低い場合は冷却ファンや冷却液ポンプの稼働を小さくして消費電力を抑えなければなりません。外気温と熱交換器の水および液槽ラック内の冷却液の温度をリアルタイムでモニタリングし、変化に応じて冷却ファンと冷却液ポンプの稼働を適切に制御することで、1年を通してトータルで消費電力を削減します。今後は制御をより緻密にすることでエネルギー効率を高めてPUE値を小さくしていきます」

 実証実験は2022年の実用化に向けて現在も進められているが、そのめどはほぼ立っているようだ。この液浸冷却によるデータセンター設備はコンテナへの収容のほかに既設データセンターでの空冷との混在利用や、既設データーセンターの外部に拡張するなどの導入が想定できる。

 最後に加藤氏は「SDGsの観点で省電力化に取り組む際は、いろいろな要素を組み合わせる必要があります。今回の液浸冷却システムはその選択肢の一つであり、どのような組み合わせでどのような効果が得られるかについても検討していきます」とこれからの意欲を語った。