2枚の写真からスーツを仕立てる

-Fashion Tech- コナカ

自身の体にフィットしたオーダーメイドスーツは、着心地がよく好みのデザインに仕立てられるメリットがある半面、採寸に時間を要するなど敷居が高い。しかしそれを、ITの力でより簡単に、オーダーしやすくしているのがコナカだ。

自分好みのオーダーをスマホから

 首都圏を中心に東北、東海エリアに出店するスーツ専門店「紳士服コナカ」をはじめ、都市型スーツ専門店「SUIT SELECT」や、オーダースーツブランド「DIFFERENCE」など、スーツの販売を手掛けるコナカ。“全ては品質から”をスローガンに、高品質で高感度なファッションで、顧客のライフスタイルのトータルコーディネートを手掛けている。

 そんなコナカがDIFFERENCEにおいて活用しているのが、AIを活用した画像採寸アプリ「D MEASURE」だ。iOS、Android端末向けに2018年11月からリリースしている。

 AI画像採寸アプリは、顧客が普段着の状態で撮影した2枚の写真と、身長や体重、性別などの項目を入力するだけで、商品のできあがりサイズを提案してくれる。従来の採寸のように着替えたり、長さを測ったりといった時間が不要で、簡単に採寸が行える。

 コナカ 取締役 専務執行役員COOの古屋幸二氏は「オーダーメイドブランドは、お客さまに最適なサイズのスーツを仕立てられる半面、採寸に時間がかかる点が課題でした。フィッターと呼ばれる従業員が採寸をする場合、1着1時間半ほどの時間がかかります。AI画像採寸アプリでの採寸によって、この採寸時間が大幅に削減できるようになりました」と語る。

ECサイトの購買比率が向上

 DIFFERENCEはもともとiPad でオーダーを送信するなど、デジタル化が進んでいたが、コナカが運営するはかの店舗においては採寸した数値を紙に複写して工場に送り、控えを顧客に渡すなどといった手間もかかっていた。AI 画像採寸アプリであれば、採寸した数値を工場に共有する際も、アプリ側で計測した数値がそのまま送信できるため、データインプットの手間がない点も魅力だ。

 2020年2月28日にはSUIT SELECTにおいても、AI画像採寸アプリを活用した「AI SPEED ORDER」のサービス提供をスタートしている。

「SUIT SELECTはDIFFERENCEとは異なり、ツープライスの既製スーツを販売しているため、お客さまもオーダースーツにスピード感を求めています。AI画像採寸アプリを活用すれば、スマホでオーダーメイドスーツが注文でき、最速10日で自宅や店頭に届くため、顧客が求めるスピード感に対応できます」と古屋氏。

 AI画像採寸アプリを導入したことにより、コナカではECサイトの購入比率が以前と比較して向上しているという。非接触が求められるコロナ禍においては、オーダーメイドの採寸でフィッターがお客さまに近づくことははばかられますが、AI画像採寸アプリであれば、距離を取って短時間の間に撮影するだけでよいため、感染症対策としても評価が高いサービスなのです」と古屋氏は語った。

1.オーダースーツブランドであるDIFFERENCEでは、顧客のカスタマイズ要望に対応できるよう、ボタンや裏地などのオプションも充実させている。写真はDIFFERENCE 青山店のもの。
2. AI画像採寸アプリによる採寸は、DIFFERENCEの店舗でも行える。フィッターによる採寸と比較して、大幅に採寸時間を短縮できるのが強みだ。

フィッターの採寸ノウハウを凝縮したAI開発

-Fashion Tech- Arithmer「Arithmer R3」

画像2枚でオーダーメイドスーツの採寸を行うAI画像採寸アプリはどのように生まれたのか。そのベース技術を提供しているのがArithmerだ。コナカと協力して生まれたAI画像採寸アプリの、その背景を聞いた。

3次元モデル化の技術を活用

算術、数学を意味する“Arithmetic”から社名が名付けられたArithmerは、「数学で社会課題を解決し、世界に希望を」を経営理念に掲げる東京大学発のベンチャー企業だ。現代数学を応用して、さまざまな社会課題を解決するため、七つの領域においてAIを活用したソリューションを提供している。コナカが導入したAI画像採寸システムのベースとなったのもその一つである「Arithmer R3」だ。

 Arithmer R3は、3次元モデル化の技術を活用して、社会課題解決を実現するソリューションだ。例えば人体や口腔内、地形などの3Dビッグデータから3Dモデルを構築することで、人体の画像採寸による洋服のオーダーメイドだけでなく差し歯や詰め物の自動設計、水害時の流体予測などに活用されている。

 このArithmer R3を用いた3次元自動採寸システムを活用したのが、コナカのAI画像採寸アプリだ。アプリから取得した「身長」「体重」「年齢」「性別」といった属性データと、採寸対象者の画像から、機械学習や3Dモデリングなどの方式を組み合わせて採寸結果を算出。自宅に居ながらにして精度の高いフィッティングを実現させている。

 コナカ 取締役 専務執行役員COOの古屋幸二氏は「シュリンクしているスーツ業界の中で、従来比7~8倍に伸びているのがオーダースーツです。しかし、スーツのオーダーメイドは採寸に時間がかかります。その時間の問題をなんとかできないかという発想が、Arithmer R3を活用したAI画像採寸アプリ開発のきっかけです」と振り返る。

フィッターの平均値をAIが学習

Arithmer 取締役 兼 営業企画本部 本部長の山下 伝氏は「コナカの代表取締役社長CEO 湖中謙介さまは、非常に的確に課題を認識し、それに対しての解決策を意欲的に模索する方です。当社の代表取締役社長 兼 CEO 大田佳宏も、新しいことへのチャレンジに意欲的なタイプで、コナカさまが抱えている課題に『うちの技術なら解決できるんじゃないか?』と、Arithmer R3の技術を用いたAI画像採寸アプリ開発にともに取り組みました」

 AI画像採寸アプリのコアになっているAIは、コナカのフィッターが計測した数千人の採寸結果データを読み込み、学習している。「フィッターは100人いても、100人同じ結果にはなりません。フィッターの好みやコナカならではのスーツへのこだわりがあり、それらの平均値を、AI画像採寸アプリによる採寸に反映してもらっています」と古屋氏。コナカのフィッターの採寸結果をベースにAIを開発しているため、他社が同じようなAI画像採寸アプリを開発しても、採寸結果は学習したデータ(企業のフィッター)ごとに異なるのが面白いポイントだ。

「こういったAIはたくさんのデータを学習させることが胆です。この学習による成長スピードやAIエンジンの作りが他社AIとの差が出るポイントで、当社のArithmer R3のAIはそこが優れているという自負があります」とArithmer 取締役 研究開発本部 本部長 富樫 淳氏は語る。

両社の協力で高い採寸精度を実現

 リリース当初のAI画像採寸アプリは、シャツのみのオーダー対応で、画像も4枚撮影する必要があった。現在のAI画像採寸アプリは、シャツだけでなく、スーツ、ネクタイ、ベルトなどの複数アイテムを同時に採寸できるようになり、画像も2枚で採寸が可能になった。

 また、当初はメンズスーツのみの対応だったが、2020年11月10日からはレディース版のサービスもスタート。オーダースーツブランドDIFFERENCEにおいて、女性のオーダースーツ対応を進めている。「スーツの購買層は一般的に女性の比率が低いのですが、男性のオーダーアイテムの対応が一段落し、かつ女性の社会進出によってレディーススーツの需要が高まっているタイミングでサービスをリリースしました」と古屋氏は語る。

 今後のAI画像採寸アプリの機能拡張について、古屋氏は「現在は2枚の画像で採寸していますが、将来的には1枚で、かつ自撮りの写真でも採寸できたらいいですね」と希望を語る。現在は採寸用の写真を撮る際に、オーダーを希望する人と、その対象者を撮影する人の2名が必要になる。これがオーダーを希望する1名のみで撮影が可能になれば、利便性の向上につながる。

 今回のAI画像採寸アプリの開発について、Arithmer 営業企画本部 本部長補佐 兼 第1営業部 部長の岩崎正義氏は「コナカさまの協力なしには完成しなかったソリューションです。コナカさまの採寸データをもとにAIを開発する中で、採寸現場のノウハウをかなり教えていただき、その寸法をいかにAIに落とし込むかといったところに注力しました。コナカさまの知恵とよい協力関係がなければ、この精度のAI画像採寸アプリはできませんでした」と振り返る。実際、AI画像採寸アプリによる採寸は、体にフィットした服を着用した状態での撮影を推奨されているものの、実際は体のラインが分かりにくい服装でも、ある程度正確に採寸できるのだという。

 古屋氏は「採寸精度を裏付けるように、現在このAI画像採寸アプリでオーダーを受けたスーツの返品は1件です。相当採寸の精度が良いと言えるでしょう。この精度のアプリを作り上げるには、普通のベンダーでは難しく、Arithmerさまと当社のよい関係の中で、互いに努力して作り上げたシステムですね」と笑顔を見せた。

Arithmerの技術協力のもと開発されたAI画像採寸アプリ「D MEASURE」。アプリはSI企業YouTeacherが開発。
AI画像採寸アプリでは、身長や体重、年齢、性別などの属性情報を入力して採寸をスタートする。
採寸は撮影者と被写体(スーツをオーダーする人)に分かれて行う。体の側面と後ろから、2枚撮影するだけでよい。
シャツやパンツ、コート、ジャケット、ベストだけでなく、ベルトやネクタイなどもオーダーできる。